米国に本社を置くテクノロジー調査およびアドバイザリー企業のGartnerが2024年2月19日に発表したレポートによると、バーチャルアシスタントやAIチャットボットの台頭によって、検索エンジンの利用回数が今後2年間で25%減少するだろうといわれている。
同社は、競合するテクノロジーからの圧力によって、検索エンジンは品質と信ぴょう性に新たな重点を置くようになるだろう、と予測。オーガニックな検索結果で成功するには、依然としてコンテンツの実用性と品質が利用者にとって最も重要である。そこで、検索エンジンのアルゴリズムは、AIが生成する膨大な量のデータを相殺するために、コンテンツの品質を評価する必要がある、とGartnerは説明している。
同社はさらに「コンテンツ作成者は、価値の高いコンテンツを認証するために使用される電子透かしや他の方法を、今以上に重視するようになる。この傾向は世界中の政府規制当局によって推進されており、検索エンジンがそのようなコンテンツの表示方法に影響を与え続けるだろう」と続けた。
GartnerのバイスプレジデントアナリストのAlan Antin氏は、「企業は、顧客や見込み客の役に立つ、独自のコンテンツ制作に注力する必要があるだろう」と声明を出した。
「コンテンツは、専門性、体験、権威性、信頼性のような検索品質評価要素を引き続き示さなければならない」と、同氏は付け加える。
マーケティングチャネルを再考する
「オーガニック検索と有料検索は、認知度とデマンドジェネレーション(見込み案件の創出、発掘活動全般)の目標を達成しようとする技術系マーケターにとって不可欠なチャネルである」と、Antin氏は説明した。「生成AIソリューションは、以前は従来の検索エンジンで実行していたユーザークエリに置き換わる、回答エンジンの代用となりつつある」と、同氏は述べている。
さらに「生成AIが企業のあらゆる側面にさらに組み込まれていくにつれて、企業はマーケティングチャネル戦略の見直しを迫られるだろう」と、同氏。
Gartnerが予測する検索件数の減少は、マーケターに大きな影響を与えるだろう。
「これは単なる予測であり、保証ではないことを忘れてはならないが、この予測が的中すれば、企業はどのプラットフォームやチャネルにどれだけ投資するかについて、見直しを迫られるだろう」と語るのは、米国に本社を置くデジタルマーケティングおよび広告テクノロジーの専門誌Search Engine Landの編集長Danny Goodwin氏である。
「長い間、オーガニック検索と有料検索、つまりGoogleは、かなり信頼性の高いトラフィックソースだった」と同氏。「Googleは、サイト上にコンバージョン、購入、または何らかのタスクを完了する可能性が高い検索者を配信してきた」。
AI回答エンジンが検索に組み込まれるようになれば、マーケターはWebやGoogle以上に戦略を最適化しなければならなくなるだろう。「それは、ChatGPTなどの大規模言語モデルに影響を与える最適化方法を学習するということかもしれない」と、Goodwin氏は推測する。「それは、動画への投資やTikTokまたはYouTube向けのSEOを行うことを意味するかもしれない」。
「小売業にとって、AmazonのSEOはより重要になるかもしれない。LinkedInやMetaのようなソーシャルメディアプラットフォーム向けの最適化も意味する」と同氏は続けた。
さらに、「要するに、企業はターゲットとするオーディエンスの居場所を見極め、あらゆる場所に一斉に存在し、見つけられるようにすべてを最適化する必要があるだろう」と付け加えた。
多様なアプローチが必要
米国のニュース、解説、分析サイトNear Mediaの共同創業者であるGreg Sterling氏は、検索数の減少がオンラインマーケティング戦略に影響を与える、ということに同意している。「企業はこれまでと異なる行動を取り、チャネルのさらなる多様化を余儀なくされるが、いずれにせよ、そうしなければならない」。
同氏は、Gartnerの予測した数字は「攻撃的ではあるが、その背後にある仮定の方向性は正確である」とも言っている。
ミシガン州ラピーアのGoogle広告専門のマーケティング代理店、Karasin PPCのCMO兼創業者のJoe Karasin氏は、ブランドはすでに戦略について再考していると主張する。
同氏は、「これは以前から知られていた問題で、企業は代替プラットフォームにさらに投資することで対応してきた」と語った。「eコマースブランドは、TikTokにかなり投資している。というのも、TikTokは特に若い消費者の間で事実上の検索エンジンとなっているからである。米国に本社を置く掲示板型ソーシャルニュースサイトRedditも、検索クエリの最後に『Reddit』を付け加えるトレンドが定着したことで、ブランドにとってより価値のあるチャネルになっている」。
「変化する検索環境に適応するために、マーケターは多様なアプローチに軸足を移し、ソーシャルメディア、コンテンツマーケティング、インフルエンサーとのコラボのような代替プラットフォームにリソースを割り当てるようになるかもしれない」と、カリフォルニア州サンノゼにあるテクノロジー企業向けに調査およびコンサルティングを行うSmartTech Researchの社長で主席アナリストであるMark N. Vena氏は付け加えた。
「ユーザー体験に注力することが最も重要になり、Webサイトの最適化やパーソナライズされたコンテンツへの投資が促進される可能性がある」。
「ユーザーにとっての素晴らしい体験が不可欠になっていく」とAntin氏。「もし素晴らしい体験を提供できなければ、ユーザーを失うことになるだろう」と同氏は語った。
あふれるAIコンテンツへの対策
Vena氏も、さまざまなチャネルにおいて効果的にオーディエンスをターゲットにするために、データ主導の意思決定に改めて焦点が当たる可能性がある、と推測している。「この変化は進化する状況をナビゲートし、ブランドの認知度とエンゲージメントを維持するために、デジタルと従来のチャネルをミックスして活用し、より全体的で微妙なニュアンスを有するマーケティングアプローチの先駆けとなることも考えられる」と同氏は語った。
また、検索エンジンは、利用数が減少するにつれて、Web上の良質なコンテンツの特定に力をいれるだろう、と同氏は付け加えた。「この課題に対処するために、検索エンジンは、本物の高品質なコンテンツとAIが生成したスパムをさらに区別できるようにアルゴリズムを強化する可能性がある」と同氏は説明する。
「AI研究者と協力し、最先端テクノロジーに投資することで、AIが生成したコンテンツが急激に増加しても、検索エンジンが時代を先取りし、検索結果の整合性を維持できるようになる可能性はある」と同氏は語った。
「Googleは、コンテンツを作成したのが人間でもAIでも、そのアルゴリズムはすでに低品質のコンテンツを検出できると言うだろう」とSterling氏は皮肉を言う。「現実には、もっと複雑になるだろう。皮肉で制作されたAIコンテンツを判別するために、より多くの、もしくは異なる信号を使う必要があるだろう」。
「最近、多くの人がGoogle検索の品質について不満をもらしている」とGoodwin氏は認める。「しかし、Googleがその検索品質に関する批判の猛攻撃に直面した時に、アルゴリズムの大幅な更新で対応する傾向があることは、歴史が証明している。たとえば、2011年にGoogle検索でコンテンツファーム(検索エンジンからの訪問者を増やして広告収益を得るために、ほかのサイトをコピーするなどして、質の低い大量のコンテンツを作成・配信する手法)が上位に表示されることについての苦情が数か月にわたったときは、Googleは、その問題に特化した『Panda』と呼ばれるアルゴリズムの更新を行った」。
AIにはAIで対抗する
テキサス州オースティンにある外部リンク管理ツールメーカー、LinkGeniusの創業者であるAaron Masterson氏は、検索エンジンが検索結果を改善し、ユーザーの離脱を減らす方法のひとつは、「寄生SEO」を取り締まることだ、と主張する。寄生SEOコンテンツとは、確立された権威あるWebサイトにコンテンツを作成し、その評判に便乗して自分のWebサイトのランキングを上げるという戦略である。
「寄生SEOを止めれば、素晴らしいコンテンツを提供しようと努力しているブログやニッチサイトが、検索結果の1ページ目に適切にランクインできるようになるだろう」と同氏は語った。
しかし、ワシントンD.C.のシンクタンクCato Instituteの政策アナリストであるWill Duffield氏は、検索業界がAIに対抗する主な方法は、AI自体を取り入れることだと主張する。
「我々はBing(マイクロソフトのポータルサイト)でそれを経験してきた」と、同氏。「そのうち、GoogleはAI製品を主力の検索ツールに取り込むだろう。Googleの回答パネルでは、すでにAIが使われている。AIに勝てないなら、AIを味方にすれば良い」。
「常に行われている検索の一定数が、どこか他のコンテンツへのリンクではなく、チャットボットによる回答が最適であるならば、それらの質問に答えるためにチャットボットツールを使わない理由はない」と、同氏は加えた。
「人々は、ランク付けされたWebサイトのリストには適合しないことを”ググる”ことがよくある。彼らは、ただ何かに対する答えが欲しいだけなのだ」と彼は続けた。「ユーザーは、従来の検索とAI検索を同時に、あるいは並行して質問することになるため、従来の検索における損失はある程度目立たなくなる」。
※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の2/21公開の記事を翻訳・補足したものです。