”破壊”は、ビジネスの失敗と成功を推進する。多くの人々がテクノロジーは破壊を推し進めると考えているが、テクノロジーは、破壊を可能にしているだけであり、変わりゆく顧客のニーズこそが破壊を引き起こしているのだ。特に、eコマースにおいて、この点は顕著である。Amazonの急速な成長と顧客数の増加は小売業者を不安にさせた。経営者はオンラインプレゼンスを高めることで、成長が回復すると考えたが、それは間違っていた。
Walmartについて考えてみよう。同社は、1990年代の小売業界の状況を変えた。しかし、2012年から2016年にかけて、売上成長と利益は着実に減少し、収益成長率は、2012年の6%から2016年には1%減のマイナス成長。純利益率は4%から3%に減少した。
2017年から2019年(予想値)においては、収益は1%から3%に増加する一方で、純利益はというと3%から1%に減少。このように、Walmartは、売上を伸ばしたが、それは採算性収益性を犠牲にしたものだった。
Walmartは、真の問題点を分析して解決しようとする代わりに、eコマースの新たな市場を模索することにした。同社は、自社の減収と顧客の不満はAmazonに責任があると考えたのだ。
Walmartは、一部の従業員の苦情といくつかの顧客の問題に対処したが、2016年に米国のeコマース企業Jet.comを30億USドルで買収し、eコマースを拡大することに重点を置いた。その後Walmartは、高級紳士服ブランドBonobosや女性向け衣料品のオンライン専門店Modcloth、アウトドア用品大手Moosejawなどのブランドを買収した。
さらにWalmartは2017年1月、200万点の商品について、35ドル以上のオンライン注文に対して2日以内の無料配送サービスも導入。Amazon Primeとは異なり、このサービスの利用には年会費はかからないものであった。サブスクリプション方式ではなかったため、当然のことながらこの無料配送サービスは会社に多額の損失をもたらした。
2017年から2019年において、Walmartのオンライン収益の全収益に占める割合は3.2%から4.7%に増加すると予想されるが、利益率は2.8%から1.0%に急速に低下の見込み。 Walmartのオンライン販売の増加が収益性に及ぼす影響を正確に解明するのは難しいが、eコマースがWalmartの収益にプラスになっていないことは明らかだ。
他の小売業者も、eコマースへの投資によって同様の課題に直面している。Macy’s(米国最大手の百貨店)は、オムニチャネル戦略によるデジタルトランスフォーメーション(IT技術を利用した新しいビジネスモデル)の先駆者であった。同社のeコマース は2010年にはスタートしていたにもかかわらず、収入と利益は伸び悩んでいる。一方で、TJX(米国の百貨店チェーンTJ Maxxの親会社)とInditex(スペインのアパレルメーカーZaraの親会社)は順調だ。
TJXとZARAのいずれも、オンラインプレゼンスは限定的だ。TJ Maxxは有名ブランド品を割引価格で仕入れることにより、フレッシュで安価な商品をそろえている。ZARAのサプライチェーンは、ランウェイのファッションを取り入れた商品をすぐに店舗にそろえている。
結果が出ない
eコマース戦略で結果が出ないのはなぜか? 答えは簡単だ。ほとんどの小売業者が実行しているeコマース戦略が、問題の根本的な原因に対処していないからだ。彼らの戦略が顧客のニーズに対応していないため、顧客はよそで買い物をするのである。
Walmartは収益が減少した際、在庫を削減し、スタッフを解雇して対応した。それは、事態をさらに悪化させた。顧客は自分がほしい商品を見つけることができないと不満を述べた。解雇によって士気が低下し、従業員は顧客の簡単な質問に対応し回答することを拒否したのである。
業界アナリストは、Walmartの品ぞろえの悪さ、会計待ちの長い列、カスタマーサービスの悪さについて顧客が不満を口にしていることを定期的に指摘していた。Walmartのビジネスを破壊しているのはAmazonやeコマースではなく、顧客なのである。問題を認識して解決することなく、オンラインに移行しても、収益と採算性は向上しない。
同様に、Macy’sが収益と利益を伸ばすことができなかったのは、顧客が同社の商品に魅力を感じていなかったからだ。TJ MaxxとZaraは、Macy’sよりも、手頃な価格でファッション性の高い商品を提供し顧客のニーズに対応している。どちらも、顧客に非常に人気がある。
Amazonでさえも無敵ではない。2016年の市場シェアはオンライン小売業界全体の1.3%で、2011年の高い数値からは減少した。一方で、中国のeコマース大手であるAlibabaとJD.com(京東商城)は、かなり大きな市場シェアを保持し続けている。
成功するeコマース戦略をどう立てるか
現在では、どの事業者にとってもオンラインプレゼンスは必要である。しかし、eコマースサイトがあるからといって、顧客がその企業から自動的に買い物を始めるわけではない。オンラインは、単に製品を顧客に販売するためのチャネルに過ぎず、提供する商品とサービスは顧客のニーズに合っている必要があるのだ。以下は、企業が効果的にeコマース戦略をデザインするために役立ついくつかのステップである。
- ステップ1: ターゲットとなる顧客セグメントを特定する
すべてのセグメントに同じ戦略を適用することはできない。靴や衣料品を販売する欧州のeコマース企業 Zalandoは、eコマースのプレゼンスを国ごとにカスタマイズする利点を示している。Zalandoの各国に適した決済方法の提供と地元ブランドの活用は、大成功した。顧客の興味に基づいて各々の顧客セグメントを個別にターゲティングすることは、この点における成功への最初のステップである。
しかしほとんどの企業は、自社の顧客セグメントを適切に特定していない。彼らは、サイコグラフィックス(顧客の価値観、趣味、購買動機や商品の使用頻度などの心理的要因)と人口統計学に従って顧客をセグメント化しているのである。これらは、マーケティングや広告には有効かもしれないが、購買行動についてのインサイトを提供するものではないため、サービスのターゲティングには有効ではない。
より効果的な方法は、利用状況やビジネス指標といった測定可能な購入行動によって顧客ベースをセグメント化することだ。たとえばAmazonは、プライムプログラムにおいて、オンラインショッピングの頻度が高い顧客をターゲティングし、売上と利益を伸ばした。一方Walmartは、35ドルを超えるすべての購入に対し送料無料サービスを提供し売上を伸ばしたが、利益を犠牲にした。 ターゲットセグメントを慎重に識別することは、企業の収益力の向上に役立つのだ。
- ステップ2: ターゲットとなるセグメントの顧客ニーズを特定する
顧客のニーズを理解することは、破壊に対処するうえで最も重要なステップである。そして、多くの企業は、顧客のニーズを理解するために十分な努力をしていない。彼らは、顧客から聞く「要望」に重きを置いている。
Steve Jobs氏はこう言った。「『顧客がほしがっているものを与えよ』と言う人もいるが、それは、私のアプローチではない。私たちの仕事は、顧客が実際にほしがる前に、何をほしいかを考え付くことだ。Henry Ford氏(自動車会社フォード・モーターの創設者)は、かつてこう言ったと思う。『 顧客に何がほしいかと尋ねたとしたら、彼らは“もっと速く走る馬!”と答えていただろう』。人は、提示されるまで自分が何を望んでいるのか分からないものなのだ。だから、私は、市場調査に決して頼らない。我々の仕事は、まだ何も書かれていないページを読むことだから」。
このプロセスにおいては、世代交代も考慮しなければならない。若い世代には、違ったニーズがある。企業が事業を続けたいのであれば、ミレニアム世代(1980年代から2000年代初頭生まれの世代)とZ世代(1990年代半ばから2000年代前半生まれの世代)が何を望んでいるかを把握する必要がある。それは、ベビーブーム世代が望んでいるものとは異なる。
たとえば、ミレニアム世代とZ世代はスタイルアドバイザリーが好きだ。企業がオンラインで衣料品を販売しているなら、スタイルアドバイザリー・サービスの提供は必須である。一例として、Zalandoは、その本拠地であるドイツでメッセンジャーアプリのWhatsAppを通じて個人的なファッションアドバイスを行う150人のファッションスタイリストを雇用している。
どのようなビジネスであれ、顧客セグメントを特定し、顧客のニーズを分析する必要がある。このプロセスは、病気の症状に対処する薬を処方するだけではなく、医師が病気の根本的な原因を診断することに似ている。
- ステップ3: (オンラインでもオフラインでも)顧客のニーズに合致する戦略を立てる
企業が顧客ニーズを特定した後は、これらのニーズに合致する戦略を考える必要がある。eコマース企業にとって、簡単な注文や返品プロセスの提供などのサービスは、顧客の支持を得るのに不可欠である。
Zalandoは、無料配送を行っており、顧客は購入後100日以内は無料で商品を返品することができる。同社の購入商品の50%は返品されているにもかかわらず、ZalandoはAmazonより格段に早いスピードで利益を生み出しているのだ。
eコマース市場が飽和し始めているため、企業は、顧客ニーズを満たす他の方法を見出す必要がある。それは、パーソナライゼーションや品質、その他の方法によって可能となるかもしれない。ターゲットとなるセグメントでの顧客ニーズを慎重に調査することで、実行すべき最適な戦略が見えてくるだろう。これは、マーケットで他社の一歩先を行くことではなく、実際の顧客のニーズに応え、それを実現することである。
- ステップ4: テクノロジーで可能にする
最初ではなく最後に実行すべきステップは、適切なテクノロジーを用いるということだ。企業は、Amazonなどの既存のeコマースサイトと提携したり、直販型のサイトを開発したり、またはその両者を採用するかを選択することができる。
eコマースサイトと提携することで、サイト訪問者に迅速なアクセスを提供できるが、二つの大きな問題がある。一点目は、ブランドアイデンティティの喪失であり、二点目は、顧客情報を失うという点だ。
一部のeコマースサイトは、セラーのこのような懸念に対処し始めている。Zalandoは、自社サイト内に、Adidas、Nike、Vansやその他のセラーブランドのストアを設けることを認めている。これは、セラーとZalandoの双方にとって利益がある。
セラーは、さまざまなテクノロジーを利用してeコマースサイトをすばやく構築することができる。woo-commerce(WordPressをECサイトにするためのプラグイン)とMagento(ほとんどのウェブサイトで動作するストアフロントソフトウェア)を使用すれば、小規模企業でも、自社ドメイン上に直販型eコマースサイトを作成することができる。
Laravel(ウェブアプリケーションフレームワーク)と.net(アプリケーション開発環境)を利用して、簡単にカスタム・ストアフロントを作成することが可能である。既存企業の場合は、長期的にみれば、顧客と直接関係を築くことができる直販型の方がうまくいくだろう。
しかし短期的には、マーケティングと配送のコストが、利益を上回るかもしれない。企業は、顧客との関係構築とeコマースサイトとのパートナーシップによる成長との間のバランスを見出さなくてはならない。私は、顧客がパーソナライズされたサービスと効率性からの恩恵を受ける直販型が増加していく傾向になると予想している。
最も重要なことは顧客ニーズとの合致である
eコマースで成功するためには、企業は顧客のニーズに対応する方法を見出す必要がある。これは、すべてのビジネスにいえることだ。顧客は自身のニーズが満たされる場合にのみ購入する。段階的なアプローチは、経営者がeコマース戦略を開発するためのよりよい方法を見つけるのに役立つだろう。
メーカーやサービスプロバイダーが、パーソナライズされたサービスの提供を開始するにつれて、多くの企業では、将来的に、直販型アプローチをより採用するだろう。送料無料や返品といったeコマースのサービス面は、引き続き重要である。しかし、未来がどうであろうと、メーカーが顧客のニーズを実現するテクノロジーを慎重に選択するよりも前に、まずは顧客の新たなニーズに対応しない限り、十分な成果は得られないだろう。
どのようなテクノロジーが利用可能になろうとも(そして過剰なほどのテクノロジーがそうなるに違いないが)、顧客は真の破壊者であり続けるのである。
※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の9/12公開の記事を翻訳・補足したものです。