消費者が、かつてないほど多様なデバイスを使うようになり、パーソナライズされたインタラクションを求めるようになればなるほど、マーケティング担当者はIDデータ検証プラットフォームを活用し、点と点を結びつけることが可能になる。

 

消費者が複数のチャネルやデバイスを通じてやり取りすることで増え続ける顧客識別子を、一個人に結び付ける技術「IDデータ検証」は、マーケティングの成功に不可欠であるだけでなく、カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)やEU一般データ保護規則(GDPR)などの新しい消費者プライバシー法の遵守においても極めて重要である。

 

スマートスピーカーやスマートホーム、スマート家電、ウェアラブル機器を取り入れる消費者は急激に増加し続けている。アメリカのコンピュータネットワーク機器開発会社Ciscoのレポート「the Cisco Annual Internet Report(2018-2023)」によるとIPネットワークに接続されるデバイス数は、2023年までに、世界人口の3倍以上に増加すると予測されている。つまり、一人当たり3.6台のネットワークに接続されたデバイスを持つことになるということだ。同社は、2023年には、消費者による接続デバイスと接続の消費者利用シェアは、市場全体の75%近くに拡大すると予測。ビジネス利用のIPデバイスと接続は、市場全体の4分の1を占める程度だという予測だ。

 

同時に、消費者が望むタッチポイント全てにおいて、関連性の高いパーソナライズされたブランドとのインタラクションに対する消費者の期待は、急速に高まっている。今日の購入者は、ますます賢明になっており、ブランドが消費者について何を知っておくべきか、また、自分たちが購買ジャーニーのどの段階にいるかについてより理解しているため、画一的なマーケティングアプローチは機能しない。アメリカの市場調査会社Forresterが行った調査では、回答した消費者の4分の3は、ブランドが電話をかけたり連絡を取ったりする理由を事前に知りたいと思っていることがわかった。

 

この激しい競合環境においては、ブランドマーケティング担当者は、その消費者が誰であるかだけでなく、どのオンラインデバイスがどの消費者のものか、もしくは、どの消費者がどのオフライン行動をとったかを認識することが不可欠だ。アメリカの経営コンサルタントWinterberry Groupが実施した調査では、マーケティング担当者の半分以上が、クロスチャネルオーディエンスのID識別と照合が最優先事項だと回答している。チャネルにかかわらず、消費者がブランドを利用するたびに、その個人毎に異なる識別子(キーとも言う)を割り当てることができる。これらの識別子には、電子メール、IPまたは物理的な住所、携帯電話番号、デジタルタグやCookieを含めることができる。

 

ただし、消費者のアイデンティティ(ユーザーを識別するための情報)を正確に照合することは、ブランドマーケティング担当者の多くにとって難しい問題だ。Forresterによると、ブランドマーケティング担当者の71%が、長い間、チャネルを超えて正確な顧客IDを維持するのに苦労しているという。また、アドレスが特定できるオーディエンスのうち何人がアクティブなのか、オンラインでリーチ可能なのか把握するのが難しい、と答えたマーケティング担当者がほぼ同数いるとのこと。その結果、マーケティングキャンペーンを実行する際には、不正確なターゲティングと無駄なマーケティング支出に悩まされ続けている。

 

図1:マーケティング担当者のIDデータ検証における問題点

時間の経過や変更による正確な顧客IDの維持 71%

アドレス指定できるオーディエンスのうちアクティブなのか、オンラインで連絡が取れるのか割合を知ること 69%

アドレス指定できるオーディエンスの拡張性 63%

デバイス、ブラウザ、タッチポイントをまたぐメッセージの精度 58%

オプトアウトや顧客のプライバシーコントロールが実施されていることの確認 40%

出典:Is Your Identity Program Built on a House of Cards?(登録が必要)

Epsilon Conversantが依頼、Forrester Consultingが発行

 

2022年にはIDデータ検証への支出額が26億ドルに

IDデータ検証プラットフォームは、ファースト、セカンド、サードパーティのデータソースに基づいて、永続的な個人および/または世帯のプロファイルのデータベースを作成し維持する。そしてそれは、ブランドマーケティング担当者が、IDデータ検証における障害を克服するのに役立つ重要なツールになりつつある。Winterberry Groupの予測によると、アメリカのマーケティング担当者は、2022年までにIDデータ検証プログラムに26億ドルを支出すると予測。これは、4年間で累計188%増となるとのこと。この投資の増大は、アイデンティティ・プログラムが、カスタマーエクスペリエンスとピープルベース・マーケティング(複数のデバイスを関連付けてひとつの顧客プロファイルを作成して実行するマーケティング)イニシアチブにおいて、重要な役割を果たすことを明確に示している。

 

Forresterによると、マーケティング担当者の3分の2は、1年以上前からIDデータ検証戦略を実行していると回答。そして、その多くは投資に対して大きな利益を上げ始めている。より完璧な顧客プロファイルと、より優れたデータ制御およびセキュリティは、IDデータ検証機能の改善がもたらす2大利点なのである。

 

図2:IDデータ検証機能の改善による利点トップ5

より完璧な顧客プロファイル 44%

より良いデータ制御およびセキュリティ 42%

より良いもしくはさらなるアップセリングおよびクロスセリングの機会 42%

より効果的なマーケティング測定 41%

分析能力の改善40%

出典:Is Your Identity Program Built on a House of Cards?(登録が必要)

Epsilon-Conversantが依頼、Forrester Consultingが発行

 

より多くのブランドがIDデータ検証戦略を実行し、同技術を導入したとしても、成功までには依然として重大な課題がある。顧客データは企業全体に散らばっており、多くの場合は、サイロ化された組織で保管されているため、マーケティング担当者が顧客との関係を築き育てる際の障害になっているのだ。消費者は、さまざまな識別子を使用する。つまり、あるデバイス(デスクトップCookieまたはログイン名)で何かを調べ、誰かに電話をかけ(携帯電話)、店舗で何かを購入する(ポイントIDまたはクレジットカード)。それぞれの識別子は、全く別の収集とマッチングの要件をもつ異なる部署に存在しているかもしれない。

また、マーケティング担当者は、サードパーティのCookieや位置情報などのいくつかのデータフォーマットにアクセスができなくなってきている。これは、Googleやアプリデベロッパーが、消費者のプライバシー保護のために、より多くのツールをさらに提供するようになった結果である。イギリスの位置情報検証会社Location Sciencesは、iOS13がリリースされた2019年9月から、数千万人のiPhoneユーザーが、多数のモバイルアプリに対し、使用していない時には位置情報を追跡できないように設定したと推測している。

 

これに対して、IDデータ検証プラットフォームベンダーは、新しい製品を開発している。例えば、アメリカのマーケティング代理店MerkleのIDデータ検証プラットフォームMerkury によって、ブランドは、自社(ファーストパーティ)データに基づいてプライベートなアイデンティティグラフを作成することができる。また、ベンダーは、共同のデータ共有契約を結び、セカンドパーティデータに基づくアイデンティティグラフも作成している。

 

例えば、アメリカの情報サービスおよびテクノロジー企業Neustarのセカンドパーティー・データマーケットプレイスは、匿名化された共通のアイデンティティ・アセットを使用する複数のブランドからのファーストパーティ・データを使用する。参加ブランドは、カスタムオーディエンスプールを構築、計画、アクティブ化、測定し、アドレサブル(子を特定可能な)メディア全体で、顧客をターゲティングしたり削除したりすることができる。Oracle Data Cloud Cooperative(共同データクラウド)は、同様に、1,500以上の小売パートナーから提供された個人ベースの参照データをシェアし、その見返りとして、類似オーディエンスやネクストレベルオーディエンスのモデル化された結果を受け取る。

 

消費者の偽情報、プライバシー規制がもたらす課題

自分のプライバシーをさらに守ろうとして、組織のデータリンクの取り組みを弱体化させるべく、わざと名前をタイプミスするなどデータ品質エラーを引き起こす、偽個人情報キャンペーンを行う消費者が増えている。IDデータ検証は、マーケティング担当者が人物の全体像を作るためにデータをつなぎ合わせるのに役立つが、それは簡単ではない。内部組織のサイロ化が廃止されたとしても、自社システム内で独自のマスターIDを使用し、顧客IDをマーテックエコシステムパートナーにエクスポートする際に、また別の問題が発生するかもしれない。

 

消費者データに関する新しいプライバシー規制の開始は、効果的なアイデンティティ・プログラムを構築したいマーケティング担当者にとっても、大きな課題となる。Winterberry Groupとが共同で発表した調査によると、マーケティング担当者の半数以上は、政府規制は、データ主導のマーケティングイニシアチブから価値を引き出す力に対する最大の障害である、と述べている。

 

マーケティング担当者は2018年5月以降、GDPRに適応しなければならなくなっているが、複数の調査によると、その準拠率は8~42%程度だという。CCPAは2020年1月から施行されており、コンプライアンスを遵守していないブランドは、罰金を科されるリスクがある。たとえば、消費者によって個人情報の開示要求がなされた場合、それに応じてすべての関連データを開示できない場合などである。事実上、このレポートに出てくるIDデータ検証プラットフォームベンダーのすべてはGDPRを準拠しており、データの使用方法に対する消費者の同意に関しても、はっきりとしたポリシーを有している。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の5/18公開の記事を翻訳・補足したものです。