マーケットプレイスモデルへの移行が遅すぎることはない。むしろ、それは経済が不安定な時ほど有利である。ここでその理由を説明する。

 

この2年間、eコマースを変えるトレンドがあった。エンタープライズマーケットプレイス(企業がサードパーティの販売者ネットワークを自社のeコマース戦略に統合することを可能にするオンラインプラットフォーム)が、インターネット経済の隅々にまで浸透してきたのだ。eBayやAmazonのマーケットプレイスのように幅広い商品を扱う大企業から特定の分野に特化した新規参入企業まで、マーケットプレイスは今や、世界中の顧客にサービスを提供するべく競争している。

 

最近では、米国の代表的な小売店のMacy’s、米国の大手食料品チェーンのKroger、欧州で最も人気のある家具・家庭用品小売店の1つであるMaisons du Monde(本社:フランス)などがマーケットプレイスに参加している。マーケットプレイスモデルはB2Bコマースにも進出しており、スイスに本社を置く多国籍企業で電力関連、重工業を主に扱うABB や米国に本社を置き、フォークリフトやけん引トラクターの製造・販売を行うToyota Material Handlingのような、大手製造業者やサプライヤーがプラットフォームを立ち上げ、成功を収めている。

 

消費者は、お気に入りのeコマース体験の多くがマーケットプレイスによって提供されていることに驚くかもしれない。いまやeコマース売上の3分の2をマーケットプレイスが占めるほどである。だが、数字は嘘をつかない。エンタープライズマーケットプレイスは、2年連続でeコマース全体の2倍の速度で成長している。

 

過去2年間の経済成長期に、政府の景気刺激策と競争の激しい雇用市場によって消費全体が活性化されたため、マーケットプレイスが急速に成長したことは驚くべきことではない。しかし、景気後退の瀬戸際である今、ブランドがこのチャンスを利用する時は過ぎたのだろうか。消費者が支出を控えるにつれて、小売業者がマーケットプレイスへの移行から得られるROIは低下するだろうか。

 

マーケットプレイスへの参入が遅れている企業には朗報がある。今からでも遅くはないのだ。むしろ、マーケットプレイスモデルへの移行は、経済が不安定な時ほど有利である。その理由を説明しよう。

 

現在の課題

多くの経営者は、景気低迷時に大規模な技術投資に踏み切ることをためらうだろう。その不安は理解できる。非公開企業も公開企業も同様に支出削減のプレッシャーの真っ只中で、CEOはどうすればデジタルトランスフォーメーションの大きなリスクを正当化できるだろうか。さらに、マーケットプレイスは、サードパーティの販売者グループに注目が分散することで、収益が圧迫される恐れはないだろうか。

 

これらは重要な問いだが、大局を見失っている。近年の経済的難局にはいくつかの要因があるが、中でも特に重要なのは、インフレとサプライチェーンの混乱の二点だ。インフレ危機は、個人消費に大きな打撃を与えており、消費者は買い物を控え、お気に入りの商品について、より低価格のものを探している。同時に、政治不安や長期間にわたる新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、企業は顧客の求める製品を調達、保管、出荷することがより難しくなっている。そうした要因により、需要を正確に把握することも、より困難となっている。

 

これらの問題を解決する製品を購入する機会があったとしたら、その投資について熟考してみてはどうだろうか。

 

弾力性と柔軟性

マーケットプレイスモデルの最大かつ最も直接的なメリットは、商品の品揃えが一気に増えることだ。エンタープライズマーケットプレイスは、100社以上のサードパーティの販売者とともに立ち上げられ、商品カタログは数千点から数十万点、あるいは数百万点まで増加することがある。

 

このように幅広い商品を提供することで、マーケットプレイス運営者は、在庫切れや消費者の購買力が突然変化するというような潜在的な影響を回避することができる。人気商品が品切れしている場合、マーケットプレイス運営者は1社または複数のパートナーに同じような商品を提供してもらうことができる。同様に、顧客が高級な商品を購入する意欲をなくした場合、同じカテゴリを扱うサードパーティの販売者は、より低価格帯の類似商品を提供することがあり、マーケットプレイス運営者はどのような価格帯でも顧客のニーズに応えることができるのだ。

 

サードパーティの販売者ネットワークは、物流の面でも大きなメリットとなる。通常、小売業者は在庫の保管と発送を担当し、全国あるいは全世界の顧客基盤にサービスを提供するための大規模な物流拠点に依存している。エンタープライズマーケットプレイスでは、注文品の保管と発送の責任を販売者ネットワークに分散することができる。マーケットプレイス運営者がSioux Fall(サウスダコタ州)の倉庫から注文品を出荷し、配送するドライバーの確保に苦労している場合、Des Moines(アイオワ州)のサードパーティパートナーに依頼することができる。さらに重要なことは、運営者は追加の倉庫スペースの維持費を負担する必要がないという点だ。マーケットプレイスモデルは、運営者がリスクを負うことなく、弾力性と柔軟性を両立させることができるのだ。

 

長期にわたる機会

エンタープライズマーケットプレイスが提供する柔軟性は、経済がひっ迫している状況において短期的なメリットをもたらすだけでなく、経済が回復した時には運営者を有利な立場に置くことができる。サプライチェーンと在庫のリスクを軽減する柔軟性により、マーケットプレイス運営者は製品ラインやビジネス戦略に関して新たに計算されたリスクを取ることも可能となる。また、それを踏まえて、ファーストパーティの品ぞろえと事業拡大の可能性に関する長期的な計画を立てることが可能になる。

 

新しいサードパーティの販売者を参画させることで、ブランドは新しい製品やカテゴリを試すことができる。食料品チェーンであれば、家庭用品や装飾品のラインナップを導入できるかもしれない。スポーツ用品店であれば、サードパーティの販売者がキャンプ用品やその他のアウトドア用品を紹介することができる。

 

この手法の利点は、ブランドが在庫を抱えて製品ラインを導入する場合と比べてリスクが少ないことだ。食料品チェーンが新しく導入した装飾品ラインナップが買い物客の人気を集めなかったとしても、在庫でいっぱいの倉庫を片付ける必要がなく、すぐに軌道修正できる。クリエイティブな小売業者は、こうした製品ラインの拡大に何度も挑戦することができる。そして、最終的にそれが成功したとき、顧客から見返りが得られるだろう。

 

2年間の目を見張るような成長は、マーケットプレイスの時代が来たことを示している。マーケットプレイスモデルの明確な長期的メリットは、今後もマーケットプレイスが席巻し続けることを示している。

 

※当記事は米国メディア「Entrepreneur」の1/3公開の記事を翻訳・補足したものです。