市場は成熟するにつれて、「寡占化」する傾向にある。寡占とは、1社ではなく、少数の大手企業が市場を支配している状態であるが、独占とあまり大きな違いはない。例えば、ほとんどの地域において垂直統合型の独占企業によって構成され、寡占状態を作るのが電力発電産業である。また、航空業界も、地方ハブを独占する多数の航空会社によって寡占状態が作られる。独占や寡占傾向が強固になるにつれて、企業が新規に市場に参入することはますます困難になる。

 

CRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理) 業界が、寡占化の方向に動いていると考えている。それは、悪いことだとは断言できないし、CRM市場が成熟したことを示している。またIT業界全体が、公益事業化、すなわち情報公営事業化の傾向が強まっているとも感じている。独占または寡占企業が市場を支配し、消費者に不利益となるような高い価格を設定するのに十分な市場力を獲得した時、公益事業化が起こる。

 

完全に規制された独占産業と言えば、1980年代半ばに裁判所命令によって分割される前の電話通信会社である。分割命令によって、それ以前には規制独占状態で阻まれていた製品やサービス、ビジネスモデルの革新への扉が開かれた。本記事では、独占市場へと向かうCRM業界について解説する。

 

CRMは、魅力的な業界だろうか?これは、めったに尋ねられることがない質問である。実際のところ、筆者自身が答えを知っているわけではないし、個人的に考えたこともない気がする。

 

「良いビジネス」とは、収益を生み出し、そして、社会的利益をもたらすものであるべきだと考えている。タバコ産業は収益を生み出すが、社会的利益をもたらしているかどうかは非常に疑問である。何らかの社会的利益をもたらす多くの組織は、非営利団体として位置付けられるかもしれない。社会的利益、または社会への積極的な貢献は、差別化要因となる。車のタイヤは社会的利益を提供するが、タバコはそうではないということである。

 

また、収益を生み出し、社会的利益を提供することに加え、技術的観点から言えば、CRMを提供する企業は大企業の1部門ではなく、CRM専門企業として単体でビジネスを行うべきであると考えている。現在、CRM部門を有する多くのソフトウェア企業は、もともとは別のサービスを提供している。

 

理由は簡単である。大規模企業が行う多くの事業の1つが損失を出したとしても、全体として利益を上げていれば問題にはならない。たとえば数年前、Oracleは、米国コンピュータ企業Sun Microsystemsを約74億ドルで買収した。Sun Microsystemsが買収された時点で、利益を上げているとは考えられないし、現在では利益は問題視されていない。Sun Microsystemsは、Oracleの自律型企業向けソフトウェア開発の原動力となる、極めて重要なハードウェア・コンポーネントを提供している。

 

つまり、CRMビジネスは、客寄せのための特価商品なのかも知れない。企業向けソフトウェアベンダーとしてのランクを維持するために、CRMを販売する必要があるのだ。このワンストップショッピング戦略は、競合他社を寄せ付けないために設計されている。

 

ここでも、OracleとSunの例を紹介しよう。Oracleは、自社のハードウェアとソフトウェアの両方を活用することにより、競合他社より桁違いに高いパフォーマンスを提供している。Oracleアプリケーションやデータベースを実行するためのハードウェアを提供するIBMや、データベースで競合するAmazonといった競合他社に対抗しているのである。

 

本記事において言及する「CRM」とは、筆者が考えるところの「統合された完全なカスタマーソリューションセット」としてのCRMを指す。今日のCRM業界の企業の多くは、コールセンターやヘルプデスク、分析、販売、マーケティング、またはその他の単体のソリューションを提供している。

 

しかし、優れた統合機能を持たないCRM企業にとっては、統合したサービスを提供することは難しい。おそらく、独立ベンダーがどんなに優れていたとしても、統合サービスを提供する“フルスイートベンダー”と対抗するのは難しいだろう。

 

市場のライフサイクル

市場に属する独立企業の数によって、その市場の健全性と熟成度について多くのことがわかる。市場のライフサイクルの早い段階では、シェア獲得のために競合する多数の似たようなソリューションが存在する。20年前には、CRM業界にも多くの独立系企業が存在していた。

 

その独立系企業のほとんどは、1つ、または2つのCRMを提供していたが、そのソリューションは持続可能なものではなかった。なぜなら、顧客が異なるソリューションを統合することは非常に難しかったからである。その結果、株式交換によって他社を買収する企業統合の波が訪れた。そして、一部の企業は大きな損失を出した。

 

CRM以前で言うと、データベース業界でも同様に、競合する企業数が減少し、勝者が巨大化するというような動向がみられた。さらに前には、ミニコンピュータ業界が同じ経過をたどり、消滅している。興味深いことに、全てのミニコンピュータメーカーは、独自のオペレーティングシステムを開発し、維持していた。それゆえ、インテグレーション(統合)を取り巻く技術的な問題は非常に深刻であった。

 

メインフレーム業界も、同様であった。IBM、Control Data、Amdahl、Burroughsなど数多くのメインフレームベンダーが存在し、さらに、ベンダーよりも数多くのメインフレームオペレーティングシステムが提供されていた。

 

破壊的イノベーション

現在、CRMはどの段階にいるのか?私が研究したすべてのカテゴリーにおいて、破壊的なイノベーションが起こっていた。多数の似たようなソリューションが普及する市場から、少数の成功したベンダーによって支配される寡占状態の顕著な業界へ変化するという典型的な道をたどっていたのだ。Geoffrey Moore氏が、ハイテクマーケティングに関する著書「Crossing the Chasm」で同じような説を唱えている。

 

今日、CRMは寡占期に達している。Microsoft、Oracle、SalesforceSAPSugarZohoなどの企業が市場を支配していると言えよう。これは、筆者の意見であり、異論もあるかもしれない。Moore氏の考えでは、「成熟した寡占市場には3社のベンダーしか存在しない」とのことなので、寡占状態までには至っておらず、時期尚早かもしれない。

 

CRM市場を支配する企業のうちの半数であるMicrosoft、Oracle、SAPは、オンプレミスとクラウドの両方で機能するソリューションを備えた、フロントオフィスとバックオフィスの複数のソフトウェアを提供するベンダーである。また、全社がデータベース事業も行なっており、MicrosoftだけがOracleデータベース製品を使用していない。

 

時間はかかるかもしれないが、世の中はクラウド化の方向に進んでいる。ベンダーは、クラウド型の効率性と潜在的な収益性の高さから、オンプレミスのビジネスモデルを徐々に縮小したいと考えている。また、2つの非常に異なるビジネスモデルを、収益を確保しながら同時に実行するのは非常に難しいからだ。例えば、金融業界は、必然的にオンプレミスとクラウドの2つの分野にわたるため、オラクルがより多くの収益を上げるのを持ち望んでいる。

 

残りの半数の企業、Salesforce、Sugar、Zohoは、クラウド型のみのフロントオフィス向けサービスを提供している。Salesforceの巨大パートナープログラムであるAppExchangeは、バックオフィスを含むほとんどのアプリケーション分野に展開できる。さらに、優れたネットワーキングと、パートナーがコアCRMと同じ基準で製品を構築できるプラットフォームを提供し、アプリケーション間の連携を容易にしている。

 

Sugarは最近、未公開株式投資会社であるAKKRによって買収された。この買収により、同社の限られたリソースでは難しかった分野、特に、マーケティングアウトリーチにも投資することが可能となった。これは非常に重要である。なぜなら、Sugarは、長期間CRM業界に存在していたが、当初のビジネスモデルの問題など数多く理由から、躍進することができなかったからだ。

 

成熟市場では、多くのマーケティング費用が必要となるが、今回の買収によりSugarは潤沢な資金を得たことになる。同時にSugarは、自社の長期的なニッチ分野を明確にする必要がある。同社の将来的に目指すアプローチは、シナジー効果がある大手ベンダーの1部門としての買収である可能性が高い。しかし、CRM部門をまだ持たないソフトウェアベンダーはほとんどない。そうなると、関連する別市場での買収の可能性を推測させるが、Sugarがその意図を表明するのを待つ必要がある。

 

Zohoはクラウドネイティブであり、主にインドにおいて低コストのデベロッパーが数千社存在しているという点で、非常に興味深い。同社は、当初SMB(中小企業)市場に注力し、フロントオフィス向けに特化しなかった。今日では、企業向けのあらゆる分野を対象として50のアプリケーションを提供し、高価格市場に進出ししている。Zohoのリソースと方向性を考えれば、確かに注目する価値があるだろう。

 

最後に、Salesforceは、クラウドコンピューティング業界をスタートさせ、業界と自社を革新し続けている。バックオフィスのような複数のアプリを開発するのではなく、他社にソリューション構築を任せている。パートナーが使用するためのプラットフォームと、顧客が簡単にソリューションを見つけ購入できるAppExchangeを開発した。

 

Salesforceは、新しいトレンドを見つけるための市場調査を定期的に実施し、継続的な成功を収めている。現在、研修や慈善事業といった技術志向ではないビジネスチャンスに注力している。奇妙に思えるかもしれないが、Salesforceは長い視野で考えているのだ。

 

寡占市場

将来的には、いくつかの要因でCRM市場の寡占状態が進む可能性がある。Salesforce、Oracle、SAP、Microsoftは、顧客ベースを維持しつつ、他社もしくはお互いのシェアを獲得してきた。それは論理的である。今のところ、ゼロサム的に市場の一定のシェアを増減しているが、それは最終的な結果ではない。

 

SugarとZohoは、確固たるニッチ市場を確立することができた。Zohoは、世界中のさらなる成長を目指すSMBを顧客に持っている。Sugarは、2018年10月9日からラスベガスで年次ユーザー会議を開催する。ここでは、未知のマーケットニッチを獲得するための独自の戦略を明確に打ち出すだろう。

 

また、Oracle、Microsoft、およびSAPの顧客である企業の多くは、10年以上前の旧式のオンプレミスソリューションを使用している。これらの顧客がソフトウェア導入について再考した場合、クラウドへの移行について考えるだけではないだろう。どのベンダーが、現時点で最も優れたソリューションと価値を提供しているかを検討するはずである。

 

その場合、クラウドレジデンシー、プラットフォーム、AppExchange、大企業および中小企業へのサービス提供実績を考えると、Salesforceは有力候補となるだろう。

 

考慮すべき悲観的な問題もある。Salesforceが開催するソフトウェアカンファレンスイベントDreamforceの基調講演によると、平均的な企業顧客は、すでに1,100以上のクラウドアプリケーションを導入している。顧客が、主要なコンピューティングをクラウドに移行する際には、一定のリファクタリングと簡素化といった要素が重要視されるだろう。

 

個人的な予測

基本的なクラウドコンピューティング以外にも、将来的には、使いやすさといった無形の要素における競争が激しくなるだろう。これは、魅力的で論理的なユーザーインターフェイスといった古いアイデアのことではない。アプリケーションによってサポートされることにより、オペレーションを迅速に再構成し、企業が小さなチャンスを得ることを可能にする柔軟性と適応性を重要視した拡張されたコンセプトのことである。

 

これらの基準によって、縮小傾向にある寡占市場にどの企業が残り、また、去るかを判断するのは困難である。しかし、その確率を考えることはできる。いずれにせよ、前述した6つのベンダーは注目に値するのだ。この6社の将来の戦略は、これまでの実績もはるかに重要となる。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の10/4公開の記事を翻訳・補足したものです。