LiveRampのマーケティング担当VPであるRebecca Stone氏は、スマートスピーカー(およびスマートディスプレイ)のマーケティングとコマースにおけるポテンシャルを実現するためにすべきことについて論じる。

おそらく音声技術と音声検索は、他のどの技術よりも早いスピードで導入されている。アナリストらは、2018年末までに、米国におけるスマートスピーカーの普及台数は、4000万から8000万台近くに及ぶと予測しているという。

 

多くの誇大宣伝と期待にもかかわらず、スマートスピーカー は、マーケティングまたはコマースの有効なプラットフォームとはなっていない。その理由は、まだ「時期尚早である」だけなのか?もしくは、他にも 解決すべき課題が存在するからなのだろうか?

 

IDデータ照合ソフトウェア会社LiveRampのオムニチャネルにおけるエクスペリエンスを融合する取り組みを指揮するマーケティング担当副社長VP、Rebecca Stone氏は、スマートスピーカーの現状と、そのマーケティングやコマースのポテンシャルを実現するために何が必要かという点について意見を述べる。

 

Q:スマートスピーカーがコマースプラットフォームとなり得ていない理由は何か?

スマートスピーカーを、“コマース”プラットフォームとして一般的に採用することを阻むハードルは主に2つある。そして、互いは密接に関連している。まず1つ目は、技術的にさらなる進歩についてだ。スマートスピーカーを全面的に活用するためには、さらなる技術の高度化が不可欠である。

 

Siri(iOS向け音声アシスタント)と話すことが大好きな私の5歳の娘を例に挙げたいと思う。Siriは、彼女の簡単なコマンドに対応することができる。しかし私の娘は、やっと読むことを覚え始めた時期なので、ポップアップ表示される(文字による)検索結果を理解することはできない。彼女は、今月開催のダンスリサイタルに参加するため、「演目のダンスステップを思い出すのを助けて欲しい」とSiriに頼んだ。するとSiriが表示した回答は、写真や動画ではなく、テキストでの検索結果だったのだ。

 

次世代のスマートスピーカーは、ビジュアル機能を融合した商品を発売した企業によってリードされるだろう。この問題は、2番目のハードルに直接的に関連する。技術が改良されない限り、消費者にスマートスピーカー端末で購入手続きをさせる気にすることは難しいだろう。

 

より多くの消費者が、ショッピングジャーニーの一部分、主に商品検索において、スマートスピーカーを利用するようになってきてはいるが、実際の購入手続きは実店舗やオンラインストアで完了している。これは技術が十分に進歩していないことが原因の一部だと考えられる。

 

もう一つの原因として、スマートスピーカーデバイスのほとんどに、「画面」を備えていないことが状況を悪化させている。人々は、いろいろな選択肢を視覚的に見ることを好むものだ。視覚的に見ることができない場合、消費者をマーケティングファンネルの下流部に移行させることは難しいだろう。

これら2つのハードルが解決されない限り、ユーザー数が一般的な普及に必要な臨界点に達するのに、長い時間がかかると考えられる。

 

Q:数多くの調査では、消費者がスマートスピーカーで商品を購入していることが示されている。しかしAmazonの「社内文書」では、Alexa(Amazonが開発したAIアシスタント)ユーザーのうち、Echo(Amazonスマートスピーカー )デバイス経由で商品を購入したことがあるのは2%未満とのこと。この結果の差はどのように説明できるか?

このような差異の要因を正確に知ることは難しい。しかし、消費者が調査の設問内の「購入する」という言葉を、どのように定義して回答したかよる違いではないだろうか?たとえば、「スマートスピーカー を使用して何かを購入したことがあるか?」と言う質問に対して、商品の検索を始めるのにスマートスピーカーを使った消費者が「はい」と選択する可能性がある。またスマートスピーカーを使用して検索結果の絞り込みを行なった場合に、「はい」を選択する消費者もいる。さらに、実際にスマートスピーカー で購入手続きを完了した場合に、「はい」と回答する人もいる。

 

したがって、結果数値のばらつきは調査手法に起因する可能性がある。技術が進歩し、ブランドや広告主がスマートスピーカーチャネルにもっと投資するようになれば、消費者の習慣や行動などを測定し評価する方法も共に進歩するだろう。

 

Q:スマートスピーカーは効果的なマーケティングチャネルになると思うか?

ベンチャーキャピタリストMary Meeker氏の「2018年Internet Trends Report」によれば、音声テクノロジーは歴史上、他のどの技術よりも早いスピードで採用されており、将来性はある。しかしマーケターが、スマートスピーカーがもたらすチャンスを活用した前例は数少ない。

 

Meeker氏のレポートによると、現段階で消費者は、AlexaやGoogle Home(Googleの開発したAI搭載スマートスピーカー )のデバイスに、天気や交通、スポーツ結果などについて尋ねているが、商品検索には使用していないという。そこには信頼性の問題があるのは確実である。単純な検索を行うだけでは、個人の情報が公開されることはない。しかし、スマートスピーカーデバイスの技術的なインフラストラクチャが単純なコマンド用に構築されている事実を見過ごすことはできない。故に消費者が、ほぼ単純なコマンドでのみスマートスピーカー を使用していることは、驚くべき事実ではない。

 

過去のいかなる技術とも同様に、スマートスピーカーは消費者の信頼を獲得するために進化しなければならない。スマートスピーカーで単純な検索を行う際は、問題は生じていない。しかし、音声アシスタントやスマートスピーカーが、オムニチャネルにおける消費者体験にさらに浸透するにつれて、一般的なプライバシー問題に関する行動基準が適用されるようになるだろう。

 

すでに消費者は、常にスマートスピーカーが作動し、常に消費者の話を聞いているという誤解をしている。消費者のこのような敏感な不安を認識し、データの保管方法や使用方法などを明確かつ透明性を持って提示することは、企業の責任である。プライバシーに関する懸念が高まる中、マーケターにとって「個人情報提供に関する選択とコントロール」についての権限を消費者に与えることは、スマートスピーカーという新しいタッチポイントでの信頼を構築するのに必要不可欠である。

 

Q:スマートスピーカーは、ブランド認知マーケティングとダイレクトレスポンスマーケティングのどちらに適しているか?もしくは、両方に適しているのか?

マーケティング業界が、顧客獲得のための一連のツールの新しい1つとしてスマートスピーカーを使用できるかどうかを判断するには、まだ非常に早い段階にある。個人的には、「二者選択」の状況だとは思わない。どのように活用し実行するかによって、ブランドの認知度向上にも、消費者との1対1のエンゲージメントやコミュニケーション促進にも、あるいはその両方にも使用することが可能である。要するに、今後の課題ではあるが、ブランドと広告主が、どのように、スマートスピーカー 技術を活用してキャンペーンを構築するか、そして、どのようにリソースの優先順位をつけるかによって決まってくるだろう。

 

先日ニューヨークにてマーケター同士で話をした際、「ヘイ、Google、カートにXを追加して」といったコマンドに対応するだけでなく、一流顧客にフォーカスするもっと実験的な使い方ができるかどうかの議論をした。例えば、メジャーな小売ブランドで働いているとしよう。1,000人のトップ顧客に対して、Googleホームをパーソナルショッピングアシスタントとして使用すれば、顧客毎にカスタマイズした店舗内でのショッピングツアーに招待することを提案することができる。トップ顧客は、カレンダーにそのショッピングイベントへの招待日を追加するだけである。そして、彼らが店に到着した時には、5〜6パターンの上から下までの洋服一式が試着用に用意されている、というようにだ。

 

要は、テクノロジーは活用の仕方によって、ベーシックなものにも、高機能なものにも成り得るということである。

 

Q:スマートスピーカーを使ったマーケティングは、どのような形態(広告、コンテンツ、スポンサーシップなど)となる可能性が高いか?

広告は今後数年間で、さらにさりげなく、自然なものに変化しなければならいと考えている。そのため、コンテンツ内の有料プレースメント広告にフォーカスすべきだろう。消費者は、ガソリンスタンドの給油ポンプの画面に表示される広告と同様に、家の冷蔵庫の画面に動画広告を表示させたいとは思わない。

 

また顧客に、「スマートスピーカーで企業と交流したい」と思わせるようなエクスペリエンスを提供できるかどうかが重要である。たとえば今、レストランチェーンでの無料特典を受けるためにモバイルアプリをダウンロードしているとする。スマートスピーカー経由での、オンデマンド・カスタマーサービスチームとのカスタマイズされた”チャット”を提供すべきかもしれない。

 

Q:広告の代替となる可能性があるという点では、独占コンテンツへのアップセルを含む「フリーミアム」モデル(特定のサービスを無料提供し、それ以上のサービスにのみ課金するビジネスモデル)、もしくは、広告が非表示バージョンのコンテンツのどちらが普及するだろうか?

幅広く結合したビジネスエコシステムと同様に、両方がミックスされた形態となるだろう。両モデルそれぞれが異なる方法で機能する。新興企業であれば、おそらくフリーミアムモデルをスタートするだろう。よく知られたブランドであれば、新しいチャネルにおいてはアダプションか、自社ブランドを重視するかを選択しなければならないだろう。

 

Q:スマートスピーカーで予約サービスが提供されない理由は何か?

予約サービスを提供するには、同様に、使いやすさの面で非常に大きな問題が生じる。Airbnbは、ユーザーが、楽しんで宿泊スペースの写真を見ることで、機能している。人々は航空会社のウェブサイト上のさまざまなオプションについて詳細を調べ、自分に最適な日付と時間、価格のフライトを選択する。これらは、両方とも音声で再現するのは難しいエクスペリエンスである。

 

ここで再度、「スマートスピーカー が、今までとは異なる『オンデマンド』コールセンター(待ち時間なし、またはスマートスピーカーがユーザーに電話を折り返す)の登場に貢献するだろう」という提案を繰り返したい。これは、初期のTwitterで起こったことと同じである。自社への苦情を確実に管理するためには、カスタマーサービス用のTwitterのハンドルネームを持たなければならなかった。もしくは、たとえば、ExpediaBooking.comのような予約サイトは、AIソリューション、amyに類似したAIサービスと融合する可能性がある。IOは、合理化され、顧客体験を効率化するのに役立つ。

 

Q:スマートディスプレイ(ディスプレイ付きのスマートスピーカー )の見通しは?現在、画面の役割は、部分的にしか最適化されていない。それは、時間とともに変化するだろうか?

技術が自然に進歩するように、ユーザーエクスペリエンスやユーザーインターフェイスの点では、ベンダーがうまく対処すると期待している。シンプルさに重点を置くベンダー(iPhoneなど)は、長期的には勝利するだろう。そして重要なことは、どの年代のユーザー層に対しても簡素化に重点をおいて設計することを目標とすることだ。言い換えれば、私の娘と私の祖父とが両方とも、簡単にデバイスを操作できる必要があるということだ。

 

Q:スキルやボイスアクションについては、どう考えているか?Amazonは、スキル数は数千個に及ぶと発表されているが、必要なスキルを見つけ出すのが困難であるという問題がある。この点は、改良されるのだろうか?

正直なところ、これは、解決するのに時間を必要とする問題の1つである。より多くの企業が、スマートスピーカーベンダーとの協業に取り組むことが必要であり、そこで生まれたサービスを普及させるために、消費者にプッシュする必要がある。あるいは、今はまだ非常に初期の段階なので、業界では全く無名の”挑戦者”的な存在であるベンダーが出現し、競争相手と同じ方向に向かいながら、競争他社に勝ち抜くかもしれない。

 

もう1つの覚えておくべきことは、スマートスピーカーは、クローズドプラットファームとなる可能性があるという点である。クローズドプラットフォームは、現実的にまだ存在している。そして、いわゆる挑戦者は、おそらく小売業には精通していないだろう。この点がグローバル規模の大幅な普及を促進するためのカギとなる可能性がある。

 

Q:将来的には、スマートスピーカーとスマートフォンがより直接的にリンクされ、スマートスピーカーで音声検索を開始し、スマートフォンでフォローアップアクションが行われるようになると思うか?

確実にそうなるだろう。それは、IoT(モノのインターネット)市場の急速な拡大と平行して進行するか、少なくとも後押しするだろう。将来的には、すべてのデバイスが互いに「会話する」機能を備え、消費者は余分な手間なしに、デバイスからデバイスに移動することができると考えている。

 

Q:現時点で、確立されたユースケース(コンテンツ消費、スマートホームコントロール、音楽など)が、将来的にも普及するだろうか?また、スマートスピーカー が、主要なマーケティングチャネルにならない可能性はあるだろうか?

実際には、イエスかノーかで答えられない問題である。スマートスピーカーのベンダーが、いかにパートナーネットワークを受け入れ、活性化することができるかにかかっている。現時点では、スマートスピーカー を、チャネルとしてではなく、競争相手としてみていることが問題である。

 

Q:最終的な考えは?

音声によるエンゲージメントは非常に初期の段階であるが、消費者へ急速に普及し、技術は進歩している。近い将来、マーケターが参入する意味はあるだろう。スマートスピーカーがもたらす将来のために現時点で準備をしておくことは、競合他社よりもかなり先に貴重なタッチポイントでのエンゲージメントを獲得することにつながるのだ。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の12/20公開の記事を翻訳・補足したものです。