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アパレルのPB展開を進める巨大オンライン企業の狙い

アパレルのPB展開を進める巨大オンライン企業の狙い

トレンド
2018/04/09

アパレルのPB展開を進める巨大オンライン企業の狙い

 

アパレルのEC業界はEC業界の中で最も競争が熾烈だ。そのため、多くの企業が最新のテクノロジーや、ビジネスモデルを投入してきており、結果として新しいトレンドがアパレル業界から発信されることが多くなっている。2016年の国内のアパレルEC市場の市場規模は1兆5,297億円と他のカテゴリを上回りトップとなっており、数値的に見てもEC業界で最もホットなジャンルと言えよう。今回はそのアパレルEC業界における最新のトレンドから、PBの立ち上げを行っている事例をピックアップし、その狙いや戦略を考えていく。

 

 

アパレルECに巻き起こっている2つの新しいトレンド

 

最近アパレルEC業界に登場してきた注目すべき新しいトレンドを2つ紹介していこう。

 

D2C

1つ目はダイレクトトゥコンシューマー(D2C)という自社のみで企画、製造、販売を行い、なおかつ店舗を持たないビジネスモデルが存在感を増してきている。老舗アパレルのヤマトインターナショナルが手掛けている「CITERA」はこのビジネスモデルを採用しており、完全オンライン限定での販売を行っている。店舗を持たないためにSNS等での宣伝や期間限定のポップアップショップを開いて認知を進めていく新しい形態になっている。そして、このD2C領域の活性化を後押しするようにシタテル株式会社が「SPEC」という受注から生産までをワンストップで管理できるD2C向けのECシステムの提供開始。大手セレクトショップやファッションブランドへの提供が主となり、D2Cの利点である店舗立ち上げる際のコストカットと相まってブランドの立ち上げが容易になってくることが期待される。

 

PB

2つ目のトレンドは今回の記事のメインテーマであるオンライン企業によるアパレルPBの立ち上げだ。

PB(プライベートブランド)とは、メーカーによるNB(ナショナルブランド)ではなく、小売業者や卸業者が開発・立ち上げるブランド。アパレルではないが、身近なところで見るとセブンイレブンの「セブンプレミアム」、イオンでは「トップバリュー」などがそれに該当する。PBを展開する上でのメリットは、仕入れ価格を安くできるため粗利益を上げることができることや売上が伸びるPBに目を付けた大手メーカーがPBに参画することにより質の良いPBの製造が可能となっていることが挙げられる。

このPBのトレンドがオンライン企業を中心に、アパレルEC業界に勃興してきているのだ。世界的に見ても店舗数が減少傾向にある小売店舗や百貨店を尻目に、オンライン企業がアパレルのPBをオンラインで売るという大きなチャンレンジに挑んでいるのだ。大きな集客力を持ったオンライン企業がアパレルのPBを立ち上げることで、アパレルEC業界には大きな影響を与えることが予想されている。今回はグローバルでどのような企業がどのようなPBの取り組みを行っているのかを見ていく。

 

 

ZOZO

 

ZOZOは国内最大手のアパレルオンラインモールZOZOTOWNが2017年11月より販売をスタートしたPBである。

ZOZOの企画は実に7年前より始まっており、代表の前澤氏のこだわりを長い期間をかけて実現した「科学やテクノロジーの力で実現する究極のフィット感」をコンセプトに掲げるPBだ。

特にこだわった部分は、ベーシックなもので、なおかつ大量のサイズを用意しあらゆる人にフィットした商品を作るという点。独自サイズ規格や過去に購入した商品とのサイズの比較機能なども検討したが、最終的にはZOZOSUITというデバイスを使った世界的にも新しい採寸システムの提供を決めた。

ZOZOSUITはトップスとボトムス上下セットで、各部に伸縮センサーがついている採寸用ボディスーツだ。着用してBluetooth接続することで15,000ヵ所の計測ポイントによって自身の採寸を行うことができる。オンライン販売で問題となっていた、試着できないこと、サイズ違いによる返品などのリスクを低減させてくれる画期的なデバイスといえる。ZOZOで購入するためにはZOZOSUITでの採寸は必須となっており、その計測データはZOZOTOWNの会員データと連携されるという。

この取り組みは非常に大きな変革をアパレルEC業界にもたらす可能性がある。まずZOZOSUITから得られるミリ単位のサイズデータを用いることでセンチ単位での服の製造が可能となり、今まで以上に最適なサイズの服を提供することができる点だ。これにより顧客の満足度が高まるだけでなく、ある程度のオーダーメイドによる受注生産システムを行うことで余剰在庫のリスクを解消することができ、リーズナブルな価格での商品提供が可能となる。また、膨大な採寸データは他社からするとビッグデータ的、そしてマーケティング的にも垂涎の的だ。このデータを活用し、ZOZOTOWNがどのような取り組みに活用していくのかも注目される。

 

<参考>

ZOZOTOWN、採寸用のボディスーツ「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」の無料配布をスタート

スタートトゥデイがZOZOSUITよりも高精度な体型計測が可能となる事業を社内研究所から買い取り

 

 

Amazon Fashion

 

EC業界最大手のAmazonが展開しているAmazon FashionもPB化を積極的に進めている。

Amazonでは既にパソコン周辺機器やオフィス用品などを扱うPB「Amazon Basics」を展開しており、2017年1~6月期で2億ドル以上の売上を上げるなど多くのカテゴリにおいてPB化を目論んでいるといわれている。

その中でもアパレル領域はAmazonにとってもドル箱事業で、既に米国を中心に2016年から複数のアパレルPBを展開している。紳士靴の「Franklin & Freeman」、レディースドレス・カジュアルでは「Lark & Ro」など7つのブランドを展開。中でもLark & Roの売上が前年比90%増で伸びており、Amazonプライムデーだけで100万ドルを売上るなど非常に順調だ。

また、2017年9月には欧州向けにメンズ・レディースファッションのPB「Find」を発表。Findはファッションの歴史がある欧州限定での展開となっており、欧州発ブランドとしていずれ米国への展開も視野に入れているようだ。

一方、日本での動きは不透明だ。Amazon Japanから正式なPB展開の発表は現時点ではないものの、日本でのファッションPB商品の拡充を予定しているような動きも見られ、米国での売上が伸びているPB商品が近いうちに上陸してくる可能性も否めないだろう。2018年4月には品川に大規模なファッション関連商品の撮影拠点をオープンするなど、Amazonの日本でのアパレル業界への動きは今後も活発になっていくだろう。

このようなAmazonのPB戦略の裏には他社には真似の出来ないデータに支えられていると言われている。Amazonは他社ブランドの商品を長年にわたり、世界各国で販売してきており、その商品トレンドやユーザーの趣味嗜好のデータなど、マーケティングに必要な重要なデータを多く保有している。そのため、どの地域のどの年代にどのような価格帯のどのような商品が受け入れられる可能性があるのかを細かく分析しPB展開に活かしているはずだ。自社のオンラインでの販路に限界を感じ、Amazonに依存し始めているメーカー各社は、販売チャネルとしての依存から、重要なマーケティングデータも提供しているというリスクも併せ持っているという理解が必要かもしれない。このように確実に売れるという見込みのある商品セグメントに的確にPBを投下していくであろう、AmazonのPB化の今後に注目だ。

 

<参考>

【欧州】Amazon、ファッションブランド「Find」をスタート

Amazon Fashion専用撮影スタジオが品川シーサイドにオープン

 

 

ウォルマート

 

ウォルマートは世界15か国に進出している世界最大のスーパーマーケットチェーンである。しかし米国内では巨人Amazonに唯一対抗できる小売り・オンライン企業として認知されている。そのウォルマートはAmazonとは異なり、企業の買収を繰り返すことでアパレルECのPB化への道筋を作ってきている。

ウォルマートのアパレル系のECサイトの買収は2016年頃から急に加速している。2016年12月に靴のECサイト「Shoebuy」を7,000万ドルで買収、2017年2月にはアウトドア用品のECサイト「Moosejaw」を5,100万ドルで買収、さらに同年3月にはビンテージレディースファッションのECサイト「Modcloth」を買収している。さらに、同年6月には高級紳士服ブランド「Bonobos」を3億1,000万ドルで買収しており、今までとは異なり高価格帯の商品にもターゲットを拡大しつつある。

2017年は買収が主だった動きであったが2018年に入り、買収したアパレルECのノウハウをベースに次々とPB展開をスタート。レディースアパレル「Time&Tru」、レディース向けビッグサイズアパレル「Terra&Sky」、子供向けアパレル「Wonder Nation」、メンズアパレル「George」などを発表。各ブランドにおいて人種や体形の多様性を表現することで、幅広い顧客への浸透を狙っている。また、各PBの価格帯は5~30ドルと低価格での展開を行い、買収した高価格帯のブランドと合わせ、オンラインでのアパレルカテゴリの存在感を増やす意図が見える。

 

<参考>

【米国】Amazonに挑むWalmartの事業戦略

 

 

Zalando

 

欧州15か国にて展開され、絶大な認知度を誇るオンラインアパレルECサイトZalandoでは2010年よりPB化を実施。現在では18ものPBを展開して、PBの売上はZalandoの売上の10~20%まで成長してきている。今回紹介した企業の中では非常に長い期間、積極的にPB展開を行っているオンライン専業企業といえる。

なかなか日本では知られていないZalandoだが、2016年には36億ユーロの収益を記録するなど、ZOZOTOWNの5倍とも10倍とも言われる流通総額を誇る。ドイツでのブランド認知度は95%を誇るなど、欧州でしっかり根付いているオンラインサービスだ。

Zalandoの18ものPBは子会社であるzLabelesがプロデュースを行っている。zLabelesは、オンライン販売前提でのブランド立ち上げを行うチームで、適切な顧客グループ毎に製造から販売をスピーディーに行っている。ZalandoのPBの大きな特徴は、2016年からZalando以外の外部のECサイトへもPB展開も始めた点だ。一般的にPBは自社のECサイトのみでの販売が基本となるが、他社ECサイトへも展開することで、ブランドの認知を広げ、他サイトの顧客をZalandoに誘導させることを狙っている。これはアパレルEC業界において新たな挑戦でもあり、これからのPBの在り方に変化が起きるかもしれない取り組みだろう。

 

<参考>

【欧州】アパレルEC大手Zalando、2016年は前年比23%増の36億ユーロの収益を記録

 

 

アパレル業界はオンライン企業の「PB」で席巻できるのか

 

このように大手オンライン企業が進めるPB戦略を見てきたが、4社4様の取り組みとなっている。ZOZOは顧客の採寸データの取り込みを軸とした新ブランドの立ち上げ、Amazonは豊富な他社製品の販売実績から売れるポイントを見定めたブランド展開、ウォルマートは買収とPBの両輪によるターゲット顧客の拡大、そしてZalandoは自社だけでなく外部へのPB展開を進めている。

これらの巨大オンライン企業はいずれも大きな集客力があることがPB展開の大きなアドバンテージとなっている。そのため、立ち上げたPBに関心・興味を持ってもらえるかが売上を作ることができるのかの鍵になっており、アパレルメーカーと比較すると非常に大きな優位性を持っているといえる。コンセプトや狙いは各社異なるが、それぞれの強みを活かしながらのPB展開は間違いなくアパレルメーカーにとって脅威になってくるだろう。今後の各社のPB戦略次第では、既存のアパレルメーカーに取って代わる存在となるブランドが出てこないともいえないだろう。今後の各社のPBに注目していきたい。