フランスの多国籍自動車メーカーであるRenault Group(ルノーグループ)は、初の産業用メタバースを立ち上げ、デジタル化を加速している。現在、同社の生産ラインの100% (8,500台の機器)がこのメタバースに接続されており、サプライフローの90%は常に監視されている。また、サプライチェーンデータの100%は、「リアルタイムで制御される物理世界の真のレプリカ」とよばれるRenault Groupメタバースにホストされている。
Renaultは、デジタル技術により、すでに7億8,000万ユーロ (6億8,800万ポンド) の経費節約が実現している。2025年までにさらに3億2,000 万ユーロの節約が可能になるほか、車両納期の60%短縮と、車両製造における二酸化炭素排出量の50%削減、さらに、イノベーションサイクルの大幅な削減と、グループが目標とする保証コストの60%削減が見込まれるという。
「Renault Groupの工場の現場では、毎日10億点のデータが収集されている」と、Renault産業グループ担当EVP兼イベリア地域統括のJose Vicente de los Mozos氏は述べている。「メタバースにより、生産工程の俊敏性と適応性が高まり、生産とサプライチェーンの品質を向上させるリアルタイムでの監督ができる。Renault Groupはこの分野のパイオニアになりつつある」 。
Renaultによると、同社の産業用メタバースは 4つの次元からなり、完全で永続的でリアルタイムの産業用メタバースを構成しているという。1つ目はデータだ。すべての工場の現場からデータを収集するため、Renault Groupは独自のデータキャプチャおよび標準化ソリューションを開発した。産業用メタバースにフィードする大量のデータを収集するためのプラットフォームが開発され、生産プロセスのパフォーマンスをリアルタイムで実現するための手段を提供している。このソリューションは現在、ATOS(多国籍ITコンサルティング企業)と提携し、「ID@Scale」プロジェクトの名の下で産業関係者に販売されている。
2つ目として、Renault Groupは物理的な資産をデジタルツイン(現実の世界で収集したデータを、双子のようにコンピュータ上で再現すること)としてモデル化した。各工場は、仮想世界にそのレプリカを保有している。工場と同様に、サプライチェーンにも独自のデジタル化された世界がある。これは産業用メタバースの不可欠な要素であり、コントロールタワー(全体を最適化する機能)によってリアルタイムで制御されている。
3つ目の次元は、拡張されたエコシステムへの統合である。デジタルツインの使用は、サプライヤーデータ、販売予測、品質情報だけでなく、天候や道路交通状況などの外因性情報や、予測シナリオの開発を可能にする人工知能によって強化されている。
このデジタルトランスフォーメーションの加速を可能とするのは、4つ目の次元、つまり、クラウド、リアルタイム、3D、ビッグデータなどの高度なテクノロジーの融合である。Renault Groupは、デジタルツインとそのエコシステムを柔軟性のある方法で運用するために必要なテクノロジーの統合を目的とした独自のプラットフォームを開発した。
メタバースはより可視性の高い作業環境の管理を提供し、それによってアクターは意思決定における機敏性と自律性を獲得できる。ゲームの世界のテクノロジーは、ユーザーエクスペリエンスをより没入感のあるものにする。その一例が、バーチャルリアリティで実施されるペインティングトレーニングである。AIアルゴリズムにより、従業員は、サプライチェーンの専門家がフローの最適化や管理機能を行うように予測することができる。
「この技術的成熟度により、Renault Groupはデジタル化とトランスフォーメーションにおいて重要な一歩を踏み出すことができる。データの管理、高度な技術の選択、チームの専門知識はすべて、テック・カンパニーに向けて加速するための手段なのだ」と、情報システム・デジタル部門EVPであるFrédéric Vincent氏は語る。
「この産業用メタバースはユニークなものであり、これまで見えなかった効率とパフォーマンスのレバーを活性化し、人々と環境に利益をもたらすことができる」と、Renaultの産業戦略およびエンジニアリング担当VPのPatrice Haettel氏は述べている。「グループレベルでのデータ管理により、たとえば、すべての産業および非産業拠点のエネルギー消費を詳細に監視し、とりわけ工場が停止した時には、リアルタイムでそれらを最適化することができるのだ」。
※当記事は英国メディア「Mobile Marketing Magazine」の11/14公開の記事を翻訳・補足したものです。