AI時代のEC人材に求められるスキルは、何が変わったのか

 

ECサイトの運営に必要なスキルといえば、これまでは商品企画、ささげ、広告運用、受注管理、顧客対応といった業務ごとの「実務の腕」が語られてきた。ところがここ数年で、その前提は大きく揺らいでいる。商品説明文の下書きも、商品画像の背景処理も、問い合わせへの返信案も、いまや生成AIが数秒で出してくる。では、EC人材にはこれから何を求めるべきなのだろうか。

そこで今回は、EC運営の主要な5つの業務ごとに「これまで求められてきたスキル」と「これから求められるスキル」を対比し、AI時代のEC人材像を整理していく。採用や育成に携わるEC事業者や、これからEC業界で働きたいと考えている人にとっても、何がどのように変わっていくのかを理解するインプットとして欲しい。

 

 

データで見る、EC市場とAI活用の現在地

 

まずは市場の現在地を確認しておこう。2024年の国内BtoC-EC市場規模は26.1兆円で、前年比5.1%増と拡大を続けている。BtoC-ECのEC化率も9.8%まで上昇しており、ECが小売の主要チャネルの一つであることに変わりはない。

一方で、AIの活用状況はどうか。総務省の令和8年版情報通信白書によると、自社の何らかの業務で生成AIを利用している日本企業は86.4%に達したという。ところが、生成AIによる業務変革について「組織的な取組はない」と回答した日本企業は27.0%と約3割にのぼり、米国・ドイツ・中国に比べて顕著に高く、とりわけ中小企業でその傾向が強い。社員が個人の判断でAIを使ってはいるものの、仕事の進め方そのものは変わっていない――そうした企業が少なくないのが実情だろう。

その間にも、売り場の側は急速に変わりつつある。Yahoo!ショッピングでは、AIエージェント経由の取扱高比率が2026年7月時点で約20%に達したという。楽天市場でも、店舗向けのAIが商品説明文や画像の生成、問い合わせの回答作成などを支援しており、問い合わせ対応を70%削減した店舗や、商品画像の制作時間を9割以上削減した店舗の事例が紹介されている。

消費者はAIを通して商品を選び始め、売り場の裏側でもAIが業務を担い始めた。道具の普及に対して、それを使う人の側の役割の定義が追いついていない。このギャップが、顕著になりつつあるのだ。

 

 

一言でいえば何が変わったのか

 

結論を先に述べると、EC人材に求められるものは「作業をこなす人」から「AIに任せる範囲を決め、出てきた結果に責任を持つ人」へと移りつつある。

これまでは、画像加工が速い、広告の入札を細かく調整できる、問い合わせに素早く丁寧に返信できるといった、作業の量と速さ、ツール操作の熟練が評価の中心だった。しかし、成果物の「最初の下書き」をほぼ手間なく得られるようになったいま、価値の重心は作業の前後に移っている。前工程では、何を作らせるのか、どんな条件で問いを立てるのかを決める力が問われる。後工程では、出てきたものが正しいか、売れるか、法令やブランドに沿っているかを判断する力が問われる。そして、AIが自分では生み出せない「材料」である、顧客の声、商品知識、自社の販売データ等を持っていることが、そのまま差になる。

主な変化を整理すると、次のようになる。

観点 これまで これから
評価されるもの 作業の量・スピード、ツール操作の熟練 AIへの任せ方の設計と、成果への責任
仕事の起点 指示された作業 解くべき課題と目標数値
成果物の作り方 自分の手で一から作る AIに下書きさせ、判断と修正で仕上げる
情報の価値 どこかにある情報を集めて知っていること 自社にしかない一次情報(顧客の声・商品知識・販売データ)を持っていること
品質管理 制作者の腕に依存 事実・法令・ブランドを確認する仕組み
顧客との接点 検索結果やモールの一覧で、消費者自身が比較して選ぶ AIが比較・提案し、消費者が最終判断する場面が増える

 

 

業務別に見る、これまでとこれからのスキルの違い

 

ECサイトの運営は、商品企画やサイト制作、プロモーションといったサイトの土台をつくる「フロント業務」と、受注・在庫管理や顧客対応といった取引開始後に発生する「バックエンド業務」に大きく分けられる。ここからは5つの業務それぞれについて、何が変わり、何を求めるべきかを見ていく。

 

商品企画 ― 「発想する力」から「仮説を立て、検証する力」へ

これまで:自社製品を扱うECでは、消費者ニーズを捉えて0から1を生み出す発想力と企画力が求められた。仕入れ型のECでは、売れ筋を見抜く目利きと値付け、そして「いつ、どれだけの期間で、どれだけの量を売り切るか」という計画性が問われてきた。

AIで変わったこと:大量のレビューや問い合わせの要約・分類、競合商品の比較、需要の下調べといった作業は、AIが短時間でこなすようになった。モール側の店舗向けAIが競合との比較から改善のヒントを示す機能も登場している。インナーウエアを扱うあるストアでは、AIの比較分析をもとに送料無料対応を決めたところ、CVRが40%増、月間販売数が20%増えたという。ただし見落としてはならないのは、送料無料化という利益に直結する判断を下したのが、AIではなくストア自身だという点である。

これから求めるスキル:AIが出す示唆を、自社の利益構造や在庫、ブランドの方向性と照らし合わせて採否を決める判断力だ。調べる作業そのものより、「何を確かめるべきか」という問いの立て方が問われる。加えて、店頭や電話で聞いた生の声、作り手だけが知る商品の背景など、AIが参照できない一次情報を拾いにいく行動力の価値が高まっている。

 

サイト制作(ささげ) ― 「作る力」から「ディレクションし、品質を判定する力」へ

これまで:撮影・採寸・原稿のいわゆる「ささげ業務」に加え、画像加工やデザイン、ページ構成、購入までの導線設計が中心だった。撮影や画像加工は専門の技術者が担うことも多く、各分野のプロをディレクションしてチームで進める力も重視されてきた。

AIで変わったこと:5つの業務の中で最も変化が大きい領域と言えるだろう。背景の差し替え、着用イメージや利用シーンの画像生成、商品説明文の下書き、多言語化までを生成AIが担えるようになった。前述のとおり、商品画像の制作時間を9割以上削減した店舗の事例も出てきている。

これから求めるスキル:ディレクションの対象が「人」から「AI」にも広がったと捉えるとわかりやすい。何を伝えるべきかを定める企画力に加え、出てきた画像や文章が実物と合っているか(色味・サイズ・素材感)、薬機法や景品表示法に抵触しないか、ブランドの世界観を損なっていないかを判定する目利きが欠かせない。生成した画像が実物とかけ離れていれば、返品やクレームを招くだけでなく、表示上の問題にもなりかねない。速く大量に作れるようになった分、「出してはいけないもの」を止める力の価値が上がっているのだ。

 

プロモーション ― 「運用の腕」から「設計と計測の力」、そして「AIに選ばれる力」へ

これまで:リスティング広告やディスプレイ広告の仕組みを理解したうえでの細かな入札・配信調整、各SNSの特性の理解、費用対効果の算出が求められてきた。SNSでは、リアルタイムの情報発信を担うX(旧Twitter)、認知拡大の起点となるInstagram、既存顧客との継続的な接点となるLINE公式アカウントが主な舞台だった。

AIで変わったこと:変化は大きく2つある。1つは広告運用の自動化だ。主要な広告プラットフォームでは、AIが入札や配信先、クリエイティブの組み合わせを最適化する配信形式が主流になり、手作業による細かな調整の比重は下がった。もう1つは、消費者がAIを通じて商品を探し始めたことである。前述のYahoo!ショッピングの例に加え、2026年5月にはChatGPTの会話の中で同モールの商品を探せる連携も始まっている。これまで検索結果やモールの一覧で比較されていた商品が、AIの回答の中で比較・推薦されるようになりつつあるのだ。

これから求めるスキル:まず、AIに渡す「材料」を整える力である。何を目標の指標とするか、計測をどう設計するか、AIに学習させるコンバージョンデータの質をどう担保するか、どの訴求仮説をクリエイティブとして投入するか――運用の腕に代わって、こうした設計力が成果を左右する。次に、AIに正しく読まれ、推薦されるための情報整備だ。スペック、用途、サイズ、他商品との違い、よくある疑問への答えが整理された形で揃っているかどうかが、そのまま露出に影響する。いわゆるAIO・LLMOと呼ばれる領域である。さらに、2023年10月から広告であることを隠す表示が景品表示法の規制対象となったことで、インフルエンサー施策などにおける広告表示の管理も、プロモーション担当者の基本スキルになっている。

 

受注・在庫管理 ― 「正確に処理する力」から「仕組みを設計し、例外に対応する力」へ

これまで:注文の受付から梱包・発送までを迅速かつ正確に処理し、誤配送や品質不備によるクレームを防ぐリスク管理が中心だった。中規模以上のECではシステムによる自動化が進んでおり、受注管理ツールの仕組みを理解して使いこなすことが第一歩とされてきた。

AIで変わったこと:受注・在庫・出荷の連携の自動化はAI以前から進んでいたが、需要予測や配送状況の要約、遅延時の案内といった判断を伴う部分にもAIが入り始めている。たとえばYahoo!ショッピングは、過去の配送実績などをもとにAIが配送状況と見通しを要約し、遅延時には問い合わせ導線を案内する機能を打ち出している。

これから求めるスキル:自動化された業務フローを設計し、定期的に点検する力と、システムが想定していない例外――欠品、誤配送、災害時の遅延など――に人が判断して対応する力である。どこまでを自動化し、どこで人が確認するのかという線引きそのものが仕事になる。ツールの比較・選定とコスト感覚もあわせて求められるだろう。

 

顧客対応 ― 「一件ずつ答える力」から「答えの源を整える力」へ

これまで:「期日までに届かない」「届いた商品が違う」といった問い合わせへの丁寧な対応や、購入後の使用感を尋ねるメール、レビュー投稿の依頼といったアフターフォローが中心だった。

AIで変わったこと:生成AIによるチャットボットや返信文の自動作成が一般化した。モールの店舗向けAIでも、過去の返信を参考にAIが返信文を作成する機能が提供されている。問い合わせ対応を70%削減した店舗の事例は前述のとおりだ。

これから求めるスキル:AIの回答の精度は、AIが参照する情報の質で決まる。だからこそ、FAQや商品情報、対応ルールを整え、更新し続けるナレッジ整備の力が中心になる。あわせて、AIが答えられない、あるいは答えるべきではない案件――クレームや返金の判断、感情的な行き違いなど――を引き取って解決する対応力も欠かせない。そして、問い合わせやレビューに表れた顧客の声を、商品ページや商品企画の改善に戻していく力である。顧客対応は「コストのかかる窓口」から「改善の起点」へと、位置付けを変えつつあると言えるだろう。

 

 

AI時代に共通して求められる4つの力

 

5つの業務を横断して見ると、職種を問わず共通して求められる力が浮かび上がってくる。

 

AIに任せる範囲を設計する力

どの作業をAIに任せ、どんな形の出力を求め、誰がどこで確認するのか。この業務設計こそが、AI時代の中核スキルである。前述のとおり、日本企業の約3割は生成AIによる業務変革に組織として取り組めていない。個人がそれぞれAIを使っている状態から一歩進め、手順やルール、うまくいった使い方をチームの仕組みに落とし込める人材は、どの組織でも重宝されるはずだ。

 

AIの出力を検証する力

AIの出力には、もっともらしい誤りが紛れ込む。事実として正しいか、薬機法・景品表示法・著作権などの法令に抵触しないか、ブランドのトーンに合っているか――これらを見極めるのは人の役割だ。AIが作ったものであっても、表示や対応の責任を負うのは事業者自身である。検証の観点と手順を持っていることが、そのまま品質の差になる。

 

一次情報をつかむ力

AIが生み出すものは、学習や参照が可能な情報の範囲に限られる。誰でも同じAIを使える以上、差がつくのは自社だけが持つ情報――顧客の生の声、作り手の知識やこだわり、自社の販売データ――である。現場に足を運び、顧客と話し、商品を深く知ろうとする姿勢は、AI時代にむしろ価値を増している。

 

数字で判断する力

eccLabでは以前から、EC事業会社で働くうえで最も重要な能力の一つに「数字への強さ」を挙げてきた。この点はAI時代になっても変わらない。むしろAIが分析結果や施策案まで提示するようになった分、どの数字を見るべきか、示された施策が利益や在庫の観点で妥当かを判断する力が、一層問われるようになっている。

 

 

「それだけでは差がつかなくなった」スキル

 

AIへの対応がまだこれからという事業者にとって、とりわけ重要なのがこの論点だろう。これまで評価や採用の基準として重視されてきたスキルの中には、それ単独では差を生みにくくなったものがある。

  • 作業の速さと量:画像加工、原稿作成、問い合わせへの返信などを、手早く大量にこなせること
  • 広告の手動調整の細かさ:入札単価や配信設定を手作業で細かく調整し続けること
  • 定型的な集計・レポート作成:決まった形式でデータを集計し、資料にまとめること
  • 調べて知っている知識の量:業界情報や施策の事例を、検索して把握していること

もっとも、これらが不要になったわけではない。AIの出力の良し悪しを見分けるには、その作業を一度は自分の手でやった経験が効いてくる。問題は、これらを評価や採用の基準の中心に置き続けることだ。そうすると、組織が求める人材像が実際の業務とずれていき、AIを使いこなす人材ほど正当に評価されないという逆転が起きかねない。

逆に、価値が上がったのは、顧客を理解する力、判断を下す力、その判断の理由を説明できる力、そして社内外の関係者を巻き込んで物事を動かす力である。いずれもAIが代わりに担うことが難しい領域だ。

 

 

業種別に見る、重視されるスキルの違い

 

扱う商材によっても、AIで担える部分と人に残る仕事は異なる。代表的な4業種について整理しておこう。

業種 これまで重視されたこと AIで担うことが出来ること 人に残る仕事
食品 お中元・お歳暮など季節やギフト需要に合わせた販売計画、入数・価格・送料の設計、鮮度を保つ配送 需要予測、ギフト用途に合わせた提案文や商品説明の作成 アレルギーや賞味期限など誤りが許されない情報の確認、味や品質についての一次情報の発信
アパレル 実物を試せない弱点を補う見せ方(色味・素材感・サイズ感)、SNSを活用したブランド発信 着用イメージの生成、コーディネート提案、サイズの推奨 実物との差を生まない品質管理、ブランドの世界観の維持、インフルエンサー施策の広告表示管理
家電・電子機器 モデルチェンジに合わせた販売計画、型番買いによる価格競争への対応、メーカー直販と他チャネルの住み分け 型番ごとのスペック・価格の比較、用途に合わせた機種の提案 比較の場がAIの回答内に移ることを踏まえ、保証・サポート・独自特典などAIが比較の根拠にする情報の整備、チャネル全体の設計
家具・インテリア 使用イメージが伝わる空間演出の画像、期間中に売り切る計画、大型品での実店舗との住み分け 部屋に置いたイメージの合成、コーディネート提案 実寸や質感の正確な伝達、搬入・組立・配送の設計

いずれの業種にも共通するのは、AIが「見せ方」や「比較」を担うほど、その土台となる商品情報の正確さと、実物との一致を保証する人の仕事の重みが増すという点である。

 

 

採用・育成の現場で問い直したいこと

 

ここまでの変化を踏まえると、EC人材の採用や育成でも、見るべきポイントを更新する必要がありそうだ。

採用の面接では、「AIを使ったことがあるか」を尋ねるだけでは不十分だろう。「AIを使って何を変えたか」「AIの出力の誤りにどう気づき、どう直したか」「あえてAIに任せなかった判断は何か」といった問いのほうが、任せ方の設計力と検証力を見極めやすい。

育成の面では、AIの活用を個人任せにしないことが出発点になる。業務ごとにAI活用のルールや成功・失敗の事例をチームで共有する仕組みがあれば、個人の工夫が組織の力に変わる。一方で、新人が担ってきた下積みの作業をすべてAIに置き換えてしまうと、品質を見極める目を養う機会が失われるというジレンマもある。あえてAIを使わずにやってみる経験と、AIの出力を検証する経験の両方を、意図的に設計したい。採用・育成全般の考え方については、ECサイトを運営する企業が優秀な人材を採用・育成するために気を付けるべきこともあわせて参照してほしい。

未経験からEC業界を目指す人にとっては、むしろ追い風の面もある。作業の熟練度で経験者と競う必要が薄れた分、日常的にAIを使い込んでいる経験や、特定の商材・顧客層への深い理解が武器になりうるからだ。顧客対応やささげ、モール運営の補佐といった業務は、AIで作業量をこなしながら、品質の判定と顧客理解を実地で学べる入口になるだろう。EC業界の職種の全体像については、EC業界の職種と必要スキル総まとめも参考になるはずだ。

 

 

人材像の更新が、EC事業の成長を分ける

 

AI時代のEC人材に求められるものは、新しいツールの操作スキルそのものではない。何をAIに任せ、何を自分で判断するのかを決め、その結果に責任を持つ力に集約されるのではないだろうか。作業の速さや量が差を生みにくくなった一方で、顧客と商品を深く理解し、数字と法令とブランドの観点から判断を下す力の価値は、かつてなく高まっている。

消費者がAIを通じて商品を探し、比較し、選び始めたいま、売り手側の人材像を更新できるかどうかが、EC事業の成長を分ける要因の一つになるだろう。AI時代のマーケティング人材に求められるスキルについては、AI時代、より重要になるマーケティングスキルとはでも整理している。今後も、EC運営の現場におけるAI活用と人材の変化に注目していきたい。