クリエイティブなアイデア出しやコピーライティングから、分析や広告に至るまで、大手ブランド4社がどのように生成AIを活用してマーケティングを効率化しているかを紹介しよう。

 

AIの目新しさが一段落し、マーケティングチームが業務全体でAIを創造的かつ効率的な方法で活用するようになった今、興味深いケーススタディがいくつか出始めている。

 

Mailchimp(メール広告サービスの自動化プラットフォーム)、Klarna(決済サービスプロバイダー)、JPMorgan Chase(米国の総合金融サービス会社)、Mars(米国の食品メーカー)などのブランドはAIに全面的に取り組んでおり、ブレインストーミングやコンテンツ作成から分析や最適化まで、マーケティングのワークフロー全体にAIを統合している。これらのブランドは、プロセスの合理化、コスト削減、面白みのある予想外の新しい方法で創造性を発揮する能力など、大きなメリットを得ている。

 

これらのブランドはAIをどのように自社に活用するかを考え、マーケティングのニーズや目標に合わせた独自のアプリケーションを見つけることで、はるか先を進んでいる。その結果は、私のようなマーケターがメモを取るのに十分なほど印象的なものであり、以下でその最高の発見をまとめて紹介したい。

 

Mailchimp: AIとのコラボレーションを通じて創造性を加速

Mailchimpは、ブレインストーミングの段階からAIを統合している。同社の「Clustomers」キャンペーンでは、マーケティングチームがAI画像生成ツール(DALL-EMidJourneyなど)を使用してビジュアルコンセプトをすばやく作成し、改良を行った。これにより、チームはAI画像ツールを使用してアイデアをすぐに視覚化し、リアルタイムで調整できるため、クリエイティブプロセスがスピードアップした。このキャンペーンの広告はIpsos(パリに本社を置くグローバルマーケティングリサーチ企業)広告の上位5%にランクインし、同社CMOのMichelle Taite氏は、この成功は同社のチームがAIの実験にオープンだったおかげだと評価している。

 

「我々は、最初のミーティングでこのコンセプトにたどり着いた」と同氏は説明する。「通常、クリエイティブのコンセプトについて合意を得るには、5回ほどのミーティングが必要となる」。Taite氏は、コンセプトを考案する際、AIによって「見せるのではなく、伝える」能力が与えられたと語った。

 

AIはまた、グローバル市場で「Clustomers」のメッセージをパーソナライズする際にも重要な役割を果たした。生成AIがスクリプトのバリエーションを作成する一方で、人間の持つ専門知識で巧妙なネーミングをさまざまな言語にニュアンス豊かに翻訳するなど、本物のローカライゼーションを実現させた。

 

おそらく最も注目すべきは、Mailchimpがブレインストーミングで画像ジェネレーターを使用したり、予測分析をテストしたり、AIでドラフトを要約したりするなど、継続的な実験を通じて従業員の「AI習熟度」を高めることを推奨していることである。この一貫した実践的なアプローチにより、同社のチームは新しいユースケースを発見し、AIが持つ可能性を「イコライザー(均一化するもの)やアクセラレーター(加速させるもの)」として活用できるようになっている。

 

Klarna: AIによるマーケティングの効率化とコスト削減

後払いプラットフォームを提供するKlarnaにとって、生成AIは、クリエイティブな成果を拡大させながら、大幅なコスト効率化を実現する強力なソリューションとなった。

 

その代表例として、KlarnaはMidjourneyやDALL-EなどのAI画像生成ツールを使用して、2024年第1四半期だけでマーケティングキャンペーン用の画像を1,000枚以上作成したのだ。このAI主導のプロセスにより、画像制作コストは年間600万ドルも削減され、クリエイティブスケジュールは6週間からわずか7日に短縮されたと、KlarnaのCMOであるDavid Sandstrom氏は5月にDigiday(デジタルマーケティング戦略に特化したバーティカルメディア)に語った

 

コピーライティングの面では、Klarna独自の「Copy Assistant(コピーアシスタント)」AIがマーケティングコピー業務の約80%を処理し、一貫したブランドボイスとメッセージングを従来の数分の一のコストで実現している。

 

驚くことにKlarnaは、アイデア出しやテキスト生成から画像作成や分析に至るまで、マーケティングワークフローのすべての段階にAIの「コパイロット(人の操作をサポートするアシスタントAI)」を統合している。この体系的なAIの導入により効率性が飛躍的に向上し、同社はキャンペーンの頻度を高めながら、2024年第1四半期の営業・マーケティング支出を11%削減した。

 

同社によると、AI統合はこれらのコスト削減の約37%を占め、年間1,000万ドルに達すると推定されるといい、これは戦略的に導入された場合のAIテクノロジーの強力な影響力を浮き彫りにしている。

 

JPMorgan Chase: あらゆるタッチポイントにAIを統合

世界有数の金融機関の一つであるJPMorgan Chaseは、クラウドインフラ、研究、全社的な導入の取り組みに数十億ドルを投資し、AIにその将来を賭けている。特に印象的なのは、同社がマーケティングコンテンツに生成AIを革新的に活用していることである。

 

JPMorganは2019年に米国のAI企業Persado5年契約を締結し、タグ付けされた単語やフレーズの膨大なデータセットを分析することで、高性能なマーケティングコピーを作成できる言語モデルを作成した。パイロットテストでは、PersadoのAIが作成した広告コピーは、人間が作成した同等のコピーよりも最大で450%高いクリック率を実現した。

 

同社は、PersadoのAIを個人向け銀行業務、住宅ローン、資産管理、デジタル広告のダイレクトマーケティングに活用し、パーソナライズされたメッセージで何百万もの人々にリーチする計画である。

 

当時の同社CMOであったKristin Lemkau氏(現JPMorgan Chase Wealth ManagementのCEO)は、人間のマーケターが想像もしなかったようなクリエイティブなコピーを生み出すAIの驚くべき効果について言及した。この成功を足掛かりに、同社はAIを社内コミュニケーションやカスタマーサービスの案内などにも拡大する予定である。

 

Mars: 広告効果を予測する特注のマーテック

M&MsやSnickers、Twixなどのキャンディブランドで人気のMarsは、マーケティングの創造性を高め、効率化を推進し、製品イノベーションを促進するために生成AIを導入した企業としても知られている。

 

同社は、広告が売上を促進するか否かを判断するのに役立つACE(Agile Creative Expertise)と呼ばれる独自のツールを開発した。

 

ACEはAIを使って、世界中の約20の市場でMarsの30ブランドに関する1,000以上の広告を対象に、アイトラッキング(視線を分析し、視覚的注意を明らかにする生体計測手法)、表情、従来の測定指標など、消費者のさまざまなデータの分析を行っている。そして、そのすべてのデータをアルゴリズムで解析し、特定の広告が購買につながるか、それともただ無視されるかを85%の精度で予測する。

 

ACEツールにより、Marsは感情に最大限の影響を与え、販売の可能性を高めるためにキャンペーンを戦略的に調整し、最適化することができるようになった。これにより、結果が出るまで数か月間待つ必要はなく、すべて数日で完了できる。同社によると、ACEはメディアターゲティングや衝動買いなどを改善することで、3,000万ドル以上の最適化効果を生み出したという。

 

Marsは、このAI広告テストアプローチを、データ主導の優れたマーケティングを推進するための大きな競争優位性であると考えている。これは、AIの数値処理能力をマーケティングに活用する賢い方法である。

 

マーケティングにおける新たなAIユースケースへの道

Mailchimp、Klarna、JPMorgan Chase、Marsなどのブランドは、協調的な創造力、効率化の促進剤、顧客エンゲージメント向上の手段としてAIを活用するという注目すべきアプローチを採っている。

 

AIとマーケティング業務に画一的なソリューションは存在しない。しかし、ここでの共通点は、マーケティングワークフロー全体にAIを戦略的に統合することで、業務を合理化し、コストを削減すること。また、市場投入までの時間を短縮し、新たなクリエイティブの可能性を引き出すことである。同時に、これらのブランドは、倫理とブランド価値を一致させ、責任ある導入を確実なものにするためにAIガバナンスを採用している。

 

生成AIが飛躍的な進化を続けるなか、他のブランドも確実に追随するだろう。私は、そうしたブランドがどのように限界を突破し、我々の総合的なマーケティング能力を新たな領域へと押し上げるのか、楽しみでならない。未来は不気味なほどインテリジェントである。ただ、それは思い通りにAIを活用するマーケターとブランドだけに言えることなのだ。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の6/24公開の記事を翻訳・補足したものです。