新たな決済サービスLINE Pay・SPIKEと世界標準のPaypalは日本のEC決済の常識を覆すのか
1990年代のECの黎明期にはここまでオンライン決済が浸透するとはなかなか考えにくかったが、今やECには無くてはならない存在になってきた決済サービス。EC市場が活況を呈す中で、様々な決済サービスが勃興してきている。今回は注目を浴びている新興サービスのLINE Pay、SPIKE、そして世界で最も幅広い国で利用されていると言っても良いPaypalについて見ていき、日本のEC決済はどのように変わっていくのかを考えていく。
LINE Pay
昨年、LINEは新たな機能として、簡単に送金・決済ができるモバイル送金・決済サービスであるLINE Payを公開した。
さらに今春にはZOZOTOWN等の大手ECサイトがLINE Payに順次対応していくこともあり注目を集めている。LINE PayはLINEの基盤を活かし、LINE上での個人間での送金・出金、スマートフォンで安全に取引ができる決済機能を提供をしていこうとしている。
LINE Payの決済機能とは、提携する店舗やWebサービス・アプリ内における支払いをLINEアプリ上から行うことができる機能である。日常的に利用するLINEから様々なシーンで決済が可能になることで、ユーザーは個別の利用登録が不要で気軽にモバイル決済を利用することができる。今後、デリバリーサービスLINE WOWや、近く公開を予定しているタクシー配車サービスLINE TAXIなどLINE周辺サービスに加え、ECサイトなどの外部Webサービスとの連携を予定し、広く加盟店舗の拡大に力を入れていく予定だ。ECサイト事業者においては、LINE Pay決済を導入することにより、購入者に対して会員登録やクレジットカード情報などの登録を求める必要が無くなるため、ユーザーの決済手続きの手間を省くことができ、さらなる成約率の向上を期待することができる。
またLINEアカウントの乗っ取りが昨年横行した影響で、セキュリティ面も強化している。具体的にはLINEのパスワードとは異なるLINE Pay専用パスワードパスワードを新たに設けたり、ユーザーの本人確認を強化したりしている。さらに2月には不正利用による損害を補償する制度を導入し、ユーザーがより安心して利用できるサービスにするために注力しているようだ。しかしその反面、手続きが多少複雑化している面があり、面倒だという声もある。身分証の写真を撮って、アップロードしなければならないし、住所確認のハガキまで届くのだ。今のところZOZOTOWNやReward by CROOZなど7つのショップしか対応していないが、今後第2弾の導入店舗の発表も控えているようで活用するショップは増えていくだろう。今後様々なキャンペーンや対応サービスの拡充、オフライン店舗との提携などを進め、さらなる利便性の強化と新たな決済手段としてのモバイル決済の未来を提案していこうとしている。
SPIKE
「オンライン決済が驚くほどシンプルに」をコンセプトとしているSPIKEは、そのコンセプト通り、「決済手数料無料」、「専門知識不要」、「最短1分で始められるカード決済サービス」、という3点が大きな特徴である。
決済手数料無料については、業界初であり驚くべきことである。具体的には、個人向けのフリープランでは月間決済額100万円までは決済手数料が無料であり、法人向けのビジネスプレミアムでは月間決済額1,000万円までは無料だ。超過した分は決済手数料がかかるものの、ビジネスプレミアムにおいても、2.5%+30円しかかからない。従来は3%程度でも安いと言われていたのに、それを下回る安さだ。導入に関しても「1分で始められる手軽さ」というウリ だけあって、プログラミングなどの知識がなくても、アカウントの登録、入力、リンク作成、貼り付けという面倒な登録を1分程度で終わらせることができる。これらの特徴で既存の決済サービスを圧倒していると言える。特に決済手数料無料は革新的であり、SPIKEを利用したいという店舗は非常に多いだろう。
SPIKEがなぜ決済手数料無料が打ち出せたのかと言うと、秘密はフリミアムモデルにあるようだ。SPIKEには月1,000万円の取引を超える企業が使う「ビジネスプレミアム」というプランがあり、こちらを利用する企業からの収益でビジネスモデルが成り立つと考えているようだ。また、サービスの中で中小企業や個人事業主の売上が上がり、彼らがフリープランからビジネスプレミアムへと移行する可能性もある。これはフリーミアムモデルのような収益を獲得していると言える。(フリーミアムとは、基本的なサービスや製品を無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能について料金を課金する仕組みのビジネスモデルである。)登録事業者の売上規模は年商数百万円~数千万円から数億円規模へと徐々に上がってきているらしく、現在のペースで推移すれば、今年の早い段階で登録事業者数は10万件を達成できるのではないかという見方もある。
ただ一方で、この2月にも43億円にものぼる巨額の資金調達を実施しており、「お金の在り方を変える」という代表の佐藤氏の発言からも、決済サービスとは異なるビジネスモデルの構築を目指している可能性も高い。2020年には20兆円とも言われる国内のEC市場の何割かをSPIKE上で流通させることで、本当に「お金の在り方を変える」ことが出来るのかもしれない。
Paypal
Paypalは「ショッピングを楽しむ人にも、ビジネスをする人にも、より安心してご利用いただける決済サービス」と題しているだけあって、安心安全なサービスを目指している。
やはりオンラインショッピングは安全性が不安…と言った声が多いが、Paypalはクレジットカード情報を自社で全て管理し、オンラインショップには伝えないようにすることで安心安全な支払いを実現している。世界最大級のオークションサイトeBayグループの一員であり、アクティブアカウント数は1億を超えている。Paypalを利用できるオンラインショップは900万店以上で、203の国と地域で利用可能であり、26通貨(日本のPaypalアカウントを持っている人は22通貨)に対応している。グローバルでPaypalを利用している人、ショップ数などが非常に多く、日本でその事情を知らない方には驚くべき数字かもしれない。
Paypalの導入には、決済手数料(3.6%+40円)がかかる以外は、基本的に初期費用、月額利用料などは無料である。ショップ側としても非常に嬉しいサービスである。またカード情報をショップごとに入力する手間を省き、離脱率を減らす工夫もしている。今後日本でもさらに導入店舗が増えることで、導入が当たり前の決済手段の一つとなり得るだろう。
これらの決済サービスは日本のEC決済の常識を覆すのか
経産省が発表しているデータによると、日本におけるECで利用されている決済手段は「クレジットカード」63.0%が最も多く、次いで「コンビニ払い」35.1%、「代引き」32.0%、「店舗振込」26.2%、の順となっており、Paypalなどの第三者支払サービスは上位には上がっていないのが現状だ。Paypalの安心・安全な決済は魅了的ではあるが、まだ主流のオンライン決済とはなり得ていない。今後これらのサービスが浸透していくには、2つのポイントが重要になってくるだろう。
ユーザーへ浸透するかどうか
良くも悪くもECサイトでの決済ではクレジットカードを使うことに消費者は慣れてしまっている。どのサービスもEC事業者から見たら手数料が無料となるなど魅力的だが、消費者から見て特に目立ったメリットが見当たらないのも事実だ。それだけに、LINE PayやPaypalのようにクレジットカードと並列的に選択肢として並ぶことが多い決済手段は「クレジットカード」の牙城をどのように切り崩していくのかが非常に重要となってくる。またPaypal内でもクレジットカードの利用は可能だが、日本のユーザーにはなかなか馴染みが少なくPaypal自体への登録に躊躇するケースも多いと想定される。しかし、どちらのサービスも一度ユーザーが登録すれば再度決済の情報を入力する必要のないサービスとなっているため、どれだけのユーザーが最初の一回のハードルを乗り越えてユーザーに浸透するかが鍵となる。利用するユーザーが増えていくためには、やはり導入しているショップの多さが重要であり、鶏と卵どちらが先かという話にはなるがそれぞれが増加していく必要があるだろう。
ショップへの導入が容易かどうか
逆にクレジットカードという決済方法を包含する形で消費者に選択肢を提示することが出来るSPIKEは、ユーザーにとって利用するハードルが低い。そのためSPIKEの場合はまず導入しているショップが増えることが重要となる。導入ショップが増えるためには、どれだけ多くのカートやパッケージなどのECプラットフォームに対応していて簡単に導入できるか、決済手数料が安いかの2点がポイントとなる。ただ、サービスがリリースされてすぐに数万店集まったことからも、EC事業者から見ると何よりも決済手数料の安さは魅力的に映るようであり、SPIKEは全く問題なくこのハードルを越えていきそうだ。
LINE Payについては、その導入にどの程度のハードルが店舗側にあるのかはまだ不明確だ。また、Paypalは非常に簡単に店舗への導入が可能であるため、店舗側がその必要性をどこまで感じるかが鍵となるだろう。
ここ数年で決済手段は多種多様に拡張してきている。今回取り上げた決済サービスについても、さらなる進化が期待できる。ユーザーへの利便性を第一に考え、導入店舗数を一気に獲得していく新しい決済サービスは出てくるのか。これらのサービスが広まっていけば、EC事業者としても消費者としてもより楽しいネットショッピングが楽しめるようになるだろう。