DTCブランドに何が起こったのか、またその理由。そして今、DTCブランディングに求められている進化とは。
ほんの数年前まで、DTC(Direct-to-Consumer:消費者直販)ブランドは、小売業界の新参者だった。アジャイル且つ革新的で、成功を渇望していた彼らは、デジタルチャネルを活用してニッチな消費者をターゲットにし、最終的には我々の買い物の方法を破壊した。
そして今日、状況は劇的に変化している。一部のDTCブランドは急成長を遂げたが、他のブランドは進化し続ける環境の中で大きな課題に直面しているのだ。そこで次のような疑問が生じる。なぜこのようなことが起きているのか。そして、希望に満ちたブランドはどのような教訓を得たのだろうか。
少し前までは、商品を顧客の手に届けるということは、卸売業者や流通業者、小売業者などの仲介業者に頼ることを意味していた。しかしその後、消費者直販ブランドが登場し、従来のモデルに挑戦し、ターゲットとなるオーディエンスに直接するアプローチする道を切り拓いた。彼らは、多くの起業家がベンチャー企業を立ち上げる原動力となる革新的な精神を体現しており、現状に挑戦し、商品が消費者に届く方法を再構築している。
それを念頭に置きつつ、本記事ではDTCブランドが波乱に見舞われている4つの主要分野と潜在的な解決策について取り上げ、ブランドがこれらの課題を克服する上でAIベースのテクノロジーが果たせる役割と、ブランドが点と点を結ぶために使えるその他のツールを紹介する。
1. 顧客獲得コストの増加
デジタルマーケティングの理想郷を実現するためには、MetaとGoogleだけで十分だったことを覚えているだろうか?広告を出せば、お金は後からついてきた。しかし、時代は変わった。CPM(インプレッション単価)の高騰やコンバージョンデータの信頼性の低下により、資金力のあるDTCブランドでさえ危機を感じている。さらに、iOS14.5ではプライバシー機能が強化されたため、顧客獲得コストの追跡が難しくなっている。では、DTCブランドはどうすればいいだろうか?
クリエイティブになる時が来た。まず、ほとんどのブランドは依然としてMetaとGoogleに大半の広告費を費やしていることは注目に値する。それは変わっていない。しかし今、Pinterest、TikTok、そして古き良きプレミアムパブリッシャーのような代替的な広告プラットフォームを模索することの価値がこれまで以上に高まっており、注目に値する。マーケティング・ミックスを多様化することで、認知度を高めるために必要な新たな成長オーディエンスと関係を築くことができるのだ。
これまでのところ、ブランドはiOS14におけるプライバシー設定の変更を踏まえて、獲得効率を向上させるためにファーストパーティデータを収集・有効化する際のテクノロジーや戦略の導入でやや遅れを取っている。ほとんどの企業は、マーケティングオートメーションのためにKlayvioやMailchimpのようなプラットフォームを、また、パーソナライゼーションのためにSegmentやBloomreachを使用している。しかし、重要なステップは、そのデータ内で予測モデリングを使用して増収を達成することである。大半は、お金が使われた後もアクティビティを分析しているが、もし銀行口座からお金が出る前や出ている間に最適化を行ったらどうなるだろうか。
2. 規模拡大と運用上の課題
さて、成長について話そう。規模が小さくて機敏性があるうちは問題ないが、規模を拡大するとすべてが難しくなる。在庫を管理し、製品ラインを拡大し、シームレスな顧客体験を確保しながら、新しいオーディエンスを見つけることは、非常に困難な作業のように感じられるかもしれない。
規模拡大の荒波を乗り切るには、テクノロジーやインフラ、人材への投資が必要だ。TradeGeckoやFishbowlのようなプラットフォームは、在庫管理を合理化し、ShipStationやShopifyは注文処理を自動化することができる。また、消費者の好みや市場トレンドが変化する中で、ブランドが機敏に対応できるよう支援するための素晴らしいツールも市場に登場している。このようなテクノロジースタックの構築は、依然として重要である。
顧客の規模拡大に関して、ブランドは多くの場合、ROAS(広告の費用対効果)を最高目標として重視するが、これは規模拡大に関しては、信じられないほど限定的な要素だと考える。その代わりに、新規顧客のCAC(顧客獲得コスト)やLTV(顧客生涯価値)、収益の目標にもっと焦点を当てる必要がある。これは、適切にバランスの取れたKPIと測定のフレームワークが、成長の可能性を実現するための自由なエクササイズになりえるということでもある。
Googleアナリティクスは今でもブランドにとってほとんどのインサイトを提供しているが、RockerboxやTriple Whaleのようなツールを使うことで、パフォーマンスをより全体的に把握することができる。そして、最も高度なマーケティング機能の頂点には、MMM(マーケティング・メディア・モデリング)がある。マーケティング機能だけでなく、MMMには予算をどこに使うべきかの予測機能も追加されている。
3. オムニチャネルの必要性
さて、次はDTCにとって最大の摩擦要素である「オムニチャネルの存在」についてだ。モバイルショッピングが重要性を増し、実店舗が紛れもないメリットを提供する中、DTCブランドは、取り残されないよう、実店舗をどのように活用すれば成長をサポートできるかをよりよく理解する必要がある。
顧客(と潜在顧客)が商品を試着できるショールームであれ、人口密集都市にある店舗であれ、あるいはカナダの高級オンラインブティックSSENSEのように店舗に注文して試着できるスマート・アクティベーションであれ、それは販売店の選択だ。課題は、オンラインから店舗まで一貫した顧客体験を管理し、最終的に顧客の体験をつなげることで、体験をポジティブに感じるだけでなく、シームレスなものにすることにある。
ここで、テクノロジーとデータ統合の出番となる。Adobe XDやSketchのようなプラットフォームはユーザーエクスペリエンスのデザインの役に立ち、またSegmentやTealiumはチャネル間のデータ統合を支援できる。すべてのタッチポイントでの一貫したブランドの存在感は、顧客ロイヤルティを育て、長期的な成長を促進する。また、実店舗を検討している場合は、実行に移す前に、潜在的なメリットとコストを慎重に比較検討しよう。
短期リースによるポップアップストアや「店舗内店舗」なら、うまくいくかもしれない。
4. AIファーストの考え方
端的にいえば、AIベースのテクノロジーは、DTCブランドのビジネスプロセスと顧客体験の向上に役立つ。企業は、パーソナライゼーション、カスタマーサービス、需要予測、価格最適化、そしてサプライチェーンマネジメントを改善することができる。
AIを使って顧客データを分析し、オーダーメイドの商品レコメンドやコンテンツ、販促オファーを提供することは、ブランドがすでにイノベーションを起こしている分野だ。我々は、AmazonやStarbucks、Ulta(米国の美容小売業者)がここ数か月、成長と買い物かごのサイズ拡大を実現するために素晴らしい取り組みを行っているのを目にしてきた。さらに、AIを搭載したチャットボットやバーチャルアシスタントは、顧客に24時間体制のサポートを即座に提供し、応答時間を短縮し、カスタマーサービス担当者がより複雑な問題に集中できるようにしている。
需要予測は、AIを導入するもう一つの素晴らしい分野である。過去の販売データや市場動向を調査することで、AIは正確な需要予測を行い、在庫管理を最適化し、在庫関連の課題を軽減することができる。AIはまた、競合他社の価格設定や市場の状況(検索トレンドなど)を監視し、メディアにおける最適な価格戦略や入札戦略を決定することで収益性を確保し、あらゆる規模のブランドが競争力を維持できるよう支援することもできる。
これらをまとめると、どういうことが言えるだろうか。近年のDTCブランドの急成長は、従来の小売業を破壊し、成長と成功のための新たな機会を生み出した。
しかし、業界が成熟し、競争が激化するにつれ、これらの企業は今後10年間でかなりの課題に直面することになる。顧客獲得コストの上昇は、オムニチャネルの必要性はもちろんのこと、iOS 15の影響と規模拡張の困難さによってさらに悪化しており、これらの企業の回復力と適応性が試されることになるだろう。
代替的な広告プラットフォームを模索し、顧客データと市場インサイトを活用し、テクノロジーとAIベースのインフラに投資することで、DTCブランドはこれらの課題をより戦略的に乗り切り、競争が激化する状況でも成長軌道を維持することができるのだ。さあ、シートベルトを締めて、旅を楽しもう!
※当記事は米国メディア「Entrepreneur」の6/23公開の記事を翻訳・補足したものです。