ブランドは、自社のナラティブ(物語)や顧客とのつながりを管理し続けるために、Webサイトやブログのようなオウンドマーケティング資産を優先しなければならない。

 

中国発の短尺動画SNSのTikTokは、最も急激に成長しているソーシャルメディアプラットフォームの1つであり、創造的で、コラボしやすく、高いエンゲージメントを持つ環境によって、幅広い層にリーチしており、あらゆる業界のマーケターの注目を集めている。

 

しかし、Joe Biden大統領は、7月までにTikTokの中国の親会社であるByteDanceが米国に拠点を置く企業に売却しない限り、TikTokの米国内での運営を阻止する可能性のある法案に署名したばかりだ。これにより、500万社の企業と1億5,000万人の米国人がTikTokにアクセスできなくなる可能性がある。

 

世界的なブランドは、TikTokがオーディエンスにリーチし、エンゲージメントを得て、ユーザー生成コンテンツを促し、関連インフルエンサーと提携するための重要な手段であることを認識している。言語教育プラットフォームであるDuolingo、世界的ファストフードチェーンのMcDonald’s、ボトル、水筒ブランドのStanley(すべて本社は米国)は、TikTokを活用してオーディエンスを増やし、多世代エンゲージメントとブランドの親和性を育むバイラルコンテンツ(急激に拡散されるコンテンツ)の作成に成功している企業のほんの一例にすぎない。

 

TikTokは、少なくとも米国からは消えてしまうのだろうか。時が経てばいずれ明らかになるだろう。だが、この新しい法律は、TikTokの利点を思い出させ、オーディエンスと結びつくために、制御されていないサードパーティプラットフォームに依存しすぎるリスクについて警告している。これはマーケティング戦略を不確定要素から守るための教訓である。

 

ソーシャルメディアプラットフォームは以前にも危険にさらされた

Elon Musk氏のTwitter(現X)買収は、リーダーシップの交代のような、たった一度の混乱がプラットフォームにどれほど大きな影響を与えるかを示している。

 

Musk氏は、名称とロゴの変更に加えて、アプリに抜本的な変更を行った結果、UX(ユーザーエクスペリエンス)の問題、機能停止、ユーザーや広告主の離脱を引き起こした。Musk氏は最近、Xの新規ユーザーの投稿に課金する可能性について示唆している。

 

3月には、ビジネス特化型SNSのLinkedIn(Microsoft所有)に障害が起きた。ユーザーは同プラットフォームにアクセスしようとしたが、エラーページにしか繋がらなかった。ちょうどその1日前に、約240万人のFacebookユーザーが同じ体験をしたばかりだった。同月下旬には、Instagramが数時間ダウンし、5,000人以上のInstagramユーザーがパニックになった。

 

TikTokに関しては、米国ではすでに規制が始まっている。2023年以降、連邦政府の職員や請負業者は、政府情報にアクセス可能なデバイスすべてでTikTokを使用することが禁じられている。

 

これらから学ぶべきことは何か。ブランドはソーシャルメディアプラットフォームを管理しているわけではない。ブランドとオーディエンスを仲介する手段として利用しているに過ぎないのだ。ソーシャルメディア上でブランドコンテンツや認知度を失うリスクは、依然として存在する。

 

ブランドとソーシャルメディアの微妙なバランス

ソーシャルメディアプラットフォームは、ブランドにとって認知度を高め、幅広い消費者やオーディエンスにリーチできる信じられないほど強力なマーケティングツールであることは疑いようもない。ソーシャルメディアは、ブランドが定期的に更新したコンテンツを投稿し、その内容を通じて消費者とつながるための迅速で自由な手段である。

 

ただし、管理資産であるソーシャルメディアプラットフォームは、最終的には完全にコントロールできるものではなく、次のような影響を受けやすい。

 

・トップの思い付き

・経済的な危機や失敗

・市場の動向

・法律

・その他の予期せぬ外部要因

 

また、ソーシャルメディアプラットフォームは、いつでも利用者のアカウントに禁止、制限、ペナルティを与えることができる。そのための理由も必要ない(あるいはAIによる混乱が起きるかもしれない)。特定のプラットフォームが単に消滅してしまうリスクは言うまでもない。MySpace(音楽、エンターテインメント中心)、Vine(ショート動画)、Friendster(SNSの草分け)などの名前が挙げられる。

 

TikTok禁止の可能性やその他のソーシャルメディア問題は、当然マーケターを躊躇させる。しかし、ブランドはソーシャルメディアの存在を必要としている。これらのサードパーティのプラットフォームは消費者とつながるのにまぎれもなく最適であるからだ。これらはどちらも同時に成り立つ(そして、そうあるべきである)。マーケターは、これらの管理資産をより管理しやすい資産の多様な組み合わせの一部として意図的に使用する必要がある。

 

ブランドは1つのチャネルへのアクセスを失った場合、マーケティング予算、株主資本、労力がどれだけ吹き飛ぶかを自問しておくべきである。そして、こういった潜在的な損失を軽減するべく努めなければならない。

 

教訓:ブランドは所有資産を優先させなければならない

結局、ソーシャルメディアプラットフォームは、多数あるチャネルの中のほんの一部にすぎないのだ。マーケティング費用とリソースのリスクを最小限に抑えるには、管理されていない少数のチャネルに多くのリソースを費やさないことが重要である。その代わりに、Webサイト、ホワイトペーパー、ブログ、ブランディングのような所有資産に投資するべきだ。

 

こうすることで、制御されたリーチを増やし、管理され、活用できるチャネル以外の資産を多様化し、消費者がいる場所に合わせてそれを最適化することができる。また、制御しにくい領域全体の感情に影響を与えるために、所有資産を活用することもできる。

 

所有資産の最適化は、従来のチャネルファーストのマーケティングを、十分なサポートを受け、連携した「キャンペーン」に変える。ブランドの資産構成比率に制御を導入し、デジタルエコシステムを構築し、より多く消費者との「直接のタッチポイント」を作り出し、本物のつながりを実現する。

 

ブランドは、権威あるストーリーテラーとして自身を語らなければならない。所有する資産を最優先し、サードパーティのチャネルを中核となるメッセージを増幅させることに利用するようにすれば、ブランドはソーシャルメディアの禁止令やそれ以上のどんな事態に直面しても、乗り切ることができるのだ。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の4/26公開の記事を翻訳・補足したものです。