ECサイト向けのマーケティングテクノロジーの進化 - ECサイト運営はマーケティングオートメーションでどのように変わっていくことができるのか
ビッグデータ活用、ITインフラの整備、そしてスマートフォンの爆発的普及に伴い、マーケティングテクノロジー市場は爆発的な勢いで伸びてきている。そんな中、ECサイト運営においてもマーケティングテクノロジーを導入し成果を出す企業が増えてきている。マーケティングテクノロジーと一言で言っても多岐にわたるものではあるが、今回はその中でも特にマーケティングオートメーションに特化し、ECサイト運営がどのようにテクノロジーで変わっていくことができるかを考えていく。
※当記事は、マーケティングオートメーションのリーディングカンパニーであるアンダーワークス株式会社、マーケティングオートメーションプラットフォームR∞(アール・エイト)を提供する株式会社デジミホの協力を得て作成した。
拡大するEC市場と増え続けるマーケティングテクノロジー
Chifmartec.comが毎年発表する「Marketing Technology Landscape」という企業リストをご存知だろうか。名称にピンと来なかった方でも以下の図をみれば「どこかで見たことがある」と思われるかも知れない。
出展:Marketing Technology Landscape
スコット・ブリンカー氏によってまとめられるこの「Marketing Technology Landscape」には、マーケティングに関連するテクノロジー企業のロゴが分野別に掲載されている。2011年度版では約100企業に過ぎなかったが、毎年倍以上の割合で増え続け、2015年度版には、2000社近くのロゴが掲載されている。その膨大な量のテクノロジーをすべて理解するのが難しいからか、最近では“カオスマップ”などと呼ばれるようになってきている。
日進月歩で発展するマーケティングテクノロジーを活用しいかに売上を伸ばすのか、は今やマーケティング担当者の至上命題である。ましてや、販売までインターネットで完結するECサイトの担当者ともなればなおさらであろう。
フォレスターリサーチ社の調査によれば、eコマース領域におけるテクノロジー市場は、米国だけで2014年の12億ドル(1,440億円。1ドル120円換算)から5年後の2019年には21億ドル(2,520億円。1ドル120円換算)にまで倍増すると予想されている。
国内のEコマース市場の市場規模は、2015年6月に発表された経済産業省の調査によれば、2014年度で約12.8兆円と前年比で14.6%の伸びを記録している。これは、単に売上が14%伸びただけでは平均値に過ぎず、競合他社を上回っているとは言えないことになる。(全世界では2014年は約158兆円(1ドル120円換算。eMarkter Retail Ecommerce Sales Worldwide)であり、前年比22.2%増ともっとハードルは高くなる)
注目すべき6つのECトレンド
ではどのような取り組みが最もECの売上貢献につながるだろうか。近年ECのトレンドと題して謳われる施策の代表的なものは以下のようなものだ。
- スマートフォンアプリや位置情報活用など(Webページのスマホ対応ではなく)スマートフォンならではのモバイル(スマホ)施策
- ECのメディア化、動画活用、ソーシャルメディア活用など広告に頼らない認知集客施策(コンテンツマーケティング)
- 即日配送や在庫管理の効率化など在庫・配送オペレーションの改善施策
- 海外顧客をターゲットとしたクロスボーダー取引への着目
- 店舗との連動・オムニチャネルによる多様な顧客接点の活用・レバレッジ
- パーソナライゼーションとマーケティングオートメーションによるOne-to-Oneマーケティング
こうした様々なECにおけるトレンドの中で、注目してみたいのは、マーケティングオートメーションだ。
注目を浴びるEC向けマーケティングオートメーション
マーケティングオートメーションとは、主にBtoB領域において導入が進んでいるテクノロジーであり、以下のような作業を自動化させるソリューションである。
- Web閲覧履歴やメール配信、購買データなど、散在するマーケティングデータの統合
- 適切なタイミングで主にEメール配信シナリオの自動実行
- セグメントに最適なパーソナライズコンテンツの提供
米国においては、2011年以降年率50%以上の成長を続けており、昨年からは国内においてもグローバルベンダーが相次いで販売活動を開始しており、2014年は日本でのマーケティングオートメーション元年とも言われていた。最近では、BtoB分野だけでなく、BtoCやECにおいても大きな注目を集め始めている。
マーケティングオートメーションの考え方は、ECにおいても非常に有効だ。ECのシステムは顧客データ、購買データ、商品データ等を保有しているが、Web閲覧履歴をも統合し、最適なセグメントに対して自動的にオススメEメールを配信したりというマーケティング機能を内在しているものは少ない。EC向けマーケティングオートメーションの活用によって、クロスセルやアップセルを増やし、顧客LTVを向上させる機会となるのではないだろうか。
ECサイト運営の中でマーケティングオートメーションをどのように捉えて、組み込んでいくべきか
では、具体的にどのようにマーケティングオートメーションをECサイト運営の中に組み込んでいくべきか考えていきたい。ご存知のようにECサイト運営は、非常に負荷が大きく業務範囲は多岐にわたる。
集客施策などのWebマーケティングが花形業務ではあるが、その他にも商品企画、商品撮影、コピーライティング、顧客対応、データ解析、ソーシャル活用など、ありとあらゆるスキルとノウハウが必要となる。そのような業務の中で、マーケティングオートメーションを導入していくべきポイントは
- ノウハウの足りないところ
- 負担が大きいところ
- ルーティン業務
の3点に絞られるだろう。さらにECサイト運営には上記の業務を支援するためのありとあらゆる関連サービスが存在していることも複雑化を加速させる原因となっている。これらのサービスを全てについて理解し使いこなすことは非常に難しい。
このようなことを考えると、ECサイト運営の場合は、マーケティング領域に特化せず、ECサイト運営業務全般を視野に入れ、各業務を自動化(=オートメート化)していくことが重要となるだろう。そしてマーケティングオートメーションプラットフォームをベースとして各関連サービスと連携させていくことで運営方法を変えていくことがポイントとなってくる。
このようなマーケティングオートメーションであるが、ECサイト運営において重要であるといえる4つの理由がある。
- 運営を簡易化できる
- 運営を高度化できる
- 投資を効率化できる
- 個客毎にフォローを行うことができる
運営負担が高まり、投資が嵩みやすい環境の整っている昨今のECサイト運営にとっては救世主のような考え方ともいえるだろう。
しかしただ単に導入したからといって成果が出るとは限らないのも他の新しい概念と同様だ。ECサイトにおいてマーケティングオートメーションで成果を上げるためには以下の5つのポイントを考慮していきたい。
- 既存業務をしっかり洗い出す
- 強み・弱みを把握し導入するべきサービスを選定する
- 異なるサービス間でルールを実装する
- 効果検証を行う
- 常に新しいルールを考える
ECサイト運営を抜本的に変える可能性があるマーケティングオートメーションではあるが、導入に際しては、非常に基本的な業務の整理や強み・弱みの把握というところから着手しないといけないということだ。
どんなに新しい考え方とはいえ、まずは足元をしっかり固めてからということとなる。そして、しっかりPDCAをまわして、常にアンテナを張って新しいことに着手することが重要となる。
One to One接客で顧客の趣味趣向に合わせたアプローチで新規集客に頼らない売上基盤を作る
最後に、より具体的な導入方法を考えていきたい。ここでは、マーケティングオートメーションの1つの手法であるOne to One接客手法を例にしていく。
ECサイトの売上を“継続的に”伸ばすためには新規集客も重要となるが、既存顧客からの売上をしっかり作ることが最も重要となってくる。そしてその既存顧客からの売上を確保するためには、既存顧客へのおもてなしが有効だが、一度ECサイトで購入したからといって、何もせずにそのお客様がまた買ってくれるわけではない。
あるメーカーの売上構成の内訳を見てみると、広告出稿に依存して売上を立てているケースがあった。「広告出稿した分だけ新規顧客の獲得が増えて売上が上がる」という構造となる。本来は新規で獲得した顧客が蓄積されて徐々に売上は伸びていくべきではあるが、既存顧客がリピートせず流出してしまうので、売上が広告出稿に依存してしまい、横ばいの売上高という構造が出来ていたのだ。
一方で伸びている企業は売上が広告出稿に依存せず、一定数の新規顧客を継続的に獲得しながら、常連客からの売上額を伸ばすことができているのだ。購買データや商品データ、アクセスデータ、顧客データを一元管理し、データマーケティングを行いながら顧客「個別」に最適化された施策やコミュニケーションを実行することによってそれを実現していくのだ。常連客の流出を毎月1.5%ずつ防ぐことができれば3年後には売上は168%に伸びるという計算が成り立つ。
また既存顧客の中でも段階があり、特に重要なのは3~9回買ってくれるような準優良顧客や10回以上買ってくれるような優良顧客だ。そのようなロイヤル顧客を育てていくことが非常に重要となってくる。
このように顧客を育成していくために重要なことは、自社のECサイトの顧客を良く理解していくことだ。誰に対してどんなコミュニケーションを取ればいいかということが見えていなければ、優良顧客の流出を防ぐことが出来ない。いつも特定のブランドを買うからといってそのユーザーは、洋服は買うけれどもアクセサリーや小物類は買わないユーザーかもしれないし、セールで売上が伸びるからといっていつもクーポンを付与するが、クーポンを付与しなくても買ってくれる顧客もいるかもしれない。顧客に合わせたコミュニケーションを取らなければ、実行した施策が逆に顧客の満足度を下げたり、過剰なインセンティブとなって結果的に売上を下げてしまう取り組みに繋がってしまうこともあるのだ。企業視点で施策を打つのではなくて顧客視点で顧客を主人公とした接点を持つことが重要となってくる。
顧客を主人公にしたOne to Oneのおもてなし、そのような取り組みを実現する手段を、各店舗に応じた方法でしっかり検討し、実装していくことが、マーケティングテクノロジーをECサイト運営に活かす第一歩となるだろう。