新型コロナウイルス感染症によるパンデミック後の旅行は、以前と同じに戻ることはないだろう。しかし、確実に復活の兆しがみえてきている。
今後数か月で人々がロックダウン(都市封鎖)や制限から脱し、外に出て世界を再び探索することに目を向けるようになると、旅行は人気のある、価値の高い活動になると予想される。
「短期的には、旅行はより複雑になっている。ほぼすべての目的地で様々な新型コロナウイルス検査が実施されていることを考えると、ただフライトを予約してパスポートを手に取って出かけるというだけの簡単なことではない」と、Liberty Travel(米国の旅行・クルーズ小売企業)の上級副社長であるChristina Pedroni氏は語る。
昨年、世界中であらゆることが変化し、旅行者や旅行プラン設計を行う業者は、出発前に相当量のリサーチをしなければならない。
「現在の環境下では、旅行するために知っておくべきことや理解しておくべきことがたくさんある。渡航者の入国、検査、検疫や政府が課す要件が非常に流動的であるため、旅行代理店の価値はかつてないほど明白になっている」とPedroni氏。
増加しているのは、レジャー目的の旅行だけではない。人々が対面式の会議を再開するため、ビジネストラベル(業務渡航)はすでに増加傾向にある。
「新型コロナウイルス感染症の勢いが収まるにつれ、かなりの数の人々が出張を再開している。Zoomは、非常に優れた代替手段ではあるが、顔を突き合わせた(対面式の)会議と同レベルの関係を築くことはできない」とCustom Travel Solutions(米国のB2Bトラベルソリューションプロバイダー)のCEOであるMike Putman氏は語る。
積もり積もった需要
エネルギーが押さえ込まれていたがゆえに、人々が解放され、旅行に出かけるようになると、このような需要増加が生じ、客室、車、フライトやその他の施設の利用が制限される可能性がある。
「もちろん、非常に大きな需要がある。しかし、依然として、一部のサービスが制限されている。レンタカーの台数不足など資本面の制約や、レストランが従業員を再雇用できずに入店可能な顧客数が限定されるなどのサービス面での制約によるものである」とPutman氏。
今の需要の増加は、空き状況や価格に影響を与えるだろう。
「中期的には、旅行に対する需要は非常に大きく、最も人気のあるホテル、リゾートや目的地は空室が少なくなり、その結果、需要に応じて価格も上昇するだろう」とPedroni氏は述べる。
優先順位の変化
パンデミックによって旅行そのものが変化した。そして、大きな変化の一つは、健康、ウェルネスや清潔さへの関心が高まったことだ。
「何よりもまず、健康と安全のプロトコル(取り決め)は、すべての旅行者にとって重要であり、旅行業者にとっては、あるとよいではなく、なくてはならないものとなっている」とPedroni氏は説明する。
「人々は健康と安全に関する安心感のために、より多くのお金を払ってもよいと思っている。旅行者は、自宅の四方の壁を越えて外に出たいと思っている。目的地は重要ではあるが、それは新型コロナウイルス前ほどではない。目的がリラクゼーションであれ、新しい体験であれ、冒険であれ、目的地ではなく、その旅行、つまり『旅をする行為』自体が重要なのだ」と同氏。
また、パンデミックの結果として、旅行者は新しい種類の快適さを求めている。これには、休暇中でもリモートで仕事をするためのサービスなどが挙げられる。
「プライバシーや排他性、また長期休暇やリモート勤務への要望が高まっている」とVelas Resorts(メキシコの高級リゾートチェーン)の副社長であるJuan Vela Ruiz氏は述べる。
これを受けて、Velas Resortsは、「Home to Grand」プログラムを発表した。このプログラムでは、プライバシーを重視したサービスとして、プライベートビーチやプライベートオフィス専用用エリアの設置や、個人向けのクラスや自分たちだけのプライベートなダイニングサービスなどが用意されている。
ロイヤルティリワード
また、旅行者は、パンデミックの間に、利用する機会が減っために、使用できなかったポイントのステータスやその他の特典を維持したいと考えている。1つには、パンデミックが収束したときにこうしたポイントを利用したいと思っているからだ。
「パンデミック発生前においては、プログラムメンバーは、旅行の予約時に、より利便性が高く、使い勝手のよいもの、リーズナブルなレートで交換できる特典のより豊富な選択肢、そして全体的によりパーソナライズされた体験を求めていた」と、Engage Peopleの(ロイヤルティプログラム等のソリューション事業を提供するカナダ企業)のCTOであるLen Covello氏は話す。
「これらすべては、依然として、最優先事項である。しかし、旅行の制限が緩和され始めると、プログラムメンバーは、利用が大幅に減少したにもかかわらず、ホテルと航空会社のステータスを維持する方法も模索している。多くの航空会社とホテルが、特定のロイヤルティレベルでの条件基準を引き下げているのと同じだ」と同氏。
特に、新興市場では、旅行代金の決済方法にも影響が出ている。
dLocal(グローバル企業と新興市場をつなぐクロスボーダー決済を提供するウルグアイの金融テクノロジー企業)のアジア担当責任者であるSue Ann Seet氏は次のように話す。「旅行業界は、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響を最も受けた業界の一つだ。そして、状況が求める変化にいち早く対応した業界でもある。当社では、国際線に比べて国内線が増加している」。
「新興市場での支払いに関しては、これまでになく決済のデジタル化への動きが見られる。より成熟した国では当たり前のことかもしれないが、新興市場諸国ではいまだに非常に現金主義が根強く、デジタルトランスフォーメーションの真っ只中にある。パンデミックは、このプロセスを加速させたのだ」と同氏は述べる。
責任ある旅行
変化したのは旅行だけではなく、旅行中にどのようなショッピングをするかという点も変わってきている。例えば、人々は、ワインなどの実際に使う高級なお土産を持ち帰りたいと考えるようになっており、そのお土産を旅先で安全に保管するためのスーツケースを探している。
「観光客は、ワインを買って家に持ち帰り、旅の思い出を楽しみたいと思っている」とFlyWithWine(ワインアクセサリーを扱う米国企業)のCEOであるRon Scharman氏は話す。
「当社のVinGardeValiseワインスーツケースは、第4世代となった。当社は、今日の空港での手荷物の取り扱い状況の悪化にもかかわらず、ワインを安全に運ぶことができるように、旅行中の商品と消費者の体験を向上させるための機能を追加した」。
最後になるが、旅行者はかつてないほどに環境を意識しており、従来の旅行に代わるサスティナブル(持続可能)な方法を求めている。
「現在、旅行者と目的地のいずれにとっても、旅行における持続可能性に新たな焦点が当てられている。旅行業界全体で、どのように責任を持って世界中を旅行できるかを示す、素晴らしい取り組みが行われている。これは、次世代の人々が旅行者の中心となるにつれ、普通であり、当然期待されることとなるだろう」とPedroni氏は説明する。
※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の6/23公開の記事を翻訳・補足したものです。