e コマース業界では、「eコマースは、数字のゲームだ」と誰もが答えるだろう。我々が日々拠り所としている数字は、広告キャンペーンにおいて獲得できたクリックスルー率から、設置した「今すぐ購入」ボタンのコンバージョン率まで、競争の激しいeコマース業界のあらゆる側面についてのインサイトを表している。

 

しかしながら、こうした定量分析の世界では、人間的な要素である何かを見失いつつある。定量的インサイトへの依存は、有益で実行可能なデータを提供する一方で、顧客や潜在顧客を数字として見ていることになる。つまり、そうしたデータは、人々が「どんな」行動をとるかを教えてくれても、その行動を起こす「理由」については無視していることになるのだ。

 

「理由」を見つけるには、顧客との会話に依存することになるため、非常に難しい問題である。eコマースのリーダーは、より成功をおさめているサイトの構造や購入プロセスから、顧客行動の動機の理解に至るまで、あらゆる情報を提供する定性的なインサイトを収集することが、顧客との対話によって可能となる。

 

総体的に見ると、eコマースの専門家達は、定性的かつ定量的なインサイトを融合させることにより、人の力で、顧客にパーソナライズ化された体験を提供できる。直接的なインタラクションを活用して顧客の欲求やニーズを理解し対応することで、eコマース企業は、数字に基づいたアプローチのみでインサイトを収集する企業よりも、圧倒的な競争優位性を得ることができるのだ。

 

今日のeコマースにおけるパーソナライゼーションの現状

今日、eコマースにおいて「パーソナライゼーション」とは、どのような意味を持つのだろうか?多くの場合、eコマースでは、特定の顧客に合わせたショッピング体験をカスタマイズする方法を提供することを意味する。このパーソナライゼーションには様々な形態がある。例えば、高度な対話形式のお勧め商品紹介、顧客が訪問したウェブサイトなどを追跡するターゲティング広告、顧客の名前が記載されたeメール、そして顧客の買い物履歴に基づいた専門的なオファーなどだ。

 

しかし、こうしたパーソナライズされたアプローチの問題点は、アルゴリズムで生成されるということだ。それは、定義上、パーソナルとはいえない。

 

場合によっては、非常に不快に受け取られる可能性がある。誰もが、ある商品を一度閲覧すると、その後一週間は他のウェブサイトにアクセスするたびにその商品がフィーチャーしたターゲティング広告が表示されるといった経験をしているだろう。最近、Orwellian(オーウェル的な。極端な全体主義的・管理主義的な思想や傾向)という言葉がよく使われているが、こうした形式のターゲティングは、特に購入済みの商品の広告である場合には、顧客の不安を煽り、イライラさせるだけの可能性もあるのだ。

 

eコマースにおける企業とのやり取りは、実際にはパーソナライズされた経験を提供していないにもかかわらず、まるでパーソナライズされたような錯覚を与える場合もある。多くの企業はbotや自動生成されたチャットに依存しており、人間性をそぎ落としながらもリアルなやり取りをしているかのような印象を与えているのだ。

 

eコマースの多くの顧客が、こうした不自然な体験をしているというのが現実であり、ユニークな体験を全く提供しないよりは良いものの、リピーターの増加またはコンバージョンの獲得を妨げる場合もある。最悪の場合、プライバシーを重視する顧客はアルゴリズムで生成されたパーソナライゼーションの不気味な側面に苛立ち、個人情報が収集されていると感じることがあるのだ(事実そうなのかもしれないが)。

 

有用な定量的インサイトを獲得する

顧客についての定量的なデータを収集することで1つの業界全体が成立しているが、重要なのは、そうしたデータは顧客についての一面を伝えているにすぎないということを認識することだ。データは、顧客がクリックしたか否か、購入したか否かといった顧客が何をしたかを明らかにするが、顧客の行動の動機を示すことはできない。

 

eコマース企業は、世論調査を活用して顧客の動機を解明しようと試みているが、そうした世論調査も、あらかじめ定められた回答セットに厳格に基づいて機能しているのだ。これらの調査によって、理由についての回答に近いものを得ることはできるが、フォローアップを行ったり、より深く理解したりすることはできない。多くの場合、現実には、世論調査はオンサイトエクスペリエンスに影響を与えるために活用できる、別の定量的なデータセットを提供している。

 

真に顧客の要望や動機を理解するためには、eコマースの専門家は顧客と対話する必要がある。これらのインサイトを得るために活用できる数多くのツールがあるが、今日のソーシャルディスタンスを保つ必要がある時代に最も安全性が高く効果的なものは、スマートビデオ・プラットフォームである。

 

スマートビデオ・プラットフォームは、ここ数ヶ月で慣れ親しんだ従来のビデオ会議システムとは異なり、プレゼンターが顧客との対話を誘導するための多くの構造化されたツールを提供する。これらのスマートビデオ・プラットフォームには、顧客のリアルタイムの反応を引き出し、有用なインサイトを獲得するために活用できるツールも含まれている。

 

スマートビデオ・プラットフォームを活用する

スマートビデオ・プラットフォームを介すことで、ホストはウェブサイト上での顧客の購入までのジャーニーを画面で共有し、観察することができる。しかし、顧客がどこでクリックしたのかだけを示す従来の定量分析とは異なり、ホストは、構造化された会話の中で、顧客が特定の場所でクリックした、または、クリックしなかった理由を尋ねることができ、顧客のタスク完了を妨げているのは何かを判断することが可能だ。

 

最も重要なのは、これらの行動調査から、eコマースの専門家が、顧客に対し、彼らの体験について語りかけ、ショッピング体験をより直感的なものにするためにどのような改善が必要かを直接知ることができるということだ。こうした定性的インサイトをもとに、顧客が購買体験において真に求めているのは何かを明らかにすることができる。同時に、変化を実現するために、どのようなアクションが実行可能かについてさらに理解するため、フォローアップクエスチョンを行うことも可能である。

 

しばしばeコマースの専門家は、ある種のトンネル・ビジョン(自分とは異なる考えを考慮しようとしない姿勢)、いわゆる「開発者の考え方」に囚われてしまい、ウェブサイト上での実際の顧客体験から乖離してしまうことがある。時間の経過に伴い、ウェブサイトの構築者にとっては直感的かつ論理的なものが、現実のオンラインショッピングとはかけ離れたものになってしまうのだ。こうした会話やリアルタイムのサイト使用状況のモニタリング調査により、eコマースの専門家は、客観的かつ新鮮な見方で自らのサイトを観察し、それに適応することができるようになる。

 

現実世界でのパーソナライゼーションのための定性的インサイト

今日のECサイトに存在するパーソナライゼーションの方法は、多くの点でデータに基づいたもの(データドリブン)であり、パーソナルではない可能性がある。しかし、価値や効果がないというわけではない。インテリジェントに推奨された商品や、カスタマイズされたeメールキャンペーンは、顧客に売上に繋げることが可能な商品やオファー(自発的に行動してしまうような仕組み)を提供している。

 

しかし、定性分析に基づいたパーソナライゼーションは、さらに構造的なものである。顧客との構造化された対話から得られる現実世界のインサイトにより、eコマースの専門家は、顧客が実際にどのように買い物をするかというニーズに合わせてショッピング体験をカスタマイズすることができる。ウェブサイトのパーソナライゼーションは、顧客からのフィードバックに寄り添い、耳を傾け、ニーズ、欲求、動機のニュアンスを理解し適応させることにより可能となるのだ。

 

例えば、あるeコマース企業では、チェックアウトの障害となるものが何かを見つけ、ボタンの配置を変更したり、分かりやすくするために文面を変更したりすることで、購入プロセス内のフリクション発生ポイントを改善することができるだろう。また、ウェブサイト上で顧客を混乱させる可能性のある箇所を見つけ、説明文やコンタクトダイアログを追加することで、顧客が自分の存在を認知され、助けられていると感じられるポイントを把握することもできるのだ。

 

動画プラットフォームは、eコマースに新たなフロンティアを提供する。スマートビデオを使用してフォーカスグループ形式で顧客とコミュニケーションを取ることができるだけでなく、顧客が日常生活のルーティンの一部として、ビデオでの会話に慣れてくると、ハイレベルなセールスやカスタマーサポートを提供する方法として活用でき、貴重な顧客がチームのメンバーと対面してパーソナライズされた体験を得ることができるのだ。

 

しかし、何よりも素晴らしいのは、スマートビデオ・プラットフォームによって、eコマースの専門家は、対話を通じて「なぜ」に答える方法を得ることができることだろう。つまり、顧客をページ上の数字から、個性と好みのある人間に変えて、よりパーソナライズされたeコマース体験を生み出す現実世界の変化を生み出すことができるのだ。

 

重要なポイント

定量的分析の価値の重要度は軽視できないが、それだけで顧客の動機のすべてを語ることはできない。顧客との対話を通じての定性分析は、顧客が行動する「理由」の回答への手助けとなる。

 

現在のeコマースにおけるパーソナライゼーションの方法は、多くの場合が「パーソナルではない」、つまり、アルゴリズムによって生成されたコンテンツにより、まるでパーソナライズされているかのような錯覚を与えている。

 

eコマースの専門家は、スマートビデオ・プラットフォームを通じた顧客との会話を活用することで、定性的な顧客のインサイトに基づいた、真のパーソナライズされた体験を創造することができるのである。

 

 

※当記事は米国メディア「Ecommerce Times」の9/8公開の記事を翻訳・補足したものです。