中国最大のソーシャルメディアWeChat(微信)アカウントを開設し、活用していくための基礎知識

 

中国最大のソーシャルメディアといわれるWeChat(微信)。そのユーザー数は約11億2,000万人にものぼり、実に日本の人口の約9倍以上にも達する。月間アクティブユーザー数でみても約4億4,000万人となっており、その影響力は計り知れない。日本から中国への越境ECは、一時の盛り上がり期を越え、現在は小康状態となっているものの、依然としてその巨大市場は無視できない。そして、日本企業が中国市場に進出して認知を獲得し、売上を上げようとした際に、避けて通れない影響力を持っているのがこのWeChatだ。今回はその大まかな機能や開設方法、そしてその活用方法を考えていく。

 

<参考>

中国越境ECで2大SNSのWeibo・WeChatでどのように消費者にアプローチし、初期認知を獲得してブランディングしていくのか

 

 

WeChatの中国における影響力

 

WeChat(微信)とは、中国の大手IT会社Tencentが提供するコミュニケーションツールである。

 

世界中にはコミュニケーションツールがいくつも存在しており、日本では人口の52.7%が使用しているLINEが有名だ。欧米ではWhatsAppKik、楽天が買収したViber、韓国ではKakao Talkといった具合に各国・地域でその勢力図は様々だ。そして、中国ではWeChatが圧倒的なシェアを誇っている。その背景には、中国政府によってLINEなど中国国内以外のツール利用が制限されていることも影響している。

現在、中国では2大SNSとしてWeChatの他にWeiboが挙げられる。Weibo(微博)とは、中国のインターネット企業のSINAが提供するミニブログタイプのソーシャルメディアだ。WeChatが中国版LINEと呼ばれるのと同様に、Weiboは中国版Twitterと呼ばれている。WeChatが連絡手段として利用されている一方、Weiboはニュースといった公共の情報を入手するといった手段として利用されている。そのためWeChatはほぼ毎日連絡手段として利用しているため見る頻度が高く、広く発信されるWeiboに対してWeChatはより身近に感じられるという利点がある。LINEとTwitterの宣伝の違いを思い浮かべてみるとわかりやすいだろう。

 

 

WeChatの主な機能

 

WeChatの機能はLINEとほぼ同じだが、よく使用されるLINEと少し異なる機能を4つ紹介する。

1つ目は、ボイスチャット機能だ。これは中国人が頻繁に使用するもので、テキストで打ってもなかなか伝わりにくいものや、手が離せない時に、携帯に向かって打ち込みたい内容をしゃべって相手にそのまま送るというものだ。中国語はすべて漢字表記なのでテキストにするよりも容易に相手と会話できるという点で非常によく使われているのではないだろうか。

2つ目は、シェイク機能だ。これは、LINEの友達追加方法の一つ、「ふるふる」という機能に相当すると察するが、WeChat版では、例えばお店などで気になった音楽を調べる際、自分のスマートフォンをシェイクすればそれが何の音楽であるかを教えてくれる、というように友達の追加以外でも使用されているものである。

3つ目は、WeChat Pay機能だ。自分の銀行の口座と連携をとり、より買い物の際に簡単に支払いができるようにする機能が多々使用される。WeChat Payの支払い方法は、主にQRコードをかざすことで行われており、現在の中国ではこのWeChat Payや同様のサービスを利用して支払いを行う人が街中に溢れている。今や中国においてQRコード決済が主流となりつつある。また、WeChat上で自分の親戚や友達にお小遣いを送ることのできる、お年玉という機能が人気を博している。

4つ目は、公式アカウント機能だ。TwitterやInstagramと同じように、公式のアカウントが存在し、自分の興味のあるアカウントをフォローすることができる。この公式アカウントは、私たち日本企業が参入する部分であり、WeChat使用者たちに影響を与える唯一の場であるので、この後詳しく紹介していく。

 

 

WeChatアカウントの種類と開設方法

 

WeChatでは、そのアカウントの利用目的によっていくつかのアカウント種別がある。また、それらのアカウント作成を日本企業が行う場合はいくつかのハードルがあり非常に大変だ。まず、アカウントの種類についてみていこう。

 

アカウントの種類

企業がアカウントを開設する際には、どの機能がついているアカウントにするか3つの中から選択する必要がある。

まず1つ目は、サービスアカウント(服務号)。このアカウントは企業のみ開設が可能で、1ヶ月に4回情報発信をできるほか、自身のECサイトへの誘導、サービス提供とユーザー管理ができる公式アカウントだ。2つ目は、購読アカウント(订阅号)。こちらは企業、個人ともに開設可能で、情報発信が主であるため、1日1回メッセージをユーザーに送信できる。ただし、中国法人を持っていない企業で、アカウント開設を代行会社に頼む場合はその企業が有する中国代理店の会社名義になってしまう点は注意する必要がある。3つ目は企業アカウント(企業号)。上記2つとかなり特徴が違い、企業や民間組織が開設可能だが、企業内あるいは組織内のコミュニケーションツールとして使用されるため、中国市場への参入を考えている場合はこちらのアカウントは関係ない。

さらに、サービスアカウントと、購読アカウントにはWeChatを運営するTencentによる未認証のものと、認証済みのものがある。認証を受けることで2つの機能の利用が可能になる。まずWeChat Pay決済ができること、次に、9つのAPI機能(音声認識、カスタマーセンター、OAuth 2.0 Webサイトアクセス権限、QRコード生成、ユーザーGPI取得、ユーザー基本情報取得、フォロワー一覧、フォロワーグループ化、マルチメディアファイルのアップロードとダウンロード)が利用できることとなっている。また、これは国内でも海外でも同じだが、企業アカウントや著名人のアカウントでも、“公式”というものに多大な信頼を置く傾向があるため、その点も考慮したいところだ。また、中国ではWeChat Payを利用している人が非常に多く、アカウント上での決済などが必要である場合は、認証を必ず取得した方がいいだろう。ただし、詳細は割愛するが、この認証もかなりのハードルと、手間のかかる作業が必要となる。

ちなみに、個人アカウントで企業の情報を発信していくことも可能ではあり、もちろん即座に(個人としての)アカウントの開設が可能だ。しかし、個人アカウントでの信頼の獲得に関わる問題や、購読情報も月に4回までの発信に限られているなど、あまりおすすめはできないものとなっている。

 

アカウント開設方法

アカウント開設にあたり最も大きなハードルは、アカウント申請を行うことができるのは、中国の現地法人でなければならいという点だろう。もし現地に法人がない場合は、アカウント開設を行ってくれる代行会社に依頼する必要がある。

また、アカウント開設に際しては、微信公衆号から申請を行うが、以下の7つの情報が必要となる。

代行会社に依頼する場合はこれらの情報は基本的には代行会社にて用意してもらえるため必要はない。これらの審査には約1週間程度かかる。

 

 

アカウント初期設定

めでたくアカウントを開設した後にも、いくつかの基本的な初期設定が必要となる。まず、アカウントの管理者の個人のWeChatアカウントとの紐付けが必要だ。このアカウントはWeChat Pay機能を利用することができ、さらに中国の銀行口座と紐付いている必要があるため、基本的には中国人、もしくは中国に在住の人以外は管理者として設定することは難しいだろう。代行会社にてアカウント開設を行った場合も、運営のため管理者の権限を付与してもらう必要があり、その条件は前述と同じものとなる。

また、アカウントの基本情報として、アカウント名、プロフィール写真、アカウント紹介文の登録が必要だ。また、アカウントのカスタマイズを行う場合は、メニューの設定、リンクの設定などを適宜実施していく必要がある。

 

 

アカウントの運用の基本、モーメンツ(朋友圏)

 

アカウントを開設し、管理者のWeChatアカウントとの紐付けも完了し、基本情報の設定も終わると、実際のアカウントの運用を開始することができる。まず、WeChatは一般的にどのように企業と個人が接点を持ち、コミュニケーションを取っていっているのだろうか。フォロワーの増やし方や広告活用は次章で詳細を解説するが、ここでは、情報の拡散の基本的な仕組みについて見ていきたい。

WeChatでは独自機能のモーメンツ(朋友圏)で情報が拡散されていくのが基本となる。モーメンツとは、自分で書いたテキストや写真を他のユーザーと共有することができる機能。共有したモーメンツはFacebookのような他のSNSと同じように「いいね」を押したり、コメントを書いたりすることができる。さらにそのモーメンツは「いいね」を押したり、コメントをしてくれたりするユーザーのフォロワーにもそのモーメンツが拡散されていく。そして、そのモーメンツに記載したテキストや写真に加えてWebサイトのQRコードやURLを載せておけば自分たちの飛ばしたいページにユーザーを誘導することも可能となり。ユーザーからユーザーへと自社のモーメンツが広まっていくことで、同時に自分たちのアカウントや企業のことを知ってもらうことができるのである。

例えば、WeChatから直接ビジネスに活用させたいのであれば、商品やサービスについてのモーメンツを共有させ、友人同士の口コミがきっかけで購入に至る、というケースもある。また、自分たちの掲載している記事を購読してもらうことが目的であるのなら、モーメンツを使用してどのような記事を書いているのか、写真付きでモーメンツを流し、記事につながるQRコードを貼っておくことで、モーメンツから気になった人が訪れてくれるだろう。

 

 

フォロワーの増やし方

 

LINEをイメージしてもらえば分かると思うが、WeChatでもアカウントの存在について何も告知をせず、誰とも繋がらなければ、何を投稿しても誰も見てくれない状態だ。フォロワーを増やしつつ、情報発信を継続し、その情報を広告を活用して拡散させていくことが必要になってくる。ここでは3つの代表的なアカウントのフォロワーの増やし方を見ていきたい。

1つ目は、KOL(Key Opinion Leader)、網紅と呼ばれるネット上の有名人に自社のアカウントを紹介してもらうものがある。KOLと網紅はほぼ同義として取り扱われるケースが多いが、強いて違いをいうならばKOLは動画とWeiboやWeChat上での投稿を活用したインフルエンサーで、網紅は主に動画を利用して活躍するインフルエンサーを指すようだ。このように、もともと中国である程度知名度のある人に頼むことで自社のアカウントをより効率的に知ってもらうという方法がある。

 

<参考>

凄まじい影響力を持つ中国ネットインフルエンサー「網紅(ワンホン)」の実態と活用方法

 

2つ目は、実店舗が中国国内にある場合は、その店舗に自社アカウントのQRコードを設置し、気になったユーザーからその場でQRコードを読み取ってフォローをしてもらうというものだ。店舗がなくても流通している商品や掲載している紙媒体などを通じてQRコードを拡散させることも可能だ。中国では日本とは比較にならないくらいQRコードが浸透しており、非常に生活に根付いているため、店舗・商品・他の媒体などから流入をしっかり確保する足掛かりとなる。

 

<参考>

中国での「QRコード」の驚異的な浸透 - 世界最大のモバイルペイメント市場を牽引する企業と顧客の重要なタッチポイント

 

3つ目は、WeChat内の広告を活用する方法がある。WeChat内の広告は3種類あり、公式アカウント広告(公众号广告)、モーメンツ広告(朋友圈广告)ワンクリックフォロー広告というものだ。公式アカウント広告とは、5万人以上のフォロワーを持つ公式アカウントに表示されるもの。広告の予算はチャージ式で一日最低50元(約830円)。金額は競合状況によるが、単価が低いところからスタートが可能である。モーメンツ広告とは、WeChat個人ユーザーのモーメンツ上に投稿を表示できるもの。広告の予算は一括支払いで5万元、100万元、500万元の3種類に限られており、金額は1,000回表示で北京・上海の2都市なら150元、35の大都市なら100元、その他の都市なら50元となっている。ワンクリックフォロー広告はフォロワー数の多い、他の公式アカウントのページ内に配信する広告である。ただし、これらの広告出稿の条件があり、Tencentからの認証の取得と費用支払いのための中国の人民元銀行口座が必要になるようだ。

 

 

日本企業のWeChatアカウントへのフォロワー増加施策事例

 

日本企業のWeChat活用は大手を中心に進んできており、いくつかの成功事例もあるようだ。

大手コンビニから派生したセブン銀行は、中国国内で人気のKOLを使ってその存在を認知させていった。セブン銀行は、実際に現地で行ったイベントの様子やインタビューをKOLに記事にしてもらうという方法を採用した。日本でも広く浸透しているセブン銀行というサービスを中国でも主要なターゲット層となる若年層に向けて露出を強化していくことに成功した。

大丸松坂屋は、中国で爆発的に普及しているWeChat Payを活用したものだ。大丸松坂屋のWeChatアカウントで60元以上の決済をしたユーザーに、最大1,000元のキャッシュバックキャンペーンや、キャラクターの買い物袋プレゼントをするなど実際にお得なインセンティブを付与するという方法をとった。中国ではこのように分かりやすいメリットの提供を行う施策への反応が非常に良いケースが多い。

資生堂は、すでに中国国内でも非常に人気があるが、さらに中国人バイヤーを獲得するためWeChatに進出し、モーメンツなどで、ブランドの誕生やイベントなどを過去にさかのぼる形式で自社を紹介していった。化粧品の商品ブランドだけでなく、資生堂という企業ブランドの認知を高めることで、商品ブランドへの売上貢献を高める狙いだ。

このように、それぞれの企業の狙いや特徴を上手に活かしながら、WeChatアカウントの活用を行っていっている。ここまで読んで頂きお気づきの方も多いと思うが、基本的には、日本国内における、LINE・Twitter・Facebookのアカウント運用とそれほど根底については大きな違いはないと言っていもいいだろう。

 

 

中国の消費者とコミュニケーションを行うために欠かせないWeChat

 

越境ECというキーワードが脚光を浴び始めた数年前は、越境ECというとプラットフォーム系のサービスがメインで話題となることが多かった。すなわち、どのように出店・開店、さらには出品していくのか、というテーマだ。しかし、出店・出品の波が一段落してきた今、マーケティングへ目が向き、出店・出品とマーケティングをセットで考えることが多くなってきている。そのような中、中国市場でのマーケティングには欠かせないWeChatだが、なかなか海外のSNSというと敷居が高く感じる部分も多いのも事実だ。しかし中国市場においてしっかり成果を出すためには、自社でWeChatアカウントを運用していくことを考えていく必要があるだろう。WeChatを用いて何をしたいのか、どのような顧客にアプローチしたいのかなど、目標を明確にすることで、自ずとWeChatの利用方法が見えてくるのではないだろうか。そのため、まずはどのように中国へアプローチしたいのか、向き合ってみる必要がありそうだ。