Appleは、『iOS 15』でプライバシーポリシー変更を行い、Appleデバイスでメッセージを読むApple Mailユーザーのトラッキング・ピクセル(送信者が目に見えないピクセルを使用してユーザー情報を収集すること)、IPアドレス、および画像キャッシュのブロック機能を導入する。その目的は、ユーザーのプライバシー保護だ。

予想通り、この変更への反応には、異なる2つの立場がある。

 

  • 「sky is falling/この世の終わりだ」という意見の人々は、顧客行動に関するすべてのインサイトを失うことになるという。誰が、いつ、どこでメールを開封するのか把握できないからだ。
  • 「don’t sweat it/気にするな」という立場の人々は、とにかく開封率への依存を解消する必要があるとしている。そうなると、より効果的な他の指標の活用へとつながる。

 

これは、マーケターが顧客のインテント(目的・動機)を解釈する際に適応しなければならない成熟レベルに関わるイベントの1つに過ぎない。コンテキストを提供するためにオープンデータに依存している一部の機能を変更または削除される可能性がある。しかし、この世の終わりではないし、メールはなくならない。これは、顧客のインテント測定のためのより効果的な方法を見つけるチャンスとして考えられる。

 

しかし、疑問に感じるのは当然だ。これは発展途中のトピックであり、これからどのように機能し、メールのパフォーマンスやその他のバックエンドの問題にどのように影響するかを知るにつれて、状況が変わる可能性があることに留意しておく必要がある。

 

Appleは、一体何を行っているのか?

今回の発表でApple は、Appleデバイスに送信されるメール内の“すべて”の画像のキャッシングを開始するとしている。このキャッシングにより、基本的に開封トラッキング・ピクセルが無効となる。また、一度キャッシュされた画像は、そのユーザーのデバイス間で「再取得」されないため、リアルタイム画像にも影響を与える可能性がある。

 

プライバシーに基づく製品決定の最前線にいるAppleは、世界中を席巻しているだけでなく、米国中の州議会でもより支持されているプライバシー規制に先んじることを目的として、今回のプライバシー機能を導入する。

 

どれほどの深刻な問題なのか?

今のところAppleのポリシー変更は、iPhoneやiPadでネイティブのメールアプリ、および、デスクトップメールアプリケーションを使用している顧客に適用される。つまり、相当数のオーディエンスに適用されることになる。Litmus.com(さまざまなメールクライアントとデバイスでHTMLメールの表示確認ができるオンラインサービス)のレポートでは、メールクライアント市場におけるiPhoneの現在のシェアは47.1%だが、Apple Mail自体のシェアは13%で、Gmail(18.6%)を下回っている。

 

ただし今回の変更は、AppleMailアプリケーションを利用してメールを受信するユーザーにのみ適用される。iPhoneを使用し、Gmailプラットフォームでメールを読む顧客には影響しない。

 

マーケターへの影響は?

非常に長い期間、マーケターは「開封率」という誤った指標にとりつかれており、メールの開封がインテントへの入口であると考えてきた。実際にそうだとしても、この1つの開封といる指標にあまりにも注意を払いすぎていたのだ。

 

Appleの発表は、開封への執着を部分的にしか終わらせることができない。なぜなら、Appleが唯一の選択肢ではないからだ。そして、Googleも同じような発表をするかもしれないが(おそらくそうするだろう)、大局的に見た場合、なぜそれが良いことだと思うのかを述べよう。

 

余談だが、メールおよびマーケティングアナリストの多くは、プライバシーに関する法律の進展について、2000年代初頭のスパム法(米国で2003年に制定されたメールやメッセージに関する規制を定めた連邦法。キャンスパム法)の国家標準(CAN-SPAM)作成まで進展を同じ経過を辿ると考えている。これはさらに大きな議論になるが、Appleは州や連邦政府の取り組みを先取りしたいと考えているようだ。

 

何をすべきか?

次の4つの領域に注目しよう。

 

  1. メールの開封率:

ISP(インターネットサービスプロバイダ―)が一部のデバイスで画像をブロックするようになって以来、開封率を正確に算出することが不可能となった。今回のAppleの変更により、マーケターは、開封率指標への執着を捨て、クリック数、収益、その他のインテントベースのKPI(重要業績評価指標)に注力せざるを得なくなるだろう。ただし、プロバイダーには、引き続きいくつかの回避策が用意されている。

 

先に述べた開封指標への執着とは、件名のテストに焦点を当てることを指す。ESP(メールサービスプロバイダー)では、件名についての基本的なA / Bテストを非常に簡単に実行できるが、メールのコンテンツ、ダイナミックコンテンツ、および関連レポートに関するテスト機能は追加されなかった。

 

一部のマーケターは、件名をテストすることで、より洗練された知識が得られると考えるようになった。この誤解を招く指標により、メッセージの関連性を無視し、代わりに高い開封率を得られる件名を作成することに時間を費やす文化が生み出されたのだ。

 

たとえば今回の変更は、iPhone、iPad、MacBookなどのAppleデバイスで開封されたメールにのみ影響する。もしGoogleが追随しない場合、すでに方向性をもつ指標は、その方向性がより強固に定まる。つまり、Android やPCのユーザーがオーディエンス全体の意向を代弁することになる。すなわち、AppleデバイスのMailアプリでメールを読んでいるユーザーからは、ユーザーデータを得られなくなるのだ。

 

  1. デリベラビリティ(スパム・フィルター機能):

今回の変更により、多くのプロバイダーが報告する受信トレイ統計の一部が変更される。これらのプロバイダーは、ブロックがあったかどうかを判断する自動化プロセスを変更しなければならない。これにより、従来のデリベラビリティのトラッキング方法に問題が生じる可能性があるが、これらの企業は他の指標にピボットすることも検討しているだろう。

 

  1. マーケティングオートメーション:

マーケターは、オープンな基準に基づく意思決定を実行するための自動化を検討する必要がある。マーケターがプロセスに必要なデータを取得できない場合、一部の自動化を排除することになる。

 

これは、顧客エンゲージメントの初期段階でメールの開封率がインテントの先行指標となる可能性がある一部の企業(B2Bを想定)にとっては課題となるだろう。しかし、エンゲージメントについて考えた場合、その指標を変更することができるのだろうか?また、変更するべきなのだろうか?

 

全体的に見れば、私たちが求めているのはインテントである。どの段階でも、「クリック率」のほうがより強力な指標となる。私たちは良い意味で、インテントを再定義しなければならない危機に瀕している。マーケティングオートメーションに関しては、メールの開封率ではなく、Webサイト上での行動に依存するべきだ。

 

これは、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)の採用率と、360度顧客ビューの提供が増加することを意味するのだろうか?従来のCRM(顧客関係管理)からCDPへの移行が大幅に促進されるのだろうか?その可能性はあるが、全体的にみると、これらの変化にはより高度な技術が必要になる。

 

  1. 送信時間の最適化/リアルタイム・コンテンツ:

オープンデータに大きく依存しているSTO(Send Time Optimization・送信時間最適化)やRTC(Real Time Contentリアルタイム・コンテンツ)にも影響が出るのではないかという声をすでに耳にしているが、それは悪いことではない。特にSTOは,

大半のソリューションにおいて、単純な統計であり、最適行動を決定するためのより深いインテリジェンスとデータを組み込んでいない。

 

STOは、適切なタイミングでの配信がエンゲージメントにつながり、結果としてインテントとコンバージョンにつながると考えられるため、マーケターに誤った安心感を与えてしまう。これは、メッセージの開封時間よりも、メッセージとブランド・エクイティ(ブランドの資産価値)によってエンゲージメントが獲得できるという事実を否定してしまう。

 

確かに、正しく実行されたSTOは機能するが、開封率をKPI(重要業績評価指標)としない洗練されたアプローチが必要となる。

 

次のように考えてみてほしい。メールを開封する時間かがわかったからといって、それはコンバージョンの準備ができているということだろうか? 給料日、購入傾向、過去の購入などの他の要素やその他のデータをほとんど考慮していないのではないだろうか?おそらく、ほとんどしていないはずだ。

 

同様に、MovableInk(動的コンテンツ表示エンジンを提供)、CampaignGenius.io(動画コンテンツマーケティングソリューション)、Liveclicker(メールとWebで主要なブランドに顧客体験を提供)などのリアルタイムコンテンツプロバイダーは、Appleユーザー向け機能が終了する可能性があるため、カウントダウンタイマーやロケーションベースのコンテンツなどの製品を変更する必要があるかもしれない。

 

ここには、いくつかのデメリットがある。これらの機能は多くの価値を生み出すものだが、個人的には、カウントダウンタイマーが、件名テストに相当するリアルタイム性をもつものになることを期待している。

 

まとめ

ここまで述べたように、Appleは、インテント取得のハードルをあげ、プライバシーを強化した。確かに、ピクセルが提供するインサイトは有益だが、そこで満足してしまったのだ。マーケターは、メールに関して言えば、その真意を理解し損なっている。重要であり、コンバージョンにつがなるのは「クリック」なのである。

確かにメール開封は、入り口としてある程度の影響力がある。しかし、ウェブサイト上での動作や長期的なクリック行動、第三者データに関連するデータサイエンスの取り組みから取得する他のデータによって、顧客のインテントを読み取ることが可能だ。

 

世界は終わりを迎えようとしていないし、メールチャネルが殺人的な打撃を受けたわけでもない。この記事を書きながら、Appleの動向が影響を与えることは理解できた。しかし、それは進化であって、終焉ではない。この進化は、Googleタブや画像ブロックなど、メールチャネルの成熟化を余儀なくされた際の経験と似ている。

 

マーケターは、今回の変更がAppleデバイスのMailアプリケーションを利用している人に限定されていることを理解すれば、その変更に対応するだろう。Googleがそれに追随すれば、確実にまたこうした議論になるだろう。しかし、私が一番期待しているのは、これによってマーケターが、インテントベースの指標としての開封率へのこだわりを断ち、メールにおいて真に重要であるメッセージそのものに焦点を当てるようになることである。

 

 

※当記事は米国メディア「Martech」の6/11公開の記事を翻訳・補足したものです。