テキサス州カレッジステーション(College Station)の住民の中には、Amazonの配送ドローンによる騒音公害を不快に感じている者もいるという。同社はPrime Airプログラム(ドローン宅配便による輸送計画)の拡大を予定していることから、この問題を改善しようとしている。
同社は米国連邦航空局(FAA)に対し、ドローンによる配達飛行を1日あたり200回から469回に増やすよう申請したが、これは無人のドローンが離着陸する施設に隣接する住宅地の住民にとっては歓迎すべきニュースではない。
「Amazonのドローン配送プログラムにとって、騒音公害は重要な課題として浮上している」と、ラスベガスのマーケティングコンサルタント、SmartTech Researchの社長兼主席アナリストを務めるMark N. Vena氏は述べる。
「ドローンが飛行中に発生させる独特の“ブーン”という音は、地域社会、特に住宅地に懸念をもたらしている」と、同氏は話す。「反対の根底にあるのは、常に騒音に悩まされ、生活の質に悪影響を及ぼす可能性があることだ」。
「この反感は規制強化、あるいは特定の地域でのドローン操作の禁止につながり、Amazonの拡大計画を複雑にする可能性があることから、深刻な課題を提起している」と、同氏は付け加えた。
Amazonの配送ドローン「MK30」(画像提供:Amazon)
「素晴らしいテクノロジー」
Amazonは2022年にドローン配送を開始し、カレッジステーションとカリフォルニア州ロックフォード(Lockeford)でパイロットプログラムを実施した。
「Amazonはこのテクノロジーの導入にあたっては、この先の地域社会のために、これを適切に実現する責任がある。そして、彼らはそうするだろうと私は信じている」と、カレッジステーション市議会議員のBob Yancy氏は語る。
「これは素晴らしいテクノロジーだと思う」と同氏。「ただ、一戸建ての住宅街に少し近すぎる。Amazonがドローンポートを一戸建ての住宅街から少し離れた場所に設置するという独自の方針を守れば、問題ないだろう」。
Amazonの広報担当、Sam Stephenson氏は、「我々はカレッジステーションのコミュニティに感謝しており、Prime Airの運用を決定する際には、可能な限り地元の意見を考慮している」と付け加えた。
「何千件もの配達をこなし、何百人ものお客様に配達できたことを誇りに思う」と同氏は語る。「当社のプログラムが進化するにつれ、代替施設の可能性も含め、今後のさまざまな可能性を検討している」。
より静かなドローンの登場
カレッジステーションのJohn Nichols市長は、「市はAmazonと協力して、住宅街への影響を軽減できる工業地帯に場所を探している」と付け加えた。
「この問題に対処する最善の方法は、Amazonによるドローン最新モデルの開発を奨励し、誘致することである」と同氏は話す。「それは現在テスト中であり、まもなくFAA(連邦航空局)の認定を受ける予定である。それが完了すれば、どれだけ騒音が緩和されるかがわかるだろう。そうすれば、何らかの改善が見られることを期待している」。
「当社の新しいMK30ドローンは、ドローンの知覚ノイズをほぼ半分に減らすように設計されている」と、Stephenson氏は付け加える。「我々の目的は常に、ドローンの音量を下げることにある。新しいMK30をできるだけ早く地域社会に届けることは、この取り組みにおける大きな一歩になるだろう」。
カレッジステーション市議会議員のWilliam Wright氏は、新しい低騒音ドローンが住宅地の市民の懸念を軽減するはずだと認めている。「しかし、私の経験では、問題はドローンの騒音レベルだけではない。問題は頻度にある」と同氏は語る。
「確かに、ドローンは芝刈り機よりうるさくはないが、その芝刈り機が1日8時間稼働していたらどうだろう。それが、一部の市民が直面している現実なのだ」。
成功したプログラム
Yancy氏は、ドローンポートのすぐ近くに住む近隣住民からの苦情を除けば、このプログラムは非常に成功していると指摘した。「ドローンの墜落事故は一件も起きていない。一人の負傷者も出ていない。ペットや物的損害も一度も発生していない」と同氏は話す。
「このプログラムは非常に革新的で、Amazonによって非常に効率的に運営されている」と同氏は続ける。「我々はAmazonを地域社会のパートナーだと考えている。同社は地域社会に深く関わっている。そして、彼らは、周辺住民の懸念に応えようと、全力を尽くしてきた」。
さらに同氏は、自分の知る限り、このプログラムによる破壊行為や宅配物の盗難などの問題は起きていないと加えている。
「Amazonがこの地域でドローン配送を続けてくれることを願っている」と、カレッジステーション市議会議員のElizabeth Cunha氏は語る。「それは交通渋滞に対するユニークな解決策を提供し、ポーチ・パイレーツ(置き配泥棒)のリスクを軽減し、住民の多くが享受する利便性を提供してくれる」。
「Amazonは地域社会の懸念に対処する意欲を示しており、カレッジステーションの将来にはドローン配送サービスの繁栄が含まれると考える十分な理由がある」と、同氏は語る。
目を見張るような魅力にも関わらず、普及は遅れている
Prime Airは導入から1年以上が経っているが、目を見張るような魅力は失われていないようだ。「配達の受け取りは、本当は壮観だ」とYancy氏は話す。「私は4人の孫がいる祖父だが、子どもや孫が町にいるときは、子どもたちに見てもらえるよう、ほぼ毎回ドローン配達を予定する。彼らは感嘆の声をあげるんだ。彼らは本当にそれを楽しんでいる」。
とはいえ、ドローンによる配送プログラムが実験段階から脱するまでには、いくつかの障害を乗り越える必要がある。「政府が空域の使用、安全性、プライバシーに関する規則の制定に慎重であるため、規制のハードルが大きな課題となっている」と、Vena氏は述べる。
「限られたバッテリー寿命、飛行距離、複雑な都市環境を航行する能力などの技術的な問題も、進歩を妨げている」。
「さらに、安全性、特にドローンの誤作動や事故のリスクに対する社会的な懸念が、懐疑的な見方や普及の遅れにつながっている」と、同氏。「強風や雨などの気象条件も運用上の課題となり、あらゆる状況下で信頼性の高い配送サービスを確保することが困難になっている」。
Vena氏は、マスコミの過熱報道にもかかわらず、米国におけるドローン配送はまだ初期段階にあり、主に実験的でニッチなユースケース向けの限定的な導入にとどまっていると主張する。
「特にAmazonやWing(Googleの兄弟企業にあたる、ドローン配達サービス企業)のような企業がパイロットプログラムを拡大するなど、一定の進展は見られるものの、規制やテクノロジー、ロジスティクスの課題により、普及は依然として遅れている」と同氏。「今後10年間でドローンによる配送がより一般的になる可能性はあるが、従来の配送方法に完全に取って代わるのではなく、それを補完する役割にとどまるかもしれない」。
それが主流になるかどうかは、テクノロジーの進歩や規制の枠組み、世間の支持にかかっている。
※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の8/20公開の記事を翻訳・補足したものです。