物価上昇や信頼性への不安から、消費者は購入を見直すようになり、店頭でスマートフォンを使って商品を確認するようになっている。


「今すぐ購入」ボタンの魅力は失われつつある。長年にわたってデジタルファーストの傾向が続いてきたが、買い物客は意識的に購入のペースを落とし、画面から離れ、実店舗へと戻り始めている。それは懐かしさからではなく、商品を確認するためである。

物価上昇や詐欺の急増(消費者の41%が詐欺被害を経験)に直面するなか、今日の買い物客は非常に慎重になっており、あらゆる取引を重大なリスク管理の課題として扱っている。小売業者にとって、価値はもはや価格だけで決まるものではない。詐欺、不良品、データ盗難といったリスクを含む、取引全体の総コストをいかに抑えるかが重要となっている。

手軽なワンクリック購入の時代は、経済的な現実という壁にぶつかった。プロダクトエクスペリエンス管理企業Salsifyの最新調査によると、今日の消費者はもはや“バズる”トレンドから得られる刺激を追い求めているわけではない。むしろ、彼らは「確実性」を求めて買い物をするようになっている。オンラインショッピングの日常的な利用頻度はわずか1年で21%から9%に急落しており、家計の見直しが進んでいることを示している。

世界的な貿易摩擦と信頼のギャップの拡大により、買い物客は衝動買いから下調べへと、行動を切り替えている。彼らは、お金を使う前に品質を確認するため、実店舗の売り場へと戻りつつあるのだ。物価上昇が形作る経済において、新たな消費者の要求は明確だ。それは、「すべてを検証し、(情報を)信用せず、そして何よりも価値を重視する」ということである。

この調査結果は、Salsifyが米国、英国、カナダの買い物客約3,000人を対象に実施した、「2026 Consumer Research report(2026年消費者調査レポート)」によるものである。このデータによると、消費者はリスクの低減と確認を重視する姿勢を見せており、購入する際はより詳細な情報を確認し、複数のチャネルで比較検討し、店舗で安心感を得ようとしている。

今や、買い物客の60%が、新商品を探すために実店舗を訪れると回答している。これは、長年にわたるデジタルファーストの購買行動からの明確な転換を示している。

Salsifyのリサーチディレクター、Dom Scarlett氏によると、経済の不確実性が続くなかで、買い物客は予算面でのプレッシャーを強く感じているという。物価上昇や信頼の低下に伴い、彼らは意図的に購入のペースを落とし、オンラインでの購入頻度を減らし、比較検討に時間を割くようになっているのだ。

「オンラインショッピングの1日あたりの利用の減少は、eコマースからの離脱ではなく、慎重さと選択性を重視する方向へのシフトを反映している」と、同氏は語った。


デジタル化後退の背景にある信頼のギャップ

エンタープライズ向けモバイルプラットフォーム企業Soti調査によると、エージェント型コマースの台頭やオンラインショッピングの普及にもかかわらず、以下のことが明らかになった。

  • 消費者の90%は、依然としてオンラインと実店舗の両方で買い物をしたいと考えている
  • 69%は、実際に商品を見て、触って、試せるという点で、依然として実店舗での買い物を好んでいる

Sotiの研究チームは、11か国で13,000人の消費者を対象に調査を実施。その結果、消費者の82%が経済状況の変化によりコスト削減を図っていることが明らかになった。また、88%はサイバー攻撃を受けた小売業者で買い物をする前に慎重になると回答している。回答者のほぼ半数(41%)は、買い物中に詐欺被害に遭った経験があるという。

1月に発表された両レポートは、同様の結論を裏付けている。たとえば、Sotiの調査は、消費者の65%が過去の購入履歴に基づいたおすすめ商品を求めていることを示した一方で、Salsifyは買い物客が衝動買いを控える傾向にあると指摘している。

Sotiはエージェント型コマース(AIによるショッピング)の台頭について言及しているが、Salsifyの調査では、AIのおすすめ商品を信頼している人はわずか14%にとどまることが判明した。両レポートとも、実店舗での買い物への回帰を示唆している。

  • Soti:69%が実店舗での買い物を好む
  • Salsify:60%が商品発見のために実店舗を利用している

Sotiのプロダクト戦略担当シニアバイスプレジデントであるShash Anand氏は、生活費の高騰に伴い、消費者は個人情報の共有により慎重になっていると指摘する。データ漏洩はプライバシーを脅かすだけでなく、なりすまし、詐欺、不正請求といった金銭的な被害をもたらす可能性もあり、世界的な不確実性が高まる中で、消費者が負担しきれないリスクとなっている。

「その結果、セキュリティへの懸念は、長期的なブランドロイヤリティにとって大きな障壁となっている。信頼こそが基盤なのだ」と同氏。

さらに、セキュリティは消費者にとって常に経済的価値の一形態であり、特に米国消費者の51%が詐欺被害​​を経験していることを考えると、その重要性は増していると付け加える。

「小売業者は、顧客データの保護、取引のセキュリティ確保、そして透明性の高いセキュリティ対策の維持に積極的に取り組まなければならない」と同氏は述べた。


価値重視の消費における品質のパラドックス

SalsifyのScarlett氏は、買い物客がより安価なブランドに切り替える一方で、長持ちする高品質の商品に投資するというパラドックスが生じつつあることに同意する。消費者は、低価格を求めるという目先のニーズと、耐久性という長期的な経済的目標との間で葛藤しているのだ。

「消費者は購入頻度を減らしているものの、購入の際はより慎重に選んでいる。耐久性と長寿命こそが価値を示す最も強力な指標であり、これは、商品が信頼でき、その価値が明確に伝えられていると感じれば、消費者は喜んでお金を払うことを示している」と同氏は指摘する。

消費者は衝動買いを控えることで予算の制約を解消する一方で、購入する商品に対する期待値を上げている。また、購入を決断する前に、より入念にリサーチを行うようになっている。

「消費者は、肯定的なレビューやソーシャルプルーフ(社会的証明)にこれまで以上に注目しており、これらは商品の品質や価値を示す、二番目に重要な指標だった」と、Scarlett氏は述べた。


フィジタル・ショッピングが定着

店舗内テクノロジーは、価格重視の消費者が購入商品をリアルタイムで確認し、決済前にカートの中身をチェックできるよう支援する上で、ますます重要な役割を果たすようになっている。

SotiのAnand氏は、調査によると米国の消費者の61%がテクノロジーをさらに活用したショッピングを好むことが示されていると指摘する。携帯型スキャナーや店舗用タブレットなどのパーソナルショッパー向けデバイスは、消費者が商品の価格をスキャンして確認したり、プロモーションをチェックしたり、買い物リストをリアルタイムで管理したりするのに役立つ。

「こうしたデバイスを、価格比較、ロイヤリティ特典、デジタルレシートを提供するパーソナライズされたアプリと連携させることで、小売業者は消費者がその場で情報に基づいた購入決定を下せるように支援することができる」と、同氏は提案する。

この取り組みを成功させるためには、小売業者は自社のバックエンドシステムが完全に連携していることを確認する必要がある。在庫状況、価格、プロモーションに関するリアルタイムの可視性は、正確な情報を提供し、ショッピング体験全体を通じて信頼を維持するために不可欠だ。

「こうした連携により、決済時のイライラするような不一致を防ぎ、カート放棄を減らし、消費者の信頼を築くことができる」とAnand氏は述べた。


安心感と不確実性が行動を左右する

Scarlett氏は、実店舗が、買い物客にとって購入前に不確実性を解消できる場となっていると指摘する。現在、60%の消費者が店舗内で商品を見つけ、多くの人が売り場内でスマートフォンを使用して、価格やレビュー、仕様などを複数のチャネルで比較している。

「中には、お得な情報や特定の商品を見逃さないように、実店舗内でスマートフォンから直接購入する人もいる」と同氏。

実店舗は、買い物客が購入前に商品を確かめる上で、ますます重要な役割を果たしている。徹底的な確認へのシフトにとどまらず、買い物客は自分のニーズに最適な選択肢を選ぶために、デジタルと実店舗の棚を行き来することを楽しんでいる、とScarlett氏は示唆する。

「買い物客の3分の2以上(67%)が、店舗での購入前にオンラインで商品を調べる『ウェブルーミング』を行っている。また、半数以上(53%)は、オンラインでの購入前に店舗で商品を調べる『ショールーミング』を行っている」と、Scarlett氏は述べた。


超精査者の台頭

Anand氏によると、景気後退は自動化されたコマースやエージェント型コマースにとって逆風となる可能性があるという。経済的不安が、消費者を手動でのコントロールへと向かわせているからだ。しかし、Sotiの研究チームは、景気後退はエージェント型コマースにとって障壁というよりは、むしろ「フィルター」としての役割を果たすだろうと考えている。

「消費者が一円単位で支出を精査するようになれば、価格よりも利便性を優先する自動購入は一時停止される可能性が高い」と同氏。

しかし、こうした精査の姿勢は、「超精査者」として機能するエージェントにとって絶好の機会となる。消費者は、より安い価格を探すために3つのWebサイトをチェックした時点で疲れが出るが、AIエージェントなら数百のサイトを数秒で確認できる、とAnand氏は指摘する。


小売業界にとって何を意味するか

Anand氏は、価値提案に変化が生じると予測している。好景気時には、消費者はAIを使って自動的に買い物をすることで時間を節約する。一方、不況時には、AIを使って自動的にお得な商品を探し出すことでお金を節約するようになるだろう、と同氏は主張する。

「この経済環境で成功を収めるエージェント型ツールは、単にユーザーの代わりにお金を使ってくれるものではない。ユーザーよりも良い交渉ができることを証明できるツールこそが、勝者となるだろう」と同氏は締めくくった。


※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の3/19公開の記事を翻訳・補足したものです。