ビジネス成長の鍵である顧客生涯価値(LTV)。このLVTが獲得できないのであれば、職場の電気を消して家に帰ったほうがいいかもしれない。
LTVとは、顧客の生涯にわたる販売者との関係の中で、販売者がその顧客から受け取る総額を意味する。つまり、あるeコマースストアにおいて、平均的な顧客が年間200ドルを、平均3年間にわたり支出する場合、同ストアの平均的顧客生涯価値(CLTV)は600ドルとなるということだ。
オンラインでも実店舗でも、多くの小売業者では、1つの販売取引が成立した時点でその顧客のカスタマー・ジャーニーを終了させている。しかし、こうした販売後のフォローアップの必要性を無視しているブランドは、大きな損害をもたらす過ちを犯している。
なぜ、LTVが重要なのか?
eコマース向け配達追跡プラットフォームを提供するAfterShipの共同設立者兼CPOであるAndrew Chan氏は、購入後のエンゲージメント向上が顧客維持につながると考える。配送、トラッキング、返品、レビューなど、購入後利便性の高い体験を確実に提供することで、小売業者は消費者の満足度を向上させ、リピート購入を増やすことができるのだ。
リピーター顧客に対して定期的に商品在庫を販売できなければ、倉庫の保管商品は古くなり腐ってしまうだろう。この点について、「調査結果がはっきりと証明している」とChan氏は述べている。
販売後のエンゲージメントは、これまで以上に必須なものとなっている。調査によると、76%の顧客が、小売店を選ぶ際に利便性をより重要視しているという。さらに説得力があるのは、買い物客の75%が「1年前よりも利便性を重視している」という調査結果である。
納得できただろうか?
現在、新規顧客獲得コストは上昇し続けているため、顧客維持によって支出を削減できる事実も考慮する必要がある。
「一度、購入してすぐにすぐに去ってしまう顧客よりも、リピーターのほうがより多くの収益を生み出すことは周知の事実である。これは、単純に数字が示していることだ」と、Chan氏は語った。
重要な2つのポイントは、リピーターを増やすためにはどのような戦略を立てればよいのかという点、そして、リピーターにさらに多く購入してもらうためにはどうすればよいのかという点である、とChan氏は指摘する。
オープンディスカッション
Andrew Chan氏(Aftership共同設立者)
私たちは、Chan氏に対して、顧客維持率向上に関する2つの重要な質問をした。
なぜ小売企業は、顧客獲得よりも顧客維持を優先すべきなのか?
Chan氏: 小売企業は、自社のビジネスを「サービスとしての販売」と捉え、顧客の獲得後、その顧客を維持し生涯価値を高めることに注力すべきだ。顧客獲得にかかるコストは、10年前と比較すると決して安くはない。
顧客に一度だけ購入してもらえば戻ってこなくてもいいと考えているストアが長期的に利益を上げることは、ほとんどない。満足した既存顧客は、アドボケイト(支持者)となる。そして、商品を無料で宣伝してくれる。このようにして、有料マーケティングだけに頼ることなく、ストアへのダイレクトトラフィックのソースを増やすことが可能となるのだ。
小売業者は、どのようにして、従来のロイヤルティプログラムより顧客維持戦略を優先させることができるのか?
Chan氏: 小売企業は、顧客エンゲージメント向上のために、購入後の体験への投資を強化するべきある。トラッキングのために顧客にサードパーティウェブサイトを利用させるのではなく、顧客が自社ストアを再訪するようにし、そこで何をしているかをトラッキングすることが不可欠である。
AfterShipを使うことで、どのように購入後の体験が向上するか?
Chan氏:私たちの顧客は、AfterShipの技術を用いて構築したトラッキングページを利用し、1回の注文につき3.1倍の訪問を獲得している。また、出荷のお知らせメールを送信し、50%以上の開封率を達成するブランドもある。また、ブランドは、おすすめの商品やマーケティングアセットを掲載し、顧客に継続的に買い物をさせたり、ソーシャルメディアのページをフォローさせたりすることもできる。
パンデミック後の今、小売が課題を抱えるなかで、彼らはどのようにして消費者の変化する要求に効果的に応えることができるか?
Chan氏:ほとんどの顧客は、質問に応える必要がない返品体験や、サポート担当者に連絡せずに出荷ラベルを作成できる機能などを求めているものだ。
顧客は、Amazonの提供するショッピング体験をベースとした期待値を持っているため、ブランドが、簡単で自動化された返品体験を構築することは重要である。このような購入後のタッチポイントにおいて、ブランドの認知度が向上し、顧客からのクレームが減少して、より多くの売上につながるのだ。
顧客維持をサポートするために、データの統一的アプローチがどのような役割を果たすのか?
Chan氏:小売業者にとって、顧客維持率や顧客LTVをモニターすることは、難しいことではない。最も難しいのは、顧客維持率の向上に役立つさまざまなイベントをすべて把握することである。顧客維持向上には、カスタマー・ジャーニーにおける購入後の主要タッチポイントでのイベントのデータを追跡することが極めて重要である。
例えば、マーチャントは、AfterShipを使って、注文の配送イベントを収集し、どの運送会社を使っているかにかかわらず、定時出荷レートの例外を探し出す。これにより、出荷荷物が遅延なく到着していることを確認できる。
小売企業は、顧客維持率を向上するカスタマー・ジャーニーのプロセスを微調整するために何ができるか?
Chan氏:カスタマージャーニープロセスについて、より深く学び、顧客維持を向上させるためには、優れたカスタマーサポートとセールススタッフが不可欠である。顧客がショッピング体験に満足しなければ、離れていくものだ。これはごく単純なことである。
まずは、カスタマーサポートサイドから、顧客からお問い合わせやクレームがあった原因を徹底的にチェックしてみよう。もし、顧客からの問い合わせのほとんどが注文状況に関するものであれば、トラッキング体験に何か問題があると考えられる。
配送予定日を正しく伝えていないか、最悪の場合、全く伝えていないかのどちらかだろう。あるいは、お客様に積極的に最新情報を提供していないかもしれない。
顧客が配送における例外的な状況に直面しているにもかかわらず、ストアがその問題を無視しているとしよう。その顧客は、二度と戻ってこないだろう。
リピート購入を促すために、ブランドは具体的にどのようなステップを踏むべきか?
Chan氏:まず、今すぐにリテンションに有効なソリューションを探すことから始めるべきである。例えば、Shopifyストア運営している場合、注文状況の追跡、返品、レビューなど、購入後体験に焦点を当てたアプリを使用することができる。
これらは、Shopify App Storeで見つけることができる。多くのアプリやソリューションが提供されており、ストアのeコマースにおける問題を解決するためにカスタマイズされている。最も難しいのは、なぜそれらの問題が起こっているのかという原因を特定することである。
なぜ、ブランドにとって、顧客獲得よりも顧客維持の方が低コストなのか?
Chan:氏:現在、先を見据えた企業は、カスタマー・ジャーニーは購入後においても、発送、追跡、返品、レビューなどのイベントが続くことを知っている。これらの体験は、すべて、顧客が次の購入をする前に発生する。ブランドが、すべての顧客データを統一的な画面で管理し、顧客が満足しているかどうかを確認することが重要である。
例えば、VIP顧客が商品購入し、2日以内配送を選択したにもかかわらず配送が遅れた場合、サポートチームは連絡を取るべきだろうか?ブランドは、お客様に何かを提供すべきだろうか?
統一ビューを持つことで、社内チームは、購入者により良いカスタマーサービスを提供するための判断を自動的に行うことが可能となる。その結果、リピート購入を促進することができるのだ。
ビジネスを成長させるためには、顧客維持と顧客獲得のどちらが重要か?それとも、バランスをとるべきか?また、その理由は?
Chan氏:顧客獲得が重要であることは間違いない。しかし、全体の目標は、維持率が最も高い顧客セグメントを見つけ、その顧客を維持し、より高いLTVを生み出すことである。このような顧客を維持するための最適なアプローチを考案したら、そのターゲット顧客の獲得に積極的に投資すべきであろう。
最も効果的な顧客維持手法とは?
Chan氏:多くのブランドが、注文の追跡や返品に関して優れたカスタマー・エクスペリエンスを提供することだけでなく、カスタマー・レビューの重要性を無視している。Amazonで買い物をすると、購入商品のカスタマー・レビューを投稿するよう促される。
自社製品のカスタマー・レビューを得ることは、製品の品質向上に役立つだけでなく、クーポンや紹介料を提供すべきブランド・アドボケイトの特定にもつながる。また、クーポンや紹介料を提供することで、自社ブランドを宣伝してもらうことができる。
これらの手法は、従来のローテクなアプローチと比べてどのように変化したのか?
Chan氏:今日、カスタマー・エクスペリエンスにおけるパーソナライゼーションは非常に重要である。それは、ターゲットとする顧客層に対して、一連の厳選された体験を提供することだ。パーソナライゼーションは、主要な顧客セグメントのコンバージョンに影響を与える主要な体験を特定し、改善することによって、全体のコンバージョン率を向上させ、より良い顧客体験を提供することができる。
例えば、タピオカティーを販売している場合、以前に “砂糖少なめ “を選択したお客様には、”砂糖少なめ “のドリンクを提供するというパーソナライズされた顧客体験を構築したいと思うかもしれない。しかし、もしかしたら、購入した “砂糖少なめ”ドリンクが”砂糖少なめ “の商品として販売するには甘すぎると、商品レビューで不満を漏らす顧客がいるかもしれないのだ。
商品オーナーとしては、そのようなフィードバックにどう対処するかを考えるべきなのである。砂糖の量を調整したり、別の甘さレベルを提供したりといったことである。データ中心のカスタマーサービスチームを持ち、このような重要な情報を社内の適切なビジネスユニットに伝達し、迅速に調整することが極めて重要であるのだ。
※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の7/26公開の記事を翻訳・補足したものです。