非常に人気が高いソーシャルメディアマーケティング手法の一つとなったインフルエンサーマーケティング。その人気は継続するのだろうか?コラムニストである Kevin Lee氏は、インフルエンサーマーケティングの利点とリスクについて見解を語る。
インフルエンサーマーケティングをまだ試していないマーケターは、自身が少数派であるように思うかもしれない。多数の企業がインフルエンサーマーケティングを実施し、収益にプラスの影響を及ぼしているかのように見えるだろう。しかし、インフルエンサーマーケティングは、実施を検討している企業や代理店が認識すべき相当なリスクを伴うことも覚えていてほしい。
インフルエンサーマーケティングとは何か?
インフルエンサーマーケティングとは、企業がソーシャルメディアの「インフルエンサー(1つ以上の主要なソーシャルメディアプラットフォームにおいて、多数のフォロワーを持つ人)」と提携して、製品やサービスを宣伝することである。インフルエンサーは、実際の有名人(俳優やプロスポーツ選手など)である場合もあれば、ソーシャルメディアプラットフォーム上でのみ人気のある人物(YouTubeスターやInstagramモデルなど)という場合もある。
インフルエンサーマーケティングの概念は新しいものではなく、企業はこれまで何十年間も有名人を広告に起用してきた。これはスポーツ選手や俳優、その他注目されている有名人に対する一般人からの好意を、企業の製品やサービスに対する”忘れられない印象”に変えることで売上につなげる、効果的な方法であるからだ。広告代理店は広告に有名人を起用する場合、クライアントの主張を推し進めるために、映画や報道や競技場において、起用した有名人のプロモーションに効果的に予算を費やす。
同様に、インフルエンサーマーケティングは、ソーシャルメディアのインフルエンサーの以前の実績(YouTube、Twitter、Instagram上で、オーガニックに獲得した各インフルエンサーのフォロワー)と、インフルエンサーが活動するプラットフォーム上で、世界中の視聴者にリーチできる既得の影響力を利用している。
今日のソーシャルメディアのインフルエンサーと、昔の有名人との違いとは?
それは、今のインフルエンサーは、より「エッジが効いている」という点だ。ソーシャルメディアのスターは半自律的であり、起用する代理店が事前に許可していない「大胆不敵な」行動をすることがよくある。インフルエンサーは、自分のコンテンツが代理店や企業からの報酬を受けているかどうかを明らかにする場合も、そうでない場合もある。
インフルエンサーのエッジの効いたライフスタイルは、オフラインで問題を引き起こす場合もある。この現代社会においてインフルエンサーによる恥ずべき、または不快な行動によって、企業や代理店の評判はすぐに炎上するのだ。例えば、先週(※元記事の公開は1/8)のことだ。1,500万人のフォロワーを有するユーチューバーのLogan Paulが、自殺者の遺体を発見した動画を投稿した騒動が、その代表例である。動画はすぐに削除されたが(また、最後に確認した時点では、Logan Paulの他の動画に広告を掲載している大手企業はなかったが)、この騒動によって引き起こされた非常にネガティブな反応は、注目を浴びているソーシャルメディアの有名人に企業が近づきすぎることへの潜在的なリスクを示している。ソーシャルメディアの有名人のクリック数と広告収益への執着は、一般良識規範を上回るからだ。
しかし、リスクの存在があるにも関わらず、インフルエンサーやインフルエンサーマーケティングには魅力的な利点が数多くある。消費者は有名人を尊敬し、憧れ、有名人が使用し、推薦する商品を購入したいと考える。企業が賢明かつ慎重に危険性に注意を払っていれば、注目が高いソーシャルメディアスターとの関係性を構築することで他のチャネルでは不可能な、人目を引くプロモーションが可能になるだろう。そこで、インフルエンサーマーケティングの主な利点と問題点を考察する。
インフルエンサーマーケティングの利点
- 広告ブロッカーが機能しない:広告ブロッカーの出現は、マーケターやパブリッシャー、放送事業者にとって、非常に厄介な問題となっている。インフルエンサーマーケティングが成功すれば、広告ブロッカーが機能しない”エディトリアルな”(広告を含まない本編のみの)コンテンツとなる。
- 特定のデモグラフィック(人口統計的属性)やサイコグラフィク(心理的属性)層にリーチ可能な唯一の方法:テレビを観ず、地上波のラジオを聞かず、印刷物の新聞や雑誌を読まず、運転手のいない(今は、まだ運転手が必要だが)Uberの車で屋外広告を通り過ぎながら、おそらくはスマホをみている消費者層は存在するのだ。
- 消費者が感じることができる、消費者とのパーソナルなつながりを構築できる
- 「ハロー効果」によるブランド構築:消費者の眼に映るインフルエンサーと企業とのポジティブな関係は、消費者の企業に対する認識と評価を同時に高める。
- コピーキャット(模倣者)の行動:好きなインフルエンサーのようになりたいと願うファンが存在する。(それゆえに、ユーチューバーの商品を身につけている人を街で見かけるのだ)。
- 二次効果(しばしば見落とされがちな点である):インフルエンサーと提携すること自体にニュース価値があり、オンラインとオフラインの両方でオーガニックなPR報道を生み出すことができる。SEOの観点からもインフルエンサーマーケティングにメリットがあるとされるのは、この二次的影響によるものだ。Googleやその他の検索エンジンは、企業にスポンサードされている場合や企業と提携している場合、インフルエンサーがドメイン上や優先プラットフォーム上でハードリンク(フォローリンク)を貼ることを推奨していない。しかし、企業とインフルエンサーの提携発表を報道するブロガーやジャーナリストが、スポンサーとインフルエンサー双方、または片方へのハードリンクを貼る場合がある。
インフルエンサーマーケティングのリスク
- インフルエンサーのスキャンダルは、企業ブランドのダメージとなる:有名人の広報担当者業界では、ゴルファーのTiger Wood選手の不倫から、有名シェフであるPaula Deenの人種差別発言まで、予期しない不祥事は何度も起こっている。そして、スポンサー企業はスキャンダルを起こした有名人から素早く距離を置く必要があるのだ。
- スポンサードコンテンツであることの開示不十分または非開示に対する規制介入:米国では、これらの規制とガイドラインの一般的な執行はFTC(連邦取引委員会)に委ねられているが、最近FCC(連邦通信委員会)が米国の総合放送会社Sinclair Broadcast Groupに対し、スポンサー付き番組であることが視聴者に開示されていなかったことに罰金1300万ドルを課している。(Sinclair Broadcast Group は、インフルエンサーではないが、開示方針は共通である)。
- インフルエンサーは、企業を餌食にする:企業がインフルエンサーのスポンサーとなることで、インフルエンサーの立場と正当性を強固にする。つまり、企業はインフルエンサーをより有名にするために報酬を払っていることになるのだ。
- インフルエンサー詐欺:企業がソーシャルメディアのインフルエンサーランキングを鵜呑みにし、深く掘り下げて調査しないことがある。巨大なフォロワー数とエンゲージメント数によって惑わされ、簡単に騙されてしまうことも。
- ブランドセーフティーとコントロール:企業は原稿があるインフルエンサーキャンペーンを好むが、真正性が欠落して見えるケースがよくある。しかし、インフルエンサーに企業からの指示を解釈させることは、ハイリスクハイリターンだと言える。
インフルエンザマーケティングは、実施する価値があるのか?
インフルエンサーマーケティングは、有名人を起用する他のマーケティング手法と同様に、ある意味”賭け”である。多くの場合は報われるが、企業キャンペーンにおいて過ちを犯しそうな人物を起用する場合は、ダメージコントロール対策を講じる必要がある。クリック数の増加を目的とし、スリルやいたずらを好むインフルエンサーは、しばしば物事をやりすぎる傾向にあることは間違いない。
インフルエンサーマーケティングにおけるリスクリワード動向における筆者の見解として、「2018年はインフルエンサーマーケティングの年でもあり、崩壊の年にもなるだろう」ということである。現在のメディア環境において、インフルエンサーマーケティングを実施することによるメリットは非常に高く、企業は実施するという選択肢しかないと感じているかもしれない。しかし、今後もインフルエンサーマーケティングを崩壊させるような大事件が発生するだろうし、企業はインフルエンサーとの関係性においてもう少し慎重になるだろう。
マーケターが今取り組むべきことは、規制環境に精通し、オンラインとオフラインでのインフルエンサーの不祥事による教訓から学ぶことである。そして、利益を生む可能性があるが、他に類を見ないほど危険を伴うマーケティングチャネルであるインフルエンサーマーケティングに従事する企業向けに、Googleや精通した民間の専門家が発行したガイドラインを読むことだ。
企業は完全開示に関するFTC(連邦取引委員会)の警告に特に注意を払い、企業がスポンサードしているか否かという点について、双方が完全な透明性を保たなければならない。インフルエンサーマーケティングにおいて手を抜くと、間違いなくそのツケが回ってくるからだ。
※当記事は米国メディア「Marketing Land」の1/8公開の記事を翻訳・補足したものです。