商品体験を提供する企業の最近の調査によると、ほとんどの消費者はAIショッピングアシスタントからのレコメンデーションに満足しているものの、このテクノロジーに対する懐疑的な見方は依然として根強く残っているという。
ボストンに本社を置くソフトウェア企業Akeneoの依頼でDynata(消費者および企業間の調査研究を行う米国企業)が1,000人の消費者を対象に実施した調査によると、AIによるレコメンデーションに基づいて購入した買い物客の84%が肯定的な体験を表明した一方で、AIを活用したレコメンデーションやチャットボットが自分の興味や好みに基づいて正確な商品提案を行うことに、ある程度の信頼を寄せている消費者はわずか45%にとどまった。
調査の結果、回答者の75%がオンライン上でAIのレコメンデーションやチャットボットを目にしたことがあると回答。そのうちの44%は、このテクノロジーを利用しており、32%はAIのレコメンデーションに基づいて購入を完了している。
Akeneoは声明の中で、「顧客はAIがもたらす価値を急速に認識し始めており、この調査結果は、小売業者や販売業者が商品体験を向上させるためにAIに投資する機会があることを裏付けている」と述べている。
ラスベガスにある消費者向けテクノロジー市場の調査・分析を行うSmartTech Researchの社長兼主席アナリストであるMark N. Vena氏も同意見である。「84%という満足度は、小売業者がAIによるレコメンデーションの検討を進めるための強力な行動喚起のサインである。AIが効果的に導入されれば、コンバージョンと顧客満足を促進できることを示している」と同氏は語る。
「しかし、それは好き放題にやっていいということではない。小売企業は依然として、自社のブランド、顧客層、そしてカテゴリーに合わせてAIをカスタマイズする必要がある」と同氏は警告する。
優れたCXはAIに勝る
1,000人という調査数は非常に少ないものの、この調査結果はこの機能を調査する裏付けになるだろう、と指摘するのは、オレゴン州ベンドに拠点を置くアドバイザリーサービス企業、Enderle Groupの社長兼主席アナリストのRob Enderle氏だ。
「ただし、分析には収益も含める必要がある」と同氏。「というのも、買い物客は満足しているかもしれないが、より低価格の商品を買っているかもしれないし、結局何も買わなかったかもしれない。そうした行動も考慮に入れる必要がある」。
ニューヨーク市のビジネスコンサルティング企業、The Relayer Groupのエグゼクティブディレクターであり、『The Brain Makers: Genius, Ego & Greed In The Quest For Machines That Think.The Brain Makers』の著者でもあるHP Newquist氏は、消費者にとってはAIよりも良い体験の方が重要だと主張する。
「サイト上で満足のいく体験が得られれば、サポートしているのがAIなのか、チャットボットなのか、あるいは人間なのかを消費者は気にしない」と、同氏は話す。
「消費者はAIが搭載されているからといって、特定のサイトを使わざるを得ないわけではない。というのも、AIはまだ人々の購買決定において重要な要素になっていないからである。人間であれ、機械であれ、より早く、より購入に近づけてくれるものであれば、それでいいのだ」。
マサチューセッツ州ケンブリッジに本社を置く市場調査会社Forrester ResearchでCMOプラクティス担当の主席アナリストを務めるAudrey Chee-Read氏は、「ショッピング体験におけるAIは以前から存在していたが、その多くは商品のレコメンデーションなど、ここ数年までAIとしてブランド化されていなかった」と指摘する。
「企業がAI体験を追加しようと競争するにつれ、検索や商品発見が根底から覆され、結果として質の低い体験が生まれることになるだろう」と同氏は語る。
「同時に、消費者の行動が定着するには時間がかかる。企業がこれらの機能を追加しようと躍起になっても、消費者は必ずしも準備ができているとは限らない」。
「客観的に見て質の低い体験もあるかもしれないが、消費者の期待が一貫していないことが原因である場合もある」と同氏は説明する。「企業は、消費者が新しい行動を受け入れるには時間がかかることを知る必要がある。準備が整う前に体験を完全に一新してしまうと、逆効果になる可能性がある。AIがまだ多くの人にとって謎に包まれている今、大きな飛躍ではなく、小さな一歩を踏み出すことで、消費者をAIに追いつかせることができるのだ」。
サンフランシスコの市場調査企業Near Mediaの共同創業者であるGreg Sterling氏は、「小売業者は他社の失敗から学ぶことはできるが、その解決策を見つけるまで待つべきではない」と、付け加える。
「まずは小さく始めて、成功とフィードバックに基づいて反復的に改善していくべきだ」と語る。
AIのラベル付けを隠すことで信頼を築く
この調査では、eコマースにおけるAIの活用は減速するどころか、今後も小売業務のフロントエンドとバックエンドの両方でますます存在感を増していくと指摘している。しかし、AIの活用機会は成熟しているものの、そのプラスの影響と潜在的なセキュリティリスクのバランスを取ることが重要であるとも警告している。さらに、この調査では、消費者とAIの間に大きな信頼関係の問題があることが明らかになったと付け加えている。
信頼を構築することは、AIを利用する小売業者にとって極めて重要である、とSmartTechのVena氏は断言する。「信頼を構築するために、小売業者はAIがいつ、どのように使用されているかについて透明性を保つ必要がある」。
「説明可能なレコメンデーションを表示し、人間が修正を加えられる選択肢を提供し、ユーザーのコントロールを明確にすることが効果的だ」と同氏。「何よりも、信頼を高めるためには、正確性と関連性を継続的に向上させる必要がある」。
Near MediaのSterling氏は、「小売業者は、AIのレコメンデーションが実際に有用で優れたものであり、実際のデータやパーソナライゼーションに基づいたものであることを確認しなければならない。それは技術的な課題であるが、克服できないものではない」と付け加える。
The Relayer GroupのNewquist氏は、体験をAIとラベル付けすることは小売業者にとって問題になりうると主張する。「人工知能は、常に過剰な約束をして期待に応えられないという問題を抱えてきた。そして、期待に応えられなければ、人々の信頼を取り戻すのは難しい」。
「小売業者はAIを業務に取り入れるべきだが、それを『AI』と呼ぶべきではない」と同氏。「顧客サービスの向上、顧客体験の向上、そして購入アシスタントやレコメンデーションの改善について語るべきだ。しかし、多くの企業がそうしているように、『これがあなたのパーソナルAIアシスタントです』と言う必要はないのだ」。
AIによる顧客体験の強化
Vena氏は小売業者に対し、AIを、顧客体験を強化するツールとして捉えるようアドバイスする。「AIをうまく活用すれば、商品発見、スピード、パーソナライゼーションを向上させることができるが、アルゴリズムではなく、買い物客のニーズに応えるものでなければならない。成功する小売業者は、自動化と共感を融合させたハイブリッドモデルに注力するだろう」。
Enderle氏は、小売企業はソリューションを導入する前に、AIのスキルを身につける必要があると付け加える。「一般的に、ビジネスを理解していないAIプロバイダーと、AIを理解していないビジネスでは、最適とは言えない結果になりがちだ。小売業を理解しているサプライヤーを選び、顧客固有のニーズを理解している社員と組み合わせることで、はるかに優れた結果をもたらすことができる」。
AkeneoのCEOであるRomain Fouache氏は声明の中で、「AIは今後もデジタルショッピング体験やeコマースプラットフォームに深く統合されていくだろうが、それは慎重かつ意図的に行われなければならない」と述べている。「透明性、信頼性、そしてパーソナライゼーションの向上に対する要求が高まり続けるなか、消費者はAIが将来もたらす影響について慎重であると同時に、好奇心と楽観的な見方を持っていることが当社のデータから分かった」。
そして、「企業が質の高い体験とサポートを提供することに注力するなか、強力でロイヤルな顧客関係の基盤として、信頼と透明性が商品体験に組み込まれることが不可欠である」と同氏は続けた。
※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の5/20公開の記事を翻訳・補足したものです。