AIによる概要と大規模言語モデルは、ファネル上部の検索トラフィックを奪っているかもしれないが、最も重要な「ホームページへのトラフィック」をひっそりと増加させている。
50件のサイトを分析して判明したことと、それがブランドにとって朗報となる理由を紹介していく。
四半期比での急速な変化
直近の四半期で、ほとんどの業種においてAIによる概要(AI Overview)の導入が加速したことは間違いない。そのために、クリック数は減少した。しかし、良い点としては、インプレッション数が大幅に増加していることが挙げられる。
一方、大規模言語モデル(以下、LLM)の導入は急ピッチで進んでいる。
SEOとデジタルマーケティングの専門家であるKevin Indig氏がシェアしているように、検索トラフィックが次の図のようになることは珍しくない。

当社のデータでも、SaaS(Software as a Service:インターネットを経由して、ソフトを提供する仕組み)、フィンテック、消費者産業の高成長企業や法人向けのクライアントで同様の傾向が見られた。
とはいえ、この変化によってあることが明らかになりつつある。それは、「インプレッションの価値」である。
ファネル下部の、購入を検討している段階の検索で上位に表示されるのであれば、それはブランドの想起や、最終的なコンバージョンにつながる価値があるものといえるだろう。
例として、「ベストなメールマーケティングソフトウェア(best email marketing software)」で検索すると、Mailchimp(米国に本社を置き、メール配信ツールを提供・運営する企業)がAIによる概要で表示される。

これは、すぐにクリックにつながらないかもしれないが、検討段階にあるユーザーにとって、Mailchimpが選択肢に浮かぶだけでも十分に価値があるといえる。
表面上、これはブランド名による検索の増加に貢献するはずだ、そう考えるのが自然ではないだろうか。
同様に、流行りのLLMで同じ検索をすると、Mailchimpは頻繁に引用されているが、直接リンクは張られていない。この場合、どうなるのだろうか。

結果は、ブランド名による検索が増える。
当社のデータ分析
この仮説を検証するために、私たちは12年以上にわたって関わってきた、米国内のB2BのWebサイト28件、B2CのWebサイト22件、計50件のWebサイトのSearch Console(どのようなクエリでユーザーがサイトにアクセスしているかを確認できるGoogleのサービス)に蓄積されたデータを集約した。
AIによる概要とLLM によって、ここ最近のトラフィックの変化が加速している影響を捉えるという思考プロセスに基づき、直近の3か月間 (2025年5月19日起点) のサイト全体のトラフィックとホームページのトラフィックを、さらにその前の3か月間と比較した。
その結果が次の図である。
直近3か月におけるサイト全体の検索トラフィック

見ての通り、サイト全体のトラフィックは減少しているものの、ホームページへのインプレッションとクリック数は顕著に増加している。
LLMやAIによる概要の影響について、因果関係を総合的に証明することは難しいが、複数のブランドに渡って一貫した傾向が見られることから、何らかの影響があることが示唆される。
直近3か月のB2C検索トラフィック

B2Cにおいては、2025年に入ってからのLLMのAI導入が少ないと思われるため、全体的なホームページのクリック数増加はそれほど顕著ではない。
そうはいっても、実際は、B2Cサイト全体におけるクリックへの影響は、B2Bのサイト全体より上回っている。B2Cの場合、平均的に検索クエリがそれほど複雑ではないため、AIによる概要の方がクリックを奪う可能性は高いと考えられる。
この傾向がデータ全体に反映されている可能性はある。
しかし、B2Cでは、eコマース業界の繁忙期である第4四半期後半のデータがサンプルに含まれていることに注意しなければならない。もっとも、ホリデーシーズンの需要に関係があると考えられるサイトは、22サイト中6サイトだけであった。
直近3か月のB2B検索トラフィック

B2Bでは、より明るい見通しが立っているように見える。
ホームページへのアクセスが大幅に増加している一方で、全体的なクリック数への影響はそれほど大きくない。B2Cとは逆に、ホリデーシーズンは、B2B企業にとってしばしば売上が低迷する時期であることは注目に値するが、多くの企業にとってはそれほど大きな影響はない。
Siege Mediaのデータ例
その実例を示すために、当社 Siege Media(米国のSEO、コンテンツ、PRに特化したオーガニック成長エージェンシー)のデータを見てみよう。
Siege Mediaでは、トラフィックだけを最重要指標としてきた訳ではないが、この3か月でインプレッションは大幅に増加しているものの、トラフィックは減少している。

とりわけ、AIの変化とは関係なく、SEO戦略への注力も低下している。
LLMにおいては、当社はクエリ全体にわたって優れた可視性がある。LLM可視性追跡ツールProfoundによると、我々は、全競合他社と比較して最高の可視性を実現している。

つまり、当社はブランド検索につながりやすいプラットフォームでの表示機会が非常に多く、Googleではサイト全体のインプレッションが17%増加している。
ホームページのトラフィックは大幅に増加するはずであり、実際、データでそれを確認することができる。

ホームページのクリック数は29.6%増。約30%も増加しているのだ。
特筆すべきは、前四半期比で、リードから商談へとつながるパイプラインへの影響はなく、直近の3か月の当社を見つけた方法に「調査(research)」を挙げるリード数が急増していることだ。
「それがどうした。トラフィックはまだ減っている!」
これは、上記のデータに対するあなたの反応かもしれない。
しかし、よくよく考えてみると、状況はむしろ好転している。
知っての通り、ホームページのトラフィックは、サイト全体のトラフィックと比較してコンバージョン率がはるかに高いのだ。
LLMは、我々からファネル上部のトラフィックを奪っているが、より多くのボトムファネル(適切な場所)へのトラフィックを増やしてくれているようだ。これはプラスであり、それに応じた評価をするべきである。
AIに当社のサンプルセット全体のコンバージョン率の違いを見積もってもらったところ、期待されるコンバージョン率は、ホームページでは3~8%、サイト全体では1~4%になると予想された。
すべてを集計し、その結果を推測することは不可能だが、少なくとも想定できるシナリオの例を示すことはできる。
32件のWebサイトを集計したところ、それらのサイト全体でトラフィックの約20%がホームページを訪問していた。
AIによるコンバージョン率の変化例

つまり、これまでホームページがサイトトラフィックの20%以上を生成しており、「なおかつ」しっかりとしたSEO戦略を採用していれば、サイト全体のトラフィックがそれなりに減少しても、コンバージョンの観点からは前四半期比でプラスになる可能性が高いということだ。
結局のところ、世界が終わると感じるほど状況が悪化しているのではなく、ただ移行しているだけなのだ。
補足的な考察
この変化に関して、勝った企業、負けた企業を個々に細かく見てみると、他にもいくつかの注目すべき点が見つかった。
これまでホームページへのトラフィックが少なかった場合は、今後もホームページトラフィックは得られないだろう。
力のないブランドが、今回の変化によって突然、ブランド力を得ることはない。
そのため、いまだにブランド名で検索されたのではないトラフィックが多い無名の企業の場合、AIによる概要やLLMへの変化は、おそらくもっと大きな痛手となるだろう。
すでに認知されているような「本物のブランド」にとっては、これまでのところ、この変化は実際にプラスになっており、すでにあったブランド力をさらに増幅していると言える。
その影響は、AIファーストの企業やSiegeのようなLLM戦略を採用している企業ではより顕著であった。
当然のことながら、AIユーザーはAIツールをLLMで検索する頻度が高いため、この傾向はより劇的に現れる。
しかし、これらのツールには、業界ごとに急速に進化する検索ボリュームの変化によって、不安定な結果を表示するものもある。
先進的な推奨事項
この新たなパターンを活用するためには、次のような戦略が抜きんでている。
1. ホームページのさらなる改善
ホームページは今も変わらず重要なページであるが、トラフィックの割合が今後も増加することが予想されるため、その重要性はさらに高まるだろう。
2. パーソナライズされたターゲティングとブランド化されたランディングページの価値が高まるだろう
ブランド名で検索する人がさらに増えれば、ブランド名を検索結果上で保護することと、検索したユーザーを理想的なページに誘導することの両方が重要になる。
3. ホームページのオーディエンスをリターゲティングする
まだ実施していないのであれば、オーディエンスの増加でその重要性が分かる。
4. ホームページのCTR(クリック率)を最適化する
我々のデータでは、ホームページのインプレッションが50%増加しているのに、クリック数は8%しか増加していないことがしばしば起こる。この差が広がっていることはチャンスである。
5. LLMやAIによる概要向けに最適化する
我々のデータが示すように、ブランドとしてLLM(リンクされていることが多い)で表示機会が多い場合にのみ、この変化を最大限活用できる。また、それは、フランス語と英語を比較するような、ただ言語が違うという意味ではなく、アプローチの方法に違いがあるということなのだ。
6. ブランドに投資する
これは新しく「素晴らしいコンテンツを作ること」であるが、それとは関係なく、こう言わなければならない。すでに実践しているブランドには良い結果が、そうでないブランドは前より悪くなっている。そして、この状況は続いていく、と。
期待値の変化を適切に伝える
SEO業界にとって最も重要なのは、この変化を適切に伝えなければならないということである。
トラフィックの変化に頭を悩ませている経営者は多いだろう。
このデータは、実際にはそれほど悪くないことを示しており、企業によっては、よりコンバージョンの高いページへと移行することによって、プラスになっている可能性さえある。
私たちは、ホームページのトラフィックやネット全体のコンバージョンが好転している点を強調し、このような記事を例として引用してシフトを強調することで、徐々に状況が正常化するにつれ、困難は克服できるものであることを、経営陣に理解してもらうところから始めるべきだ。
あなたは、AI時代のホームページのパフォーマンスを把握したいと考えているだろうか。
Siege Mediaはベンチマークを実施し、「ゼロクリック時代」でも新規コンバージョンを生み出す戦略の構築に役立つことができる。問い合わせはこちらまで。

著者:Ross Hudgens
Siege Mediaの創設者兼CEO。数多くのマーケティングカンファレンスで講演を行っており、コンテンツマーケティングを通じてスタートアップ企業の成長支援や、ビジネス認知拡大に貢献している。Siege Mediaは6年連続でInc. 5000(Inc誌が毎年発表する米国で最も権威がある、急成長する非公開企業ランキング)に選出されている。
※当記事は米国メディア「Siegemedia」の5/19公開の記事を翻訳・補足したものです。