2026年第4四半期におけるAI活用の現状を検証すると、ある重要な課題が浮かび上がる。それは、基本的なツールを超えて、真のビジネス価値を引き出すためには、組織的な変革が必要であるということだ。
Martech編集部には日々、マーケティングをはじめ、さまざまな分野におけるAIの活用状況を検証したレポートや調査結果が寄せられる。
たとえば、私たちは今まさに、AIを活用したホリデーショッピングシーズンに突入しようとしている。読むレポートによっては、AIを活用するのが「初めて」、別のレポートによれば「2回目」ということになる。そして今回も、AIエージェントが買い物の一部だけを代行するのか、あるいは全部を代行するのかについては、分析する人によって見解が分かれている。
マーケターに関していうと、「ほぼすべてのマーケターがAIを利用している」という点で、各レポートの見解は一致している。また、マーケティングにおける最も一般的なAIの活用事例はコンテンツ制作であるという点でも一致している。一方で、アプリの開発やパーソナライゼーションの実現、ワークフローの効率化にAIを活用しているマーケターもいる。
さらに、調査によっては、マーケターがAIへの投資から得ているROIや、AIが人員体制や採用計画にどのような影響を与えているかについても、結果に違いが見られる。
もちろん、私のもとに送られてくる調査レポートにはほとんど目を通している。ただ、2026年第4四半期におけるAI活用の現状についての私の見解は、各種調査レポートよりも、マーテック業界のマーケターやリーダーたちとの、公式・非公式を問わず交わしてきた対話に基づいている。(公式な会話の多くは、当社のポッドキャスト「Conversations with MarTech」で聴くことができる。)
ここでは、2026年第4四半期におけるマーケティング分野でのAI活用の現状に関する私の見解を紹介したい。
ワークフローへの組み込みが依然として障壁
各種レポートによると、マーケターの90%以上が「AIを利用している」と回答している点は、おおむね一致している。この数字については、私もまったく疑っていない。今ではほぼ全員が、自分のお気に入りのLLM(大規模言語モデル)を1つ、あるいは2つ使っているほどだ。基本的な作業を支援するAIツールの利用は、もはや問題ではない。そうした状況は、かなり前から続いている。
しかし、マーケターがLLMの利用にとどまらず、AIをワークフローに組み込むとなると、そこには多くのマーケターが越えられない大きな壁がある。もっとも、必ずしもマーケターの側に原因があるとは限らない。LLMを使ってプロンプトを入力することはできるが、他のアプリとの連携は技術的に難しく、手間がかかる場合もあるからだ。
貴社のITチームは、どのようなことを許可しているだろうか?技術的なサポートが必要な場合、どのようなリソースが利用できるだろうか?そして、あなたのチームメンバーは、あなたが構築したものを活用できる程度にAIの知識やスキルを持っているだろうか?
これこそ、多くの人が生成AIの回答を(文字通り)コピー&ペーストして使っている理由だ。コピー&ペーストは手軽だが、既存システムとの連携は容易ではない。とはいえ、コピー&ペーストはワークフローとはいえないのだ。
あらゆるアプリにAIが搭載されることで、よりスマートで強力なサイロが生まれる
マーケティングチームが使用するツールのほぼすべてに、何らかの形でAIが組み込まれている。洗練されたAIアシスタントや連携機能から、後付けでAIを付け加えただけで、せいぜい不自然に見えるものまである。
AIが搭載されているのは、マーテックのアプリに限った話ではない。Excel、Googleスプレッドシート、PowerPointをはじめ、多くの業務効率化ツールにもAIが組み込まれており、あなたの業務を支援する準備が整っている。ただし、AIが支援してくれるのは、そのアプリの中での作業に限られる。次に使用する別のアプリでの作業を支援してくれるわけではない。
あらゆるアプリにAIを組み込んだからといって、それらのアプリ同士が自動的に連携するようになるわけではないのだ。
AIを使ってCRM(顧客関係管理システム)やマーケティングオートメーションプラットフォーム(MAP)、さらには業務効率化ツールを連携させるのではなく(上記のワークフローのセクションを参照)、私たちはチームごとにAIを活用したサイロ化を進めてしまっている。
もし私がベンダーの立場なら、これは非常に恐ろしい状況である。あらゆる製品にAIを組み込むには多額の費用がかかるが、マーケターが実際に利用できるツールの数には限りがある。費用を負担するベンダーとしては、自社のAIが選ばれて、使われることを願うしかない。マーケターには、選択肢がいくらでもあるのだから。
AIエージェントは、解決策の一つになるだろうか?もちろんだ。ただし、今ではほぼすべてのベンダーが、同様の機能を提供している。
データを信頼できなければ、AIの出力も信頼できない
多くのマーケターは、自社データの品質に不安を抱えている。彼らは、AIがその質の低いデータを利用すると、問題がさらに拡大してしまうことを理解している。質の低いデータは、質の低い結果を生み出す。その結果、顧客や社内の関係者に誤った情報を提供してしまうことになる。
Salesforceは、自社のエコシステムについてよく批判を受けている。Data 360というデータレイヤーを、Agentforce(同社が提供するAIエージェント構築・運用プラットフォーム)やCRMの下層に配置しているからだ。しかし、実のところ、Salesforceのやり方は正しい。
Salesforceの導入を検討している企業の中には、「高額な契約に縛られるのではないか」「必要以上のものを売りつけられているのではないか」と感じるところもあるかもしれない。しかし、データ管理とガバナンスは極めて重要である。コストの問題や導入範囲の拡大といった懸念はあるものの、Salesforceは、質の悪いデータがAI活用を失敗に追い込む可能性があることを理解している。そして同社は、AIに社運を賭けている以上、そのような事態を絶対に許すわけにはいかないのだ。
手持ちのデータを活用すれば、チームによるAIの利用を拡大することができる。しかし、「Garbage in, garbage out(ゴミを入れれば、ゴミしか出てこない)」という原則は変わらないのだ。
AIによって、マーケターの「より多く作りたい」という志向がさらに加速
コンテンツをもっと作る。デザインをもっと作る。下書きをもっと作る。メールをもっと送る。AIは本当に驚くべき存在だ。たった一人で、あらゆるチャネルを大量のメッセージで埋め尽くすことができる。すごいことではないだろうか。でも、少し立ち止まって顧客の立場で考えてみてほしい。
私が話を聞いた数人のマーケティングリーダーたちは、多くのマーケターが「より多く作ること」に過度に注力しすぎていると指摘している。AIは簡単により多くのコンテンツを生み出すことはできるが、それが本当に顧客に響くか、どのようなインパクトを持つのかまでは考えてくれない。
さらに、マーケティング活動を増やし続けることは、別の問題を引き起こす。
AIの問題解決に時間を費やすのは、本末転倒
特にコンテンツ制作の面では、多くのマーケターが、「AIが大量に生成する成果物をチェックすることで作業量が増え、期待されていた効率化が実現できていない」と報告している。
もちろん、AIが生成したコンテンツにおいて、ブランド独自のトーンやスタイルを維持するためにマーケターが活用できるツールやガイドラインは存在する。しかし、ワークフローのセクションで論じたように、多くのマーケターは依然としてLLMを活用する初期段階にあり、プロンプトに頼ってコンテンツ作成を進めている可能性が高い。プロンプトはアイデア出しや初稿の作成には役立つが、それだけでは不十分であり、さらに多くの作業が必要となる。
つまり、AIが生成したコンテンツは、必ずしも効率的な成果物になるとは限らないのだ。
AIは、顧客が本当に望んでいるものを提供しなければならない
「より多くのコンテンツを生み出すこと」は、AIによってマーケターの仕事が効率化される一例に過ぎないが、その代償として、受け手である顧客の視点がないがしろになることもある。顧客は必ずしもより多くのコンテンツを求めているわけではない。AIを活用したチャットやサポート機能を常に望んでいるわけでもない。また、そうした体験が必ずしも有益だと感じているとは限らないのだ。
もちろん、すぐに答えがほしい場面では、AIは大いに役立つ。一方で、共感や人間らしい温かさ、相手の状況を理解した対応を必要としている時もある。
マーケティングチームは、次の問いを自らに投げかける必要がある。「私たちは、顧客がそれを求めているから、コンテンツを増やしているのか? それとも、AIのおかげで簡単に作れるようになったから増やしているのか?」
ROIの実証という課題は変わらない
ブランドキャンペーンのROI(投資対効果)を実証するのが難しいと感じているなら、マーケティングにおけるAI活用のROIを経営層にどう説明するのか、改めて考える必要がある。実際、AI活用によるROIを示すことができると考えるマーケターの割合は、2025年よりも2026年の方が低下すると見られている。
ブランドキャンペーン、イベントスポンサーシップ、広告、あるいはその他の施策を問わず、マーケターは常に、「その投資は成果につながったのか」を問われ続けている。しかし、マーケティングのアトリビューションは複雑で、特にB2Bマーケティングでは成果を明確にするのはなおさら困難である。
広告と同じように、予算を確保し続けるためにはROIを示さなければならない。そして今、その説明責任はAI活用にも及んでいる。
マーケティングチームがAI活用のROIを測定する際に直面する大きな課題の一つは、作成されたコンテンツといった成果物だけにとどまらず、手直し作業や統合作業にかかるコスト、顧客にもたらす成果、さらにはビジネスへの影響まで、十分に考慮する必要があるという点である。
新しいモデルが新たな混乱を招く
あなたのチームがLLMを基盤として何かを構築し、それを個人やチームのワークフローに組み込んだとしよう。最初は順調に機能する。しかし、ある日突然、うまくいかなくなるのだ。
AIモデルは急速に変化している。こうしたモデルの変化は、ワークフローに予測不可能性をもたらす可能性がある。その結果、マーケターは、昨日まで問題なく機能していたツールが、今日になってなぜ機能しなくなったのか、その原因を突き止めようと頭を悩ませることになる。
こうした問題によって生じる混乱の大きさは、そもそもそのAIをどの程度深く業務に組み込んでいたかによって異なる。
まとめ
これら8つの考察からわかるのは、マーケティング分野におけるAIの導入は広く進んでいるものの、AIを活用した本質的な変革を実現できていない企業が依然として多いということである。
マーケティングチームはAIツールを積極的に導入しているが、その技術の潜在能力を最大限に引き出すために必要な、ワークフローやシステム、組織体制の変革には、まだ十分に取り組めていない。
これはマーケティングに限った問題ではない。AIの導入が組織戦略よりも先行してしまったために、多くの組織が直面している戦略上の課題なのだ。
LLMを手軽に利用できるようになったことで、AIの導入は急速に進んだ。しかし、その普及は主に個人レベルでの活用を促したに過ぎない。AIプラットフォーム、既存のシステム環境、そしてデータの統合については、マーケティングチームだけで対応するのではなく、組織全体として取り組む必要がある。
次の段階へと進むための戦略を策定するには、テクノロジー部門と事業部門のリーダーが連携することが不可欠である。
マーケティング特有のAI導入の課題は、経験豊富なマーケティングリーダーにとって決して目新しいものではない。
その中には、品質と量のバランス、ワークフローの効率化、顧客体験、そしてビジネス価値といったテーマが含まれる。マーケターたちは長年にわたり、こうした課題と向き合ってきた。だからこそ、AIがそれらを自動的に解決してくれると期待すべきではないのである。