オンラインの中古車個人間取引サービスの勃興 - 長年の実績を誇るヤフオクの牙城を崩せるか

 

eコマースの市場において、意外にも長い歴史を持つのが中古車の個人間販売だ。Yahoo! JAPANが運営する日本最大級のインターネットオークションサイト「ヤフオク」では、1999年のサービス開始時から中古車の取り扱いを開始し、現在の年間落札台数は約12万台・落札額は数百億円規模にまで成長している。

2014年の中古車販売市場規模が台数ベースで270万台、金額ベースで2兆8,566億円なのに対し、オンラインやタブレット端末等の画像を確認するのみで車両を購入するユーザーは全体の2割程度となっている(矢野経済研究所調べ)。しかし、今後オンライン取引に抵抗のない世代が自動車ユーザーとなるに従って、その規模は拡大していくと予想される。今回はさらなる成長が期待されている中古車のオンライン個人間取引サービスにおいて、寡占状態のヤフオクとそれに対抗する新規サービスを紹介する。

 

ヤフオク

 

中古車の個人間取引を牽引してきたヤフオクは、サービス開始から現在に至るまで、利用者の信頼を得るためにさまざまな取り組みを行なってきた。

 

 

 

例えば2006年には、中古車情報サイト「車選び.com」を運営する株式会社ファブリカコミュニケーションズと業務提携を結び、「厳選中古車オークション」の運営を開始(月間出品点数は常時約32,000台、月間流通金額は42億円)。

 

 

より良質な中古車が購入できるよう、走行メーター管理システムとオペレーター併用による検査、優良店舗の格付けなどを通して、中古車売買に対する不安感を払拭しようと努力してきた。また、現在はオークネット.jpと連携し、業界唯一の第三者検査機関であるAISによる検査結果を表示した「品質評価付き中古車オークション」も行なっている。

 

 

今年に入ってからは、ヤフオク!の中古車オークション事業を担うライオンネットワーク株式会社と、同グループで中古車オークション会場を運営する株式会社ジェイ・エー・エーおよび株式会社HAA神戸の3社と連携し、HAA神戸が運営するオークション会場で取り扱う中古車の一部をヤフオク!に出品する取り組みを開始した。これにより、これまで加盟事業者しか購入できなかったオークション会場出品用の中古車が毎月数千台の規模でヤフオク!に出品されるようになり、一般ユーザーでも良質の車が手軽に購入できるようになったのだ。出品されるのは優良車と言われる評価4以上の車両のみ。すべての車に外部機関による品質評価確認書が付き、ユーザーは入札前に正確な走行距離や車の状態を把握することができる。名義変更や輸送はライオンネットワークが行うため、面倒な手間が省けるという点も落札者にとってメリットとなるだろう。

 

mieruCAR

 

決済プラットフォーム事業を行なう株式会社ViewPointが2014年7月よりサービスを開始した「mieruCAR(ミエルカ)」は、個人間売買による中古車のマッチングプラットフォームだ。

 

 

従来の中古車販売サイトと一線を画す点は、購入希望条件を元にスムーズな取引が行なえるところ。ユーザーは無料の事前登録を行うと購入エントリー会員となり、車種・価格帯・年式・走行距離などの購入希望条件に合う車両が出品されると、その情報が随時メールで送られてくる。出品者は会員の購入希望条件を事前に確認できるため、より成約しやすい販売価格で売買することが可能だ。

mieruCARでは1出品者につき1台の出品制限を設けており、登録した情報は1カ月間掲載される。成約した場合、出品者と購入者がそれぞれ3万円のシステム利用料を支払い、名義変更サービスや輸送サービス、全国1万店の提携整備工場で行なわれる出品前点検などはmieruCARが有料で行なう。mieruCARでは、中古車市場の販売価格やオークション業者の取引情報をもとに、独自の販売価格の相場情報を提供するというプラスαのサービスも行なっている。また、mieruCARに出品された車両は同時にヤフオク!にも自動出品されるため、出品車両は多くの購入希望者の目に触れ、売買成約の可能性が高まる。mieruCARからの出品車両がヤフオク!で落札されても、代金の支払い完了までに必要になる業務はmieruCARが一括してサポート。mieruCARでは、2017年までに年間2万台の取引を見込んでいる。

 

 

Ancar

 

自動車整備業をクラウドソーシング化することで、中古車の個人売買のプラットフォームを生み出そうとしているのが、今年8月にベータ版がリリースされたばかりの「Ancar(アンカー)」だ。

 

 

Ancarは中古車販売において甘くなりがちな整備面に重きを置き、整備にかかる費用の低コスト化と安全性を実現。その上で、売り手がより手間をかけることなく売買成立まで持っていけるサービスを生み出した。出品の条件は、事故車ではないこと。車を売りたい個人はAncarに連絡するだけで出品までの作業を行ってくれるので、ガリバーなどの中古車販売会社を利用するのとほぼ同じ流れとなる。

サービスの流れは、まず連絡を受けたAIS等の認定査定士が車の持ち主の元へ出向き、査定後に整備工場で点検を行う。この時点で出品準備が整い、車は一度持ち主の元へと戻る。そして買い手が付いた時点でAncarが手配した運送業者が近くの整備工場まで車を運び、そこで最終点検が行なわれた後、買い手の元へと運ばれるのだ。出品期限は30日間。査定の際には、Ancarが買い取った場合の参考額と、出品する場合の推薦価格帯が提示される。出品する場合は推薦価格帯を参考に売り手が価格を決め、仮に成約しなかった場合でもAncarの買い取り額で納得すれば車が売れるという仕組みだ。

一方、買い手側の使い勝手はどうなっているのだろうか。Ancarでは整備面に重きを置いていると冒頭で述べたが、すべての車両が出品前に査定・点検され、修復歴の有無を始めとした車両情報が包み隠さず開示されるので、買い手は納得した上で購入することができる。また、仮に購入した車に不備があっても、その原因が事前情報に含まれておらず、購入から3日以内かつ100km以内の走行であれば返品できる「返品制度」も設けている。システム利用料は、出品価格が250万円未満の場合は4万円+車体価格の3%、250万円以上の場合は車体価格の5%となる。その他に、名義変更費用や車庫証明取得費用などが別途必要になるほか、輸送費として1万9,500円〜がかかる。

 

 

長年の実績を誇るヤフオクの牙城を崩せるか

 

サービス開始当初は車をオンラインで見知らぬ人から買うのか?という疑問ももちろんあった。しかし、中古車の個人間取引の市場をヤフオクが粘り強く築き上げ、圧倒的な第一人者として業界を牽引してきた。そして、サービスの認知の拡大と共に、いくつかの課題も浮き彫りになってきた。

ヤフオクの中古車カテゴリは、個人間取引よりも業者による出品の方が目を引き、他の中古車情報サイトと掲載されている情報が変わらなくなっているという問題がある。また、中古車という高額な商品をオンラインで個人取引するとなると、利用者上の不安や、品質に対する不安は払拭しきれないのも事実だ。

オンライン完結型の中古車の個人間取引サービスは今回紹介したMieruCAR・Ancar以外にも多くのサービスが乱立している。そして、いずれもヤフオクで行われてきたオークション形式という固定的な手法を変え、課題を払拭するための独自の強みを打ち出してきている。MieruCARは仲介業者不在な状態でもスムーズな取引を実現するためのシステムを整え、Ancarが出品される中古車の品質の不安を低減するために整備に特化している。

高額かつ購買頻度も高くない商品ではあるが、その取引の特殊性から多くの風穴を既存市場に開けることができる可能性も残されているともいえる。そのような盲点を見出しビジネスモデルを構築しヤフオクを脅かす存在となるサービスは現れるのか。オンラインの中古車個人間取引がさらに成熟した市場へと成長していく可能性に期待したい。