メールを最後の手段のように扱うのをやめれば、ブランドにとって最も効果的に成長を促す手段となり得る。メールの役割をさらに高める方法を紹介しよう。


メールは、ただ情報を伝えるだけのコミュニケーションチャネルではない。メールには、行動分析エンジン、テストするためのラボ、コンバージョンを生み出すマシンとしての機能すべてが1つのダッシュボードに集約されている。

メールを戦略的に使用する方法を知っていれば、それはオーディエンスについて細部まで観察できる強力な手段となり、ビジネスの成長を最もコントロールしやすい手段となり得るのだ。だが、それには「もし使いこなせるなら」という大前提がある。なぜなら、マーケティングプログラムにおけるメールの役割について、新しい考え方や認識が必要になるからである。

実に多くのブランドが、ただメッセージを送り、売上の増加を目指すためにメールを使用している。なぜか。その理由は明らかである。

  • 簡単だから
  • そうするように教えられたから
  • 正直なところ、メール作成にそれ以上時間を費やすことができないから

これらは合理的な理由であり、より大きな問題の兆候でもある。マーケターはメールの真の力を理解していない。

いや、マーケターは、理解しているのかもしれない。綿密に計画されたキャンペーンを実施し、目に見える成果が次々に現れれば、何が起きるのか、彼らは正確に理解しているかもしれない。顧客が何に反応し、どのように行動するのか、それを教えてくれるのはメールだけであることを彼らは知っている。

問題は、マーケティングの食物連鎖のより上位にある場合が多い。チームリーダーや経営陣はメール業務に携わったことがなく、予算や人員をサポートする必要を感じていないのだ。

 

考え方を変える時がきた

私のMarTechコラムを読んでくれている方なら、私が「メールはお金を稼ぐための戦術」としか見ていないマーケターやその上層部に不満を持っていることを知っているだろう。

ほとんどのメール研修では、メールを手段として使用することを重視しており、戦略的価値は軽視されている。最近では、専門家向けのカンファレンスでの教育的なセッションや、戦術に移行する前に戦略から始める研修を通じて、この問題は少しずつ改善され始めている。

私の目標は、メールをマーケティングプログラム戦略の中心に据えることで何が起きるかをマーケターに理解してもらうことだ。それによって、オーディエンスに関するより深いインサイトを得て、ロイヤリティを築き、メールがあふれる受信箱内の競争に勝てる強いつながりを生み出すことができるのである。

今はまだ、メールは、多くのマーケティングチームにとってパズルの最後のピースのように後回しにされており、チームの若手メンバーに丸投げされることが多い。それは、さらなる売上促進や成果のあるプロモーションを実施するために押す「簡単な」ボタンである。「今月の目標を達成できそうにない!メールをもう一度送ってくれ」という言葉を言われたことがある人はどれくらいいるだろうか。

今こそ、考え方を変える時だ。包括的なマーケティング戦略を練る際には、なぜメールが必要なのか理解するために時間をかけてほしい。メールは後回しにする仕事ではないのだ。

 

メールは元祖デジタルプッシュ型チャネル

アプリでも、SMSでも、プッシュ通知でもない。それらの機能が生まれる前から、許諾ベースのメールは、プッシュ型マーケティングを行ってきた。

いったん許諾を得られれば、ユーザーの検索やスクロールによって見つけてもらうのを待つ必要がなくなる。企業側から会話を始めることができる。これは非常に大きな力なので、責任をもって利用しなければならない。

メールは、以下のような数々の革新を生み出した先駆者であり、今やデジタルマーケティングに深く織り込まれているため、それ以前のマーケティングがどのようなものだったか思い出せないくらいだ。

  • 直接的なデジタルの関係
  • 大規模にパーソナライズされたコンテンツ
  • マンツーマンでのマーケティングにおけるパフォーマンスアトリビューション

 

メールがマーケティングスタック全体に価値をもたらす3つの方法

メールは、配信を希望する顧客があらかじめ存在する、いわば「組み込まれたターゲットオーディエンス」のチャネルなのだ。そのように考えたことはあるだろうか。そうすれば、そのユーザーをテストラボとして活用できる可能性がでてくる。あなたのブランドを高く評価し、デジタルでの直接のつながりと引き換えに、個人情報を提供してくれる優良顧客なのだ。

メールテストには、検索、Webサイト、ソーシャルメディアなど他のチャネルにあるような、テストを妨げる制約がない。その利点は、次の通りである。

  • すでに固定客がいるので、知らない人にリーチすることや、顧客に見つけてもらうのを待つ必要がない。
  • すぐに結果の確認を始めることができる。統計的に有意義な結果を得るには、メールテストに十分な時間をかけなければならないが、サンプル数が多いため、Webサイト、ソーシャル、検索でのテストよりも短時間で結果を得ることができる。
  • 実際の顧客を対象に調査しているため、他のチャネルのチームメンバーがその調査結果をきっかけに、自分たちにもあてはまるかどうか知ることができる。

プロモーション以外のメールの使用方法には次の3つがある。


1. 行動テストのラボ

顧客の行動を促す動機となるメールコンテンツは、どんなものだろうか。プロモーションが目的で登録する人が多いが、場合によっては感情に訴えるキャンペーンの方が効果的かもしれない。

従来のA/Bテストから始めるのが最も簡単ではあるが、私のテスト手法では、複数の箇所を変更し、その組み合わせを全てテストする多変量テストに頼らずに、より微妙な違いをとらえることができる。

どのプロモーションが長期的なロイヤリティをもたらすだろうか。それには、キャンペーンメールを送信した当日のWebのトラフィック量を見てほしい。オーガニック検索、有料検索、ダイレクト検索のすべてで増加が見られるはずだ。

受信箱にメールが届いているだけで、たとえ開封率やクリック率がそれほど高くなくても、顧客がWebサイトを見るきっかけになることがある。この現象を「ナッジ(nudge:きっかけ)」と呼ぶ前は、メールがその役割を果たしており、まさにナッジの元祖であると言える。

さらに、メールから最初に表示されるページ(ランディングページ)にアクセスした顧客は、次に何をするだろうか。そこからどのページへ移動するだろうか。どれくらいの時間、あなたのサイトに留まるだろうか?検索経由の顧客と行動を比較するとどうだろうか?

これらすべての質問は、優れたWeb分析プログラムがあれば、すぐに回答を得ることができ、メールの開封、クリック、コンバージョン以上の行動をどのように促しているかも知ることができる。


2. コンテンツ診断ツール

上述したように、メールは、何が顧客に行動を促したのかを教えてくれる。また、反応しなかった要因も分かる。これも行動を促したものと同様の価値がある。

送信者名、件名のバリエーション、コンテンツの種類(長文か短文か、プロモーションの補足文の有無など)、購入者のペルソナ、コピーと画像の配置など、コンテンツの領域を分離して検証することで、メール内外の顧客のさまざまなモチベーションを測定することができる。


3. 持続可能性とロイヤリティを高める顧客関係の構築

メールは、売上のような即時的なコンバージョンを促進することができる。それがメールの強みの1つだ。メールについて考えるとき、多くの人はそこで立ち止まってしまう。しかし、20%オフのプロモーションを連発しても、強固で長続きする顧客関係を築くことはできない。

パーソナライズとメール自動化、ライフサイクルを重視したメールメッセージ、継続的な最適化を組み合わせれば、メールを「単発のプロモーションチャネル」から「長期的なコンバージョンエコシステム」へと変えることができる。

このモデルは、顧客と関係を築き、行動データを活用するものである。ライフサイクルの各タッチポイントにおいて、認知から支持(advocacy)に発展するように顧客を導く。これには、エンゲージメント、教育、育成(ナーチャリング)、コンバージョン、維持(リテンション)、再活性化を含むメール登録者すべてのジャーニーが網羅される。

そのプロセスは、特典を提示するオプトイン形式の招待メールを最初に送信する前に始まる。そして、ブランドと顧客の関わり全体を通じて顧客の行動に応える一連のメッセージを送ることで、持続的な関係を構築する。「今すぐ購入」というメッセージを送っているだけでは、このコンテンツの豊かな鉱脈を見逃してしまう。

 

知っているつもりだったチャネルの再発見

何よりもまず、メールは顧客を維持するために、最良で最も安価なツールであることを覚えておいてほしい。長年に渡り、マーケティングの真実の多くは覆されてきたが、顧客維持は顧客獲得よりもはるかに低コストであるというのは、今でも真実である。

メールという最も誤解されているチャネルについて何か新しいことを発見するか、他の人にメールの価値を再考してもらうために使える材料が見つかることを願っている。

次の休憩時間にでも多少時間を取って、メールコンテンツ、ジャーニー、ペルソナ、その他リソースを再配置し、メールをキャンペーンのチェックリストの最後にある単なるプロモーションツールとしてではなく、ビジネスの推進力にするための方法を2~3個考えてみてほしい。

メールはマーケティングスタック(マーケティングで使用する一連のテクノロジーツールやチャネルの集合体)の中で最も力があり、柔軟性があるが、誤解されているチャネルである。その可能性について再発見する時が来た。


※当記事は米国メディア「MarTech」の5/13公開の記事を翻訳・補足したものです。