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決済手数料無料という革命はEC業界で成功するのか - 各社が思い描く未来予想図はEC事業者をどこまで虜に出来るのか

決済手数料無料という革命はEC業界で成功するのか - 各社が思い描く未来予想図はEC事業者をどこまで虜に出来るのか

物流・決済・業務
2016/06/14

決済手数料無料という革命はEC業界で成功するのか - 各社が思い描く未来予想図はEC事業者をどこまで虜に出来るのか

 

ECサイト事業者にとって決済手数料というのは長年当たり前のように背負わされてきた十字架だ。ユーザーがECサイトで購入する際にクレジットカードを利用した場合の手数料をECサイト事業者が負担することは当然のことであった。しかし、ここ最近、その決済手数料をサービス事業者が肩代わりすることでECサイト事業者には決済手数料を無料で提供するサービスが注目を集めている。今回は、そのようなサービスを見ていくとともに、そのビジネスモデルの源泉を探っていく。

 

 

EC業界における出店無料の罠

 

Yahoo!ショッピングが2013年に行った“eコマース革命”では出店料・手数料無料というキーワードが大々的にメディアを飾った。しかしよくよく見てみると、決済手数料は無料にはならず、EC事業者から見たら確かに開店にかかわる基本的な費用は安くなるものの、決済手数料や、さらには集客にかかわる投資というものは減ることはなかった。原価を投資し売上との差額から利益を得るのが基本となるEC事業者にとって、売上の数%を負担する決済手数料というのはボディーブローのように効いてくるため実質的には出店無料とはいえない部分が多かった。また、仮に無料で出店しても集客が全く出来ないと売上が立たないので、どうしても集客に投資をせざるを得なく、トータルで見るとどうしてもECサイトの運営に関わる費用は嵩むのが現実だ。

そのような決済手数料や集客に関わる投資を極限まで減らそうというサービスを3つ紹介していく。

 

<参考>

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Cart

 

株式会社カート(旧株式会社ネットコンシェルジェ)が運営する「Cart」は、この6/1にリリースされた決済手数料まで含めた開店・運営に関わる全ての手数料が無料となる革命的なショッピングカートサービスだ。

Cartに出店することで、集客に特化したキュレーションメディア型のショッピングマガジンCart(旧#Cart)に掲載される、モール型のショッピングカートとなる。これまでは欲しい商品があった際、外部のECサイトに遷移して購入できる形となっていたが、今回カート機能にサービスをシフトすることで、購入まで完結するショッピングマガジンとなった。

このCartは前身の「People & Store」をリニューアルオープンしたサービス。参加しているECサイトが投稿する商品情報の中から、おすすめの商品を厳選してマガジンテイストでお届けする「ショッピング情報まとめ読みツール」だ。ユーザーは、気になるキュレーターやショップをフォローすることで、自分のタイムラインにそれに関連する様々な商品情報やコンテンツを受け取ることができ、欲しいと思った商品をその場で購入することができるのだ。ユーザーにFITした情報だけでなく、キュレーターによるオススメなどレコメンド機能が非常に充実している。同時にスマホアプリサービスもリリースすることで、よりスマホ志向を鮮明にした。

 

EC事業者にとっては、LINEやFacebookなどのソーシャルメディアを活用して簡単に集客することができる。例えばオープニングセールをしよう、というメニューを選択することで、わずか数クリックでキャンペーンを打つことが可能となっている。また、参加している著名人キュレーターにメッセージを送って、商品紹介を促すこともできるという強みをもつ。

今回リリースされたサービスの目玉はなんといっても、一切のコスト負担なくネットショッピングを開設することができるという点だ。月額費用や売上ロイヤリティだけでなく決済手数料も無料とすることで、完全無料で利用できるショッピングモールが実現した。当然ながら決済手数料はカード会社が0円で提供しているわけではないので、カート社がそこを出店者にかわって負担する形となる。気になるCart自体の収益化に関しては、トラフィックが鍵を握っている。店舗によってはモノが売れればと、トラフィックを重要視していないところもあるが、カート社はそれらをかき集めることでお金に変えようとしている。さらには、メディアとしての力がついてきた段階で広告による収益を見込んでいるほか、プロモーション商品の販売を検討しているとのことだ。

カート社代表の尼口氏は、今は更新されていないもののEC業界伝説のBlogと言われている海外ECサイト事例に学ぶ売上アップノウハウの執筆者。海外事例を中心とした事業の成功ノウハウを豊富に蓄積しているため、この事業についてもビジネスモデルに絶対の自信を持っているようだ。

 

<参考>

ECサイトのメディア化は集客の最終兵器となるか - 最近のトレンドから見えてきた3つの方向性

 

 

SPIKE

 

「オンライン決済をシンプルに」をコンセプトとしている「SPIKE」は、そのコンセプト通り、「決済手数料無料」、「専門知識不要」、「最短1分で始められるカード決済サービス」、という3点が大きな特徴である。

決済手数料無料については業界初ということもあり、2014年頃から話題となり、すでに20万アカウントも突破している。具体的には、個人向けのフリープランでは月間決済額10万円までは決済手数料が無料であり、法人向けのビジネスプレミアムでは月間決済額1,000万円までは無料だ。2016年3月31日までは、フリープランでの手数料無料の上限額が100万円だったが、4月1日から上限額が10万円となった。今後SPIKEは決済手数料の安さよりも、無料カート、Web接客ツール、広告配信サービスなどといったサービスに力を入れていきたいとのこと。また、導入に関しても「1分で始められる手軽さ」というウリだけあって、プログラミングなどの知識がなくても、アカウントの登録、入力、リンク作成、貼り付けという面倒な登録を1分程度で終わらせることができる。

SPIKEがなぜ決済手数料無料が打ち出せたのかと言うと、秘密はフリーミアムモデルにあるようだ。SPIKEには月1,000万円の取引を超える企業が使う「ビジネスプレミアム」というプランがあり、こちらを利用する企業からの収益でビジネスモデルが成り立つと考えているようだ。また、サービスの中で中小企業や個人事業主の売上が上がり、彼らがフリープランからビジネスプレミアムへと移行する可能性もある。これはフリーミアムモデルのような収益を獲得していると言える。(フリーミアムとは、基本的なサービスや製品を無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能について料金を課金する仕組みのビジネスモデルである。)

 

<参考>

新たな決済サービスLINE Pay・SPIKEと世界標準のPaypalは日本のEC決済の常識を覆すのか

 

 

PAY.JP

 

ネットショップを無料で開設できるサービス「BASE」を運営するBASE社が提供する「PAY.JP」は、既存のウェブサービスやECサイトなどにクレジットカード決済の機能を導入できる、どちらかというと開発者向けのサービスだ。(※サービス開始当初は決済手数料無料で提供されていたが、現時点では決済手数料は有料となる。)

数行のコードでウェブサイトに決済機能を導入でき、初期費用や月額費用はかからず、決済手数料のみで利用可能。国内の開発者向け決済サービスとしては初めて国際6ブランドに対応し、決済手数料はVISA・MasterCardが3.0%、AMEX・JCB・Diners・Discover Cardが3.6%で提供する。加盟店審査があるが、最短2日で利用できるという。さらに、通常の決済のほか定期課金にも対応し、PAY.JPが用意したフォームを利用することでより簡単に利用できる機能「PAY.JP Checkout」も提供している。つまりは、「申請に時間がかかる」「高い」「使いにくい」といった複雑なオンライン決済サービスの問題を解決し、導入を圧倒的に簡単にすることにより、「あらゆる物を買いやすい」世界観を実現していると言えよう。PAY.JPのウリは、サービスの使いやすさ、審査の速さ、導入の手軽さ、なのだ。昨年9月から2016年5月末までにサービスを導入した個人および法人(月間売上1,000万円未満に限る)を対象にした決済手数料無料キャンペーンも実施していた。現在、BASE社はBASE事業の売上について詳細を公開していないが、黒字化が視野に入ってきているようだ。PAY.JPは当面コストは投資フェーズとなるため、BASEがPAY.JPを支える構図となる。PAY.JP単体では2〜3年後の黒字化を目指しているようだ。

ここで、BASEとPAY.JPの区別をしっかりしておきたい。BASEはネットショップを簡単に開設できるようにしたサービスだが、PAY.JPはウェブサイトに簡単に決済を導入できるようにするものである。つまりは、2つは全くの別サービスであり、BASEショップ上では、PAY.JPのAPIを利用することはできない。PAY.JP APIは、自分自身でサイトを構築、運用する人に向けたサービスであり、もしBASEショップを卒業し、自分のネットショップを構築する場合にはPAY.JPを利用してほしい、というのがBASE側の思惑だ。同ショップで成長した店舗に向けて、いち早く本店カートの開設時に告知するなどすることで、相乗効果も見込めるだろう。

 

<参考>

Stores.jp・BASE・ZEROSTORE 最近話題の無料出店可能な3モールを徹底比較

ECモール・カート・アプリの2015年流通総額まとめ - 国内12・海外7の各主力プレイヤーの値から見る市場トレンド

年末年始も動き続けたEC業界再編 - 買収・資金調達から占う2016年の展望

 

 

各社が思い描く未来予想図はEC事業者をどこまで虜に出来るのか

 

決済手数料無料でのサービス提供は諸刃の剣だ。各社ともそれなりの身を切ることで、それを上回る成果を目指している。3社とも明確にビジネスモデルについての言及は現時点では行っていないものの、Cartは得意とするメディア事業を軸に集客をはかり、そこでの広告モデルであると推測されている。SPIKEはフリーミアムモデルだけでなく、中小の事業者を大量に集めることで20兆円とも言われるオンライン流通のシェアを取り、SPIKEコインのような仮想通貨で業界を支配することを目論んでいるとも言われている。PAY.JPはあくまで初期の利用者数の獲得を狙った一時的な施策での決済手数料無料となる。

一方でECサイト事業者は決済手数料以外にも集客に関わる手間やコストも重視する。当然のことではあるが、無料で開店して、ランニングコストも無料であっても、お客様が来店しなければ商売にならないからだ。結局集客に関わる投資や手間でショップトータルでの利益率が決まってきてしまうのだ。そう考えると、集客までトータルでのサービス提供を行っているCartに一日の長があるようにも思える。

ECサイト運営は、高い技術力とそれなりの投資と手間と忍耐力が必要なものから、徐々に簡単で少ない投資ではじめられるものとなってきている。これ自体は非常に歓迎するべきトレンドではあるが、集客に苦労すると開店しても売上が立たない無用の長物と化してしまう可能性もある。しっかりと売上を立てることが見えるサービスが最終的にはECサイト事業者を虜にしていくことになるのではないだろうか。