COVID-19パンデミックは、私たちの人生における決定的な出来事の一つとなるだろう。その経済的影響は何年にもわたって継続し、消費者行動を永遠に変えることになるのだ。

 

過去30年間にわたり、専門家は、消費者による緩やかなスピードの新技術の採用を研究してきた。しかしこの90日間にeコマースやビデオ会議分野で起こったような、新技術の急速な普及を、彼らは目の当たりにしたことはない。

 

eコマースは 2000 年代初頭から発展し、ホッケースティック曲線の成長パターンをたどっていた。しかし、パンデミック前には商品の80%が小売実店舗を通じて販売されていたのに対し、オンラインでの販売は20%だった。

 

今日では、小売について既に理解していると思っていたことや、小売とeコマースをどのように比較するかということ、そして、最も重要なのは、どのように競合するかということについて、すべてを再検討する必要に迫られている。パンデミックはあらゆるものを壊したが、新たなページを開き、最終的にオフライン小売とオンライン小売を融合させて勝者となる方法を生み出す絶好の機会となっているのだ。

 

今回のディスカッションでは、パンデミック渦における、食料品や必需品といった明らかに前例のない売上の伸びを記録したセクターを除外し、消費スペクトルにおいてそれらの対極にあるファッション業界に焦点を当てる。

 

大まかな歴史

かつては単純なことであった。製造業者(ブランド)は商品を製造し、小売業者は消費者への販売を担当していた。しかしこの標準化されたサプライチェーンは、消費者への直販(DTC)モデルの方が利益率が高く、ブランドメッセージをより適切に管理でき、消費者からフィードバックを直接受け取ることができることをブランドが認識し始めたことで、変わり始めた。そしてDTCウェブストア(eコマース)によって、この動きは、さらに加速した。

 

さらに、オンライン販売のみを行うデジタル・ネイティブ・ブランドという新形態が登場した。しかし、それらの多くは、最近になってブランドの実店舗をオープンしている。理解が難しいだろうか?今や様々な販売方法が混在しているが、全てには共通した目標があるのである。それは、顧客を理解し、生涯価値(LTV)を高め、平均注文金額(AOV)を上げ、コンバージョン率(CRO)を最大化するということである。つまり、顧客を満足させることが、ブランドの成功を意味するのである。

 

高級品を扱う小売業者は、実店舗で提供している人間的な触れ合いを重視するエクスペリエンスを再現することは事実上不可能であった。それにもかかわらず、その進化に追いつこうとオンライン化を促進した。しかし、スマートな検索機能や360度ビューの美しい画像、人工知能搭載チャットボットを備えた洗練されたウェブサイトのすべての機能を駆使しても、消費者とブランドの関係を築く人間と人間のつながりに取って代わることはできなかったのである。

 

離れた場所にいる買い物客に、適切なサービスを提供できないことは、以前からの課題であったが、COVID-19による実店舗閉鎖によって、それは、より明確となった。

 

コマースの進化

ブランドが、どのようなビジネスモデルを選択するかに関わらず、一つだけ確実なことがある。それは、顧客との顔の見えない取引上の関係だけでは、もはや十分ではないということである。ブランドも消費者も、より深く、より意味のあるつながりを求めている。ブランドは直接、顧客から意見を聞き、機敏に行動に移す必要がある。そして、消費者はフィードバック提供し、自分の考えを聞いて欲しいと思っている。つまり、ブランドと消費者の関係は、かつてないほど強固になっているのだ。その重要性を理解していないブランドが生き残るのは、困難であろう。

 

オンラインストアを運営することは、莫大な経済的メリットをもたらす。家賃や光熱費を支払う必要がなく、従業員数も削減でき、利益率も高くなる。オンラインストアのコンバージョン率2%が、小売業界の30%と比較して「成功」と捉えられるという事実は、驚くべきことだろう。ほとんどのオンラインファッション直販店のコンバージョン率は、約1%なのである。これは、1回の注文を獲得るためには、宣伝によって100人の訪問者を獲得しなければならないことを意味する。これはコストが高く、非効率的である。

 

ブランド小売実店舗は、設置や維持には非常に費用がかかるが、来店トラフィックを獲得することができれば、非常に高い利益を上げることができる。しかし、その小売トラフィックには波があり、販売員の暇な時間が非常に多くに発生し、平方フィートあたりのROI(投資利益率)を減少させる。現在、成功している小売企業は、パーソナルな顧客体験を構築し、オンラインでのプレゼンスを変革し、オンラインとオフラインのエクスペリエンスを融合させている。

 

オンラインとオフラインの境界線を曖昧にすることができたら、どうなるだろうか?専門的な訓練を受けた販売員と、何十ページものサイトを、一人で、誰の助けも借りずに、目的無しに閲覧している顧客を結びつけることができたら、どうなるだろうか?インタラクティブな双方向ショッピングが可能なビデオセッションに彼らを誘導できる簡単な方法があったらどうだろうか?まさに、驚くべきことが実現できると思わないか?しかし、今は実現できていない。

 

先進的なブランドは、ビデオ通話アプリのFaceTimeやZoomを使ったバーチャルなパーソナルショッピングを導入している。顧客は、ショッピング可能なライブ・メイクアップチュートリアルにアクセスすることができる。統合されたプラットフォームを介して、離れた買い物客と販売員を結びつけているブランドもある。

 

このようなライブ・ショッピング・テクノロジーは、米国で利用可能になったばかりだ。もしCOVID-19がなければ、ほとんどのブランドがこうしたオンラインショッピング中のパーソナルなインタラクションに対する需要の高まりに注目し始めるのは、おそらく、あと1年ほど先であっただろう。

 

パンデミック渦において、最も進化が加速したビジネスセクターは、eコマース関連技術とビデオ・コラボレーション技術の2つである。そして、次の必然的なステップは、その2つ技術を融合させたライブ・ビデオ・コマース、または、単なるライブ・コマースである。

 

ライブ・コマース

実店舗の閉鎖は、ファッション業界を完全に麻痺させた。小売業者は、前例のないこの経済的な末期状態を生き抜く方法への助言もほとんどない状況に、完全に混乱している。ほとんどの販売員は解雇されている。最も重要であった、ブランドと顧客間という人と人とのつながりがすっかり消えてしまったのだ。

 

しかし幸運にも、私たちは、技術が進化した時代に生きている。そして、技術を活用し、失われた人と人とのつながりを回復することが可能だ。

 

ライブ・コマースとは、離れた場所にいる消費者と販売員が、ビデオ・テクノロジーによって、消費者の商品購入をサポートすることである。ライブ・コマースには、1 対 1 と、 1 対多数の 2 種類がある。

 

1対1のエクスペリエンスでは、消費者と販売員が、「co-shop(ショッピングを一緒に行う)」を実現するための様々なツールを使用しながら、双方向のビデオ通話を行う。ツールは、 FaceTime のような初歩的なものでも問題はなく、双方の当事者がアイテムについて話し合い、販売員はカメラを使用して商品を表示することができる。

 

より高度なソリューションでは、両者が一緒にブラウジングできる統合されたシステムを使用し、顧客はリアルタイムでおすすめの商品を確認しながら、一緒に買い物をすることができる。この種のインタラクションは、顧客がブランドのサイトを閲覧している途中に開始することもできる。また、販売員が専用のダイレクトリンクを送信し、後で、顧客がリンク先にアクセスすることにより、ショッピング可能な双方向ビデオに接続して開始することもできる。こうしたサービスの利点は、販売員が特定の顧客のみと1対1の時間を過ごすことができるということである。それは、オンラインでは以前は不可能だった、パーソナルなつながりを生み出すだろう。

 

ライブ・コマースのもう1つの種類は、1対多数のライブストリームである。このタイプのエクスペリエンスでは、小売業者が自社ウェブサイトから直接 QVC(世界大手のショッピング専用放送チャネル) のようなビデオコマースを実行することができる。これは、トランクショーを開催したり、エディトリアルコンテンツをストリーミングしたりするのに最適なツールである。1対多数は、一度に多くの顧客とコミュニケーションをとり、つながることができる優れた方法である。

 

ビデオストリーミングを使用するこの方法では、ホストは、ライブチャットですべての視聴者からの質問を確認し、それらに回答することができる。ソーシャル ・ライブ ストリームとライブ・コマースの大きな違いは、後者は完全なショッピング機能を備えており、顧客に見てすぐ購入するというエクスペリエンスを提供できるという点である。

 

これは、win/win/win である。つまり消費者は、以前は対面でしか実現できなかった、パーソナルなショッピング体験を得ることができる。販売員は、実店舗外での販売ツールを手に入れ、より多くのコミッションを獲得し、長期的な関係を築くことが可能となる。ブランドは、顧客と従業員の満足度の向上、コンバージョン率の向上、AOVの向上、1平方フィートあたりのROIの向上、返品の減少を実現することができる。これこそが、すべてのブランドが実現したいと考える真のオムニチャネル・エクスペリエンスである。

 

課題

デジタル技術は、顧客とブランドの間のパワーバランスを変える。顧客が選択するパワーを獲得する一方で、デジタル技術によってビジネスの経済性は劇的に向上する。

 

しかし、最大の課題は技術的なものではなく、文化的なものである。一点にフォーカスした組織を牽引するためには、組織のトップの文化を変えなければならない。「オムニチャネル」という言葉が流行語となっていても、ほとんどのブランドは、eコマースと実店舗で、別々の損益計算書を作成している。売上とすべての関連費用は、それぞれ交わらない2つの平行線上でトラッキングされている。チームは、彼らが属しているそれぞれの並列的な組織の成果に基づいて報酬を得ている。つまり、販売部門が1つではないということだ。ライブ・コマースの世界では、どのチームが、達成した売上を自分達のものであると主張するのだろうか?

 

社内的に、チーム、利益、経費、手数料が、明らかに分断されているなかで、オムニチャネル・エクスペリエンスを実現できるブランドなど存在するだろうか?ライブ・コマースによって、必然的に、組織内のすべての部門間のコラボレーションが促進されるが、関係者全員に適切な報酬が支払われるかどうかは、経営陣次第である。

 

ニューノーマル

パンデミックは、消費者の行動を変えた。誰もが、生き延びるためにニューノーマルと新しいツールを探している。

 

先月、大手コンサルティング会社であるMcKinseyのJenny Child氏と Rod Farmer氏、Thomas Rüdiger Smith氏、Joseph Tesvic氏は、「X世代の75%が、過去2週間に食品以外の商品をオンラインで購入している。そして40%以上は、COVID-19パンデミックの影響によって、オンラインでより多くの買い物をしている」と指摘している。

 

企業の収益がCOVID-19以前に戻る時が来ることを期待する一方で、消費者に対して小売業者やブランドがリモートで対応するためのオペレーションを強化していくことは、極めて必要なのである。

 

※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の6/9開の記事を翻訳・補足したものです。