2016年のW11はこれまでのW11と何がどう違ったのか - 今までの売上重視のキャンペーンとは異なる4つの視点
「W11/双十一/shuang shi yi/シュワンシーイー/独身の日/シングルデー」は中国で毎年11月11日の独身の日に実施される販促イベントである。広義には11月11日に行われるすべての販促活動を指しているが、厳密には双十一という名称は商標登録されているため、2009年に双十一販促イベントを開始したアリババ・グループ(BtoCサイト「天猫(Tmall)」、CtoCサイト「淘宝(タオバオ)」を運営)が実施するイベンドとなっていた。しかし今は天猫を中心に、同じアリババ・グループのタオバオや京東(ジンドン)、1号店など中国EC全体のイベントとして拡大を続けており、一年中で最も流通総額が多いイベントとなっている。今年は、「天猫」では1,207億元(日本円では約1兆8,708億円)の流通総額を記録し、京東や蘇寧電器(Suning)といった大手ECサイトの流通総額を合わせると、1日で1,770億元(日本円で約2兆7,441億円)もの買い物が中国のECサイト上で行われた。それでは今年で8年目を迎えたW11は、今までの年と比べてどのような変化があったのか見ていこう。
「中国国内」から「世界各国」の商品を買うだけでなく売るようになった
今年のW11において、中国eコマースプラットフォームのリーディング企業であるアリババは、「EC店舗一つで世界に商品を売る」というグローバルビジネス戦略に基づいて、海外商品を輸入するとともに、香港、台湾の消費者をはじめ、天猫で出店する国内のメーカーの商品を海外の消費者へ販売していくトライアルを行った。
約53ヵ国の3,500種類の商品類からの7,700個ブランドが今回のW11イベントに参加したが、その中の世界各国からのメーカーや小売は驚くほどの売上を上げた企業が相次いだ。11月10日の23:19分頃、オーストラリア発の薬局Chemist Warehouseは、天猫国際において最初の単日で取引金額が1億元を突破した初の店舗になった。アメリカの小売Macy’s百貨店、イギリスのSainsburyスーパーはそれぞれ、1時間8分と5分で昨年のW11の一日中の売上を突破した。最も人気を浴びていた商品ブランドの輸入国は、日本、アメリカ、韓国、オーストラリア及びドイツだった。商品カテゴリから見ると、乳児向けのオムツと粉ミルク、フェイスマスク、腕時計、スキンケア関連商品が一番人気だったが、日本のユニクロ、花王、ユニチャーム、mikihouse、資生堂などは売上ランキングの上位となっていた。
<参考>
【中国】Tmall国際でのW11ランキング - 中国人に最も人気な商品は?
【中国】W11前後の各ECプラットフォーム関連ニュースまとめ
【中国】W11でのTmall内での各ブランドのニュースまとめ
【中国】W11での各越境ECサービスプラットフォームの成果の総括
「価格」でなく、「品質」を重視、「衝動」から「理性」消費へ
W11販促活動は2009年に始またが、当初はクリスマスやバレンタインデーといった季節の販促活動の一つにすぎなかった。元々バレンタインデーに対抗する人たちで「独身の日/シングルデー」として語呂合わせ的に11月11日に販促活動を行なっただけだったが、半額、6割引き、9割引きが当たり前の安売りや、最初に注文した人が無料になるタイムセール等、様々な販促手法が話題となり注目度が急上昇し、売上のみを重視したイベンドと成長していった。今年のW11は、消費者の買い物疲れや衝動消費で返品が多い問題を緩和するために、天猫をはじめ、数多くのECプラットフォームは、W11の「安売り」イメージを変えようとして、消費者が理性的な購買行動をとるように工夫をしていた。その一方、改革開放政策や経済のグローバル化により、中国国民の生活水準が大幅に上昇していたため、中国消費者の購買傾向にも大きな変化を与えた。特に今の90後や00後(1990年と2000年以後に生まれた人を指す)に対して、「値段」を気にするより、商品の「品質」、「産地」、「個性」の方が決め手になっている。
商品の到着は「一週間内で」から「当日に」届くまで短縮
2009年から2016年まで、天猫のW11の当日売上が0.5億元から1,207億元に増加したとともに、発生した配達の件数は26万件から6.57億件まで上昇。今年の3月に、複数の中国の国内外の物流企業は、スピードと安心の両立した国内・国際物流サービスを実現するために、「菜鳥聯盟(Cainiao Alliance)」という物流サービス組織を設立。
共通の物流プラットフォームやビッグデータ分析を活かして全国各地に分布している倉庫の在庫や出荷情報をリアルタイムに把握するようになった。そのため今年のW11では11月11日の午前0時に発注が発生してから6分以内に商品のパッキングが完了し、わずか13分で商品が消費者の元に届いた例まであった。更に、「菜鳥聯盟」は海外の物流会社との連携を通して、スペインのマドリードに在住するスペイン人の消費者が注文した「小米(シャオミ)」(中国で人気なデジタル製品ブランド)のデジタル端末のうち、7割の注文に対して翌日到達を実現した。
<参考>
【中国】W11では売上高の記録は更新したが、大量の宅配便はどうなったのか
エンターテーメント性を重視、新しい購買体験への進化:ダブルH
アリババグループ会長の馬雲(マーユン)は、これからは“ダブルH(HappinessとHealth)”に関連する産業は中国で最も重要になってくると予測していた。今の中国では、購買行動とエンターテーメント産業は様々なコラボレーションが行われている。購買という行動は元々人に喜びをもたらすことができるし、商品に更にエンターテーメント性を加えると、購買行動がもっと楽しくなるという考えは今年の天猫W11の主旨であった。
今年は「天猫双11狂歓夜(Tmallダブル11前夜祭)」のマーケティングイベントが深センで行われた。アイドルやVictoria’s Serectのモデル、スポーツスターなど中国内外の有名スターが招かれ、スマートフォンのアプリを通して参加できるゲームを開催した。デビッド・ベッカム夫婦が登場してサングラスを紹介し、イベント参加者にその場で手渡すなど、消費者の購買欲を盛り上げていた。このイベントは多くの動画プラットフォームで配信され、大型スクリーンに刻々と更新される売上高の速報が映し出され、「今この時に買わなければ!」と消費者の心を動かした。
また、今年のW11は「生放送のW11」とも呼ばれ、KOLの影響力を利用して、生放送で商品を宣伝するオンラインショップも数多く存在した。W11イベンドの本質は「注意力経済」と言われ、消費者の注意を刺激して購買意欲を促進することがキーファクターとなる。したがって、今回のW11インベントにおいては、生放送は間違いなく核心的なプロモーション手法の一つであった。天猫W11前夜祭以外に、天猫のメデイアセンターでは、24時間の連続生放送、コアタイムの生放送が配信された以外、映客(Yinke)、美拍(Meipai)などの生放送プラットフォームと連携して同時に多数の生放送も行われた。天猫以外に、京東のCEO劉強東(リュウ チャンドン)は自社のプラットフォーム上で販売されている生食品を宣伝するために、自ら食材を使って、料理をしながら生放送をした。
「KOL+生放送+Eコマース」のセットはこれから、KOL経済において最も消費者に受け入れやすく、大きな利益をもたらす形式になるだろう。
<参考>
凄まじい影響力を持つ中国ネットインフルエンサー「網紅(ワンホン)」の実態と活用方法
KOLの影響力とビジネス構造を読み解く - 中国でのオンラインマーケティングに欠かせない役割
今までの売上重視のキャンペーンとは異なる4つの視点
日本においてニュースなどで目にすることが多くなってきたW11。目に付くのはやはり膨大な売上高の数値ばかりだろう。しかしその実態は2016年になって大きく変わってきたといえる。「爆買い」など一見雑な印象の強い中国の消費者ではあるが、その実は非常に理性的になってきており、かつ買い物をエンターテイメントの一環として捉えているのだ。国境を越え、高い品質のモノを求め、安全に即日商品が到着する。そしてその一連のプロセスをエンターテイメントとして楽しむ。このような発想でオンラインショッピングを楽しんでいる中国人は世界で最もeコマースを楽しむのが上手な人たちなのかもししれない。
※当記事は中国メディア「雨果網」の11/24公開の記事、「网易」の11/13公開の記事、「艾瑞网」の11/15公開の記事、「百度新聞」の11/11公開の記事を翻訳・補足したものです。