ZOZOと前澤氏の功罪を振り返り、これからのアパレルEC業界を考える

 

ZOZOTOWNを運営する株式会社ZOZOが、ヤフー株式会社に買収され、創業社長として名を馳せた前澤友作氏は退任するというニュースが世間を駆け回ったのは2019年9月12日だった。ここ数年はすっかりお騒がせ社長としてIT業界以外の一般国民にも認知度が高まっていた前澤氏が、その最終章として下したこの決断は、アパレルEC業界にどのような影響を及ぼすのだろうか。今回は、ZOZOの歴史を振り返り、ヤフー傘下に入った後のZOZO、そして今後のアパレルEC業界について考えていく。

 

 

ZOZOの歴史

 

まず、改めてZOZOの歴史を見ていこう。

 

ZOZOTOWNの創業

ZOZOTOWNの創業は今から約21年前に遡る。世界はネットバブルの最盛期だ。学生時代からバンド活動をしていた前澤氏が、1998年に輸入CDやレコードの通信販売をはじめ、それをきっかけに「有限会社スタート・トゥデイ」を設立。2年後の2000年にはネット上での販売サイトの運営をはじめ、ここから本格的にネット通販を開始したようだ*。しかし、前澤氏は音楽だけでなくアパレル業界にも興味を持っていた。そこで、同年にアパレル商材を中心としたインターネット上のセレクトショップを立ち上げる。これが「ZOZOTOWN」の先駆けである。そして、「株式会社スタートトゥデイ」に組織変更し、2004年に17のインターネット上のセレクトショップを集積したファッションショッピングサイト「ZOZOTOWN」の運営を開始した。

*出典:ZOZO会社沿革

 

ZOZOTOWNの成長

様々な人気ブランドに飛び込み営業をし、出店店舗を少しずつ増やした。その中でも契機となったのが、ユナイテッドアローズの出店だ*。これをきっかけに他のブランドの出店も決まり、だんだんと消費者に注目されるようになる。このようにしてZOZOTOWNは成長を遂げた。

2006年には、独自の物流システムを構築するための物流拠点「ZOZOBASE」を開設。これによって各店舗の商品を自社の物流施設で預かり、保管・写真撮影・梱包・発送などをすべて代行することで即日配送を可能とした。ほとんどが受託販売のZOZOTOWNは、この仕組みによって、高い受託手数料率の実現が可能となり、さらに成長を遂げるのだ。2007年には東京証券取引所マザーズ市場に上場し、5年後の2012年には東京証券取引所市場第一部への上場を果たした。

また、関連事業の展開も非常に早く、2013年には、ファッションコーディネートアプリ「WEAR」をリリースし、Eコマースで服を購入する際にユーザーが試着ができないという問題点の軽減を目指す。このアプリは、一般ユーザーやショップスタッフ、さらに有名モデルや俳優のコーディネートを見ることができるもの。年齢、身長なども公開することができるため、消費者は、着用したイメージを想像しやすくなった。また、着用アイテムをタップすると商品のページに飛び、ZOZOTOWNで購入することができる。WEAR経由での売り上げは2015年に月間10億円を突破している。

*出典:unlimited journal

 

ZOZOTOWNの躓き

振り返ってみると、順風満帆だったZOZOの最初の躓きは、「ZOZOSUIT」の失敗(知名度アップと言う点では成功だが)かもしれない。2017年に提供を開始した、着て写真を撮るだけで全身を採寸できる「ZOZOSUIT」は、SNSに着用姿をアップする若者が多くあらわれ、大きな話題となった。しかし、送料のみで無料で配布したこともあり、開始10時間で23万件の注文が入るなど、予想以上の反響に製造が遅れ、入荷が半年待ちになるなど対応に追われた。また、商品が出回った後も、計測精度の問題や、思った以上にフィットしない完成品への指摘などもあり、消費者に不信感を抱かせる結果となってしまった。しかし、一方でZOZOTOWN、そして前澤氏の知名度はさらに広がった。

その後もIT創業者にありがちなバッシングを受けるなど、事あるごとに注目を浴びていたZOZO、そして前澤氏だが、2018年12月にサービスを開始した「ZOZOARIGATO」施策で大きな転機を迎える。世間的にもサブスクリプションへのトレンドが強く、ZOZOもサービスのサブスク化にシフトするための同施策は、有料会員になるとすべてのアイテムが常に10%オフで購入できるというものだ。さらに割引された金額で支援団体や購入したショップの応援をすることができるという側面もあるもの。欲しい商品が10%オフで購入でき、さらにオフ率は寄付になるものであるため、消費者にとってはありがたいサービスだ。しかし出店ブランドにとっては、自社の商品が常に値下げした状態で売られることになり、ブランドを大切にするアパレル業界の体質とは相容れず、様々なブランドが懸念を抱くようになり、退店や縮小を図るブランドが現れた。その結果、このZOZOARIGATO施策は、開始からわずか半年後の2019年5月末で終了することとなった。

 

“前澤ZOZO”の最終章

2019年3月期のIRでは、業績予想を大幅に下方修正し、2007年の上場以来初の減益となった。そのような中で、前澤氏は会見で「変わるタイミングだった」と発言しているように、ソフトバンクのトップの孫正義氏に相談をしたことが、ZOZO売却を決断する大きな転機となった。これまでのトップダウンの経営を変えていく必要があるということを感じていたのだろう。

そのような中で、世間に衝撃のあのニュースが報道されたのだ。

一方で、前澤氏は自社株を担保に多額の融資を受けており、その担保金額に最近の株価低迷により保有株の総額が下回りそうになり、売却先を探していたとの憶測もある*。そのような状況で、ZOZOの規模の企業を買収できるところは企業規模的にも、事業の親和性を考慮しても、楽天、Amazon、ソフトバンクグループに限られる。楽天は2013年に買収したアパレルEC大手のスタイライフと進めている「Rakuten BRAND AVENUE」がそれほど好調とは言えない。またAmazonは日本国内事業に限定されているZOZOにそれほど興味を示さないと考えられ、ヤフーによる買収は、ある意味必然だったとも考えられる。ヤフーはeコマースの流通総額の嵩上げ、さらにeコマース業界でのプレゼンス向上を依然として諦めておらず、最近の成長の鈍化へのテコ入れという形でお互いのニーズが噛み合ったのではないだろうか。

買収によって“前澤ZOZO”は終わりを告げることになる。しかし、オンラインでアパレルを買うなんて考えられない、という時代、そして海外で流行していても国内の消費者は慎重で素材へのこだわりが強いからZOZOは成長しない、という先入観を見事に突き破って、日本のアパレルEC業界を牽引し続けてきたZOZO。斬新なデザインと、多くの革新的な機能や施策を進め、1代で1兆円企業を作り上げた前澤氏の手腕は色褪せることはないだろう。

*出典:堀江貴文YouTube

 

 

ZOZOの功罪

 

今後のZOZOの事業を占うために、もう少し具体的にこれまでのZOZOの事業推移や、国内アパレルEC業界に及ぼした影響を見ていこう。

 

右肩上がりの出店店舗数

メディアでは多くのブランドが退店を行った、もしくは退店を検討している、という報道がなされているが、実際にここのところの店舗数の推移はどのようになっているのだろうか。

 

▼ZOZOの店舗数推移

※買取ショップは、複数のブランドから商品を仕入れ、自社在庫を持ちながらZOZOTOWN内にあるZOZOの運営ショップで販売している事業形態。受託ショップは、ZOZOTOWN内にテナント形式で出店し、各ブランドの商品をZOZOの物流拠点で受託在庫として預かり、受託販売を行う事業形態。

 

有名ブランド店の退店はZOZOのブランドイメージと利益への悪影響は少なからずあるかもしれない。しかし、店舗数と言う視点だけで見ると、この7年で3.2倍になるなど大きく成長しており、アパレルをオンラインで探す場合には多くのユーザーがZOZOTOWNを利用する、という流れが出来上がってきているのも事実だ。

 

地元に根差した取り組み

オンライン上でのプレゼンスを重要視するIT企業としては非常に珍しく、前澤氏の地元であり、本社のある千葉県に根差した取り組みを多く行っている。

2015年にはサッカー日本代表の本田圭佑選手が所属する事務所が運営する、幕張にあるスポーツ施設「ZOZOPARK HONDA FOOTBALL AREA」のスポンサーとしてネーミングライツを取得した。また、2016年には、千葉マリンスタジアムのネーミングライツを取得し、「ZOZOマリンスタジアム」とした。

このような取り組みのほかにも、2018年にはジェフユナイテッド市原・千葉とのオフィシャルパートナー契約およびブランディングパートナー契約を行い、2015年から行っていたオリジナルユニフォームのデザインなどに加え、さらに連携を強めている。

さらには、幕張を拠点とする企業が集まって地域清掃を行う「幕張クリーンの日」への参加や、幕張海浜公園で毎年行われる花火大会への協賛も実施。社員に対しても、千葉県の指定エリア内に住むスタッフに対して手当てを支給する「幕張手当」「ZOZOコネ」という千葉の飲食店やサービス店等社員優待が受けられる制度を設け、地域還元を目指している。

 

ZOZO依存

飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していたZOZOは、革新的なデザインと機能で若年層を取り込み、圧倒的な集客力を保持するに至った。実店舗でのブランディングに重きを置いてきたアパレル業界は、当初は懐疑的だったものの、徐々にオンラインの影響力を無視できなくなる。しかし既にその時点で、各ブランドが個別に自社ECサイトを構築するよりもZOZOに(も)出店する方が、売上を確保しやすい状態となっており、上述のようにZOZO出店の店舗数は拡大の一途を辿ることになる。しかしその反動で、各ブランドがオンラインで何かの取り組みを独自に行おうと思った際に、ZOZO無しには難しくなっている状態になってしまっていた。いわゆる「ZOZO依存」だ。

オンライン上でZOZOの影響力が非常に大きかったことが、アパレル業界のEC化が遅れた一因になっている、という意見もあり、各ブランドがZOZOの施策に不満を持っても、また手数料率に不公平感を感じても、そう容易にZOZOを離れることが難しい状況に陥っていた。

ZOZOはその影響力の大きさが故に、ブランド側から見ても依存度が高くなっていくが、その拡大路線によって知らぬ間にブランド側の不満が蓄積し、消費者とブランドの両者の手綱をうまくコントロール出来なくなっていった。

また、ユナイテッドアローズやヒステリックグラマーなどのブランドは、ZOZOの子会社である株式会社アラタナに自社ECの運営を委託しており、ZOZOへの出店だけでなく自社ECの運営と言う面でもZOZOに依存しているブランドが多くなってきている。

 

ZOZO離れ

このような中で行われたZOZOARIGATO施策は、ブランド側にZOZOを離れる口実と勇気を与えるきっかけになった。2018年末から複数のブランドが退店する、いわゆる「ZOZO離れ」が始まる。実際にどのような背景があったのかを見てみよう。

ZOZO離れやZOZOとの関わり方を変えようとしているとされているブランドを見てみると、この多くは、自社ECの強化への体制が整いつつあり、自社ECを基軸にオンライン売上が期待できるブランドだ。また、ZOZO離れを表明した半数程度のブランドが現在はZOZOに戻っているように、ZOZOとの駆け引きを行ったとみることも出来なくはないだろう。

また、ユナイテッドアローズのように、退店はせずに、自社ECの運営をZOZOに任せずに自社で行うことで、徐々にZOZOからの自立に取り組むブランドも出てきている。

一方ZOZO側も、ZOZO依存によるメリットを強化する動きを見せている。株式会社アラタナが開始した「Fulfillment by ZOZO」では、既存の自社EC支援サービスの運営手数料を無料化し、設備投資や人件費、在庫保管料のコスト無く、自社ECの立ち上げや運営を可能とするものだ。さらにZOZOTOWNと自社EC、店舗の在庫をZOZOBASEで一元管理することができるなど、自社ECの運営を支援する色合いが濃くなってきている。

 

このように、「ZOZO依存」から「ZOZO離れ」へ推移した結果、各ブランドとZOZOとの関係性は、少しずつ変わってきていると見ることが出来るだろう。

 

 

ヤフー傘下に入ったZOZOの今後

 

前澤氏が経営に携わらなくなっても、そしてヤフー傘下に入ったとしても、ZOZOは今後もZOZOとして事業・サービスを続けていくことになる。経営者が変わり、ヤフー傘下に入ったことによって、何が変わっていくのだろうか。

 

経営面の変化

ZOZOは、ヤフーの傘下に入り、新社長のもとで新しい経営形態となっていく。今までのトップダウン経営から、組織的な経営に移行せざるを得ないため、社員の個々の能力がより生かされるようになるだろう。しかし、ボーナスが全員共通であったり、6時間勤務であるなど、これまでのZOZOの斬新な経営方針についてきていた社員への対応をヤフーがどのように行っていくのかは興味深い。

 

出店ブランドとの関係性の変化

今まではZOZOの影響力が強すぎたために、多くのブランドはZOZOの言いなりになってきた部分が多かった。しかし、上述のようにZOZOの躓きがきっかけで、ある程度ZOZOに対してモノを言える環境になってきたとも言える。世間のトレンドも、メーカーが自社ECに力を入れ、直接顧客に販売していくD2C(Direct to Consumer)への流れがきているため、ZOZOからの自立を行いたいブランドが多くなってきていることは想像に難くない。そのため、今まではZOZO側に主導権があり、ブランド毎に異なっていると言われていた出店手数料についても、Amazonや楽天がそうであるように、全ブランドに対して同じルールの適用をしていくなど、ZOZO側にも変化が求められるだろう。

 

ユーザーとの関係性の変化

ZOZOは、ファッションに興味のある若者がメインの顧客層であり、年間購入者数が800万人を超えている。一方ヤフーは、ブランド力があるものの、顧客層が30代から40代であり、若者にあまり浸透していない。ヤフーとしては、今秋にオープン予定のECモール「PayPayモール」にZOZOTOWNを出店させ、送客効果を見込んでいる。これは、新規顧客を呼び込むことのできる絶好の機会となるだろう。また、ヤフーと資本提携を行っているロハコもYahoo!トップから導線を提供され、Yahoo!ショッピング内での出店も行っているように、ZOZOもYahoo!トップYahoo!ショッピング上での連携の可能性も今後は有り得るかもしれない。

さらに、ヤフーは新サービスや新機軸を立ち上げる際に、得意の垂直立ち上げを行う。今回も近いうちに、そのような大規模なメディア露出を行ってZOZOのイメージを一新させていく可能性もある。

 

 

アパレルEC業界は二極化へ

 

こうしてみると、今回の買収はZOZO、そして国内のアパレルEC業界にとっても、良い話の方が多いと考えられる。ZOZOは売上自体は短期的に見ると落ちているものの、その底堅い収益力は落ちておらず、ヤフーとの連携でさらに強化される可能性の方が高そうだ。

また、創業期にはその攻撃的な姿勢が評価されることが多かった前澤氏の経営手法は、ARIGATOU施策に代表されるように、今のサイズになった企業においては危ないケースも多く、経営者の交代により、そのような危なっかしさは減り、堅実な成長が見込めるのではないだろうか。

国内のアパレルEC業界は、Rakuten BRAND AVENUE、Amazon Fashion、SHOPLISTなど大手も絶好調とは言えない。一方で、各ブランドが自社の会員数を増やし、その存在感を高めている。消費者からしても嗜好性の強い商材であるアパレルの場合は、ブランドとの繋がりは好意的に受け取られることが多い。そのため、ユーザーに人気のあるブランドは独自路線へ、それ以外の知名度の高くないブランドは大手モールで認知を獲得していく、という二極化が本格的に始まるのではないだろうか。

多くの消費者は楽天もAmazonも好きなブランドの自社ECサイトも併用しており、一番メリットの大きいところでの購入を行うというのが基本的な考え方になる。そのため、大手モールは、個別ブランドだけでは難しい、品揃えやレコメンド機能の充実、商品写真の高品質化、UGCの吸い上げ、さらにはAIやARなどを活用した購入の際の不安の払しょく等に重点を置くことでブランドサイトとの差別化を図っていく必要があるだろう。

また、消費者は、サイトだけでなく、流通や決済なども含めたトータルでの顧客体験を、どのサイトで購入するかの判断基準にするようになってきている。そのため、大手モールは技術投資、流通投資で顧客体験を、独自ブランドでは到達できないレベルまで高める必要があるだろう。例えば欧州のアパレルECの雄のZalandoは、ここ数年で流通網や梱包材などを考慮した取り組みを強化している。

一方で各ブランドサイトでは消費者とのダイレクトの接点(オンライン・オフライン)をいかに居心地の良いものとしていくのかを徹底的に考える必要がある。既に、オンライン・オフラインの会員IDの統合や、O2O取り組みなどは大手ブランドを中心に強化されているが、更に一歩も二歩も進んだ取り組みが求められてくるだろう。

 

EC創成期から、アパレルEC業界はEC業界で最も早くトレンドが開拓され展開されてきた土壌がある。それは、アパレルが一番ECで買うのが難しい商材ゆえに、最新トレンドが惜しみなく投入されるのだ。今回の買収をきっかけに、また新しいトレンドがアパレルEC業界から生み出されるのか、注目していきたい。