アパレルECでの顧客体験は、店頭での顧客体験を超えられるのか

 

オンラインショッピングは急速に消費者に浸透しており、アパレル業界においてもその状況は顕著だ。アパレルのような実物を見て買う方が良いとされている商品は、オンライン化がなかなか進まないと思われていた時代もあったが、今や多くの消費者がアパレルをオンラインで購入している。そこで今回は、アパレルECサイトにおける顧客体験はどこまで進化し、店頭での顧客体験に迫り、そして超える日は来るのかを考えていきたい。

 

 

2021年の国内アパレルのEC化率は21.15%

 

経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、衣服・服飾雑貨等のEC市場規模は、2020年は前年比16.25%、2021年は9.35%増加した。また、2021年における日本のアパレルのEC化率(売上に対してECが占める割合)は21.15%となっている一方、世界に目を向けてみると、2021年の世界全体のアパレルの市場規模は1.5兆米ドル。そのうちECの市場規模は5,531億米ドルで、EC化率は36.9%である。このように、世界と比べると日本のアパレル系ECはまだまだ発展途上ではあるが、国内・海外のアパレルECの顧客体験を高めるための先進的な事例を見ていこう。

 

<参考>

【アパレルEC化率ランキング】ジャンル別EC化率・売上高データトレンドの分析と考察

【アパレルEC化率ランキング】ジャンル別EC化率・売上高データトレンドの分析と考察
アパレルブランドのジャンルごとのEC化の傾向をまとめ、EC化率を順位付けすると共に、現在日本のアパレルが行っているEC戦略とこれからの展望をまとめた。ジャンルは、ファストファッション、セレクトショップ、自社展開、紳士服、百貨店、海外ファストファッション...

 

 

アパレルECが乗り越えるべき3つの顧客体験の壁

 

実店舗では体験出来て、オンラインでは体験が難しい、アパレルを実際に購入する際の顧客体験は大きく分けて3つある。

 

サイズ

最近のアパレルECサイトには、細かくサイズの記載があるのが一般的だが、それでも細かい洋服のラインやフィット感などは想像するしかない。なかなか高額なアパレルをサイズが合うか合わないか悩んで結局辞めた経験がある人も多いだろう。また、実店舗があればその商品を試着に行った人も多いだろう。このように、サイズと言うのはアパレルECで最も顧客体験を阻む大きな壁としてそびえていると言っても過言ではないだろう。

 

テクスチャ

商品の細かい素材感や質感、厚みや重量感、さらには細かい色味など、アパレルECサイトにどれだけ多くの商品写真が掲載されていてもなかなかイメージしにくいだろう。何回か購入をしたことがあるブランドであればある程度想像はつくこともあるが、初めて見るブランドでは拡大写真から想像を膨らませるしかないのが現状だ。実際に商品を触ったり、色々な角度から光にあてたりすることが出来る実店舗とは大きく顧客体験が異なる。

 

コーディネート

サイズ、テクスチャも影響しているが、実際にその気になる商品がある程度どのようなモノかをイメージ出来たところで、実際にどのようなコーディネートで他のアイテムと合わせたら良いのかをイメージ出来ないケースも多い。また、商品が良くても、実際に試着をしてみないと合うか合わないか分からないケースもあるだろう。店頭では、店員さんに気軽に聞いたり、店員さんが実際に持っている経験談から何と合わせると良いのかなどヒントを沢山もらえるが、オンラインだと必要な情報は限られてくるだろう。また、細かいサイズ感や質感がイメージしにくいことも影響してくる。

 

このような顧客体験の3つの壁をの超えるために、コーディネートアプリや、SNSやアプリを活用したライブコマースなど、多くの取り組みが行われている。そこで今回は、国内・海外のアパレルECの事例から、これらの顧客体験の壁を乗り越えることが出来るものを12個ピックアップしていく。

 

 

複数の顧客体験の壁へアプローチする事例

 

Be your own model(ウォルマート・米国)

世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートは、2022年9月に新たなバーチャル試着サービス「Be Your Own Model」の提供を開始した。本サービスは、スマートフォンで自分の全身写真を撮影し、身長を入力して数秒待つだけで「服を試着している自分」を表示できるというもの。撮影した全身写真の姿勢に合わせて服の形やサイズが自動調整でき、布の垂れ下がり具合や影までもが非常にリアルに再現できる。これは2022年3月にローンチされていた「Choose My Model」の進化版だが、Choose My Modelと同様に、自分と似た体形のモデルの画像で試すことも可能だ。ローンチ時点では、ウォルマートのプライベートブランドをはじめ、ChampionやLevi’s、Hanesなど、約27万点を超えるアイテムが試着可能となっている。

 

 

NET-A-PORTER(イギリス)

ロンドンに拠点を置く老舗高級アパレルECサイトの「NET-A-PORTER(ネッタポルテ)」は、ソーシャル主導のコンテンツを用いた手法で、顧客体験を高める取り組みを行っている。商品の動画配信やポッドキャスト、パーソナライズ化されたコンテンツの提供などの取り組みを通して、消費者の満足度向上を目指している。数字としても成果が出ており、コンテンツに触れている買い物客は、触れていない買い物客よりも約10%多く支出。デジタル・オーディエンス・リーチは約1.5倍に増加し、読者のエンゲージメントは50%近く増加しているという。2022年には、メイジー・ウィリアムズをはじめとした多くの有名女優を起用したコーディネート動画をYouTube上で公開。出演者が服を自由にコーディネートすることで、視聴者にスタイリングの提案を行うだけでなく、実際に試着することで服のサイズ感をつかみやすくなったり、高画質な動画によって服の質感が伝わるというメリットがあった。また、有名人を起用したことで、高い宣伝効果も得られた。