インドでは実店舗販売に加えてEC市場も急成長中だ。
小売業界が国内総生産(GDP)の10%以上と雇用の約8%を占め、この市場には多くの大企業や多国籍企業も小売りチェーンを展開しようと参入している。対面販売に加えてEC市場も急成長中だ。企業間取引(B2B)のEC市場は、2020年までに7,000億ドル規模に達すると予想され、企業対消費者取引(B2C)は1,020億ドル規模に達すると見込まれている。(一方で2020年に637億ドル程度という予測もある。)いずれにせよ、2034年にはこれまで最大だった米国を抜き去り、中国についで世界第二のEC大国になると予測されているのだ。
世界のEC業界を牽引する米国Amazonは、既に20億ドル投資しているインド部門に更に30億ドルを投資したのだ。海外からの直接投資を見ても、EC分野で2000年4月から2016年3月までに5億3,761万ドルの投資を集めた。2017年のインド予算案となるUnion Budgetでは、こうした投資の流入やこれまでの複雑なサプライチェーンの仕組みを考慮しながら、地域と世界のルールをすり合わせていくことになる。
2016年の予算案には「BEPS(国際課税ルールの見直し)アクション・プラン」が導入されており、2017年も引き続き導入される見通し。インドはBEPSだけでなく、商品サービス税(GST)、インド会計基準(IND As)、所得計算と開示基準(ICDS)などの最近導入された規定に沿いつつ、国際税法との整合を取って行く。
ブランド名、商標、サプライヤー契約、フランチャイズ契約などの無形資産取引は、バリューチェーン全体の複雑化に伴い数多く発生しているため、様々なステークホルダーとは独立企業間価格に則った取引が必須となる。こうした移転価格のガイドラインを示したBEPSアクション・プラン8から10の内容も、今度の予算案に組み入れられることになるだろう。
政府管理システムにも前述の複雑な構造が関係している。グループ全体の利益、効率、基準化などに直結するため、独立企業間価格(理想ではアクション・プランに示されている費用に加え5%の上乗せ)で取引することが重要になる。現段階では政府はこの考えに整合していないが、これらが明確化すれば、進行中の多くの移転価格訴訟が解決に導かれるため、予算案への反映が期待されている。
実店舗とオンライン店舗の両方を持つ企業が多い小売業界では、データ管理や販売時点を確実に把握できているとは限らず、時には購入者が誰であるかさえ特定できないことも発生しうる。こうした煩雑な業務は、サービスや無形資産の取引において、地方税や移転価格の適用を難しくしている。
人や事業、サーバーなどの無形資産、クラウドコンピューティング、利用者、現地事務所などあらゆる要素を含むECモデルに於いて、政府は課税性の透明化も期待。また、取引価格と「株主に帰属する純利益」を決定する移転価格税制も優先事項だ。
小売部門は、広告、マーケティング、プロモーション(AMP)活動に大きく依存するため、長引く訴訟を回避するためにも、国際取引を構成するAMP支出の明確な取り決めが求められる。
さらに、業界が今度の予算案に期待する点は以下の通り。
- プラス1%、または3%の営業利益を請求するための卸業者と小売業者を区別する基準
- セーフハーバー規則(包括的な規制が定められているケースにおいて、適法な行為を予め類型化して示しておくもの)に基づいた利益の、小売りや他業界への拡大
小売業界の急激な成長により、第三企業との合弁事業だけでなく、多国籍企業にも複雑なサプライチェーン構造をもたらしている。こうした多国籍企業グループ内での取引では、各地域での独立企業間価格の順守は必須。実質税制の国際的な再編が行われており、BEPSプロジェクトでは無形資産や知的財産、グループ間サービス取引、部品調達など、小売業界でよく発生する当事者取引の企業間価格設定について多くの検討がなされている。特にファッション小売業は、良好なサプライ契約と同時に価値ある「ブランド」の創造を目指しているが、こうした無形資産が新たに提唱されたBEPSに照らすと税務当局に問題にされる報酬につながる可能性があるからだ。
2012年の予算案にてインドは、BEPSとOECD(経済協力開発機構)によって協議されてきた背景を考慮しつつ、無形資産の移転価格を明確に定義したが、両者間の相違点についてこの2017年予算案で更に明確になる予定。
この予算案の改定は、税制上の訴訟を減らし、インドにおける公平でわかりやすい租税環境が創り出されていくだろう。
※当記事はインドメディア「DNA India」の1/12公開の記事を翻訳・補足したものです。