ソーシャルからコマースへの系譜
~PinterestからSumally、FANCY、そしてOrigamiへ~
今や生活にしっかり浸透してきているeコマースとソーシャルメディア。
このインターネットの発展の中で、別々の道を歩んできた2つの大きな潮流が、ここ数年で大きく歩み寄ろうとしています。
この流れを、Pinterest、Sumally、FANCY、Origamiの4サービスを取り上げ、各サービスがどのような特徴を持ち、どのようにソーシャルメディアからコマースへ歩を進めていっているのかを前編に引き続き見ていきます。
前編ではPinterest、そしてSumallyについて紹介しましたが、後編ではFANCY、そしてサービスリリースしたばかりのOrigamiについて紹介していきます。
FANCY (ファンシー) - ほぼコマースサイトとして振る舞うソーシャル
FANCY(ファンシー)は、2012年にアメリカで誕生した画像共有のSNSサービスです。
FANCY (ファンシー)のメイン画面
日本には今年2月に上陸したばかりですが、本国ではレ ディー・ガガやジャスティン・ビーバー、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグなどの著名セレブも利用する人気サイトです。(WIRED.JP記事)
取り扱う商品は、ファッションアイテムから家具、ガジェットまで、品質にもデザイン性にも優れた“クール”なアイテムであれば何でもOK。
“Pinterestのeコマース版”と表現され、洋服から映画のチケットまで何でも 購入できるその仕組みは、Pinterestの競合ではなくむしろAmazonの競合と言っても過言ではありません。
しかし一見、Sumallyなどのサービスとの違いが分かりにくいですが、大きく3つの違いがあります。
1つ目は、画像なら何でもありの PinterestやSumallyと大きく異なり、紹介できるのは商品のみで、投稿された画像のほとんどが購入できるということ。
2つ目は、ユーザーが設定した情報がほぼそのままタイムラインに流れてくる他のソーシャルとは異なり、トップページに表示されている画像の数がPinterestやSumallyよりも少なく、初期に登録した趣味や属性情報などから高度な最適化がなされいていること。
3つ目は、ターゲットと利用実態で、モバイルユーザーをメインターゲットとしている点と、ユーザーの6割を男性が占めていると いう点も他のサービスとは異なります。
そのため、実用性を重視する人々に好まれているサービスだと言えるでしょう。
実際FANCYユーザーは、Pinterestユーザーに比べると22倍もの投稿を行っているという データも発表されています。(TechDoll.JP記事)
機能を見ていきましょう。
画像には必ず価格が記載されていて、購入、というアクションを高く意識されます。
FANCY (ファンシー)のタイムラインに流れる商品
マウスオーバーすると「FANCYする」と表示されます。
マウスオーバーした際のFANCY (ファンシー)する表示
「いいね」「Re-Pin」とほぼ同じアクションですが、慣れないと躊躇う表現ともいえます。
おすすめアイテム画面では、カテゴリ・価格・性別・アイテムを贈る関係性などから商品の絞込みが可能で、ギフトを贈るための商品の検索を行うことが出来ます。
自分の好みの写真や商品を集めるキュレーションサービスでは新しい視点での切り口です。
FANCY (ファンシー)のおすすめアイテム画面
FANCYのコマース機能
FANCYは、サイト内にカート 機能を搭載しているので、商品画像をクリックすると簡単に購入ページに進むことができます。
FANCY (ファンシー)の商品画面
FANCYで商品を販売する売り手は、在庫数設定、送料計算、配送用のラベル作りまで、すべてこのプラットフォーム上で行えます。
下手をすると、ここまでの機能のないカートサービスも存在することもあるので、もはやFANCYはソーシャルというよりはコマースサイトと言ってもいいでしょう。
また、友人を招待したりシェアした商品が購入に至ると数ドルの手数料をも らえるなど、ユーザーを虜にさせる仕組みも実に豊富。
FANCYとコラボした著名人によるプレゼントボックス、“Fancy Box”が毎月自宅へ届く定期購入サービスも注目を集めています。
FANCYはInstagramとの連携、iPhoneやAndroidアプリの提供な ど、モバイルユーザーの獲得にも積極的で、2012年にはアップルとグーグルによってBEST APPに選出されるなど、本国では非常に存在感が出てきています。
これからの日本での動きも注目していきたいところです。
Origami (オリガミ) - モール要素まで備えたソーシャル
最後に紹介する Origami(オリガミ)は、今年4月に日本で誕生したばかりのスマートフォン向けのソーシャル買い物アプリ。
Origami (オリガミ)のメイン画面
KDDIなどから5億円の資金調達をしたことでも話題 になった新進気鋭のサービスです。
Origamiが他の3サービスと大きく異なる点は、サイト内で紹介される商品画像はすべてセレクトショップやブランド、 百貨店などがアップしているというところ。
そのため、タイムラインに流れてくる商品写真は、もちろん全てが購入対象であるだけでなく、非常に品質が高いものとなっています。
Origamiは、モバイルとソーシャルを既存サービスの追加要素として加えているのではなく、それらを中心に据えて一からサービスを設計。
PCで利用することを前提にしておらず、あくまでモバイルの延長にコマースがあるという考え方を持っています。
そのため、現在はアプリをダウンロードして iPhoneで楽しむという利用方法のみとなっています。
Origamiは、“ソーシャル要素をベースに組み直したモバイル版ZOZOTOWN”といえるでしょう。
ログインするとショップ一覧が表示されるので、ユーザーは最低3つ以上のショップをフォロー。
Origami (オリガミ)のショップフォロー選択画面
ホーム画面上には フォローしたアカウントの最新情報や商品情報が表示されます。
Origami (オリガミ)のタイムライン
気になる商品があればワンタップで表示し、
Origami (オリガミ)の商品画面
わらにワンタップで購入したり、いいね!をするという仕組みになっています。
Origami (オリガミ)の商品画面でのアクション選択
買い物体験をより良いものとするために、Origamiの画面は非常に洗練されたものとなっており、用がなくてもついつい見てしまうような居心地の良さを提供しています。
Origami (オリガミ)のおすすめブランド画面
購入画面は、他のモール系サービスのスマートフォンの画面を比較しても、使いやすさは考え抜かれている印象を持ちます。
Origami (オリガミ)の購入画面
モバイルを前提に設計されているだけあり、小さな画面でショッピングを楽しむためのさまざまな工夫が随所に施されています。
モバイルならではのメ リットを生かしたGPS連動のマップ機能も搭載し、現在地周辺の店舗を検索したり、店舗へのチェックインが可能。
Origami (オリガミ)の周辺のショップ画面
ユーザーが好きそうなブランドの店舗に近 づくとプッシュで通知する機能など、実店舗と連携したO2O機能の実装を検討しています。
他にも雑誌『GQ JAPAN』『VOGUE JAPAN』『WIRED』の配信を担当するコンデナスト・ジャパンと提携することにより、ファッション雑誌を見るような感覚で情報を受け取れるコンテン ツ、Discoverも用意されています。
店舗やブランド側は、初期費用および月額費用は無料で、売り上げの10%をOrigamiに支払うという仕組 み。
すでに500以上のブランドから参加申請があるそうで、現時点でBEAMS、吉田カバン、UNDERCOVER、American Apparel、MoMA DESIGN STORE、森美術館、蔦屋書店などの商品が購入可能となっています。
今後はAndroidアプリやPC版、海外版のリリースも予定されており、次世代 ECプラットフォームとして目が離せないサービスになるでしょう。
スマホで初めてECを経験するような層が、このOrigamiで大きなシェアを持つ可能性も秘めています。
その他のソーシャルコマース・キュレーションサービス
これら4サービス以外にも、世界中のショップやブランドとつながるSvpply(サプライ)や、ウェディングに特化した画像キュレーションサイトLover.ly(ラブリー)、Pinではなくブックマークという表現をするClipie(クリッピー)、日本語版の Twitterを運営するデジタルガレージ社が提供する9cool(ククール)など、魅力的なサービスが次々と立ち上がっています。
キュレーション(画像共有)サービスは、自分が好きな画像や商品を友達同士で共有しやすいソーシャル性と、画面をスクロールするごとに新しい画像が次々に表示され、いつまでも眺めて いられるサイト作りが特徴です。
また、ユーザーはFacebookやtwitterとリンクさせて利用することが多いため、ショップ運営者にとっては情報の拡散が期待できるサービスと言えます。
ソーシャルの歩み寄りによってeコマースは何が変わっていくのか
これらのサービスは新しい視点で構築されていて、勢いもあるものの、まだ既存の楽天やamazon等の大型モールには、現時点では全く及ばないのも事実です。
しかし、初期のPinterestに見られた流れは、ソーシャルにコマース機能を付加しただけでしたが、今ではコマースやモールの機能をソーシャルをベースに組み直しているサービスが出てきていています。
モールやカートサービスが、仮にソーシャル機能を後付で付加しても敏感なユーザーの心を掴むことは出来ず、ソーシャルをベースに設計されているこれらのサービスに淘汰される可能性も否めないでしょう。
事業者の視点からすると、当面は出店すべきサービス・モールが増えるという影響があります。
しかし、闇雲に業務ボリュームが増えるのではなく、これらのサービスでは、既存で主流だった長ったらしいページや集客施策は不要で、魅力的な商品写真とシンプルな商品説明が勝敗を分ける重要なポイントになるため、今までとは異なるポイントに注力していく必要がありそうです。
キュレーションサービスが見据えるコマースの未来
考えてもみれば、eコマースが始まって20年近く、Google等の検索エンジンやモールの検索窓に好みの商品のキーワードを打ち込むことからユーザーはショッピングを開始してきました。
目的が明確な場合には良いのですが、実店舗をフラフラ歩くようなウィンドショッピング感覚からは程遠い買い物体験をeコマース業界は消費者に強いてきたともいえます。
この味気ない体験から、よりリアルに近い、そしてリアルを超える体験に変わる、大きな変革の時を迎えようとしているのかもしれません。
これらのソーシャルコマース系のキュレーションサービスは、今後メジャー化のためにはユーザー数、商品数、そして売上高を増やしたいところ。
しかし、サービスのクールさを尖らせれば尖らせるほど、キュレーションされる商品は限定されます。
逆に、商材を広げると確実にクールさが失われユーザーを失うという“キュレーションのジレンマ”を抱えています。
もつ鍋セットやダイビング用の酸素ボンベなどをFANCYしたいと思うユーザーは少ないはずだし、そのようなものがFANCYされるサービスに、ユーザーは居心地が良いと感じないはずです。
そのように考えると、クールな商材に特化しその商材の特性を考慮したサービス、高度にフィルタリングされた情報提供を実現できるサービスが市場を賑わしていくのではないでしょうか。
これらのサービスが、今後どのように形を変え、どのような発展を遂げるのか非常に楽しみです。