Adobe for Business(企業のエンタープライズ向け総合ソリューション)が10月5日に発表したデータによると、AI(人工知能)は顧客のブランドへのロイヤリティを左右する要因になり得るという。
Adobeが1,000人の消費者を対象に行った調査によると、半数以上(59%)が、AIに勧められれば、お気に入りのブランドを捨てて、馴染みのない競合他社の製品を使うと回答した。
一方で、AIによる商品発見はリピート購入にもつながる可能性がある。回答者の83%が、AIを通じて初めて知ったブランドから引き続き購入していると答えた。
この調査結果は、観察・確認された買い物行動ではなく、回答者が報告した経験や意向を反映したものである。
「AIは、たとえ消費者が普段使っているブランドに満足していても、別のブランドを試してみるきっかけを与えてくれる」と、ラスベガスのテクノロジーコンサルティング会社SmartTech Researchの社長兼主席アナリストであるMark N. Vena氏は説明した。
「一方で、これはブランドにとって、自社製品が特定のニーズを満たす力をもっていることを示すことで、新規顧客を獲得するチャンスでもある」とVena氏は語った。
また、サウスカロライナ州コンウェイにあるコースタルカロライナ大学、マーケティング講師のMatthew A. Gilbert氏は、「AIによって、顧客はこれまで探そうともしていなかったブランドを容易に見つけられるようになった。しかし、顧客ロイヤリティは依然として顧客体験を通して築かれるものだ」と付け加えた。
「AIは初めての購入の機会を与えてくれるが、ブランドは依然として2回目の購入を勝ち取らなければならない」と同氏は語った。
ブランドロイヤリルティの低下
オレゴン州ベンドにあるコンサルティング会社Enderle Groupの社長兼主席アナリストであるRob Enderle氏は、消費者が馴染みのない競合他社の製品を試そうとする姿勢は、既存ブランドにとって懸念すべき点であると指摘した。
「消費者の59%がAIのおすすめに基づいて馴染みのない競合他社に乗り換える意向があることを考慮すると、従来のブランド・エクイティ(可視化できない資産価値)はもはや確実な競争優位性とはいえない」とEnderle氏は語った。
さらに、「消費者は、ブランドの認知度よりも、自分に合った商品、価格、そして実用性をますます重視する傾向がみられる」と同氏は続けた。「一方で、AIによるレコメンデーションに沿ってデジタルプレゼンスを最適化したブランドは、既存の競合他社から市場シェアを奪うことができるだろう」。
ボストンにあるITコンサルティング会社、Lionfish Tech Advisorsの創業者兼CEOであるRob Smith氏は、AIがブランドロイヤリティを脅かす可能性があるという点には同意したが、その理由は多くのブランドが考えているものとは異なると述べた。
「AIは、ブランドへのロイヤリティをロゴから『答え』へと移行させている」とSmith氏は語った。「過去20年間、ブランドは商品棚のスペースや広告費、検索順位によってロイヤリティを獲得してきた。しかし今や、買い物客は1つの質問をするだけで1つの推奨事項を得ることができる。そして、その59%は、『AIに勧められれば、これまで好きだったブランドを捨てて、聞いたこともないブランドを選ぶだろう』と答えている。これは、意思決定をAIに委ねているということだ」。
また同氏は、「買い物客は候補リストをAIに渡したが、AIはあなたのスーパーボウル(米国のプロアメリカンフットボールリーグNFLの年間王者決定戦)のCMなど覚えてはいない」と続けた。「AIが覚えているのは、企業のホームページ、小売店の商品情報、レビューなど、現時点で自社製品について確認できる情報であり、誰かが問い合わせるたびに、それらすべてをあらためて評価しているのだ」。
さらに、「商品の仕様、価格情報、レビューが不十分だったり、古かったり、矛盾していたりすると、まさに購入決定の瞬間に自社の製品は存在しないも同然となる。いくら広告費を投じても、それを解決することは不可能だ」とSmith氏は付け加えた。
ロイヤリティの獲得方法が変化
テキサス州サンアントニオに拠点を置くeコマースコンサルティング会社、Amazing at HomeのCEOであるAmy Wees氏は、Adobeの調査結果から得られる最大の教訓の一つは、「AIが必ずしもブランドロイヤリティを破壊しているわけではない」という点だと主張した。AIは、ブランドがロイヤリティを獲得する方法を変化させているのだ。
「長年にわたり、ブランドは認知度、検索順位、広告、そして繰り返し露出することに大きく依存してきた」とWees氏は語った。「AIは、消費者とブランドの間に新たな層を生み出している。消費者は『自分が既に知っているブランドはどれか?』と問う代わりに、『自分の具体的な問題に最適な製品はどれか?』と問えるようになった。これにより、馴染みのないブランドが検討対象となる可能性が格段に高まるのだ」。
同氏はブランドに対し、顧客ロイヤリティの低下の可能性に注意を払うよう助言する一方で、「だからといって、ロイヤリティが死んだことが教訓なのではないと思う」と述べた。「つまり、ロイヤリティが以前よりも揺るぎやすくなっているということだ」。
「AIが、なぜ別の製品の方が顧客のニーズにより適しているのかを説明できる場合、ブランド認知度だけで顧客を維持するには不十分となる可能性がある」と同氏は続けた。「そのため、ブランドは明確な価値提案、高い評価の顧客レビュー、有益なコンテンツ、一貫性のある製品情報、そして真に差別化された製品を提供することが、これまで以上に求められている」。
Wees氏は、AIによるレコメンデーションはブランドのリピート顧客獲得に役立つ、と付け加えた。「AIを活用した商品発見は、従来の広告よりもはるかにパーソナライズされた印象を与えることができる」。
「買い物客は、非常に具体的なニーズや課題、予算、好みの原材料、使用例、あるいは必要な機能などを説明しているかもしれない」とWees氏は指摘した。「AIがその問題をうまく解決する商品を紹介すれば、ブランドは単に存在感を示すだけでなく、役に立つ存在として顧客との関係を築くことができるのだ」。
「もし製品がその推奨どおりに応えれば、そのブランドはあっという間に顧客からの信頼を得ることができる」とWees氏は述べた。
AI提示のリンクが新たな店舗入口を創出
Adobeの研究者たちはまた、消費者の約3分の2(64%)が、ブランドのWebサイトを検索する代わりに、AIが提示した直接リンクをクリックしていることも明らかにした。
「64%の消費者がAIからの直接リンクを経由するのであれば、ホームページは唯一の入り口としての重要性は薄れる」と、ロンドンに拠点を置くAI物流SaaS企業Finmileの共同創業者であるRich Pleeth氏は説明した。
「商品ページには、明確な価格、在庫状況、返品条件、配送に関する情報を記載する必要がある。なぜなら、顧客は購入プロセスの途中でこのページにたどり着く可能性があるためだ」と同氏。
一方で、サンフランシスコの市場調査会社Near Mediaの共同創設者であるGreg Sterling氏は、Adobeの調査結果に疑問を呈した。「これは実際の行動データではなく、態度や意見に関する調査であるため、信ぴょう性には疑問がある」と、同氏は語った。
「ほとんどの消費者は、購入決定の直前でない限り、AIが提示したリンクをクリックしない」と同氏。「購入プロセスのどこかでリンクをクリックしている可能性はあるが、これはおそらく正確な数字ではないだろう」。
また同氏は、「Near Mediaのデータによると、人々はAIを使って情報を検索したあと、AIの推奨に基づいてブランドに関する検索を行うことが多い」と説明した。「通常、彼らはGoogleレビューを使ってAIのレコメンデーションを検証したり、あるいはAIが提供しなかった追加情報を入手しようとしたりしている。これは、広範な調査と行動データの組み合わせに基づいている」。
検討対象範囲の拡大
また、Adobeよると、回答者の62%が、AIによるレコメンデーションのおかげで、本来なら検討しなかったであろうブランドから商品を購入したと報告した。
「買い物リストは、これまで以上にさまざまな影響を受けやすくなっている」と、グローバル経営コンサルティング会社Kearneyのコンシューマー部門パートナーであるKatherine Black氏は説明した。
「顧客が何を達成しようとしているのかを理解することで、小売業者は、顧客がこれまで検索対象としていなかった商品を推奨する機会を得らえるようになる」とBlack氏は語った。
また、インディアナ州のインディアナポリスに拠点を置くデザイン・テクノロジーコンサルタント会社、Studio Scienceの最高技術責任者であるAaron Hutten氏は、「私にとって、それはおそらく最も興味深い発見だ」と付け加えた。
「AIは、顧客がもともと探していたものを見つける手助けをするだけではない」とHutten氏は語った。「AIは検討対象となる商品の範囲を広げている。これは小売業者、特にこれまで認知度を高めるために多額の費用をかけざるを得なかった中小ブランドにとって、真のチャンスとなる」。
「しかし、それは商品販売のあり方にも変化をもたらしている」と同氏は付け加えた。「もはや、カテゴリーページを閲覧している人だけに商品を販売すればいいわけではない。ユーザーの意図を解釈し、商品の属性を比較し、レコメンデーションを提示しようとするエージェントに対して、商品を提示する機会がますます増えているのだ」。
Hutten氏は小売業者に対し、まず次のようなシンプルな質問を自問するよう助言した。「もしAIエージェントが自社の商品カタログにアクセスでき、顧客が求めるものを正確に説明したとしたら、そのエージェントは自社商品を簡単に見つけだし、理解し、推奨できるだろうか?」。
「もしその答えが『ノー』であれば、それはSEO(検索エンジン最適化)の問題ではなく、コマース(商取引)上の問題になりつつあるのだ」とHutten氏は述べた。
※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の10/7公開の記事を翻訳・補足したものです。