オンライン小売業者による顧客の個人情報の扱い方に対する不信感は、かつてないほど高まっており、小売業者は売上や追加の注文を得る機会を失っている。

 

消費者の4分の1以上(26%)は、プライバシー関連の懸念から、この1年以内に利用しなくなったブランドがある。より高い信頼レベルを築くことは、もはや二者択一ではなく、デジタル小売業が生き残るため、とまでは言わないが、成功するための基盤としてますます重要になってきている。

 

フランスに拠点を置くテクノロジーおよびセキュリティプロバイダ企業のThalesが2月に「2024年版 Digital Trust Index Ranking(デジタル信頼度指数ランキング)」を発表した。この報告書で、オンライン業者と詳細な個人情報を共有することを快く思っている消費者は8%しかいないことが明らかになった。この調査は、世界各国の12,426人の消費者から、オンラインブランドやサービスとの関係について得た回答に基づいた結果であり、オンラインショッピングの人気の高まりに異議を唱えている。

 

この調査結果は、オンラインで購入された食料や日用品以外のものも対象になっている。メディア・エンターテインメント、ソーシャルメディア、物流会社は業界ランキングの下位に低迷している。

 

Thalesによると、多くの小売顧客は現在、すべてのオンライン企業との出会いにセキュリティとポジティブなデジタル体験のバランスを求めている、という。また、新しい形のオンラインエンゲージメントが、顧客の信頼を確保する上で障壁となることも明らかになった。

 

情報を共有する際、消費者は銀行、医療、政府サービスにより信頼を置く。ThalesのIDおよびアクセス管理(IAM)担当バイスプレジデントであるDanny de Vreeze氏によると、これは、調査対象となったすべての市場に共通する傾向である、とのこと。

 

同氏は、「これらの業界がいかに厳しい規制を受け、情報の取り扱いに責任を持ち、消費者データを安全に保つための措置を講じているかを考えれば、これは当然のことだろう」と語った。

 

問題は無視され、解決策を見出せない

今年の報告書では、小売業と接客業が信頼されていない業種の4位にランク付けされた。「これは、小売業界は依然として最も信頼されていない業界のひとつであるという2022年の報告書の調査結果と一致している」とは、ThalesのIAM事業、製品マーケティング担当ディレクターのHaider Iqbal氏の意見である。

 

Iqbal氏は、「しかし、興味深いことに、2022年、2024年のいずれにおいても、小売業は最も信頼されている業種ではなかったが、今年の調査結果(8%)と比較すると、2022年(20%)では、小売業界はかなり信頼されていた」と述べた。

 

データセキュリティを信頼していない消費者の割合がこれほど高いのに、この問題は無視されているようだ。データプライバシーの必要性は明確に認識されているが、その認識が必ずしも実行可能な結果につながるとは限らない、と同氏は指摘する。

 

「地域力学が行動を起こす最大の要因になっているようだ。規制当局がGDPR(EU一般データ保護規則)を強力に施行したことで、欧州の小売企業は消費者のデータプライバシーを実施するためのより優れたプラクティスと管理に向けて、さらに真剣に取り組んでいる」とIqbal氏は語った。

 

スウェーデンのファッションブランド、H&Mのデータ保護違反による罰金は、業界にとって驚きの出来事だった。しかし、同報告書が指摘するように、小売企業は、規制当局が強化したいからという理由だけでデータプライバシーに目を向けるべきではない。

 

Iqbal氏は、「顧客が求めているのだから、小売企業はデータプライバシーに注力するべきだ」とアドバイスしている。

 

デジタル信頼度指数(Digital Trust Index)の上昇

同報告書の調査結果は、プライバシーとセキュリティに対する権利が譲れないものであることを裏付けている。顧客の大多数(89%)は、組織とデータを共有することに前向きである。

 

しかし、それには譲れない注意点がある。たとえば、消費者の4分の1以上(29%)は、過去1年間で、ブランドがあまりにも多くの個人情報を要求したために、そのブランドを利用しなくなった、と回答している。

 

「企業は業種に関係なく国際的なデータプライバシー法の適用を受けるが、ランキング下位の企業は、データセキュリティとプライバシーの両方に直接対処する指令の対象となることが少ない」と、de Vreeze氏は言う。

 

より多くの企業がデジタルでの存在感を増すにつれ、消費者の嗜好が進化する中で、規制対象外の業界にとっても教訓を得ることができる。

 

5人に4人以上(87%)が、オンラインでやりとりする企業に対し、ある程度のプライバシー権を期待している。最も期待されているのは、「自分のデータが収集されていることを知らされる権利」(55%)であり、僅差で「個人情報を消去してもらう権利」(53%)が続く。

 

また、オンライン顧客は、企業が従うプライバシー基準に関してさらなる権利も期待している。たとえば、39%がデータを修正する権利を、33%がデータのコピーを要求する権利を、26%がデータをあるプラットフォームから別のプラットフォームに移動する権利を期待している。

 

オンラインでの不満がブランドロイヤリティをさらに蝕む

Thalesの報告書では、顧客が直面するプライバシーの要素にかかわらず、Webサイトでのスムーズな体験が顧客の忠誠心を強固にする役割を果たすことも強調されている。顧客の懸念は、オンラインサービスが自身のデータをどう使うかよりも深刻である。

 

プライバシーの要求に加え、企業は顧客の信頼を得るためにシームレスなオンライン体験も提供しなければならない。今日の消費者はますます時間に敏感になっており、5分の1以上(22%)が、「イライラするような体験に直面した場合、オンラインでのやりとりを即座にあきらめる」と回答している。

 

また、回答者はポップアップ広告を不満の第1位(71%)とし、パスワードのリセット(64%)、個人情報の再入力(64%)が僅差で続いた。そして、調査対象者の59%が、cookieの複雑なオプションを不満のトップに挙げた。

 

「私たちの調査結果では、93%の消費者が、イライラするような体験に遭遇した場合、5分以内にそのオンラインブランドの利用を諦めることが明らかになった。実際、25%は最初の1~2分で見切りをつけている。つまり、ユーザーが望むデジタル体験を確実に提供するために許される時間枠は、ほんのわずかであるということだ」とIqbal氏は語る。

 

口先だけのサービスはもはや効果がなく、消費者は行動を求める

Iqbal氏が小売業者の対応を見たところ、データのプライバシーとセキュリティに対して、口先だけで対応するという選択肢はすぐになくなるだろう。GDPRは米国のあらゆる法律の前身であり、カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)やバージニア州消費者データ保護法(VCPA)のような措置に続き、消費者データの権利のための規制措置がより多く取られる、と同氏は考えている。

 

「大規模言語モデル(LLM)とその学習データの入手先に対する監視の目がこれまで以上に厳しくなる中、この話題はますます重要になり、プライバシーとセキュリティに対する権利が、同報告書の回答者の要望と同様に譲れないものであることを法律が保証するようになるだろう」と、同氏は予測する。

 

Iqbal氏によれば、小売業だけでなく他の業種でも、消費者が好むコミュニケーションチャネルはEメール(40%)と電話(28%)であることがこの報告書では強調されていると言う。注目すべき重要な傾向は、小売サービスが扱うべきチャネルやタッチポイントが大幅に増えたことだ。

 

たとえば、オムニチャネル体験のために優れた戦略を持つという概念は、銀行業界に限ったことではない。小売業において、店舗内/対面でのコミュニケーションは、依然として重要なコミュニケーション手段となっている(32%)。業界はこの現実を受け入れ、消費者のために一貫したオムニチャネル体験を構築するための態勢を整える必要がある、と同氏は主張する。

 

最終目標は何か

Iqbal氏は、特にデジタルの世界では、信頼は一枚岩の概念ではないと主張する。組織は、信頼を測る独自の計算式を考案しなければならない。

 

「小売ブランドを信頼するという認識は、銀行や保険会社を信頼するという認識とは大きく異なるだろう」と同氏は指摘する。さらにThalesは、「この信頼という概念は、ある業界からほかの業界へだけでなく、同じ業界内でも非常に微妙な違いがあることを理解している」と付け加えた。

 

このような理解があるからこそ、企業は自分たちのデジタルチャネル内にデータセキュリティとデータプライバシーの管理を微調整するための基本的能力を持たなければならない、とIqbal氏は説明する。たとえば、企業が消費者離れの理由を発見しても、それに対処する手段や敏捷性がない場合、消費者の一定の流出に備える必要がある。

 

「消費者や規制当局の現代的で急速に進化するニーズに対応するために、時代遅れで多くの場合一体化されたシステムに頼っているのであれば、それは未来に向けた準備とは言えない」とIqbal氏は締めくくった。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の5/9公開の記事を翻訳・補足したものです。