新しいツールをサポートするために、PetcoはAIを使ってモジュールを構築し、パーソナライゼーションの拡張を図った。

 

米国における全国規模のペット小売業者Petcoは、顧客第一主義の新しい戦略を推進するために顧客関係管理(CRM)ソリューションを導入した際、最高の成果が得られることを期待していた。そして、その通りの結果となった。導入から2年間で、メールの開封率は30%、クリック率は50%上昇したのだ。同社が行ったことは、以下の通りだ。

 

「我々は、Salesforce Marketing CloudSalesforceが提供するマーケティングスオートメーションツール)を導入した。しかし、プラットフォームそのものは素晴らしいが、大変な作業をすべて肩代わりしてくれるわけではない」と、PetcoのCRM担当副社長のAndrea Mathews氏はThe MarTech Conferenceで語った。「導入の成果が出ている。当社が行っているキャンペーンは、エンゲージメント目標、クリック率、そして最終的には売上においても、高い成果を上げている」。

 

ハイパー・パーソナライズされたメールキャンペーン

2021年と2022年に、Petcoはハイパー・パーソナライズ(顧客の行動データをリアルタイムで収集し、顧客の要望やニーズに応じて商品やサービス、顧客体験をカスタマイズすること)されたメールプログラムを構築し、CRMに登録されているペットの飼い主宛てに月刊の「健康レポート」を送信した。Mathews氏によると、プログラムの導入当初には、短期間で成果を得られるような、パーソナライズされたキャンペーンも単体で行ったという。

 

「我々が常々耳にするのは、飼い主はペットのためになることをしたいと思っているが、その半数は何をどうすればよいのか分かっていないということだ」と、Mathews氏。

健康レポートには、ペットの飼い主がうまくやっている部分と、改善すべき部分に対する教育的な要素が含まれている。

 

「このような豊富なデータベースを持つことで、当社は顧客とのコミュニケーションにそのデータを活用できるようになり、また顧客にとってあらゆる点で完全に関連性のあるものを提供できるようになった」と、Mathews氏は述べる。

 

CRMのデータをキャンペーンやエクスペリエンスの実施に活用

Petcoは、CRMを最大限に活用するために、CRM特化のエージェンシーであるJamと提携した。ユーザーとのやり取り(例えば、アプリやウェブサイトでの購入など)を通じて取得した顧客データは、CRMに集約され、Salesforce Marketing CloudでメールキャンペーンやPetcoの店舗でのデジタルエクスペリエンスなどのアクティベーションに利用される。

 

Jamのエンタープライズソリューション担当副社長であるBrad Bettinson氏は、「すべてはデータから始まるが、Petco側には複数のプラットフォームからの豊富なデータセットがある」と述べる。「我々は、そのプラットフォームのデータを直接Marketing Cloudに取り込むこともできるが、理想をいえば、それを中央のCRMやCDP(顧客データ基盤)に取り込み、集計されたデータを毎日Marketing Cloudに取り込むことが望ましい」。

 

画像提供:Petco

 

「バックエンド(サーバーサイドの処理)についていえば、Marketing Cloudには開発言語があり、チームの中で標準的な言語をよく知っている開発者なら誰でもすぐに使いこなすことができる。ただ、我々は非常にスマートで再利用可能なテンプレートとコンテンツブロックも作成している。現在、Andreaのチームも私のチームも次のメッセージを作成しているが、(再利用可能なブロックを)ドラッグして配置するだけで、たちまちメールにテスト済の完成した膨大な量のパーソナライゼーションが加えられる」と、同氏は付け加える。

 

顧客とのやり取りから得られる豊富なデータを活用するPetcoは、もはやメールを単一のメッセージとしては見ていない。むしろ同社は、一連のメールとデジタルエクスペリエンスを通じて顧客との会話を構築しているのだ。

 

AIを活用したレコメンデーション

「我々は、自社が保有する非常にスマートなモジュールのライブラリーを増やし続けている」と、Bettinson氏は話す。「それらのモジュールの中には、AIも含まれている」。

 

さらに、「Einstein(Salesforceが提供するCRM対応のAI)を使った商品レコメンデーションは、当社の本当にスマートなモジュールの一つだが、複雑な事態に陥ることがある。つまり、素晴らしいメッセージがあっても、何十万ものバージョンがあるのだ。それらを実際、どうやってテストするというのだろうか?」と同氏は付け加える。

 

PetcoとJamのチームは、プレビューツールを使って、AIが生成したレコメンデーションを人間が吟味できるようにしている。

 

「我々人間は、Einsteinがうまく機能しているか、あるいは少し手助けを必要としているかを、見て推測することができる」と、Bettinson氏は説明する。「そして、Einsteinが少し手助けを必要としていると思われる場面では、我々はデータでそれを確認し、Einsteinのレコメンデーションを上書きすることができる。80%から90%の顧客はEinsteinが最高のパフォーマンスを発揮したプロファイルを得られるが、10%の顧客については、データの問題でEinsteinの弱点となっている部分を人間がマニュアルでオーバーライドする(継承関係にあるクラスで派生クラスが基底クラスのメソッドを上書きすること)ことになるだろう」。

 

AIをバックアップするために優れた顧客データを持つことは非常に重要だ。

 

「Einsteinを搭載したモジュールは、非常に優れたパフォーマンスを発揮する。なぜなら、顧客が何を購入し、その顧客にとって意味があるものは何かを語っているからだ」と、Bettinson氏は述べる。「つまり、クライアントが学習しているパーソナライゼーションと関連性のレベルに本当に役立つということだ。そうだ、Petcoからのメールを開かなくては。私の役に立つ話が入っているのだから」。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の2/28公開の記事を翻訳・補足したものです。