AIは黙って貴社のブランドストーリーを書き換えているだろうか?信頼を損なう前に、AIによるブランド・ドリフト(ブランドの逸脱)を見抜き、阻止する方法を学ぼう。


貴社のブランドメッセージはもはや、自社だけで完全にコントロールできるものではない。

AIシステムはストーリーの語り手となり、消費者が貴社ブランドを発見し、理解する方法を形作っている。あらゆる顧客レビュー、ソーシャルメディアの投稿、ニュース記事、そして誤って流出した内部文書は、AIモデルに取り込まれ、貴社に関する応答を生成する材料となりうる。

こうしたAIによるナラティブ(物語)が貴社の意図したブランドメッセージから逸脱してしまう現象(「AIブランド・ドリフト」と定義できる)が生じると、その影響は壊滅的なものとなりかねない。

貴社の公式なブランドボイス、顧客からの苦情、そして流出した社内メモなどは、すべて大規模言語モデル(LLM)の「燃料(情報源)」となる。AIはそれらすべての情報を統合し、何百万人もの消費者が日々目にする応答を生成するのだ。

貴社のブランドメッセージは、フィルタリングされていない顧客のセンチメント(感情)や、本来は一般向けに公開されるべきではない情報と競合する。AIによる誤った表示は、検索結果、チャットボットとのやり取り、AIを活用したレコメンデーションを通じて、瞬時に世界中のオーディエンスに届く。矛盾したブランドシグナルは、今後何年にもわたってAIシステムが貴社を説明する方法を根本的に変えてしまう可能性があるのだ。

本記事では、AIによるブランド・ドリフトによって市場での地位が損なわれる前にそれを特定し、コントロールを取り戻すための実践的な戦略を紹介する。

 

完全なブランド・スペクトラム:無視できない4つのレイヤー

大規模言語モデルは、ブランドに関するあらゆる情報を集約し、消費者が事実として受け入れてしまうような、権威ある印象を与える回答を生成する。企業は、ChatGPTが提案した「幻の機能(存在しない機能)」がサポートチケット(企業のサポートサービスへの問い合わせ)の原因になっていることを確認しているが、一方でそれは製品ロードマップの一部とも見なされている。

Streamer.bot(配信支援ソフトウェア)の事例

「Discord(リアルタイムのコミュニケーションプラットフォーム)では、ユーザーから『ChatGPTに○○○と言われた』という声をよく耳にする。確かにツール自体は動作可能だが、ChatGPTの指示は90%の確率で間違っている。結局、ユーザーが望む通りに動作させようと試みた結果を我々が修正することになり、サポートチケットが発生してしまう」。

ブランド管理には現在、互いに関連性を持ちながらも独立した4つのレイヤーの管理が求められる。各レイヤーは、AIの学習データに異なる形で情報を与え、それぞれが異なるリスクプロファイルを有する。いずれかのレイヤーを無視すれば、AIシステムは貴社の意図とは無関係にブランドストーリーを構築してしまうだろう。


これらのレイヤーを定義するブランド管理の4象限

レイヤー 説明 AIが与える影響
既知のブランド ロゴ、スローガン、プレスキット(メディア関係者向けに企業や事業に関する資料・画像・動画素材などをまとめたもの)、ブランドガイドなどの公式のアセット AIにとってのセマンティックアンカー(基準点)。最も管理しやすいが、ほんの一部分に過ぎない
潜在的なブランド ユーザー生成コンテンツ、コミュニティでの議論、ミーム、文化的なリファレンスなど ブランドの関連性や親しみやすさをAIが理解するための燃料となる
シャドウ(表に出ない)ブランド 社内文書、オンボーディングガイド、古いスライド資料、パートナー向け資料など、非公開の情報 LLMが、古くなった情報やブランド方針から逸脱した内容をAIの要約に混入させるリスクがある
AIによって語られるブランド ChatGPT、Gemini、Perplexityなどのプラットフォームがユーザーに対してブランドをどう語っているか すべてのレイヤーを統合したもの。AIの回答が「世界にとっての真実」として受け取られるため、誤認や歪曲のリスクが高い


重要な洞察:AIはアクセス可能なあらゆるレイヤーからブランドを再構築する。AIはブランドストーリーの共同執筆者である。

具体的な例を挙げよう。BNP Paribas(フランスを本拠とする金融グループ)のロゴは、Perplexity.aiによって「Bird Logos Collection Vol.01」というPinterestのボード( Pinterestでピンした画像を保存・整理する場所)を用いてコンテキスト化されている。


技術的欠陥からブランド危機へ

「『セマンティック・ドリフト』とは、生成されたテキストがプロンプトで指定された主題から逸脱し、関連性、一貫性、または真実性が徐々に低下していく現象を指す」。(A., Hambro, E., Voita, E., & Cancedda, N.(2024年)「A Study of Semantic Drift in Text Generation(やめ時を知る:テキスト生成におけるセマンティック・ドリフトの研究)」)

AI生成コンテンツが展開されるにつれ、ブランドの意図したメッセージ、意味、事実から徐々に逸脱していく場合、それは「ブランド・ドリフト」の危機に直面しているといえる。これにはいくつかのパターンがある。

1.事実の逸脱:最初は事実に基づいているが、会話が進むにつれて不正確な情報が混入するパターン。
2.意図の逸脱:事実は保持されているが、根底にある意図やニュアンスが失われ、ブランドの誤った表現や競合他社との混同を招くパターン。
3.シャドウブランドの逸脱:AIによる検索により、古い製品仕様が表示されたり、経営陣の発言が誤って引用されたり、社内コミュニケーション向けの情報が露出してしまうパターン。

重要な洞察:十分に訓練されたAIであっても、厳重に管理されなければ、ブランドの明確性、一貫性、そして信頼性を急速に損なう可能性がある。

これはサイバーセキュリティ上の問題にもつながり得る。Netcraft(英国のインターネットサービス企業)の調査によると、AIが生成したログインURLの3分の1がフィッシング詐欺につながる可能性があるという。偽の機能や怪しいログインページが存在するため、監視が鍵となるのだ!

 

AIブランド・ドリフトはどのように進行するか

LLMは、新しい単語ごとに前の文脈に基づいてテキストを順次生成する。出力全体を統括する「マスタープラン」が存在しないため、逸脱は避けられない。

テキスト生成におけるセマンティック・ドリフトに関する2024年の調査によると、事実や意図の逸脱の大半は出力の初期段階で発生する。複数ターンの会話では、誤りが累積していく。初期の誤解が増幅され、文脈をリセット(たとえば、新規に会話を始める)しない限り、それが修正されることはほとんどない。

マーケターは、MetaAnthropic(米国のAIスタートアップ企業)の主要な専門家が指摘する重大な脆弱性に直面していることを認識する必要がある。

  • 一貫性の喪失:明瞭さの低下、論理的展開の中断、物語内の自己整合性の崩壊として現れる。
  • 関連性の喪失:コンテンツが無関係な情報や重複した情報で飽和し、意図したメッセージが薄れてしまう場合に発生する。
  • 真実性の喪失:確立された事実や世界の知識から逸脱した、捏造された詳細や発言の出現によって特徴づけられる。
  • 物語性の崩壊:AIが生成した出力が新たな学習データとして使用されると、本来の意図が完全に変質する可能性がある。
  • ゼロクリック・リスク:Googleの「AIによる概要」が検索のデフォルトとなることで、ユーザーは公式コンテンツを一切見なくなる可能性がある。ユーザーは、AIが合成した、おそらく歪んだバージョンにのみ頼るようになる。

AI生成コンテンツは説得力があり、ブランドに合致しているように見えるが、メッセージや価値観、ポジショニングを微妙に歪める可能性がある。こうした逸脱はブランド価値を毀損し、消費者の信頼を損ない、コンプライアンスリスクにつながる恐れがある。


ドリフト(逸脱)の隠れた要因

「シャドウブランド」とは、組織が作成しながらも、意図的に公開していない社内向けの、独自仕様の、または古いデジタル資産の総称である。

  • オンボーディング文書
  • 社内Wiki(社内で使われる情報共有のためのオンライン情報管理システム)
  • 過去のプレゼン資料
  • パートナー向け資料
  • 採用活動用PDF
  • その他、一般公開を意図していないあらゆる情報

これらがオンラインでアクセス可能であれば(たとえ埋もれていても)、LLMによって「学習可能」である。オンライン上にあるものは、(たとえ、公開する意図がなかったものであっても)LLMにとって格好の標的となるのだ。

シャドウアセットは往々にしてメッセージから逸脱している。古くなった、あるいは一貫性のない資料は、AIが生成した回答に積極的に影響を与え、ナラティブ・ドリフト(物語の逸脱)を引き起こす場合がある。ほとんどのチームは自社のシャドウブランドを追跡しておらず、物語の防衛に大きな欠陥を残している。


ドリフト(逸脱)から歪みへ:ブランドリスク・マトリックス

ドリフトのタイプ ブランドリスク 事例シナリオ
事実の逸脱 コンプライアンス違反、誤った情報、法的リスク、顧客の混乱 AIが古い機能を最新のものと表示したり、存在しない製品の機能を作り上げたり、規制に関する説明を誤って記載したりする
意図の逸脱 価値観の不一致、信頼の喪失、ブランドの目的の希薄化、評判の損失 サステナビリティに関するメッセージが、ありきたりな「グリーン(環境配慮な)」表現に矮小化されるか、ブランドの価値観が誤って伝えられる
シャドウブランドの逸脱 物語の乗っ取り、機密情報やセンシティブな情報の露出、競合他社への情報漏洩、社内の意思疎通の失敗 過去の提携関係を示す古い資料が表に出たり、内部文書や経営陣の発言が公になったりする
潜在的なブランドの逸脱 ミーム化、トーンの不一致、場違いなユーモア、権威性の喪失  AIがコミュニティの皮肉やミームを公式な要約に取り入れ、プロフェッショナルなトーンが失われる
物語の崩壊 ブランドストーリーの浸食、メッセージ管理の喪失、誤った情報の拡散 AIが生成した誤りが将来の出力をための新たな学習データとして繰り返され、増幅される。
ゼロクリック・リスク オーディエンスとの接点の喪失、自社アセットへのトラフィック減少、ブランドストーリーの文脈欠如 検索エンジンのAI概要が偏った要約を提示するため、ユーザーは公式コンテンツにたどり着かなくなる


ブランドストーリーの主導権を取り戻すために

以下の4つのブランドレイヤーをすべて監査し、マッピングすべきである。

  • 既知のブランド:すべての公式アセットが最新で、アクセス可能で、意味的に明確であることを確認する。また、「ブランド・カノン」を作成する。これは事実、メッセージ、ポジショニングを集約した権威ある一元化された情報源であり、AIの理解のために最適化されている。
  • 潜在的なブランド:UGC(ユーザー生成コンテンツ)、コミュニティフォーラム、文化的シグナルを監視する。ソーシャルリスニングを活用して新たなテーマを把握する。
  • シャドウブランド:定期的な監査を実施し、社内文書、古いプレゼンテーション、準公開ファイルを特定し、保護や更新を行う。
  • AIが語るブランド:検索、チャット、発見機能において、AIプラットフォームがブランドをどのように要約し、提示しているかを追跡する。LLMの可視化に加え、AI生成コンテンツがブランドの意図から逸脱した場合の検知手法も導入する。

 

AIブランドストーリーをリードする

ブランドとは、もはや企業が語るものだけではなく、AI(そして顧客)が企業について語る言葉そのものである。生成AIによる検索の時代において、物語の管理は継続的かつ部門横断的な取り組みである。

マーケティングチームは、4つのレイヤーすべてを積極的に管理し、シャドウブランドを掌握し、セマンティック・ドリフト(意味の逸脱)を測定しなければならない。AIの出力における意味と意図の変化を追跡し、AIの中と外部環境の両方で、逸脱したブランドの物語を修正するための迅速な対応を確立することが重要である。

Semrush(SaaSプラットフォームを提供する米国企業)のGTM(GO-To-Market)部門のインサイトおよびアナリティクス責任者であるPhilip J. Armstrong氏は、次のように述べている。「ブランド・ドリフトを監視することで、苦労して築いたブランド価値を保護することができる」。


※当記事は米国メディア「MarTech」の8/28公開の記事を翻訳・補足したものです。