オフィス通販市場から個人向け市場への展開
オフィス通販は、文房具をはじめとするオフィスサプライを法人向け(BtoB)に販売するECカテゴリだ。上位3社のアスクル、たのめーる、カウネットを合わせると、4,000億円規模の非常に大きな市場となっている。さらにこのオフィス通販各社は、ここ数年個人向け通販サイトを始めるなど、様々な事業の拡大を図っている。今回は、オフィス通販各社の取り組みと、その個人向け通販の取り組みを中心に見ていく。
アスクル
アスクルは「今日頼んだら明日来る」でお馴染みの、業界ナンバー1の売り上げを誇るオフィス通販だ。
取扱商品数は70万点以上、ネット通販だけでも40万点以上を扱い、他社と比べて圧倒的な品揃えを誇る。立ち上げ当初は文具が中心だったが、現在はオフィス用品全般へと幅を広げ、PB商品の開発も積極的に行っている。また、オフィスのレイアウトサービスや家具選びを無料で提案する「アスクルオフィスづくりサービス」や、名刺・封筒・印鑑・スタンプを作成する「アスクルスピードプリントセンター」、ホットペッパー.jpや出前館と提携してビジネスに役立つ情報を提供する「アスクルお仕事サポート」など、幅広いサービスを展開。販売以外のコンテンツ作りにも力を入れている。アスクルは1997年からECサイトでの受注を開始したが、どのように業績を伸ばして来たのだろうか。
アスクルは文具メーカーであるプラス株式会社の子会社として設立され、1993年にわずか4名のスタッフで通販ビジネスをスタートさせた。翌1994年には利用登録オフィスが5万件を越え、1995年には10万オフィスを突破。1997年5月には別会社アスクルとして独立し、現在に至るまで業界のトップを走り続けている。そのアスクルが急成長を遂げたのには、いくつかの要因が挙げられる。1つは、エージェントシステムという独自の代理店システムを取り入れたこと。町の文房具店などが販売代理店(エージェント)となって顧客開拓や代金回収を行い、アスクルがカタログ作成と商品の受注・発送、問い合わせ対応などの業務を請け負う仕組みだ。これにより、町の文房具店と共存共栄を図り、効率良く全国への販売網を確立するビジネスモデルを構築したのだ。2つめは、自社製品だけでなく他社製品の取り扱いも行ったこと。アスクルはプラスの製品を顧客にダイレクトに届ける仕組み作りとして始められた事業だったが、立ち上げ当初から「他社の定番商品も扱ってほしい」という声が強かった。そのため、それに応える形で他社製品の取り扱いを開始し、現在のように充実した品揃えとなったのだ。
さまざまな工夫によって順調に利益を伸ばしてきたアスクルだが、さらなる事業の拡大を目指して2012年4月にヤフーとの業務資本提携を発表。ヤフーがアスクルに約330億円を出資し、42.6%の株式を保有する筆頭株主となったのだ。そして資本提携から半年後の2012年11月には、ヤフーと共同でBtoC向けECサービス、LOHACOをオープン。
立ち上げからわずか1年半で、LOHACOの2014年5月期の売上高は前期比5.8倍の121億円に急成長した。それにより、アスクルは今期もEC分野への投資を推進すると発表。規模拡大のための先行投資を優先し、今期(2015年5月期)は30億円の営業赤字を見込んだ上で、売上高は220億円になると予想している。また、今年4月には酒類販売事業を行う昌利を吸収合併。これまでもLOHACOではビールやワイン、日本酒、焼酎などを扱ってきたが、昌利が持つ酒類小売業免許を取得したことにより、大手ビールメーカーのアルコール類の取り扱いが可能となった。それを受けて、酒類専門サイト「ビアショップ(BEER SHOP)」を8月20日にオープン。現在LOHACO内には、暮らしに役立つブランドなどを集めた「ロハコモール」や、医薬品専門店「ロハコドラッグ」も立ち上げられており、好調な動きを見せている。
「アジアを起点に、グローバル企業になる」として、2005年より上海でもビジネスを手掛けてきたアスクル。2014年5月期の売上高は2534億円、先日発表された月次業績によると、2014年7月の単体売上高は191億100万円で前年同期比7.8%増となっている(内訳はアスクルの売上高が177億3800万円、LOHACOが13億6200万円)。7月には、約100億円を投じて地上4階建て延床面積約5万4842㎡の規模の新物流拠点「ASKUL Logi PARK 福岡」の建設を開始し、さらなる事業の拡大を予定している。
たのめーる
業界第2位の規模を誇るたのめーるは、法人オフィス営業をメインとしていた大塚商会が1999年にサービスを開始したオフィス通販だ。
OA機器や事務用品事業での訪問販売実績を活かし、たのめーるはサービス開始以来15年連続で増収を続けている。2014年2月に発表された2013年12月期決算概要によると、たのめーるの売上高は1223億6700万円で、前年同期比4.2%増となっている。現在の取り扱い商品数は約65,000点。たのめーるでは、PB商品のほか介護関連の商品を多く取り揃えている。また、競合他社が1,000円以上の購入で送料無料になるところ、たのめーるでは300円以上の注文から送料無料を実施。必要最低限の注文で済むという点もユーザーの支持を集めてきた理由の1つだろう。
たのめーるでは他社の通販サービスに比べて従業員数の多い企業を顧客として抱えており、こうした企業に会社全体でまとめて利用してもらうことで多くの利益を得ている。さらに購入を促すためのサービスとして、発注業務の効率化を実現するツール、ASP型購買システム「MAたのめーる」を無償で提供。これにより、部署ごとの申請や承認機能、発注管理など、購買に関わる一連の業務を管理できるようにした。
ECサイトだけでなく情報サイトも充実させ、イチオシ商品や売上ランキング、商品の開発秘話、キャンペーンなど、たのめーるに関するさまざまな情報を「たのめーるインフォ」で発信している。現在は、平日の11時までに注文すれば当日午後に商品を届ける「当日お届け」も対象地域で実施。首都圏の顧客事業所の受注増に対応するため、今年8月より東京・大田区内に地上8階建て(倉庫は5階層)延べ床面積約5万平方メートルの新たな物流拠点「東日本物流センター」を本稼働しているため、今後さらなるサービスの拡大が見込めるのではないだろうか。
たのめーるでは2004年に個人向けの「ぱーそなるたのめーる」を立ち上げ、取り扱いアイテムは約50,000アイテムを数える。
文房具やOAサプライはもちろん、日用品や生活雑貨、パソコン、AV機器、介護用品などを取り扱っている。また、この本店以外にも、楽天店、Yahooショッピング店などの複数店舗展開や各種ポイントとの連携などを積極的に行い、毎週木曜日の17時~開催されるタイムセール「ぷちハピセール」などのイベントも充実している。
カウネット
カウネットは、コクヨの連結子会社として2000年に設立。2001年よりオフィス用品通販事業を開始した。
アスクルの成功を受けて同様の通販ビジネスに参入することとなったコクヨだが、立ち上げに際しては議論が繰り返される。文具業界最大手のコクヨが通販ビジネスに参入すれば、町の文具店や卸売業に多大な影響を及ぼすことになるからである。そのためコクヨは、それまで培ってきた巨大な流通網を生かしたビジネスモデルを生み出す。契約文具店には顧客獲得の営業活動と代金回収・債権管理を担当してもらい、カウネット側は製品カタログと製品の受注・発送・問い合わせなどを担当。ここまではアスクルと同じ仕組みだが、カウネットでは契約販売店に対して卸業務も支援するなど、フォロー体制を強化したのだ。結果的にアスクルの3倍近くに上る4,000社を販売網に取り込んでいる。
カウネットの2013年12月期の売上高は808億円。82,300点の商品を取り扱い、高付加価値型のカウコレプレミアムと、低価格で安心品質のカウコレプライスの2つのPB商品も展開。コクヨグループというだけあり、自社のオリジナル文具に力を入れている。配送は他社と同様に当日便にも対応し、1,000円以上の購入で送料無料。
個人向けのショップ「マイカウネット」では、カウネットのように会員登録をしなくても、その場ですぐに文具用品や生活用品が購入可能となっている。
また、オフィス家具についての相談に対応する「家具選び相談コール」を2013年2月より開設。既存のオフィスレイアウトサービス、無料返品受付サービス、家具組立てサービスと合わせ、家具の選定から商品の配送までをトータルでサポートしている。さらに2014年1月には、仕事に役立つコンテンツのリンク集めたサイト「カウネット お役立ちラボ」をオープン。同社が運営する国内最大級の総務担当者向けコミュニティサイト「総務の森」、働く女性の自分磨きを応援する「わたしみがき」、ユーザーの声を聞くモニターサイト「カウネットモニカ」、ダウンロード素材を配布する「カウ坊の部屋」から選りすぐりの情報をピックアップし、テーマごとに表示している。
カウネットではさまざまな層をターゲットとしており、2014年秋冬号のカタログからは小中学校・幼稚園・保育園の教育現場でよく使うアイテムを取り揃えた「教育消耗品ショップ」をオープン。さらに、教育消耗品ショップの掲載商品に、コピー用紙、ファイル、サインペンなどの必需品を加えた約660品番掲載の小冊子「教育・学習消耗品特集」を発刊。学校や幼稚園のほか、塾などの教育関連施設に配布することで購入促進を図るとともに、「カウネットカタログ」や「カウネットWEBサイト」の利用促進につなげる試みだ。
個人向け市場への展開の成否の鍵は
市場規模が非常に大きく商品数も多いオフィス通販で、商品管理や物流方法のノウハウを蓄積した3社が個人向けに事業を拡大するのは自然の流れだろう。特にYahooと提携したLOHACOは、まだまだBtoBのアスクルと比較すると5%程度の売上高だが、オフィス通販で得たノウハウを最大限に活かした上でBtoCのノウハウを持つYahooと共に展開することで大きな可能性を秘めている。
しかし、パーソナルたのめーる、マイカウネットはあくまで法人向けを個人向けに焼き直したに過ぎない印象が強い。サービス名しかり、インターフェースデザインしかりだ。BtoBのオフィス通販事業でのノウハウは商品管理や物流などのバックヤード業務には役立つが、デザインや個人向けマーケティングなどのフロント業務では、熾烈な個人向け市場で勝ち残るために更なる進化が求められる。
各社が取り扱っている個人向けの文具や生活用品は商品の差別化を行いにくい商材で、その大部分がコンビニ商品と言われる「どこにでもある」商品だ。このような商材を取り扱う店舗は薄利多売にならざるを得ず、また徹底的なCRM戦略によるリピートと、ビッグデータを活かした顧客提案を行っていく必要がある。
このような市場特性の違いに順応し勝ち残ることが出来るのか。3社のオフィス通販事業だけでなく、個人向け通販事業の今後にも注目していきたい。