銀座で70年続く美容室「銀座シロー」が築いた、教育とECで稼ぐBtoB卸モデル ― 1人運営を支える「クローズドショップ」の使い方
美容室にとって、新規客の集客はますます重くのしかかるコストになっている。大手集客プラットフォームへの出稿が当たり前になる一方、広告費に見合うだけの来店につながらない——そんな実感を抱く店は少なくないだろう。技術や接客の質を磨くだけでは、経営の安定にたどり着けない。そうした構造的な課題に、別の角度から答えを出そうとしている老舗がある。
東京・銀座で約70年続く株式会社銀座シローは、美容室としての営業を続けながら、もう一つの柱として、美容室・サロン向けの卸売事業をECで展開している。しかも、その運営を担うのは2代目店主の吉田氏、ほぼ一人だ。今回は、会員制のクローズドショップを軸に「BtoB卸」と「教育」を組み合わせた独自のモデルを築いてきた吉田氏に、その成り立ちと運用の実際についてお話を伺った。
※この記事は、銀座シローが利用するECサイト構築サービス「イージーマイショップ」を提供する株式会社システムリサーチの協力のもとインタビューを行い、作成したものです。イージーマイショップに関するサービス資料は以下からダウンロード下さい。
「スタッフが稼げる仕組み」を求め、裏方へ
銀座シローは、銀座で約70年の歴史を持つ老舗の美容室だ。吉田氏はその2代目にあたる。若い頃に技術の世界での限界を感じてからは、表に立つよりも裏方として、「どうすればスタッフに十分な給料を出し続けられるか」を考え続けてきたという。かつては2店舗を構えていたが、人材確保の難しさもあり、現在は本拠地である銀座の1店舗に集約している。

古いビルの古い店——と本人は謙遜するが、同店には遠方からわざわざ通う顧客が少なくない。その積み重ねが、後述するBtoB事業へと舵を切る原動力にもなっている。
「美容室は稼げない」——集客依存と、物販の壁
吉田氏が事業の組み立てを見直すきっかけになったのは、美容業界が抱える構造的な「稼げなさ」だった。カットやカラーの単価は上がりにくく、安売りやクーポンに引っ張られやすい。とりわけ、大手集客プラットフォームへの依存には早くから疑問を感じていたという。銀座だけでも360軒を超える美容室がひしめき、広告費を多く払った順に上位表示される仕組みのなかで、費用に見合う成果を得るのは容易ではない。
吉田氏の試算では、こうしたプラットフォーム経由で新規客を一人迎えるのに、年間でならすと8万5,000円ほどのコストがかかっている計算になることもあるという。クーポン目当てでリピートにつながりにくい層を追い続けることには、限界を感じていた。
一方で、銀座シローには、年間で40万円ほどを使う優良顧客が100名以上いる。住まいは銀座の外で、男性客も含め、遠方からわざわざ足を運んでくれる人たちだ。こうした顧客に継続して満足してもらうには、一過性のトリートメントではなく、本当に効果を実感できるホームケアとメニューの提案が欠かせない。しかし、多くの美容室にとって物販は「飾り」でしかなく、売れないのが常識だった。吉田氏は十数年にわたり、来店だけでなく物販でも売れる仕組みはつくれないかと模索を続けてきた。
「効果をうたう商品は多いものの、続かないことがほとんどでした。お客様は結果に正直ですから、数か月で使わなくなってしまう。その壁をどう越えるかを、ずっと考えていました」(吉田氏)
教育とセットの「BtoB卸」モデルへ
転機になったのは、10年ほど前の出会いだった。三重の工場を拠点に、たった一人で製品づくりを手がける小さなメーカーの社長と縁ができたのだ。扱う製品は、オイル・ウォッシャー(水)・エッセンスの3種からなる毛髪ケア製品で、水と油を組み合わせた独特の設計が特徴だという。自店で使ってみると、顧客のほうから「またあれをやってほしい」と声がかかるようになった。
「効果をうたうだけで終わる商品が多かった中で、お客様がご自分から指名してくださる。これは広めるべきだと確信しました」(吉田氏)
ただし、良い製品があっても、使い方が分からなければ宝の持ち腐れだ。メーカーは一人社長で、製品の使い方やオペレーションを各サロンに教えるところまでは手が回らない。そこで銀座シローが、その「ノウハウを教える役割」を担うことにした。単なる営業ではなく、「どう日々のオペレーションに組み込めば売上につながるか」を、自店での実体験をもとに伝える。現在は約200〜230店舗の会員サロンに対し、各地での技術講習やZoomを使った勉強会を通じて導入を支援している。北海道から沖縄まで、対面で回りきれない相手にはオンラインで補う形だ。
美容業界の流通は、メーカーから大問屋、そして配達を担うディーラー(問屋)を経て、サロンへと降りていくのが一般的だ。銀座シローのモデルでは、製品メーカー、流通を担うディーラー、そして教育と販売の窓口となる銀座シローの三者が、それぞれの役割と利益配分を決めて協業している。営業に頼らず、講習会と紹介の連鎖で会員サロンを広げてきたことが、安定した流通を生む土台になっている。
なぜ「イージーマイショップ」だったのか
卸売の物流をECに載せれば、デジタルに不慣れなメーカーやディーラーの負担も軽くなる——そんな素朴な発想から、吉田氏はEC化に踏み出した。最初に試したのはカラーミーショップだったが、発送伝票のフォーマットをはじめ各種の画面が同店の運用には使いづらく、1〜2か月ほどで断念したという。
その後、インターネットで見つけたのがイージーマイショップだった。試用してみると、顧客から見たサイトの見え方や、メールのやり取りの作り込みに納得感があった。デジタルが得意とは言えない吉田氏でも設定を進められ、不明点を質問すればすぐに回答が返ってきた。「ECをやるべきだ」と思い立ってからイージーマイショップで運用が落ち着くまで、わずか数か月。2023年11月頃から実験的に使い始めた。
BtoBである以上、絶対条件だったのが「会員限定のクローズドショップ」を作れることだ。卸価格を一般に公開するわけにはいかないからである。
「仕入れ価格を表に出すわけにはいきません。会員だけがアクセスできるクローズドな形にできることが、BtoBでは絶対条件でした」(吉田氏)
運用面でも、同店の使い方に合う機能が揃っていた。取引高に応じた会員ランクごとの価格設定(機能としては備えており、今後の活用を想定)や、メーカーが行う「5本購入で1本サービス」といったキャンペーン期間の価格設定がスムーズに行える。決済については、サイト上で完結させず、取引のあるディーラーの社長が請求書払いで担う設定にしているため、信用取引を前提とするBtoBの商習慣ともきれいに噛み合った。基本料金が安い点も、立ち上げの後押しになった。
1人運営を支える仕組みと、現場からの要望
注目すべきは、この卸売事業のサイト運営を吉田氏がほぼ一人で回している点だ。それを可能にしているのが、注文時の自動返信メールの設定である。注文が入ると、吉田氏だけでなく配送を担うディーラーにも同時にメールが届くようにしてあり、「注文を認知した」「商品が届いた」「発送した」という一連のプロセスを、双方がリアルタイムで共有できる。新商品が出れば、サンプルの写真を整えて自らサイトに掲載する。店にいるときはPCから、外出時はスマートフォンから自店の注文も行うという。
ECを通じた流通額は着実に伸び、年商はまもなく1億円を超える見込みだという。メーカーのキャンペーンが重なる時期には注文が大きく膨らむ一方、流通の多くは上位のごく一部のサロンが支えており、残りは小規模なサロンが中心だ。ご夫婦や一人で営む街のサロンほど話が通りやすく、そうした店を支えることを、銀座シローは一つのコンセプトに据えている。
「自分はアナログ人間だ」と謙遜する吉田氏だが、その運用は独学に裏打ちされている。売上データをCSVで抽出してMicrosoft Accessにため込み、Excelで分類して分析する。独学でPHPのコードを探しては自店サイトにカレンダーを表示させるなど、試行錯誤を重ねてきた。数字は嘘をつかない——どのサロンが、いつ、何を注文したのかを把握することが、安定した運用の支えになっている。
現場ならではの要望もある。会員サロンは「だいたい同じ商品を繰り返し注文する」ため、マイページから前回と同じ品をすぐに再注文できる仕組みがあれば、忙しい時でも手早く発注できる。一方、サイトのビジュアルがシンプルで見やすく、操作の手順に余分がない点には満足しているとのことだ。
今後の展望——BtoB2CとAI、そして「教育産業」へ
吉田氏が見据える次の一手の一つが、「BtoB2C」とも言える仕組みだ。会員サロンの顧客が、サイトからお客様価格で製品を直接購入でき、その売上がどのサロン経由かをカウントして、紹介元のサロンに還元される——そんな流れを描いている。サロンにとっては、店頭に在庫を抱えずとも物販の収益につながる設計だ。
もう一つの関心が、AIの活用である。蓄積した売上データをもとに、「最近このエリアのサロンの注文が減っているのはなぜか」といった問いに答えてくれる、経営の相談相手としてのAI。市場で使えるAIとデータを組み合わせれば、そう遠くないうちに実現できるのではないかと吉田氏は期待を寄せる。
その根底にあるのは、「美容室は技術を売るだけでなく、教育産業であるべきだ」という信念だ。ヘアカットの現場から一歩引いた立場だからこそ、客観的にビジネスモデルを伝えられる、と吉田氏は言う。技術が最高でなくてもリピートは生まれる——最低限の満足を満たしたうえで、製品とノウハウをどう収益につなげるか。一店舗で頑張る小さなサロンが、しっかり稼げるようになるための「インフラ」を磨き、次の世代へつなげていきたい。銀座の老舗が挑むこの試みが、閉塞感のある業界にどんな選択肢を示していくのか、これからの展開に注目していきたい。
銀座シローが利用している「イージーマイショップ」とは
株式会社システムリサーチが提供するイージーマイショップは、専門知識がなくてもネットショップを構築・運用できるASP型のECサイト構築サービスだ。初期費用・月額費用が無料のプランから始められる手軽さに加え、銀座シローのようなBtoB卸の用途にも応える機能を備えている。
とりわけ、会員以外には価格や商品を見せない「クローズドショップ(会員限定サイト)」を構築できる点は、卸価格を扱う事業者にとって要となる機能だ。さらに、取引高に応じた会員ランクごとの価格設定や、期間限定キャンペーンの価格設定、商品のカテゴリー分け、柔軟な支払い方法の設定など、業者間取引に必要な要素が一通り揃っている。
イージーマイショップ全体の年間流通総額は2025年度に128億円に達し、9年連続で2桁成長を続けていると公表されている。BtoCからBtoBまで幅広い事業者に使われるなかで、クローズドショップを軸に卸売と教育を結びつけた銀座シローの活用は、その柔軟性を体現した一例と言えるだろう。仕入れ価格を守りながら業者間取引をオンライン化したい——そう考える事業者にとって、参考になる事例ではないだろうか。