ブランドやマーケターにとって、サプライチェーンの激変が意味すること

 

「踏み込んで語られることがなく、理解されていないことの一つとして、ロジスティクスがカスタマーエクスペリエンスの大部分を占めているということが挙げられる。それは、マーケティングの大部分を占めていることでもある。今日のマーケティング全般において、かつてないほどOne to Oneマーケティング(顧客一人ひとりに合わせたマーケティング)が重要となっている。つまり、ますます経験ベースとなり、人々は、どこへ行ってもAmazonで買い物をしているような感覚を求めるということだ」。

 

この言葉は、マーケターによるものではなく、ロジスティクス・サプライチェーン分野の第一人者であり、サプライチェーンのイノベーションに焦点を当てたREFASHIOND Ventures(アーリーステージのサプライチェーンテクノロジーベンチャー企業)のシステム設計、研究、戦略コンサルティング部門REFASHIOND OSの共同創設者であるErik Mumford氏によるものである。Mumford氏との多岐にわたる会話に加え、同社の共同創設者Lisa Morales氏とBrian Laung Aoaeh氏からの寄稿を捕捉し、COVID-19によって加速した世界的なロジスティクスの変化と、それらがブランドにとってどのような意味を持つのかについて模索することにした。

 

直面しているマクロトレンド

Mumford氏は次のように述べた。「リショアリング(サプライチェーンを自国に完全に戻すこと)、ニアショアリング(国内よりコストが安く地理的に近い国に業務を移転すること)、そして中国への依存度の低下など、マクロトレンドに直面していることは明らかである」。「我々のビジネス全体は、ローカライゼ―ションを中心としてきた。これは、ローカライズされた製造や、地理的な需要主導型の製造拠点であり、COVID流行前に我々がオーケストレーション(システムやソフトウエアの運用管理を自動化すること)し、促進しようとしていたものなのだ」。Mumford氏のビジネスは、パンデミックによって引き起こされた「詐欺、損失、利益による荒稼ぎの被害を解決するための支援」をするだけではなく、PPE(個人用防護服)のサプライチェーンなどを支援することに重点を置いたのだ。

 

消費者習慣は変化しており、デジタルトランスフォーメーションや、今日のブランドに関連するその他多くの事柄と同様、COVIDは扇動者ではなく、既存トレンドを大幅に加速させる“アクセル”であるといえる。「COVID以前は、環境に配慮し、持続可能性、より倫理的な調達、奴隷労働の廃止、透明性などに重点を置いていた」と、Mumford氏。「現在はそれだけではなく、メイドインUSAやニアショアリングへの移行、サプライチェーンのレジリンスを高めることに注力しており、従来のグローバルモデルから、予測したよりも急速にシフトしている」。

 

Aoaeh氏は次のように述べている。「収益が急激に減少する中で、サプライチェーンのコストを下げ非効率性を排除することは、もはや贅沢なことではなく、極めて重要である事は言うまでもない」。

 

サプライチェーンは中国から撤退するのか?

COVIDが浮き彫りにしたことは、グローバルサプライチェーンが、遠隔地や敵対的となる可能性のあるソースへ不安定に依存していることである。こうした点において、中国は典型例であるが、もし解決策が必要となる場合、それは単純なものではないだろう。

 

Aoaeh氏は、「これは複雑な問題だ」と述べる。「中国は世界の製造サプライチェーンの要(リンチピン)なのだ。米中貿易戦争の影響で、多くの企業が自社の中国における製造オペレーションについて再考しているが、中国が開発してきた製造機能には有形無形のインフラが多くあり、単純に根こそぎ移転することは容易ではないのだ」。同氏はまた、「ベトナム、インド、メキシコといった新興国市場が潜在的な競争相手であるにもかかわらず、当面の間は中国が世界の製造業の中で圧倒的に重要な位置に留まり続けるだろう」と説明した。

 

Mumford氏は重要な問題点をいくつか指摘している。米国の医薬品サプライチェーンは、圧倒的に中国での製造に根付いている。同氏は、抗生物質、ビタミン剤、その他主要な医薬品のおよそ90%は中国製だと説明。「これは国家安全保障上、特にCOVIDのような危機が発生した場合は非常に重大な問題となる」。Mumford氏は、中国がサプライチェーンの中心的存在であるが故に、アルゼンチンのような食糧不安の高い国に中国への食糧輸出を継続するよう強いる同国のやり方についても言及している。「我々は、意味あるものを自国へ持ち帰るだろう」と、Mumford氏。彼はまた、ブランドは、中国の代替となるような、政治的な考え方が米国とおおよそ一致している国(例えばインドなど)を検討しているのではないかと考えている。

 

ローカルとグローバルのハイブリッド

Mumford氏は、「全てが自国に戻ってくるわけではない」と同意した。「需要主導型、地域密着型のサプライチェーンと従来のグローバルモデルとのハイブリッドモデルが出現し、互いに平行して効果的に作用するようになるだろう」。従来モデルの変化とは、サプライチェーンの一部を構成することに依存しているコミュニティにおける貧困の増加など、明らかなマイナス面がある。「他方では、どれだけの雇用を創出できるか、どれだけ国家の安全保障とレジリンスを高め、廃棄物や汚染をなくし、地球への影響をなくすことができるかという問題がある」。

 

Mumford氏によれば、従来のグローバルサプライチェーンの歴史的ルーツは、低賃金労働や高利益率、「米国の飽くなき消費者需要」を満たす必要性、そして多国籍企業であることにメリットがあるという認識にあるという。「今後は需要と供給に関するノーマライゼーションがさらに進むことになるだろう。ローカルモデルとグローバルモデルの調和もみられることになるのではないだろうか」。Mumford氏はこのように話すが、「貪欲な要素はまだそこに存在しているのだ」とも語っている。

 

訪れるホリデーシーズンにおけるブランドへの影響

MarTech Today(マーケティイングテクノロジー業界に関するニュースサイト)の最近のインタビューにおいて、Adobe(米国発ソフトウエア企業)のTaylor Schreiner氏は、ホリデーショッピングシーズンを延長する小売業者の傾向を指摘し、「市場シェアを獲得するだけではなく、サプライチェーンが多くの制約を受けている中での、配達のタイミングと予定を管理するためである」と述べた。Mumford氏は、それがどれほど重大な懸念事項であるかを強調する。

 

「透明性を維持し、デジタルタッチポイント(顧客との接点)だけではなく、スタートから終点までの全てを処理する必要がある。人々は自分達の製品がどこにあり、いつ到着し、どこから供給されているのか、これらすべてを知りたがる。そして、こうした傾向が表面化しているのだ」。大手ブランドは前例のない一歩を踏み出しているとMumford氏は語る。

WalmartやAmazon といった企業は、迫りくるホリデーシーズンの未知なる需要曲線に対応するため、追加の貨物機を買い占めている。彼らは、追加購入した飛行機を囲い込み、市場から排除している。そして現在、旅客機が旅客機として十分に活用されていないため、旅客機を貨物機に再利用するというスクランブリングが起きている」。

 

航空貨物の代替案については、「少なくとも数ヶ月の実質的な変動があり、海上輸送への移行が見られるだろう。そして、過去何十年間には見られなかったような海上輸送のコスト変動が見られることになるのだ」。

 

サプライチェーンからデマンドチェーンへ

パンデミックに伴うもう一つの重大な変化は、需要主導型生産への切り替えである。つまり、従来のサプライチェーンよりもデマンドチェーンに重点を置くのだ。最近、Mumford氏はチノパンを購入したという。「サイトをいくつか閲覧していて、おそらく記憶の限り初めてのことであるが、衣類が実際に作られる前から予約注文ができるサイトを見つけたのだ。これはCOVIDがもたらした直接的な結果と言える」。同じことが食品サイトでも見られ、注文したものが届く日が決まっている。

これは明らかに、食品が注文後に製造されているということだ。これは、小規模なバッチ製造(製品が時間枠内で指定されたグループまたは量として作成される製造方法)への急速なシフトの一環であり、過剰生産からの脱却である。

「大手衣料品ブランドのH&Mは、昨年45億ドル相当の在庫を過剰生産している」と語るMumford氏。「それは大量の無駄である。小売業者の需要計画は完全に頓挫し、それがロジスティクスに反映されるようになるだろう」。

 

Morales氏は、ファッション分野に関する事例を提示した。「Gerber Technology(米国発、各種産業向けの裁断機メーカー)は、ニューヨークの Hudson Yards officeの1,200平方フィート内に、すでにデマンドチェーンのマイクロファクトリー(小型工業製品を生産できる小規模工場)を展開している。このマイクロファクトリーによって、買い物客はわずか1時間以内に採寸、独自の衣服のデザイン、独自のテキスタイル/パターンのデザイン、印刷、乾燥、裁断、裁縫を行う事が可能だ。顧客がカスタムフィットで購入したいものだけを正確に販売できるということは、数十億ドルのデッドストックに縛られた無限のオプション性というトレード・オフをはるかに上回る」。

 

希望の光を求めて 

こうした世界的激変の中、より持続可能で論理的なサプライチェーンは生まれるだろうか?Aoaeh氏はこれに「Yes」と答える。「しかし、企業がこれを中核的な戦略的優先事項として追及することを、消費者が求める必要がある。また消費者は、これを、企業に強制する法律を制定するよう政治家に働きかける必要があるだろう」。

 

Morales氏は次のように同意している。「グローバライゼーションにより、不透明度の高い層を何層も重ねた何十億ものノードからなるサプライチェーンが生み出されたのだ。世界的なPPE不足が浮き彫りにしたのは、サプライヤーを知るだけではなく、それらの生産基準、材料、ラボテスト、およびロット認証を検証する、真に不変の台帳を持つことの重要性だ。透明性の欠如によって、使用できない製品や不正な製品のために、数兆ドルないし数十億ドルが支払われることになるのだ」。地域密着型のサプライチェーンは、本来、より持続可能なものだとMorales氏は語る。

 

同氏は、倫理意識の高まりを示す例としてファッション産業を指摘した。「ファッションサプライチェーンにおけるイノベーションによって、搾取的なものではない、地域社会と協力した、より公平で透明性の高い地域インフラを構築することで、奴隷労働を世界的に排除することができる。グローバル化されたシステムの不透明性さやレイヤーの影に隠れるのは容易いことだが、手の届く範囲でそうしたことを行うのは極めて困難である」。

 

また、パンデミックは可能な限りサプライチェーンを自国に戻すことを各国に促しており、それにはプラスの効果をもたらす可能性を秘めている。Morales氏は次のように述べている。「COVID-19の影響で、多くの国々がPPEや医薬品、農産物などの重要な供給品のリショアリングを行っている」。「リショアリングは、国家の安全保障や地域の雇用創出、そして経済の安定性を高めるだけではない。というのも、イノベーションはこれまでにない効率性を生みだしているのだ。今後5年間で、パンデミックにより加速されたローカライゼ―ション・インフラの規模が拡大し、グローバライゼーションにより達成されるよりもはるかに持続可能で、循環型で、透明性の高い選択肢が生まれるだろう」。

 

Morales氏によると、ブランドは変化を受け入れる必要があるという。「レガシー企業がイノベーションを説きながらも、痛みの回避や漸進的な変化に投資し続けていることには常々驚かされる。イノベーションは必要不可欠なものであり、できれば良いというわけではないことを理解している企業は、10年後、15年後にも存在するだろう。イノベーターは、COVID-19により、スピードを倍に加速させている。グローバル化されたシステムを改造しようとするより、パラダイムシフト(従来の社会的価値観等が劇的に変化すること)を構築する方が安価で迅速であり、今こそその時なのだ」。

 

「これまでに見たこともないほどの短期間で、中小企業からAmazon や Walmartへの莫大な富の移転を目の当たりにした」と、Mumford氏。「COVIDは中小企業を、破壊しているが、その富はバランスシートの観点から見てすでに良いポジションにいたブランドに移行している。小規模小売業者や新進気鋭のブランド、ニッチブランド、ブティックブランドは今まさに苦しんでいるのだ。生き残るのは、マーケティング用語でいうところのデジタルトランスフォーメーションの面で、すでに時代を先取りしていた者なのだ」。

 

 

※当記事は英国メディア「Marketing Land」の10/22公開の記事を翻訳・補足したものです。