国内MAA3,300万を擁するInstagramの新しい購買体験「発見型コマース」で、どのようにターゲットにリーチしていくのか

 

SNSが世間に浸透して久しいが、コロナ禍でますますその影響力を増し、20代女性の約6割がSNSの接触時間が増えたというデータも出てきた。中でも、世界最大級のSNSであるInstagramの日本国内月間アクティブアカウント数は3,300万を突破。そして、Instagram運営元のFacebook社は近年EC領域に力を入れており、カスタマイズ可能なオンラインショップをFacebookやInstagramで作成できる「Facebookショップ機能」を2020年6月に提供開始。さらに2020年11月には、Instagramにおける買い物体験を充実させるため、EC機能を使っているブランドや商品を表示する専用タブ「Instagramショップ」も導入した

そこで今回は、Facebook Japanのコマース事業部でIndustry Managerを務める丸山祐子氏に、Instagramの提唱する「発見型コマース」がどのようにターゲットにリーチしていくのかを伺った。

 

 

消費者と事業者をシームレスにつなぐショップ機能

 

Instagramには、現在「ショップ」という名称を用いたコマース系の機能が2つある。1つは2020年6月に提供を開始した「Facebookショップ」で、「ショップ機能」と呼ばれるものだ。事業者はこのショップ機能を使ってFacebookとInstagram内に自社のオンラインショップを構築するが、消費者がそのオンラインショップをモールのように閲覧できるのが「Instagramショップ」となる。

ショップ機能は、もともと「Facebookページショップ」と「Instagramショッピング機能」に分かれていた2つの機能を統合したものだ。両者は同じFacebook社が運営するコマース機能でありながら、運用はそれぞれ別に行う必要があり、また、UI(ユーザーインターフェイス)も異なっていたため、同じ事業者のページでも別のモノに見えてしまうというデメリットがあった。この度の統合によって事業者は「コマースマネージャ」というツールを使用してショップを一括管理できるようになり、運用上の負担が大幅に軽減された。しかもショップ機能の良さは、運用面の負担減だけではない。

「今回のリニューアルによって、事業者様はよりブランドの世界観を豊かに表現できるようになりました。その代表的な方法が、今回新たに追加したコレクションという機能です。これはショップ内の商品をカテゴリごとにまとめられる機能で、商品をただ羅列するのではなく、人気商品や春夏コレクションなど、各カテゴリに属した商品を配下に置くことができるものです。商品群でまとめることで見やすくなり、訴求したい商品を全面に出せるようになりました。その他にも、UIの色を変更するなどカスタマイズが可能となり、ブランドの世界観を表現しやすくなっています。」(Facebook Japan丸山氏)

▲Facebook Japan株式会社 Industry Manager、コマース事業部 丸山 祐子 氏

 

 

利用者の「好き」が無限に並ぶInstagramショップ

 

一方、「Instagramショップ」はどのような仕様になっているのだろうか。Instagramを立ち上げると、虫眼鏡アイコンの発見タブやリールと並んでショッピングバッグのようなアイコンがあり、それをタップすると現れるのがInstagramショップだ。モバイルアプリでのみ利用できる機能だが、自分がフォローしているブランドだけでなく、利用者の興味関心に基づいて1人1人にパーソナライズされたショップやショッピングタグがついた投稿、コレクションが並び、消費者はネットサーフィンをするより簡単に「好きなもの」を見つけることができる。

Instagramには、フィード投稿のタグから商品の詳細情報を閲覧できる「ショッピング機能」が2018年から実装されていたため、その流れで何の疑問も持たずに使いこなしている消費者も多いだろう。今回、Instagramショップが導入されたことによって、自社ブランドに興味を持ってもらえる可能性のある新たな顧客に、さらにリーチしやすくなった。

丸山氏によると、グローバルと比較しても日本はショッピング機能の利用が盛んな国の1つであり、利用者がショッピングタグが付いている投稿から商品詳細を閲覧する割合は、グローバル平均の3倍だという。また、ショッピングタグがついている投稿から商品詳細を閲覧した国内利用者は、2020年時点で前年比65%増という数字も出ている。ショップ機能を利用している事業者は個人事業主からグローバルブランドまで幅広く、商材も多岐にわたる。コスメやアパレルだけにとどまらず、文具、食品、インテリアなど、通常のECとなんら変わりがないのだ。

Instagramのコマースに注目が集まっているなか、Instagramの利用者は若い女性が大半で、自分たちには関係ないと思っているEC事業者も少なからずいるのではないだろうか。ところが実態は異なり、Instagramが公表している国内利用者の男女比は、男性43%、女性57%とさほど変わらず、若年層に偏っているわけでもない。ネット検索と同じ感覚で活用する利用者も多く、今や多くの層をカバーできる可能性を秘めている媒体と言えるだろう。そのため、丸山氏も「特定の商品や事業者の方に向けてではなく、様々な業種の方に利用いただきたい」と話す。ホームページのような感覚で使っているブランドも多く、ひと昔であれば新商品をローンチする度に何千万もかけてWebサイトを作って誘導をかけていたものが、今やInstagramのアカウント1つで簡単にブランドや商品を紹介できるようになった。

ちなみに毎月2億以上のビジネスがFacebook社のファミリーアプリ(Facebook、Instagram、WhatsApp、Messenger)を利用しており、Instagramのグローバル月間アクティブアカウント数は2018年6月時点で10億。日本国内では2019年3月時点で3,300万が利用しており、現在も利用者数は伸び続けている。実際にショップ機能を利用している事業者からは、どのような声が上がっているのだろうか。

「FacebookやInstagramは、利用者にビジネスや商品を発見する場を提供してきました。ショッピング機能を提供する以前から、自社の商品を紹介する投稿は存在し、そうした投稿にはコメント欄に価格や発売日のお問い合わせがよく届いていました。それが、ショッピング機能の提供を経て、現在のようにショップ機能が充実したことで、顧客の方がわざわざコメント欄で質問をしなくても、ショッピングタグを通じて自社が設定したECサイトに還移することができるようになりました。商品の詳細情報をシームレスに見ていただくことができるようになり、スムーズに動線が繋がるようになったのです。実際に運用している事業者の方からも、コメント欄からの問い合わせ数が減ったというお声をいただいています。以前であれば、コメントを返したり、店頭でご質問に答えたりする必要がありましたが、事前にInstagramで見てくださっているので、問い合わせ対応や工数の負荷が減ったようです。より購入までの動線がスムーズになり、購入される方にとっても、それを売るビジネスのみなさんにとっても、よりスムーズな買い物体験ができるようになったのではないでしょうか」(丸山氏)

 

 

ターゲット層に商品を見つけてもらいやすい発見型コマース

 

ECというのは、そもそも毎日訪れるプラットフォームではない。何か特定の欲しいものがあるから覗くものだが、それに対してInstagramはアプリを立ち上げること自体が習慣化している層も多い。現にInstagramの若年利用者のうち3人に1人は起床してすぐにInstagramを見るなど、日々の生活に欠かせないプラットフォームだ。独自のアルゴリズムによって個々人にパーソナライズされた好みの投稿が集まる中で、顕在化していない「好きなもの」に関する投稿も見ることができるので、一気にジブンゴト化が進むプラットフォームと言える。これに前述のショップ機能によってコマースが掛け合わさるため、Instagramでは「発見型コマース」と呼ぶ。

もともとInstagramというプラットフォーム自体が、「大切な人や大好きなことと、あなたを近づける」をミッションとし、興味関心に基づいたコンテンツが集まるプラットフォームということもあり、自社のブランドに興味関心を抱きやすいターゲット層に商品を発見してもらいやすい。ここが一番のポイントだろう。自社のブランドに興味がない方ばかりに情報を発信しても、売上に繋がらなかったり、うるさいと思われたりなどネガティブな反応につながりかねない。しかしInstagramでは、独自のアルゴリズムに基づいて表示する投稿を利用者ごとにパーソナライズし、興味関心を持ちやすいコンテンツを表示しているので購入につながりやすい。好きだと思った瞬間に「欲しい」という想いが同時に生まれ、ついつい買ってしまうのだ。

さらに利用者がブランドや商品を発見しやすいように、Instagram側でも導線を増やす工夫をしている。利用者が特定の商品の投稿に行きつくまでの導線は、以下のように様々だ。

●投稿のアカウント名をタップ→ビジネスやブランドのプロフィールへ→プロフィールの「ショップを見る」をタップ→商品を選択し、「ウェブサイトで見る」からECサイトに遷移し購入
●虫眼鏡アイコンの発見タブで気になるブランドを検索→ビジネスやブランドのプロフィールへ→プロフィールの「ショップを見る」をタップ→商品を選択し、「ウェブサイトで見る」からECサイトに遷移し購入
●フィード投稿やストーリーズ、IGTV、リールにつけられたショッピングタグをタップ→商品を選択し、「ウェブサイトで見る」からECサイトに遷移し購入
●ショッピングバッグのアイコンがある専用タブ「Instagramショップ」をタップ→商品やショッピングタグがついた投稿、コレクションをタップ→「ウェブサイトで見る」からECサイトに遷移し購入

利用者は、これまでInstagramで発見した商品をわざわざネットで検索して購入していたが、ショップ機能によってその手間が省け、購入までの工程がよりシームレスに運べるようになっている。

 

 

カテゴリごとに商品を並べたり雑誌のような見せ方も

 

ここでInstagramを効果的にコマースに活用している事例をいくつか紹介しよう。最初に紹介するのは、ヨーロピアンモダンテイストの家具が人気の「songdream(ソングドリーム)」だ。songdreamでは、コレクション機能を使ってダイニングテーブルやソファなど、カテゴリごとに商品をまとめて見せている。さらに「新宿モデルルームコレクション」というカテゴリを作り、その店舗に何があるのかを分かりやすくしている点も特徴の1つだ。丸山氏は「各店舗にどのような商品が置かれているのかは実際に行ってみないと分からないことが多いので、songdreamさんのように事前に把握できるのは利用者にとっても非常に便利なのでは」と話す。songdreamではストーリーズやフィード投稿でも積極的にショッピングタグを使っており、タグからECサイトへの誘導は前年比で3.4倍だという。また、InstagramからECへの流入は他チャンネルよりも質が高く、同社が重視しているページ/セッションの数値は昨年対比で約1.85倍高いという数字も出ている。

 

若年層に人気のアパレルショップ「WEGO(ウィゴー)」も、Instagramを積極的に活用している。WEGOでは、顧客層と親和性が高いインフルエンサーが商品を紹介する動画シリーズ「WEGO IGTV SHOPPING」を展開しているが、IGTV(最長60分の縦型動画を投稿できる機能)にショッピングタグをつけることで、顧客が商品やコーディネートのポイントを理解したあとに、スムーズにECサイトに移動して商品を購入することができる。それに加え、IGTV撮影時のオフショットを編集してリール(最大30秒の短尺動画を作成・投稿できる機能)でも紹介しており、そこでもショッピングタグをつけてECサイトへの導線を増やしている。丸山氏は「あらゆるところから商品に辿り着けるようになっていて、導線を非常に意識されています。また、リールなどの新機能もいち早く取り入れ、どれが成功パターンになるのかを1つ1つ試していただいている企業様です」と話す。

 

実店舗がなくても、うまくInstagramを活用することで利用者の目を引く事業者もいる。手帳をはじめとした文具を展開するステーショナリーブランド「A FLOATING LIFE(フローティングライフ)」では、活用方法に関するティップスを数多く投稿しており、それによって購入前から商品ごとの使い方をより深く理解することができる。「店頭で使い方をご説明するのではなく、あくまでInstagram内で使い方を理解していただくというのが時代に合った販売方法だと思います」と丸山氏。実店舗がない事業者も増えている今、ぜひ参考にしたい取り組みだ。

 

中には雑誌のような見せ方をしている事業者もいる。利用者の中には、何から見るべきか迷う方もいるかもしれないが、ナチュラルテイストの女性服を販売する「HACHITEN(ハチテン)」では、「何を着たら良いのか悩んでいる人へ」といったコレクションでしっかりオススメの商品をまとめてくれている。ちなみにHACHITENは、オンラインショップの売上前年比が2018年は400%増、2019年は165%、2020年は182%となり、2020年には実店舗をクローズしてビジネスモデル自体を移行したという(なお2018年のみ出版社webのウェブマガジンに1年間投稿もあり)。丸山氏によると、オンラインショップを訪れる利用者の4割前後がInstagramから来ており、2020年2月以降もInstagramのアクセスは2倍となっている。「時代の変化に合わせてシフトしていっているからこそ伸びているブランド様なのでは」と話す。

 

自社開発の家具をリーズナブルに提供する「LOWYA(ロウヤ)」は、もともとInstagramでファンとの交流を大切にしてきた。ライブ配信とショッピングタグを駆使してコミュニケーションを取り、ライブ配信で商品を紹介したあとに、紹介した商品をショッピングタグをつけてフィードで投稿するという一連の流れが定着している。ライブ配信のスケジュールもストーリーズに投稿し、配信後はIGTVにアーカイブするなど、フルで活用しているそうだ。ライブ配信はいきなり始めても見られないこともあるが、LOWYAでは事前にフォロワーに告知するなど工夫することで、閲覧者を増やしているという。これについて丸山氏は「事前告知することで心の準備や予定が調整できるというのは良い取り組みだと思います。ライブ配信を定期的に行い、アーカイブをIGTVにアップするという流れをファンの方も分かっているので、習慣になって良いサイクルが回っているのでは」と話す。

 

利用者に刺さるInstagramの投稿について丸山氏に尋ねると「ターゲット層によっても異なるため、ブランドごとの正解は色々だが、投稿やライブ配信を見ることを習慣化してもらったり、“もう少し見たい”という余地を残したりという工夫も有効」という答えが返ってきた。考え方はメルマガ等と同じかもしれないが、例えばライブ配信は20時〜22時半など、ターゲット層がより見られる時間帯に統一し、毎回同じぐらいの時刻帯に行う。また、投稿で商品の魅力を伝えることは重要だが、商品をより詳しく見たい場合はショッピングタグをタップしてもらえばいいので、あえて投稿画像では全部を見せず、文章もすべてを語り切らないようにするブランドもいるというのだ。

とはいえ、Instagramを活用してECサイトへの流入数を増やすなどビジネスの目標を達成するためには、「顧客との日々のコミュニケーションを取ることが最も重要」(丸山氏)だそうだ。ショップを充実させたり、ショッピングタグを用いた投稿を増やしたりしても、そもそもプロフィールを訪れてもらえなかったり、投稿を見てもらえなかったりすると効果が期待できない。普段から顧客とのコミュニケーションを取ることで、利用者とのエンゲージメントが高まり、利用者のフィードやストーリーズの上位に表示されたり、発見タブに表示されやすくなったりするため、ビジネスの成果に結びつきやすくなるのだ。

 

 

今後はテレビ通販さながらのライブショッピング機能を導入予定

 

Instagramでは今後、現在米国でテスト中のライブショッピング機能を導入する予定だという。

「欲しいものがあって購入するという動線だけでなく、今後はショッパテイメント(ショッピング+エンタテイメント)という買い物自体が楽しくなるような仕組みを考えています。国内での導入時期は未定ですが、ライブショッピング機能ではFacebookやInstagramのライブ配信中に紹介している商品をタグづけすることで、ライブ配信中に商品の紹介を聞きながら商品詳細をタップして見ることができたり、そのまま購入できたりする機能を開発中です。ご要望いただくことが多いので期待されている機能だと思いますし、見ている側からしても楽しい機能になるのではないでしょうか」(丸山氏)

ライブコマース機能自体は各社展開し、中には苦戦している企業もあるが、Instagramではライブ配信やストーリーズが機能として浸透しているため、おそらくすぐにフィットするだろう。現時点でも、ライブ配信で商品を紹介し、配信の最後に購入方法を紹介する事業者は数多くいる。また、事業者によってはInstagramのストーリーズを活用して、事前にライブ配信で聞きたいことを利用者にヒアリングし、アンケートをもとにトークを繰り広げるパターンもあるという。丸山氏は「ライブ配信を使って商品に対する反応を見ることは今でもできるので、ライブショッピング機能がローンチされる前からいろいろとお試しいただくことは重要だと思います」と話す。

Instagramのショップ機能は、これからも段階を追って進化を遂げていく。新たな機能がローンチされた時に慌てないためにも、この機会にInstagramで「ショップ」を開設して普段から積極的に使いこなしておきたい。