ほとんどのチームにはAIのロードマップや戦略がなく、ほとんどの企業にはテクノロジーを効果的に導入するために必要な方針や手順がない。


AI Marketing Institute(AIを活用したマーケティングの教育や研究を行う米国の組織)の新しい調査によると、AIの導入が進んでいるにもかかわらず、マーケティングチームの64%がAIのロードマップや戦略を持っていないという。これは企業全体の問題を反映している。AIを導入している企業の半数以上が、テクノロジーを安全に運用するための方針、手順、監視体制を確立していないのだ。

「2025 State of Marketing AI Report(2025年マーケティングにおけるAIの現状レポート)」には、以下が記載されている。

  • 回答者の55%は、自社にAIの利用を指導する方針がないと答えている。
  • 51%は、AIの倫理方針や責任あるAIの原則を持っていない。
  • 59%は、方針と実践の開発を担当するAI協議会を設置していない。

しかし、注目すべきは、これらの数値はすべて増加傾向にあるというポジティブな傾向である。たとえば、マーケターの25%がロードマップを策定していると回答しており、これは前年から6ポイント増加している。同様に、AI倫理ポリシーを策定している企業も、2023年の23%から今年は41%へとほぼ倍増している。また、AI協議会を設置している企業も29%に上り、2024年の25%から増加している。


改善の兆し

マーケターは、AIが自身にとって、そしてマーケティング全体にとっていかに重要であるかをますます理解している。AIは今後12ヶ月間「非常に重要」になると回答したマーケターは4分の3に上り、前年比8ポイント増となった。AIを「極めて重要」と回答したマーケターは、2021年以降20ポイント増加した。

これらの数字は、マーケティングにおけるAIの統合が進んでいることを反映している。今年は、回答者の40%がAIツールを積極的にテストしていると回答している。さらに26%が日々の業務にAIを組み込んでいる。最も先進的な回答者では、17%がAIによって仕事への取り組み方が変革されつつある段階にあると回答。また、同じ割合の回答者が、AIへの関心や理解を深める初期段階にあると回答している。


「あなたの現在のAIの理解と導入状況は?」

出典: AI Marketing Instituteの「2025 State of Marketing AI Report(2025年マーケティングにおけるAIの現状レポート)」

マーケティングチーム全体では、46%が初期のAIプロジェクトを実行していると回答している。チーム全体でAIの利用を拡大しているのは14%。この60%という数字は、同じ回答が42%に過ぎなかった2023年から18ポイントも増加している。

マーケターはより少ないリソースでより多くの成果を上げることを常に求められている。そのため、AIに最も期待するのは、反復的なデータドリブンタスクの時間を節約することだと82%が回答しているのも当然と言えるだろう。次に多かったのは、データからより実用的なインサイトを得ること(65%)と収益成長の加速(63%)だった。


AIのトレーニング不足が依然として最大の問題

マーケターは、もっと教育やトレーニングを受けていれば、AIの導入はもっと進んでいただろう。そのような教育やトレーニングの不足は、62%が直面する最大のハードルとして挙げており、5年連続でトップとなった。また、68%が会社からAIのトレーニングを受けていないと回答している。ただし、51%のCEO、創業者、社長がトレーニングの不足は問題ではないと答えていることから、この状況が変わることはなさそうだ。

AIスキルの重要性はマーケターにとって大きな重荷となっているようだ。マーケターの53%が、AIテクノロジーによって創出される雇用よりも失われる雇用の方が多いと考えている。これは、わずか2年前の40%から増加している。


「今後3年間で、AIはマーケティング職にどのような影響を与えると思うか?」

出典: AI Marketing Instituteの「2025 State of Marketing AI Report(2025年マーケティングにおけるAIの現状レポート)」

AI Marketing InstituteのCEO、Paul Roetzer氏は、同レポートの序文でこの問題を指摘した。

「AIによる大規模な雇用破壊が迫っているという兆候が、今やますます強まっている」と、Roetzer氏は記している。「過去6~12ヶ月の間に、『静かなAIレイオフ(解雇)』が既に見られている。企業が従業員をAIに置き換える、あるいは少なくともAIの導入を理由に新規採用を控えるといった動きだ。企業はこうした動きを、評判の悪い広報活動を避けるべく、職場復帰制度などの陰に隠している」と続けた。

最も革新的な企業は、AIトレーニングを提供する企業であることは明らかである。そうした企業は、重要なテクノロジーに関する専門知識を高めるだけでなく、従業員の離職に伴う高いコストや機会損失も避けることができるのだ。


調査方法

本レポートは、コンテンツマーケティング、ソーシャルメディアマーケティング、eメールマーケティング、アナリティクス、広告、SEOといった主要なデジタルマーケティング分野において、約1,900名のマーケティングリーダーおよびビジネスリーダーを対象に2025年2月から4月にかけて実施された。レポート全文はこちら(登録が必要)。



※当記事は米国メディア「Martech」の5/20公開の記事を翻訳・補足したものです。