終わりの見えないコロナ禍で、さらに世界経済が縮小する中、企業や消費者は、減少する収入をより便利な方法で支払うようになっている。新型コロナウイルスのパンデミックが、オンライン購入への大幅なシフトのきっかけとなった。その結果、デジタル、非接触型、インビジブル(目に見えない)決済の普及が加速している。

 

この新たなキャッシュレスの概念と即時決済(RTP)に関連する銀行のバックエンド変更は、ますます一般的になっている。そして、eコマースエコシステム全体への潜在的な波及効果をもたらしている。

 

今回のパンデミック前からすでに始まっていたが、デジタル決済への世界的な移行はコロナ禍によって加速している。フィンランドの金融ウェブサイト が分析、発表した調査データによると、2020年には、世界のデジタル決済市場は、約24%増の成長を遂げ、4.9兆ドルとなった。

 

また、同レポートによると、2020年の世界のデジタル決済市場の取引額は、前年比21%増とのこと。市場の総取引額は23.7%増の4.93兆ドルと予測している。ユーザー数も10.1%増の34億7,000万人に達する見込みだ。

 

コロナ禍によってデジタル決済インフラが成長した結果、2021年、決済は引き続き迅速に処理され、さらにビジネスに組み込まれることになるだろう。これは、エンドユーザーにとって決済開始プロセスが、より早くより簡単になることを意味する、と語るのはグローバル決済ソリューションを提供する(本社:アメリカ)の製品責任者であるScott Johnson氏。

 

スマート決済プロバイダの のCEOであるIgal Rotem氏は次のように語っている。「そう遠くない未来に、IoT(Internet of Things)デバイスが新たな決済ポータルとなり、スマート家電やウェアラブルデバイスで購入手続きを完了させることが一般的になるだろう。テクノロジーはさらに洗練され、家庭内にスマート家電が増え続け、これらの“インビジブル決済”が今以上に主流になる一方で、(通貨による)物理的な決済は過去の遺物となるだろう」。

 

マネー革命

ノルウェーのバイオメトリクス企業IDEX Biometricsのボストン拠点CEOのVince Graziani氏は、「昨年1年間で、消費者は、店頭での電子マネーでの支払いから、アプリによる自動決済までに適応しなければならなかった。今や消費者は、新たなスタンダートとなる他の決済インフラのエクスペリエンスにも適応することができる」と言及した。

 

非接触決済の利用増加は、他のデジタル決済形態と相まって、キャッシュレス経済への抜本的な移行を促している。もう一つの考慮すべき点は、デジタルマネーシステム開発の全体的なアプローチに即時決済がもたらす役割だ。

 

非接触決済とは、銀行がマネー決済システム内で、バックステージで実際に実行しているものである。それによって、消費者が、デビット、クレジット、ICカード、その他の決済デバイスを使用し、製品やサービスを購入する安全な方法が提供される。非接触決済には、RFID(無線周波数識別)テクノロジーやNFC(近距離無線通信)の使用が含まれる。

 

消費者は、非接触決済テクノロジーを使用可能なPOS端末装置の近くで、対応する決済カードや他のデバイスをタップして支払う。この決済方法は「タップアンドゴー」ともよばる。

 

関連テクノロジーが、マネー決済分野に参入している。非接触型決済方法よりも、さらに目につかない方法であるからだ。そして、背景には、ベンダーとのやりとりをほとんど必要としない、かつ、買い物客の主要ポータルとなる可能性があるIoTデバイスのユビキタスな利用がある。

 

Graziani氏は「最終的には、非接触型やインビジブル決済によって、デジタル決済業界のプレーヤーの統合が起こるだろう。これは、小規模なプレーヤーの衰退も意味する」と語った。

 

コロナ禍以前は、アメリカの消費者の半数近くが「非接触決済」という言葉を知らなかった。しかし今は、アメリカの圧倒的大部分の買い物客は、安全で安心なエクスペリエンスとして非接触決済オプションを希望している、と同氏は語っている。

 

進行中のテクノロジー

Graziani氏は、消費者がこれらの新しい支払い方法を採用する理由の大部分は、消費者が指紋認証テクノロジーに慣れているからだ、という。

 

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IDEX Biometrics社の指紋センサーとバイオメトリクスソリューションは、非接触型のICカードやデバイスに使用されている。

 

「ほとんどの人は、スマートフォンのロック解除や決済アプリの認証に使用する指紋認証決済テクノロジーの概念を理解している。このテクノロジーは、今は容易に利用可能で、すでに、日常生活でも本人確認に導入されている」と同氏。

 

さらに「指紋認証は、デジタル世界での本人確認の未来に不可欠である。これはすでにマスマーケット向けに価格が設定されている」とも。

 

アメリカは、デジタル決済テクノロジーにおいて遅れているとの見方が強かった。、新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした希望の光は、アメリカで非接触決済の全体的な利用量が、2020年5月には、前年比150%の成長を遂げたことであるという。世界保健機関が、キャッシュレスの普及を奨励し、特に北米では、非接触や新技術の採用が急速に進んでいる、とGraziani氏は言及した。

 

アメリカの経済誌Forbesによると、アメリカのモバイル決済市場は、現在6位であるにもかかわらず、41%増を遂げ、その規模は980億ドル以上となっている。

 

決済の新境地

デジタル決済業界の一部では、これらの新たな生体認証決済オプションをオールインワンのマネー統合システムとみている。これには、IoTネットワークに接続されたガジェットも含まれており、スマート家電やウェアラブルでも購入手続きを完了させることができる。

 

トランザクションは、銀行情報を隠したサードパーティやブランドのモバイルアプリで処理される。支払いに必要なのはアプリ内でボタンを指で押すことだけだ。

 

このプロセスはワンクリックで購入するトランザクションに似ている。違いは、スマートフォンがワンストップレジになるという物理的な環境で行われるということだ。

 

このテクノロジー採用が推進される要因は、指紋認証の拡大への信用の連鎖に直結している。Graziani氏は、こうしたアプローチは、公共交通機関での支払い、スタジアムのような(大人数が収容できる)場所でのイベントへの入場、健康管理の記録、投票者認証、IoTデバイスへのアクセスなどに有効だと説明した。

 

同氏は、指紋認証技術は、新しいキャッシュレス決済業界に必須であると考えている。衛生的で、安全で、個人のプライバシーを守る。セキュリティも、組み込まれたメリットの一つだ。

 

指紋認証のデータは、消費者の決済カードあるいはアプリにのみ保存される。これにより、クラウドセキュリティの穴による悪用の可能性を回避することができ、ハッキングの恐れがなくなる。

 

「最終的には、指紋認証テクノロジーが、健康管理、IT、デジタルテクノロジーに頼る他の無数の業界のデジタルIDやアプリの認証の融合を促進すると思う」とGraziani氏は述べた。

 

銀行が即時決済を支持する理由

銀行が、デジタル決済を処理するために実際の資金移動を実行するバックエンドは、アップグレードされている。即時決済ソリューションの1つは、優位性があり、今年の主流になるだろう、と語るのはアメリカの決済オペレーションソリューションを提供するModern Treasuryの共同創設者兼CEOであるDimitri Dadiomov氏。

 

同氏は「競合する連邦準備制度理事会の構築する即時決済システムFedNowは、2023年か2024年までに導入されることはないだろう。そうなれば、企業は、リアルタイムで銀行に接続される2つの選択肢を持つことになり、サービスの向上と競争力のあるコストにつながるはずだ」と語った。

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この図はFedNowサービス上での決済が完了する様子を示したもの。当プロセスは数秒以内に行われる設計になっている。

 

Dadiomov氏は、RTPが今年主流になる5つの理由がある、と言う。銀行にとっての最も差し迫った理由は、MastercardやVisaによる非カードのより高速な決済システムの実現への取り組みをかわすことだ。

 

もう1つの主な理由は、パンデミックにより、決済を含む多くのデジタル化が進んでいること。これにより即時性への期待が高まったのだ。

 

3つ目の理由は、ベンダーや企業が取引のペースに合わせてスピーディーな決済を行い、現金の動きをしっかり監視する必要があるからだ。多くの中小企業がパンデミックの重圧にさらされていることを考慮すると、これは特に重要だ、と同氏は指摘している。

 

4つ目は、即時決済は取引だけでなく、取引の詳細が含まれているため、すぐに帳簿を照合することができるからである。このプロセスは会計のコストや手間を省くのに役立つ。

 

銀行がRTPをサポートする5つ目の理由は、アップグレードしたテクノロジーのメリットを得られることだ。企業は、あらゆるビジネスプロセスからコストと時間を削減したいものなのだ。

 

Dadiomov氏によると「現行の小口送金システムは1970年代に設計されたもので、更新すべき時期といえる」とのこと。

 

デジタル決済の採用

Graziani氏は、セキュリティは、ベンダー、消費者双方にとって一番の関心事であることに変わりない、と言う。金融サービスプロバイダーと小売業者は、決済トランザクションプロセスにおいて、消費者を保護する責任がある。

 

「地方の家族経営の小規模なアイスクリーム販売店でさえ、現金のみのビジネスをやめ、Square(モバイル決済サービスおよびサービスを提供する同名の企業:本社アメリカ)のようなデジタル決済オプションを採用している」と同氏。

 

生体認証を必要とする決済システムは、署名の偽造や、暗証番号の盗難、オンラインアカウントのハッキングといった既存の不正行為を排除することができる。指紋の複製は事実上不可能だ。

 

「パンデミック前は3~5年かかると思っていたが、アメリカが、1年以内に、概ねキャッシュレス社会になることは十分予測できる」とGraziani氏は述べた。

 

生体認証セキュリティの仕組み

指紋認証付き決済カードは、エンドツーエンドの暗号化を提供する。Graziani氏によると、このプロセスによって、ユーザーのカードとデータが保護される、とのこと。

 

指紋認証付きカードは、非接触型カード用の機械にカードをかざしたまま、カードのセンサーに指で触れることでID認証を行う。買い物客は、POSシステムに自分のカードをかざすだけでよい。

 

全ての取引プロセスで、暗証番号の入力パッドやレジカウンターを利用せずに済む。これは、現行の非接触決済カードの利用方法と何ら変わりがない。

 

Graziani氏は「このタッチフリー決済テクノロジーは、消費者に非接触型やモバイル決済の利便性を提供するだけでなく、カードは所有者に個人的に紐づいているため、はるかに高いセキュリティを備えている」と語った。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の1/21公開の記事を翻訳・補足したものです。