米国のソフトウェア企業、Adobeの最新調査によると、多くの小売業界のスマートフォンアプリは、顧客がダウンロードした後の利用期間が短い傾向にあるという。
Adobeが米国の消費者1,000人を対象に行った調査によると、顧客のおよそ4人に3人(72%)が、一回限りの割引や購入のために小売アプリをダウンロードするものの、最終的には削除したと回答している。
研究者らは、このアプリ離脱率の高さは顧客の期待値の大きな変化を示していると主張する。「割引はインストール数の増加を促すことはできるが、それだけで小売アプリの長期的な利用継続率を高めることはほとんどない」と彼らは指摘した。
また、Adobeの研究者たちは、以下についても明らかにした。
- 顧客が小売アプリをダウンロードする主な理由は、ロイヤリティプログラムや会員プログラムへの加入(45%)、一回限りの割引やプロモーションの受け取り(42%)、そしてより快適なショッピング体験(37%)である。
- 顧客が小売アプリをアンインストールする主な理由は、当初の目的にとって必要がなくなった(64%)、ストレージ容量を過剰に消費する(43%)、あるいは継続的な関連性や有用性に欠けている(43%)というものである。
- 小売アプリのエンゲージメント促進に最も効果的な通知は、注文状況の更新(39%)、パーソナライズされた割引(37%)、保存した商品の値下げ(33%)である。
- ユーザーの3人に1人(33%)は、音声検索や画像検索などで操作できるのであれば、ブランドや小売店のアプリをデバイスに残しておく可能性が高くなると回答している。
これらの調査結果を総合すると、消費者に小売アプリをインストールしてもらうことは、アプリを利用し続けてもらう理由を提供することよりも容易である可能性が示唆される。
顧客維持戦略の欠如
「ほとんどの小売アプリには顧客獲得戦略はあるが、顧客維持戦略がない」と、グローバル戦略・経営コンサルティング会社Kearneyのパートナーであり、食品・医薬品・マスマーケット部門の責任者であるKatherine Black氏は説明する。
「小売業者は、割引やポイントプログラム、先行アクセスなど、消費者がアプリをダウンロードするための魅力的な理由を提供しているが、その当面のニーズが満たされた後、再びアプリを利用してもらうための理由はほとんど提供できていない」と同氏。
Black氏はさらに、より大きな問題は、多くの小売アプリが本質的に小売業者のWebサイトの縮小版に過ぎないことであると付け加えた。「Web上で同じように簡単に商品の閲覧や価格の確認、取引を完了したりすることができるのに、なぜスマートフォンの貴重なスペースを小売りアプリに占有させる必要があるのだろうか」とBlack氏は問いかける。
英国ロンドンに拠点を置くAIを活用した物流ソフトウェア企業Finmileの共同創業者であるRich Pleeth氏もこの見解に同意。「小売業者は、未だにアプリのダウンロードを顧客との関係の始まりだと勘違いしている」と語る。「必ずしもそうとは限らない。たいていの場合、顧客は単に割引を受けたい、あるいは一回の取引を完了したいだけなのだ」。
「アプリがWebサイトと大差ない機能しか提供せず、しかも絶えずプロモーションメールを送ってくる場合、たいていは次にアプリが削除されることになる」とPleeth氏。「生き残るアプリとは、単に取引を円滑にするだけでなく、消費者の生活の中で独自の役割を果たすものなのだ」と加えた。
顧客が使い続けたいと思うアプリの構築
ラスベガスに拠点を置くテクノロジーアドバイザリー会社、SmartTech Researchの社長兼主席アナリストであるMark N. Vena氏は、「最高の」小売アプリとは、顧客が積極的に購入しようとしていない時でも役立つアプリだと主張した。
「そのようなアプリは、販売前のスマートな商品発見機能、販売中のスムーズな決済、そして販売後の注文追跡、サポート、ロイヤリティ特典、パーソナライズされたおすすめ商品などを提供している」と同氏は語った。
ソルトレイクシティに拠点を置く、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース。アプリケーション同士をつなぐ仕組み)ベースの銀行業務、決済処理、カード発行インフラストラクチャを提供するSoFi Tech Solutionsのプロダクトマネジメント担当副社長であるPrashant Shah氏は、「支払い、特典、返金をアプリ体験の中核に組み込むべきである」と付け加えた。
「顧客が決済前にカードを登録して特典を確認できるようにし、決済時の手順を簡略化し、決済後には迅速かつ透明性の高い返金手続きを受けられるようにすることだ」と同氏は語った。
「当社の調査によると、ブランドアプリに支払方法を保存すると、消費者の20%がそのブランドからより頻繁に購入するようになり、18%は全体的な支出額が増え、16%は1回の購入あたりの支出額が増えていることが明らかとなった」とShah氏は述べた。
KearneyのBlack氏は、小売業者は機能の追加よりも、継続的な利用価値を生み出すことにもっと重点を置くべきだと付け加えた。
「小売業者が自問すべきは、『時間をかけて顧客を理解することで、その顧客にとってより価値のあるサービスを提供するにはどうしたらよいか?』ということだ」とBlack氏。
「そこにこそ、アプリは一回限りのWebサイト訪問よりも優位性がある」。
単発的なプロモーションを超えて
Adobeの研究者たちはまた、eコマースにおける顧客体験の次の段階は、単発的なプロモーションよりも、顧客体験全体における利便性、パーソナライゼーション、そして価値によって形作られていくだろうと主張した。
「真の付加価値を提供するためには、現代の小売アプリは、過去の購買行動、進行中の検索意図、商品の閲覧履歴を活用し、顧客の次の行動を予測したユーザー体験を構築し、それに合わせてカスタマイズされたプロモーション、お得な情報、メッセージを提供する必要がある」と、アトランタに拠点を置く経営コンサルティング会社、Ardinal Strategy Groupの創設者兼マネージングコンサルタントであるAndre Inverdale氏は指摘した。
「この付加価値の代表的な例は、ビジュアル検索機能である。これにより、顧客はオンライン上の投稿や動画のスクリーンショットをアップロードするだけで、目的の商品やそれに類似する代替品を瞬時に見つけることができる」と同氏は語った。
フランスのナントに拠点を置く製品情報・顧客体験管理会社AkeneoのCEO、Ramain Fouache氏は、プロモーション活動は小売業において常に一定の役割を果たすものの、主に割引で勝負するには勝ち目の薄い戦いであると主張した。
「消費者にはかつてないほど多くの選択肢があり、一回限りのオファーは取引につながることもあるかもしれないが、長期的な関係を築くことはほとんどない」とFouache氏は語った。「むしろ、顧客とのあらゆるやり取りが、有益で関連性のあるものになるようにすべきである」。
会話型コマース
研究者たちは、顧客体験全体に焦点が移りつつあることが、会話型コマースの台頭を加速させていると指摘している。会話型コマースとは、顧客が静的なナビゲーションメニューではなく、自然な会話形式のやり取りを通して、商品の検索、比較、質問、購入手続きを完了できるアプローチである。
顧客は、小売アプリが単にデジタルカタログのようなものではなく、顧客の意図にリアルタイムで適応する、AIを活用したレスポンシブな小売アシスタントやコンシェルジュのような機能を持つことをますます期待するようになっている、と研究者らは付け加えた。
Adobeの調査によると、消費者の65%が小売アプリにおけるAIを活用した注文追跡やステータス更新を望んでおり、57%がロイヤリティプログラムや特典の追跡を、42%が即時返品処理を望んでいることが明らかになった。
「過去18か月間、リピーターの顧客は新規顧客よりも会話型コンシェルジュとのやり取りを多く利用していることがわかった」と、eコマース向けのAIを活用した顧客体験ソリューションを専門とするサンフランシスコ拠点の企業、Alhena AIの創業者兼CEOであるAshu Dubey氏は述べている。
「顧客がコンシェルジュサービスを体験し、そのメリットを理解すれば、彼らはリピーターとなり、より深く活用するようになる」とDubey氏は語った。「コンシェルジュサービスは顧客維持のサイクルの一部となり、リピーターをヘビーユーザーに変えることができるという説得力のある根拠がある」。
アプリのリリース前に検討すべきこと
オレゴン州ベンドに拠点を置くアドバイザリーサービス会社、Enderle Groupの社長兼主席アナリストであるRob Enderle氏は、小売業者がアプリをリリースする前に、自社のセグメントで何が最も効果的かを分析し、それを実現するために最も費用対効果の高い方法を検討すべきだと助言した。
「ほとんどの場合、アプリの開発にかかるコストとリスクは、同様のWeb戦略よりも効果が低く、コストがかかるという結論に至るだろう」と、Enderle氏は語った。
「アプリは、アクセスする際に摩擦が生じるため、エンゲージメントを高めるように設計されているとはいえない」と、ペンシルベニア州マルバーンに拠点を置く中小企業向け運用型マーケティングサービス会社、 Mobile High 5のCEOであるBarbara Casey氏は主張した。
「アプリを使うには、まずスマートフォンでアプリを探して起動する必要がある」と同氏。
「SMSを利用したエンゲージメントの方がより良い選択肢だ」とCasey氏は主張する。「アプリをダウンロードした人だけでなく、より幅広い層にリーチできるうえ、メッセージをスマートフォンのロック画面にも表示できるのだから」。
※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の8/18公開の記事を翻訳・補足したものです。