エシカルとは、倫理的、道徳的という意味だ。そこから一歩進んで、エシカル・eコマースとは、環境保全や社会貢献を考えた、永続的な取り組みを行っているeコマース事業・サービスということになる。日本ではここまでの概念がeコマースビジネスに取り入れられているケースは少なく、事業の優先順位の中でもいまだに低位に位置付けられていることが多い。しかし欧米を中心に着実にこのエシカル・eコマースの概念は浸透してきており、大手サービサーでも導入が進んでいる。

 

倫理とビジネスの融合が進む欧米

企業が、単にビシネスを行えばいいという時代は去った。現在では、企業の価値と倫理が、そのアイデンティティに重要かつ永続的な影響を与えることは当然だと考えられている。

企業は、販売している製品から従業員の待遇に至るまで、自社の信念と実際に行なっていることを区別することは、もはや不可能である。そして、顧客は、自分たちが関わる企業が何を支持しているのかを知りたいと思っている。倫理とビジネスの融合である、CSR(企業の社会的責任)は単なるバズワードではない。それは、ビジネスのベストプラクティスになりつつあるのだ。

「企業の社会的および倫理的価値を、事業と一致させることはポシティブな効果を生み出している」と、米国のコンサルティング会社であるISP Consultingの創設者であるLauren J. Litton氏は述べている。

「そうすることにより、従業員の定着率を改善し、会社の評判を高め、投資家と消費者の両方を惹き付け、さらに重要な意味を持つ環境と社会正義への取組みを促進することができる」と、同氏は語る。

 

正しいビジネス

近年設立された多くのeコマース企業は、サステナビリティ(持続可能性)からソーシャル・ジャスティス(社会正義)に至るあらゆる信念を、製品の製造、マーケティング、販売、流通の業務と融合しようとしている。

「私たちは、適正な方法で製造された、高品質でオーガニック、そして、サステイナブルな商品を、適正価格で提供することによって、消費者が洋服や家庭用テキスタイルにおいて、より良いチョイスをできるようサポートしたいと考えている」と、オーガニックコットン製品ブランド、LittleLeaf Organicの共同設立者である Lisa Ingramは語る。

「そうすることで、より倫理的で、より環境に配慮し、より価値のある、関わるすべての人がやりがいを感じるサプライチェーンを構築できる」と、同氏は言う。

企業は、倫理的価値観に合致する明確なミッションを持つことにより、顧客、サプライヤー、その他の出資者と強固な関係を築くことが可能となる。

「そうすれば、自社の方向性と目的がより明確になる」と Ingram氏。「私たちは、顧客と、はるかに興味深い掘り下げた議論をし、物を売るというビジネスを、よりやりがいのあるものにしている。これにより、当社のようなブランドには非常に多くの付加価値があり、顧客とのより深い長期的な関係を構築することができるのだ」。

目的とミッションを明確化することは、拡張されたエシカル・ネットワークにとってもメリットがある。

「私たちにとっての最大の喜びの1つは、サプライヤーと関係性を大幅に改善できている点である」とIngram氏は述べる。「たとえば最近、当社の商品製造の大部分を占めるインドの工場を訪問した際、誰もが共通に感じたことは、その経験すべてが古くからの友人を訪問したようであったということだ。このことは、個人的に実りある経験であるとともに、より強固なコミュニティ意識につながるものである」。

ソーシャル・ジャスティス問題への理想的なコミットメントを掲げることにより、企業と交流するすべての人の問題に対する認識を高めることができる。たとえば、エシカル商品のギフトボックスを販売するPacked with Purposeは、そのミッションを販売商品と組み合わせることにより、社会問題の認識を高めようとしている。

「インパクトをもたらす個人的なストーリーを、贈り物をするというプロセスに組み込むことで、ギフトを変革している」と、Packed with Purpose CEOのLeeatt Rothschild氏は語る。

「当社は、社会貢献目的を追求する組織から製品を調達することにより、社会的な影響を与えることができる、高品質のビジネスギフトおよび個人の贈り物をキュレートしている」と同氏。「その結果として、社会貢献をしながら、印象的でユニークなギフト体験を提供している」。

Packed with Purposeの社会的ミッションは、販売製品と、それらの製品を製造する人々によって表現されている。

「当社のチョコレート・プレッツェルは、職業および住居プログラムに参加している障害を持つ成人によって作られている」とRothschild氏。「また、当社の手吹きガラス製ワインストッパーは、アートによる“トラウマ・リカバリープログラム”に参加している銃暴力の被害を受けた10代の若者によって制作されている。職人技を感じさせるグラノーラは、ワシントンDCで虐待被害を受け、経済的および個人的な独立への道を歩んでいる女性によって製造されている。すべてのギフトによって、自分たちのコミュニティの人々の人生を変えることができるということである」。

 

真正性の力

倫理を商取引と一致させようとする企業にとって、マーケティング戦略としてだけでなく、誠実に実行することは、重要である。

「企業が行うあらゆる取組みは、本物でなければならない」とLitton氏。「eコマース企業は、社会的責任を負うことで、競争上の優位性を獲得してきた。しかしそれは、単純なことではない。消費者は情報に精通していて、消費者同士を惹き付ける、または評判を獲得し、維持することを目的としたアプローチの本質を見抜く。その結果、企業は、ソーシャルメディアとレーティング(評価)においてネガティブな注目を集めることになり、逆効果となるのだ」。

単にビジネス上の利益のために倫理的スタンスを取り入れることは、倫理志向ビジネスのコミュニティ全体とそれらをサポートする顧客に損害を与える恐れがある。

「倫理的およびサステイナビリティに関する問題に対する公共の利益を、自社の短期的な利益のために利用しようとする企業によって、この問題の公の議論は、マイナスの影響を受ける」と、LittleLeaf OrganicのIngram.氏。「彼らは、私たちが促進しようとする取組みの特性に対する評価を下げ、信頼を築くことを難しくしている」。

また、倫理志向の企業にとって、エコシステム内の誰もが、その企業のミッションをサポートすること、または、少なくとも矛盾していないことが、極めて重要である。

「企業にとって、取引しているサプライヤーの価値観が自らのミッションと一致していることは不可欠である」と語るRothschild氏。

「Purposeful Purveyor(Packed with Purposeへ商品を提供する組織)を選び、審査する際に、徹底的な調査を実施することは、重要な業務の一部である。当社は、女性のエンパワーメント、環境、青少年育成、労働力開発、健康とウェルネスの5つの分野に影響を与えることにフォーカスしている。当社への商品提供団体には、これら5つの分野に該当するだけでなく、商品の品質、梱包、配送における高い基準を満たすことが要求される」と同氏は説明している。

また、企業は、倫理的な組織であるためには、長期にわたってその目標を維持するためのリソースへのコミットメントを必要とすることを認識すべきである。

「企業にとって、社会的および倫理的により重い責任を負うということは、間違いなく投資である」とLitton氏は述べている。「それは、簡単でも静的なタスクでもない。企業は、より社会的な責任を担うための取り組みを少しずつ進めることができるが、その遵守性と影響を継続的に監視する必要が生じる」。

 

最終的に、大義への奉仕は、エシカル・コマースを成功させる主要な要素なのである。

「コミットすることが重要である。エシカル・プラクティスを、短期的なマーケティング策略として利用しようとすると、驚くほど面倒な仕事となるだろう。結局のところ、長期的には機能しないのだ」と、Ingram氏。

「また、自社のビジネス全体において、信念を伝えなければならない。たとえば当社では、多大な労力と追加コストをかけ、商品パッケージをリサイクル可能、または堆肥化できる素材に最大限変更した。真のエシカル・ビジネスを行うことは、顧客やサプライヤーとのより強力で長期的な関係の構築につながるだけでなく、最終的には、はるかに高い満足感を得ることができるものなのだ」。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の9/19公開の記事を翻訳・補足したものです。