「水着の三愛」として知られる株式会社Ai(旧株式会社三愛)は、60年以上にわたって水着事業を展開している老舗アパレル企業だ。2003年に「三愛水着楽園」の常設店舗をスタートさせてからは、ECモールへの出店や自社ECサイトの立ち上げなど、Webでも販路を拡大してきた。特にスマートフォンユーザーが増えてきた2010年代以降は、「aishipR」でサイト構築を行い、ストレスフリーな決済が可能な「Amazon Pay」を導入してスマホファーストなEC事業に取り組んでいる。そこで、株式会社Aiの販売促進・WEB営業グループの後藤幸人氏、間瀬茂夫氏、aishipRを開発する株式会社ロックウェーブの岩波裕之代表取締役を迎え、スマートフォンにおけるEC展開や購入時の手間を省くためのID決済について話を聞いた。

 

 

「三愛水着楽園」から「San-ai Resort」へリブランディング

 

——Aiのビジネスについてお聞かせください。

後藤:Aiの前身である株式会社三愛は、2015年に株式会社ワコールに水着事業と下着事業を譲渡し、株式会社Aiとして引き続き水着の企画・生産・小売事業と下着の小売事業を運営しています。2018年には「三愛水着楽園」から「San-ai Resort」へとリブランディングを図り、それまでの春夏の水着中心の事業構造から、年間を通した水着とリゾートウェア、そしてヨガウェアを軸としたマルチウェアな事業展開をするようになりました。

▲株式会社Ai 販売統括部 販売促進・WEB営業グループ 副グループ長 後藤 幸人 氏

 

 

急速なマルチデバイス化の波に乗るべく2度のリニューアルを実施

 

——実店舗での販売を中心とする中で、ECにはどのタイミングで参入したのでしょうか。

後藤:2005年の楽天市場への出店をきっかけに銀座店舗でのEC事業を始め、Yahoo!ショッピングでの販売もスタートさせました。そして、自社ECサイトは2007年に立ち上げました。その後、Webの大きな商流背景から、全社を横断した販売チャネルが必要であると判断し、全社共通の自社ECサイトとして「三愛水着楽園公式オンラインショップ(現San-ai Resort公式オンラインショップ)」を位置付けました。自社ECサイトは2010年に第1次リニューアルを行い、2014年には急速なマルチデバイス化の波に乗り遅れないよう第2次リニューアルを実施し、現在に至ります。

間瀬:2011年の初め頃までは主な販売デバイスはPCでしたが、スマートフォンの出現と急速な市場浸透により、スマホ対応が必須になってきました。しかし弊社のECサイトは当時リニューアルしたばかりということもあり、PCページの構造をしたスマホページでコンバージョンしてもらうことで凌ぐことにしたのです。ところがスマホユーザーが想定以上のスピードで増加する中で、アクセスには対応できても、全ページのスマホ最適化は不可能でコンバージョン率のアップには至りませんでした。そのため、2012年の夏には第2次リニューアルの実施を決め、パッケージシステムからASPシステムまで数多くのカートシステムを比較検討しました。その結果、1つのソースコードでパソコン・スマホ・タブレットなどのあらゆるデバイスに最適化した表示が可能なaishipRのカートシステムに絞り込んだのです。

▲株式会社Ai 販売統括部 販売促進・WEB営業グループ 間瀬 茂夫 氏

 

 

aishipRを選んだ決め手は少ない人件費でマルチデバイス対応が可能なこと

 

——ロックウェーブ社のECプラットフォームであるaishipRを導入された、2014年の第2次リニューアル時の状況をお聞かせください。

岩波:Ai様にご契約いただいた2013年は、1つのソースであらゆるデバイスに表示を最適化するカートASPを手掛けている開発会社は国内ではほぼ皆無という状況で、私どもは海外のサイトを参考にしながらプラットフォームを作っていました。その中でAi様が抱えている課題を伺い、弊社が推し進めているレスポンシブWebデザインにした方が確実に結果を出せるということが見えたので、かなり強くaishipRの導入をお勧めしたのです。レスポンシブWebデザインとは、1ソースで複数のデバイスに対応可能なWebの仕組みです。aishipRはCMS自体がhtml5/css3のソースコードとレスポンシブWebデザインを前提にした設計ですので、従来のCMSでCSSによってスタイルだけレスポンシブにした場合と違いコストや労力が抑えられ、生産性もアクセスも上がります。導入前から、確実に売り上げが倍になると踏んでいました。

後藤:aishipRを選んだポイントは大きく3つあって、1つは少ない人員で運営業務が出来ることです。さまざまなデバイスに対して1ソース/1HTMLで対応可能であるため、少ない人件費で複数のデバイスに対応できる点が魅力でした。そして、デバイス間のコンテンツ不具合が発生しにくい点、GoogleのSEO標準に適合している点も決め手となりました。

岩波:aishipRの1番の強みは、後藤さんも挙げてくださったようにレスポンシブWebデザインに特化し、インターフェースもスマホファーストで開発している点です。また、カスタマイズの自由度が高いことも強みの1つで、通常のカートASPでは対応していない機能のカスタマイズにも対応し、お客様個別のニーズにお応えできます。ハイエンドのECパッケージをカスタマイズするのとは違い、aishipRであればコストを抑えてカスタマイズができるため、その点は非常にお客様に喜ばれています。

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▲株式会社ロックウェーブ 代表取締役 岩波 裕之 氏

 

 

ID決済は簡単・安心のAmazon Pay一択

 

——aishipRはモバイルと親和性が高いものはできる限り取り入れるというスタンスで開発されていますが、Amazon Payもその流れで導入したのでしょうか。

岩波:Amazon Payは簡単で手間なく最短2クリックで購入完了できる点が魅力なので、商材を問わず利用していただきたい決済方法だと考えています。そのため弊社では、もともとオプション利用料金3,000円だったAmazon Payを無料化し、基本プランに組み込んで標準化しました。決済に関しては、できる限り簡単・短時間で完了できるものであるべきだと考えています。特にスマートフォンは画面が小さく入力もしづらいため、できるだけ手間なくスピーディーに決済完了できることがカート事業者としての使命と捉えています。私どもはお客様にとっていいものは勧めるというスタンスなので、シンプルでモバイルからも商品が購入しやすく、コンバージョンアップが期待できるAmazon Payは導入すべきだと、Aiさんにも強くお勧めしました。

後藤:Amazon Payを導入した2016年頃は、ちょうど決済の流れが変わってきたタイミングだったんですよね。ID決済に関しては他も検討しましたが、ロックウェーブさんからの提案もあってAmazon Payのみを導入することに決めました。導入の決め手は、aishipRとの自動連携が出来ること、決済処理事務作業のボリュームが少ないこと、弊社の見込み顧客とAmazonの顧客との親和性が高いこと、の3点でした。Amazon Payはユーザーにとっても決済ストレスが軽減されるというメリットがありますし、何よりAmazonのブランド力で安心感も高いですしね。決済方法に関しては、より多くのユーザーがアカウントを持っている大手でないと利便性がないという話を、ちょうどロックウェーブさんとしていたところでした。

また、クレジットカード決済の利用率は以前から高かったのですが、ユーザー視点で見るとカード情報の入力はストレスになるので、売上拡大のためにはこのストレス解消策を講じなければいけないと考えていたんです。そういったことからも、新規のお客様が購入する際にクレジットカード番号や住所の入力が不要なAmazon Payのご提案はちょうど良いタイミングでした。また、弊社の商品はリピート購入頻度が低く、ユーザーにとって会員化はハードルが高いことも、簡単決済を求める重要なポイントでした。

 

 

Amazon Pay導入後1年で売上構成比27%、コンバージョン率2.5倍を達成

 

——Amazon Payを導入したことによって数字としてどのような変化がありましたか?

後藤:Amazon Pay導入後の初年度売上は、前年比10%増になりました。結果的に売上に結びつくのは当然のことですが、初月の売上17%増から次月の26%増と、導入後の即効性が高かったことも大きかったです。決済方法の割合は、Amazon Payが27%となり、Amazon Payを含む総クレジットカード構成比は58%と全体売上を牽引し、次年度以降の構成比も64%、68%と伸長傾向にあります。

弊社のECサイトは、集客はそこそこありましたが、水着は日常品ではないゆえビジネスモデルとしてコンバージョン率が低く、そこは以前から気になっていました。ECサイトは情報収集用のカタログ代わりに見られ、購入に結びつかないユーザーも多かったのです。そこで、コンバージョンを上げるためにもAmazon Payの導入は必須でした。Amazon Payを導入してからは、コンバージョン率は2.5倍になっています。これは、決済方法以外にSEOやLPOによる影響も考えられますが、コンバージョン率の前年伸長率は初年度プラス8ポイント、その後翌年も前年比プラス12ポイント、翌々年もプラス45ポイントと向上傾向にあります。ストレス低減によるかご落ち率が改善されているのではないでしょうか。

岩波:新規顧客の獲得、コンバージョン率の改善だけでなく、客単価の上昇も効果としてありましたからね。Amazon Pay利用者と非利用者の客単価を比較したところ、Amazon Pay利用者の方が客単価が高いという結果が出ています。高額商品を購入する際は皆さん当然悩まれると思いますが、意思決定をするタイミングで購入操作を手こずると、購入自体を断念する割合が上がってしまいます。そこで使い慣れたAmazonアカウントとパスワードで購入が完了できれば、ストレスが軽減されて客単価も自然と上がります。

後藤:他にも、通常クレジットカードでは不正利用のチャージバックの負担が発生しますが、Amazon Payではそれが発生しないことも良かったですね。ここ2年ぐらいで不正カード利用が増えてきましたが、弊社はヘビーユーザーが少ないので、認証が必要な3Dセキュアを入れるとコンバージョンが2、3割落ちてしまい、対策を取れずにいたんです。その点、Amazon PayはAmazon側でセキュリティを管理しているので、そういった心配はありませんでした。

 

 

最先端をいくaishipRを活用しながら今後はEC化率30%を目指す

 

——Amazon Payの導入によって、決済以外にも効果があったのですね。では最後に、今後の展望についてお聞かせください。

岩波:弊社では、これまでECプラットフォームとしての機能開発・改善だけでなく、レスポンシブWebデザイン、サーバーのAWS移行など、前例が少ないテーマにも取り組んできました。今後もそういった取り組みを実施し、さらにお客様のECサイト運営に貢献し、日本中の中小企業のECサイトを最先端の状態に保ち続けたいと思っています。

決済に関しては、ページ遷移なしで購入完了できる「ワンページカート」も開発し、より簡単に短時間で購入を完了できるように取り組んでいます。「ワンページカート」では、EFOを更に充実させる他、スマホの1画面でスクロールすることなく購入者情報や決済方法、配送先選択まですべての入力を完了させられます。また、ソーシャルログインも対応し会員の方がより簡単にログインから購入できるようにする機能実装もします。他にも、検索エンジンへの対応にEC事業者様がより低コストで取り組めるGoogleのサーチコンソール連携など、開発を進めている機能はいくつかあります。

後藤:San-ai ResortのEC運営に関して言うと、実店舗とオンラインの融合なども促進して、EC化率30%を中期的な目標にしています。企業としては、リゾート=非日常の世界を探求し、提案し続けることで年間を通して安定した運営にし、美しさと夢と感動を育ててお客様の心に豊かさを提供できる企業を目指していきます。

 

 

San-ai Resortも導入しているAmazon Payとは

 

Amazon Payとは、Amazonアカウントに登録されている住所情報とクレジットカード情報を利用して、Amazon.co.jp以外のECサイトで支払いができるID決済サービス。Amazon Payが注目されている理由は単なる決済サービスとしてではない。Amazon Payを導入しているECサイトでは、顧客がAmazonアカウントでログインすることで、すでにAmazonアカウントに登録されている住所・クレジットカード情報が利用できるため、入力の手間なく最短2クリックで購入が完了する。結果、購入者にとって購入しやすいECサイトとなり、コンバージョン率の向上や新規顧客が増加することが期待できる。

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また、Amazon Payなら、購入者の同意があれば購入時の情報をそのまま会員情報として利用できるため、EC事業者はリピーターの醸成などの効果も期待できる。さらに、Amazonというブランド力によって、自社ECサイトの信頼感が増すと感じる事業者が多いようだ。