多くのパブリッシャーは、「Do Not Sell」リンクを意図的に隠すゲームをしている。

 

2020年1月1日、カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA:California Consumer Privacy Act)が施行された。それに伴い多くの「our privacy policy has changed:当社のプライバシーポリシーが変更されました」といった内容のメールが届いたが、そこから実際に「Do Not Sell My Personal Information:私の個人情報は販売しない」のボタンやリンクを見つけるのは容易なことではなかった。

 

「Do Not Sell My Personal Information」のボタンやリンクを目にするようになったのは、今月の初めの週末あたりからであった。とはいえ、多くの場合、通知は全く目立たないものだった。それはまるで、最小限のコンプライアンスのレベルを試すテストのようだった。実際に多くのパブリッシャーは、消費者の個人データ販売のオプトアウト(拒否)について、できる限り注意を向けさせないようにしているように見受けられる。

 

ユーザーがオプトアウトのエントリーポイントを簡単に見つけられない表示

 

積極的に探さなければ見つからない

その最も代表的な例が、米国のニュース雑誌Time社のホームページで見ることができる。「Do Not Sell」のリンクは、リストの6番目、ホームページの一番下で一番右の列にある。これは、多くのサイト訪問者が何気なく発見できるようなものではない。長々とスクロールする必要があるのだ。

 

これは、ジュエリー・アクセサリーの製造・販売業Pandora、動画配信サービスHuluThe NY Times、国際的な影響力を持つ日刊経済新聞WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)、その他多くの企業サイトで、本質的に同じであった。必須とされるリンクは、各社ホームページの一番下に小さなフォントで表示されているのだ。

 

世界最大の動画配信サービス、Netflixは、オプトアウトに関する文面を、ホームページ上の目立たない「privacy」リンクの後ろに隠している。同じことがAmazonにもいえる。CCPAのリンクについては、GoogleとFacebook双方のホームページ上でも見つけることが非常に困難だ。積極的に探さなければ見つけられないのである。

 

極小フォントで表示された「Do Not Sell:販売禁止」リンク

 

ある程度、ユーザーフレンドリーな例

女性向けファッション雑誌「VOGUE」などを出版する米国の多国籍雑誌出版企業Conde Nast publications は、ユーザーにとってわかりやすい表示方法をとっている。例えば、同社が発行するビジネス、インターネット、ジャーナリズム、カルチャーなどの情報を扱う雑誌Wiredのホームページでは、ポップアップ通知により、更新されたプライバシーポリシーへの同意を求められる。その後すぐに、ページ下部に比較的目立つ「Do Not Sell」ボタンが付いた「Cookieバナー」が表示される(下図参照)。

私がよく閲覧するサイトを非科学的に調査した結果、Conde Nastでの「Do Not Sell」の扱いは、他のほとんどの「嫌々ながら」従っているパブリッシャーと比較した場合、CCPAの文言に最も適切に対応している。その他多くのパブリッシャーは、意図的に、「Do Not Sell」リンクを隠しているように見える。

 

Amazon、Google、Facebookには「オプトアウト」オプションは存在しない。その代わりとなるユーザーのプライバシーをコントロールする別のメカニズムを提示している。また、通常、彼らは個人データを「販売」していないという立場も取っている。依然として明らかにすべきことは多くある。そしてGoogle、Facebook、およびAmazonに関しては、さらに長い議論を交わす必要があるが、リターゲティングについては、明らかにCCPA違反において関連がある。

 

Conde Nast社の”明確で注意を引く”表示

 

”明確で注意を引く”とは?

CCPAがパブリッシャーに求めているのは、「消費者、または消費者によって承認された人が、消費者の個人情報の販売をオプトアウトできるようにするために、インターネットWebページ上で明確かつ注意を引く方法で、『個人情報の販売を拒否する』というタイトルのリンクを貼ること」である。

 

”明確で注意を引く”というフレーズの意味について議論の余地はあるだろう。しかし、ほとんどのパブリッシャーが行っている対応は、私が確認したところ、Conde Nastと他の数社を除いて十分ではない。彼らは「個人データ販売拒否」リンクというボールを隠して遊んでいるようなものである。

 

Conde Nast 後続ページの詳細説明テキストと細則

 

読み手を疲労させるほど大量の細則

ユーザーが、果敢にもリンクを見つけてクリックスルーしたとしても、多くの場合、後続ページは複雑な細則で溢れている。CCPA遵守において進んでいるConde Nastでさえ、上記のような混乱を招く可能性が高い画面を表示しているのだ。(赤い枠は、筆者による追記)

 

「選択を確認」した後、フォームが表示され、(少し待ってから)たくさんの個人情報を提供するよう求められる。その後、電子メールを受け取り、2回目の選択確認を行うよう要求される。こうした手間によって、元々読みたかった記事から遠ざかってしまうことになるのだ。

 

パブリッシャーとソフトウェアベンダーが異なれば、処理方法やユーザーエクスペリエンスも多少異なることになる。米国のメディア会社CBSは、最も簡潔なオプトアウトを提供している。もし、ユーザーがそのリンクを見つけられたらの話ではあるが。しかし、多くの場合、大量のテキストや法律用語が表示され、それらすべてを読み解こうとすると一般のユーザーは疲弊してしまうだろう。これまでもCCPAがもたらす複雑さや混乱について議論したように、記事を読んでいるだけのユーザーは、最低でも5分以上かかるこの全てのプロセスを完了したいとは思わない。

 

さらに、1日または1週間に10、20、50件ものサイトを訪問するとなると、ほとんどのユーザーは便宜上、「プライバシー保護のための疲弊」を避けるために通常どおりの対応を続けるだろう。最初に「販売拒否」リンクを探した場合の話だが。おそらくほとんどのパブリッシャーは、ユーザーが気付かないか、単に諦めてしまうことを望んでいるのだ。

 

個人情報の流用を防ぐために必要な個人情報

 

法律に「従う」のではなく「伝える」

CCPAへ対応するための初期の取り組みは、その条文には沿っているかもしれないが、同法の本来の趣旨に従っているとは言えない。ページの下部にリンクを非表示にしても、消費者の信頼を得ることはできず、またユーザーに対する透明性を高めることもない。今後の道のりは複雑でまだ不透明だが、賢明なマーケティング担当者は、プライバシー保護を受け入れ、それと争うことはしないのだ。

 

実際問題として、私は、「販売拒否」リンクの「ホームページの下部」への配置は、十分に注意を引く方法とは見なされず、パブリッシャーはそれらをより際立たせ、オプトアウトプロセス全体を単純化せざるを得ないと考えている。パブリッシャーやテクノロジープロバイダーは、ユーザーが気付かないことを望むのではなく、オプトアウトしないことの利点を、弁護士ではなくても理解できる言語でユーザーに伝える必要があるのだ。

 

※当記事は英国メディア「Marketing Land」の1/6公開の記事を翻訳・補足したものです。