AIがブランド発見の古いセオリーを打ち壊しつつある中、大半のB2B企業の最高マーケティング責任者は次の展開に対する準備ができていないと認めている。

英国のB2Bに特化した統合コミュニケーションおよびPR会社である3Thinkrsによる最新の調査結果が発表された。その調査によると、最高マーケティング責任者(CMO)の3分の2は、AIを活用した、機動力の高い競合企業に対抗するためのスキル、予算、リソースが不足していると回答している。

これは、AIによる検索と意思決定の加速が、従来のマーケティングの効果を急速に弱めているという背景がある。検索、Webサイト、ソーシャルメディアに至るまで、ブランドの可視化が崩壊する中で、AIファーストの新たな発見時代に向けた戦略の近代化競争が激化している。

この調査結果は、400人のB2Bテクノロジーマーケティングリーダーを対象に行った調査「2026年に向けたCMOのマーケティングおよびコミュニケーションの戦略指南書(A CMO’s Marketing and Communications Playbook for 2026)」から得られたものであり、多くのチームが予想していた以上に速いペースでマーケティング戦略モデルが崩壊しつつある実態を浮き彫りにしている。


AI
の台頭によって衰退しつつある従来のチャネル

同調査によると、B2Bテクノロジー関連のWebサイトは、2024年から2025年にかけてトラフィックが34%減少している。一方で、AI生成トラフィックは加速し、2025年末までに全体の20%を占めると予想されている。これは、マーケターが何十年も頼ってきた従来のコンテンツ階層モデルが大きく崩れていることを示している。

検索も変わりつつある。この調査では、2027年までに従来の検索は全検索クエリの45%にまで縮小すると予測しており、以前の標準基準と比較すると42%の減少となる。ソーシャルメディアチャネルでもこの影響は感じられる。米国発のビジネス特化型SNSのLinkedInでは、企業が投稿するオーガニックなコンテンツの可視性が著しく低下した。2025年3月から10月の期間、ユーザーのフィード上での表示率が2.1%から1.6%へと下落したことが、かつて認知とエンゲージメントをけん引していたコンテンツのリーチが縮小していることを示している。


影響力変化への対応として、CMOがアーンドメディア(有料広告ではなく、生活者やメディア関係者など、企業に直接関わりのない第三者が発信する媒体)/自社メディア/ペイドメディア(企業が広告費を支払って情報を掲載するメディア)施策をどう変化させているか

出典:A CMO’s Marketing and Communications Playbook for 2026
(2026年に向けたCMOのマーケティングおよびコミュニケーションの戦略指南書)


生成エンジンが従来の検索行動に取って代わったことで、CMOは方向転換を迫られている。生成エンジン最適化(GEO)は、今やゼロクリック(検索結果をクリックすることなく、検索結果ページ上で直接情報を取得する)環境で可視性を保とうとするチームにとって、必須の機能となっている。

マーケティング責任者の61%は、AI生成の要約や回答エンジンにおける可視性の改善戦略をすでに準備していると回答。この変化により、マーケティングは「キーワードを散りばめる」手法から「信頼性シグナルの発信」へと移行しつつある。そのため、自社ブランドを最新で、信頼性が高く、権威性ある情報源としてAIモデルに確実に認識させるための取り組みが重要となっている。

つまり、以下のような対応が必要となる。

  • AIが理解しやすいようにコンテンツを再構成する。リスト形式の記事だけで引用結果の3分の1近くを占めている。
  • コンテンツの鮮度を保つ。AIは1~2か月以上経過したコンテンツの優先順位を下げる傾向がある。
  • PRへの投資。スタートアップ企業においては特に必要だ。ベンチャーキャピタルから支援を受けているブランドの45%は、Bloomberg(米国の金融情報メディア企業)、Fortune(米国最大のビジネス誌)、Forbes(米国のビジネス誌)のような信頼できるメディアでの存在感を高めるためPR予算の増額を計画している。
  • 新たな指標を追跡する。AI可視性スコア、引用シェア、「AIシェア・オブ・ボイス(AI生成の回答におけるブランドの露出度を競合他社と比較して測定するデジタル指標)」などがあげられる。AIシェア・オブ・ボイスはCEOに報告されるシェア・オブ・ボイス指標の中で最も使用率が高く、33%を占める。


メッセージの断片化は隠れたリスク

生成検索ツールはWeb全体から回答を合成するため、明確で統一されたストーリーを持たないブランドは、誤った表現をされるリスクや、完全に無視されるリスクがある。

そして、これは深刻な問題である。CMOの61%は、自社がPR、コンテンツ、営業全体で共有されたブランドストーリーを維持する能力について、「やや熟練している」またはそれ以下であると回答している。力強いストーリーがなければ、優れたコンテンツであっても認知を得られない可能性があるのだ。

マーケターは、構造化されたストーリーテリングを積極的に取り入れることによって対応している。問題と解決策のような対比に基づくメッセージング、「三の法則(情報を3つのグループで提示することで、人間の記憶に残りやすく、説得力が増す心理学的アプローチ)」、あるいはヒーローと悪役の明確な展開などが例として挙げられる。あらゆるチャネルでブランドストーリーを繰り返し、リズムを生むことで、顧客にブランド想起を促し、信頼を強化する鍵となりつつある。

CMOは、より魅力的な形式にも注力している。LinkedInのオーガニックリーチが低下する中、CMOの54%は関連性回復策として「ショート動画やマルチメディアコンテンツを優先している」と回答した。


ディープフェイクの増加とB2Bブランドの準備不足

これまでは主に可視性に注目してきたが、AIは企業の評判を脅かすまったく新しいリスク領域も生み出した。それは「合成メディア」である。

生成AIは「本物のような」偽物の動画や音声コンテンツを容易に作成できる。その脅威にもかかわらず、B2Bテクノロジーブランドの16%しか、一般的な危機管理コミュニケーションに関する対応プレイブックを用意していない。また、ディープフェイクのようなAIが生成する脅威に対する専用の対応計画を策定しているのはわずか14%に過ぎない。

さらに悪いことに、CMOの26%が正規の手順が整っていないことを認めながらも、こうした脅威に対して「内部チームだけで対処する」と回答している。その結果、誤情報が一気に拡散し、信頼性が何よりも重視される現状において、多くのブランドは深刻なリスクに晒されている。


※当記事は米国メディア「MarTech」の12/17公開の記事を翻訳・補足したものです。