ブランドは、最新の流行に関するほんのわずかなデータから、新たな方法で消費者とつながるための戦略を立てることができる。しかし、そこには細心の注意を払うことが必要だ。

クラフト分野では「スライム」が2018年の最大の流行となり、“スライム動画”の一大ブームを巻き起こした。昨年のYouTubeでのスライム動画視聴回数は、250億回を記録し、大手小売業者はスライム制作用の糊の全米における在庫不足を報告している。

クラフト用品企業は、スライム用商品の販売に乗り出し、関連コンテンツのスポンサーとなり、トレンドに乗り遅れないよう“キラキラした糊”などの駆け込み製品を製造している。それは素晴らしいことだ。しかし多くのブランドは、スライムと、それと類似する「ASMR(ぞわぞわして脳がとろけるような快感を引き起こす現象、自律感覚経路反応。Autonomous Sensory Meridian Response)」の流行についてより深く検討する必要がある。ブランドは動画上でも実生活においても、全く新たな方法で消費者とのつながりを構築するチャンスを得ることができるかもしれないからだ。

 

ASMRについて真剣に考えているだろうか?

視覚的に刺激的であるスライム動画は、人気の高まりを見せる動画カテゴリ「ASMR」の一つである。ASMR動画は、些細な論争を生むこともある。しかし消費者は、ASMR動画を視聴することで現実社会から離れ、落ち着いた時間を得ることができるようだ。少数ではあるが、北欧家具のIKEAやパーソナル・ケア製品ブランドDoveのようなブランドは、すでにASMRのバイラル動画(SNSでのシェアや口コミなどで人から人へ、まるでウイルスのように広がっていく動画)を制作している。Anheuser-Busch社のプレミアムビールブランドMichelobは、Superbowl 用のASMR CMまで制作した。

それらの一時的なCMは、AMSRトレンドの一部となる真剣な試みというよりは、むしろ、皮肉交じりの文化的レファレンスとして制作されたものであった。スライムと同様に、本物のASMR動画は、主にインフルエンサーの領域である。インフルエンサーの制作したASMRコンテンツは、視聴者に真剣に受け止められ、長いエンゲージメントタイムと、何十億回という動画再生回数を獲得している。

新しいコンテンツによるトレンドの効果の持続力は未知であるため、ほとんどのブランドは、自社コンテンツを制作するよりはむしろ、既存コンテンツに広告を出稿することに注力することでより多くの利益を得られるだろう。スライム動画の何十億ビュー全体において、YouTube平均の1.5倍のエンゲージメントを獲得している。同様の結果を出すためには、ブランドは、今までの自社の行ってきたアプローチをリセットする必要がある。インフルエンサーは、広告主が時代遅れになることを望まない。ASMRコンテンツとよりよく調和した広告を出稿させるために、ブランドに対し、広告の音量を下げるように伝える動画を制作したインフルエンサーもいた。

 

接着剤としての役割

異なったタイプのスライム動画は、異なるオーディエンス層にアプローチする。スライム動画は美容や小売り、そしてフィットネス業界まで、多くのブランドカテゴリに対応している。ブランドはコンテンツを制作するインフルエンサーから、オーディエンスに関するインサイトを得ることができるため、自社のターゲットとするオーディンスに適したコンテンツを選択することができるのだ。そして、オーディエンス規模を拡大するためのリターゲティング戦略を構築することが可能となる。最新の流行コンテンツへの広告出稿において、幅広くターゲットを設定することは、広告出稿費がブラックホールに飲み込まれてしまうような(無駄になる)可能性があるが、ASMRやスライム動画などのトレンドにおいては、ほんのわずかなデータでも、効果的な戦略を練るために大いに役立つのだ。

美容やファッション分野のインフルエンサーが制作している人気上昇中のカテゴリ“Get ready with me”動画(ヘアメイクなどの方法を紹介する動画)を、ブランドはメディアとして購入することで大きな成功を収めている。ブランドにとっては、そのインフルエンサーへのエンゲージメントが高いオーディエンス層を的確に特定することにより、同じくらいの視聴時間や、オーディエンス層からのエンゲージメントを獲得するクリエイターによって作られた他のコンテンツ分野について、理解することができるのだ。

 

スライム動画の状況を把握する

一方、スライムやASMRのような新しく多様性のあるトレンドは、よく注意して見守る必要がある。コンテンツのビュー数が急増している特定のイベントやテーマにブランドが適切な監視も行わずに便乗しようとすると、ブランドセーフティに対する深刻なリスクが生じる可能性があるからだ。最近では、YouTubeでのコメントの担う役割に焦点が当てられている。特にそのカテゴリの一部が子ども向けの場合には、無害なコンテンツにおいても、ブランドが定期的にレビューし、精査する必要がある場合があるだろう。

スライム動画のようなトレンドコンテンツは、毎日のように新たなコンテンツクリエイターを呼び込み、彼らによってそのジャンルのコンテンツは新たな方向へと向かっていく。こうした新しい動画は大抵の場合ブランドセーフティの問題は生じないが、時にブランドにふさわしくない可能性もあるため、注意深く見守ることが重要だ。例えば、スライム動画の中には化粧品や粘土玩具のPlay-Dohのようなブランド玩具が含まれているものがあり、広告主によっては競合上の理由から広告を出すことを望まないケースもある。

 

YouTubeの魅力は、ほとんどのリニアTVおよび従来のデジタルコンテンツ制作者が注目するより先に、ブランドが新しいコンテンツ・トピックやテーマで消費者とつながることができることだ。

今や視聴者とインフルエンサーは、どちらもASMRカテゴリを真剣に検討している。ブランドも、彼らを見習わなければいけない時期が来ていると言えよう。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の4/1公開の記事を翻訳・補足したものです。